第185章  再会


 

 少し前から姿を現すようになったレーダーに映る複数の影。それが追撃部隊であることを察していたアスランは振り切れないものかと思案していたが、どうも逃げ切れそうも無いと分かると次善の策を使う事にした。

「ミーア、1つ頼まれて欲しい事があるんだ」
「頼みって?」
「この手紙を連合軍の偉い人、提督とか司令官とか、とにかく威張ってる奴に渡してくれないか。進路は航法コンピューターにデータを入れてあるから自動操縦に任せれば良い。このまま進めばタイマーで救難信号を出すから、近づいてきた機体にこのボタンを押しながら話しかけるんだ。緊急用の救難周波数だから通じる筈だ」

 アスランはユウキに渡された手紙をミーアに渡すと、戸惑っているミーアを残してシャトルの後部へと移っていく。それを見たミーアがどうするのかと聞いてくると、アスランは困った顔になって、だが嘘は付かずに答えた。

「追撃を振り切れそうもないんだ。だから、俺が迎撃に出て時間を稼ぐ」
「ちょっと待ってよ、それじゃ私1
人でナチュラルの処に行けって言うの!?」

 ミーアが怯えさえ見せてアスランの腕を掴んでくるが、アスランはそれを無理に剥がすとこれしかないんだとミーアに重ねて告げた。

「このままじゃこのシャトルは追いつかれる。2人とも死ぬよりは、どちらかが生き残った方が良いんだ。その手紙の事もあるしな」
「でも、アスラン……」
「それに、俺はラクスを助けてやれなかった。2度も女を守れないような情け無い男にしないでくれないか」

 ラクスの名を出した時、何とも言えない寂しさを表情に過ぎらせたアスラン。それは置いていかれてしまった人間の郷愁か、それとも後悔ゆえか。それは人を寄せ付けない何かを感じさせる物で、エルフィにも一線を踏み越えさせなかったアスランの心の壁であった。だからミーアもそれ以上アスランを止めることが出来ず、小さく頷いている。
 ミーアが離れたのでアスランは格納庫に行こうと身を翻そうとしたのだが、もう一度呼び止められて振り返って、すぐ傍にミーアを見て身を硬くしてしまった。その直後に頬に柔らかな感触を押し付けられ、驚きの余り完全に硬直している。
 そのまま暫く頬にキスをしていたミーアは硬直しているアスランから身を離すと、シャトルの座席に戻って顔を正面に向けている。

「あ、あの、ミーア?」
「もう邪魔しないわ、あなたの好きなようにして。私はちゃんとこの手紙を届けるから」

 アスランは動揺を顔に出していたが、ミーアに早く行けと言われて困惑した様子のまま格納庫に向かっていく。それを彼女は見送る事はしなかった。振り返れば引き止めてしまうと分かっていたから。

 格納庫でジンHMに乗り込んだアスランは機体チェックと武装の確認を色々と手順すっ飛ばして完了させると、機体を起動させて格納庫のハッチを開放させた。中の空気が吸い出され、固定されていなかった機材などが宇宙に吸い出されていく。
 そしてアスランはジンHMをシャトルから離脱させ、追撃部隊に向き直った。

「……別れのキスか、映画じゃあるまいし、自分で経験するとは思わなかったなぁ。もしかしてミーアが俺に気があったとか……そんな訳ないか」

 こんな人生転落街道を全速で駆け抜けていく甲斐性無しに惚れてくれるような女が居る筈が無い。いや、エルフィやルナマリアに関しては流石のアスランも気付いていたが、それに答えることも出来ないでいたのだから。
 そして向かってくるMSキャリアーから次々にゲイツが離脱して向かってくるのを見て、アスランは舌打ちをしていた。8機ものゲイツをジンHMで食い止めるのは至難の業だからだ。こちらが勝っているのは機動性くらいである。
 せめて新米揃いであってくれれば良いのだが、そんな他力本願なことを考えながら機甲突撃銃を構えたのだが、接近してくる隊長機らしいシグー3型からの通信を受け取ったアスランは思わず神を呪ってしまった。

「よお、そいつに乗ってるのはアスランか?」
「……ディアッカ、か」

 自分と共に各地を駆け抜け、今ではザフトの中でも上位に入るであろうエースパイロット、ディアッカ・エルスマンが目の前のシグー3型に乗っている。よりにもよってこんな時に出てこなくてもとアスランは自分の不幸な星回りを考えさせられてしまった。





 ジェネシスから使用されたミラーが取り外されていく。その作業と平行してジェネシス本体に多数の工作船が取り付いて何かの作業をしていた。少し離れた場所では戦闘の光が今も確認できて、プラントの傍で戦闘が行われていることを教えてくれている。ジェネシス破壊を命じられたヤマトとムサシが攻撃を加えていたのだが、本国防衛隊を突破できずにいるらしい。
 ジェネシスの発射後、エザリアはジェネシスの挙げた戦果と生起した問題の報告を受けていた。

「つまり、50%の出力で発射されたジェネシスは地球艦隊に甚大な損害を与えたというわけだな」
「はい、ボアズ残存部隊を撤退させる契機ともなったようです」
「ですが、ジェネシス本体も損傷しました。何しろこれが試射でしたから」
「まあ仕方があるまい。テスト結果は上々だったことで良しとしておこう。それで、次弾は何時撃てる?」

 エザリアは視線をナリハラに向けた。ナリハラは何やらずっと考え込んで時折メモ書きなどをしていたのだが、エザリアに声をかけられてその作業を中断し、報告書にざっと視線を走らせた。そしてエザリアの問いとは関係のない返事を返す。

「しかし驚いたぞ、発射直前になっていきなり射線変更とはな。おかげで再計算に苦労させられたわ」
「それは済まないと思っている、あれはユウキ司令の進言を私が受け入れたのだ。私もやはりボアズ諸共守備隊を吹き飛ばすというのはどうにも抵抗があったのでね」

 当初計画されていたボアズに向けられていたジェネシスは、最後の最後になってエザリアに直訴してきたユウキの進言によってターゲットを変更され、ボアズそのものからボアズの傍にいる地球軍艦隊に向けられたのだ。ここにゼムが居ればユウキの進言など取次ぎもされなかっただろうが、彼がアスラン捕縛の指揮にかかりきりになってこの場に居なかった事がユウキに幸いした。
 ザラ派士官を遠ざけたエザリアであったが、彼らの有能振りを否定しているわけではない。自分の派閥の人材不足にも泣かされた彼女は前線部隊などに限ってザラ派の再起用を行ったりもしている。そんな彼女が今の事態になってパトリックの元で補佐官として活躍し、軍政面で多くの功績を残すユウキの進言を求めたのも無理なからぬ事だろう。
 結果としてエザリアの選択はボアズの残存部隊を一部とはいえ脱出させる事に成功しただけではなく、戦果の拡大にも成功したと判断されている。
 出力50%で発射されたジェネシスの破壊力は当初の想定を下回る効果範囲しか得られなかったことが観測で判明しており、ミラーの収束性能が計算を下回っていたと考えられている。やはり急造品では思ったほどの成果を挙げられなかったのだろう。この破壊力ではボアズを撃ったとしても散開気味であった周辺の艦隊には大した被害が出なかった可能性が高く、近くの戦場を狙った事が偶然にも戦果を得る事に繋がっていた。

「それで博士、ジェネシスの再発射までの時間は?」
「そうだな、早くて明日ってところか」
「もう少し早くならないのか、敵はすぐに前進してくる」
「そう言われてもな。発射でジェネシス本体の一部が損傷したからそれの修復をしなくてはどうにもならん。まあ撃たなくては分からん欠陥だったんだがな」
「ではとにかく急いで貰いたい。敵は待ってはくれないのだぞ」

 エザリアは苛立っっている内心を隠す事も出来ず、ナリハラにそれをぶつけている。ナリハラはこの新議長には心の余裕が足りないと呟くと、ファイルを手に持つと言われたとおり仕事に戻ろうとした。

「そうだ議長、1つアドバイスをしておこうか」
「技術者に今更何のアドバイスが出来るのだ?」
「忠告と言った方が良いかな。一度人生の先駆者と話をしてみたらどうだ、まだ司法局に監禁しておるのだろう?」

 言いたい事を言い残してナリハラは部屋から出て行った。それを見送ったエザリアは思いもしなかった助言者の存在を思い出して呆然としている。そうだった、プラントにはまだ先々代議長が居たのだ。

「シーゲル・クラインはまだ監禁しているのか?」
「議長、まさか奴の話を聞くのですか?」

 部下たちが驚いた顔でエザリアを見ている。シーゲル・クラインを監禁したままでいたのはエザリア政権を揺るがしかねない不安要素を合法的に隔離しておけるという理由もあった。プラント市民の中からはこれまでの戦況悪化からエザリアへの失望が広がっており、故人となったパトリックを懐かしむ声が大きくなっている。そして同時に出てきたのがシーゲル元議長の復活待望論である。
 この声は日増しに大きくなっており、エザリア政権としては本来ならとっくに開放していなくてはいけないシーゲルを未だにあれこれ理由をつけて監禁していたのだ。せめて戦争が終わるまでは、と内々に決めて。
 だが今、そのシーゲルがエザリアは頼れる藁に思えていた。この事態を打開する術をあの海千山千のプラント成立の功労者になら思い付けるかもしれないと思って。

 ゼムはこの突然の射線変更に怒りを露にしてエザリアの元に怒鳴り込んでいたが、エザリアはこのゼムの怒りを結果的に良かったのだから問題は無いで通して彼の苦情を跳ね除けてしまった。逆にこの大事な時にアスランにかまけて議長の傍を離れている補佐官に何を言う資格があるかと問い詰められ、何も言えなくなっている。
 ゼムはこの失態でアスランに対する憎しみをますます募らせていたが、もはや事態は彼の手を離れていた。アスランの追撃はディアッカの結果待ちであるし、ジェネシスの再発射までは彼に出来る事もない。軍人ではない彼には本国防衛戦の準備に関して口を出す事が出来ないのだ。
 しぶしぶ議長の執務室を後にしたゼムはアスランへの愚痴を延々と口にした後、タクシーを捕まえて目的地を指示した後、揺られながらどうしたものかと呟いていた。

「速すぎる、このままだと明日には本土決戦は避けられない。このままでは私の計画に齟齬が生まれてしまうではないか……」

 苦虫を噛み潰したような渋面を作りながらゼムは唸っていた。一度動き出してしまった流れを変えるだけの力は自分にはない。クルーゼにも出来ないのだ。だが何とかしなければ事態はどんどん先に行ってしまう。
 どうしたものかと悩むゼムを乗せたタクシーは、やがて住宅地を離れて郊外の家の前で止まり、客を下ろして去って行った。もし彼を知るものが居ればなぜこの家に来たのかと首を傾げた事だろう。そこは生物工学の権威、ギルバート・デュランダルの家だった。





 アークエンジェルの通信室からアズラエル自らコンソールを操作して回線を開いた。その通信機にはアズラエル用に特別な装置が組み込まれており、専用スクランブルをかける事で秘匿通信を行うことが出来る。これの解読機を持っているのはごく限られた知人や権力者しかいない。
 今は大西洋連邦のホワイトハウスに繋がっていて、ササンドラ大統領が現れていた。

「それで、上の相談はどういう事に?」
「ユーラシアは我々と同じ考えのようだが、東アジアはプラントの完全破壊を主張している。説得には骨が折れたぞ」
「……また、ですか。余程プラントが憎いのか、何か別の理由でもあるんですかね?」

 東アジア共和国は連合を構成する3大国家の1つであり、大きな発言力を持っている。その大国が強行にプラントの破壊を唱えていた為に連合の足並みはここに来て乱れてきていた。ただ大西洋連邦とユーラシアの対立がただの利権争いでしかないのに、東アジアのそれはそういったものとは離れた、プラントの破壊そのものへのこだわりを感じさせている。
 それが大西洋連邦とユーラシア連邦にある種の疑念を起こさせていた。東アジア共和国には連合を裏切ってプラントと単独交渉に臨んだ疑いがもたれた事がある。それもアラスカを失い、パナマの一部を破壊されて地球軍が行動不全に陥りかけた時期にである。
 最も苦しい時に裏切りに走ろうとした事に怒った両国はその調査を行い、完全な物証こそ押さえられなかったもののまず間違いなく何らかの接触を持っていると確信させるだけの状況証拠を揃える事には成功している。それ以来連合大西洋連邦とユーラシア連邦は東アジア共和国に対する警戒を強め、事が発覚したと悟った東アジア共和国もまた別のことを始めているようだ。
 今回のプラントの破壊要求も、恐らくは知られては不味い何かがプラントにあると見て良いだろう。取引材料のデータなり、とにかく連合諸国に走られてはいけない何かがだ。少なくとも両国はそう見ていた。
 それを聞かされたアズラエルはなるほどと頷いたが、まさか譲歩していないでしょうねと確認するのは忘れなかった。

「まさかとは思いますが大統領、東アジアに妥協したりはしていませんよね?」
「する訳が無い、あれを木っ端微塵にしたら私の政治的立場も危ういのだからな」
「財界が怒るでしょうねえ、勿論私も怒ります。それは最後の手段ですから」

 金出したのは俺達だ、という財界の声は大きい。勿論プラントが徹底抗戦するならやむをえないだろうが、最初からそんな選択をされては困る。そんなことをされれば自分達は大統領や支持議員に対する献金を止めて対立候補に回すだろう。ササンドラもそれが分かっているからこそ、そんな事はしないのだ。
 だが、万が一という事もある。大西洋連邦とユーラシア連邦は勝手に核兵器を使われないよう注意するよう双方の軍に通達を出して、東アジアの暴走を食い止めようと手を打っていた。
 だが、早くも戦後の構図が見えてきたようであり、アズラエルは頭が痛くなってきていた。世界大戦と呼んでいいほどの大規模戦争をした直後からすぐに次の戦いを起こされては迷惑千万でしかない。この戦争で受けた被害は天文学的であり、それを立て直すだけで一体どれだけの時間と予算が必要なのか。
 勿論ササンドラもそれは分かっているのだろうが、彼は政治家だ。国益の為に何かを切り捨てる決断をするのがその仕事だと言える。もし彼が経済的な損失よりも東アジアを黙らせることが国益に叶う、と判断すれば彼はそれを選ぶだろう。残念ながらこの大統領は脅迫や懐柔がきくような相手ではない。ロゴスとしては面倒な相手ではあるが、その気骨ある姿勢は一目置かれる物がある男だ。



 結局アズラエルはササンドラの説明を聞き終えたあと、ロゴスの各社にも会談の詳細をレポートで回しておいてくれと頼み、この作戦における自分に与えられた権限の継続を確認して一度通信を終えた。そして今度は別の場所へと回線を開こうとする。登録済みなのか簡単な操作だけで操作は終了したが、向こうが出るのには少し時間がかかった。
そして少し待った後、モニターに自分に連絡をつけてきた相手が現れた。

「やあヘンリー、そっちはどうだい?」
「気軽に呼ぶなよ、私達は友達ではないはずだがね」
「まあそんな事は置いておいて、どんな状況です?」
「クルーゼの事だが、現在まで調べた限りでは黒だね。この戦争の背後には奴の影がちらついている。ただ巧妙に痕跡を消していてね、クルーゼを疑いながら調べなければ分からなかっただろうな」
「具体的にはどんな事をしているんです?」
「情報操作と、過激派の扇動かな。スピットブレイクの計画を地球軍に教えたり、ユニウス7への核攻撃の手引きをしたりとね」

 ヘンリーの話ではクルーゼはこの戦争を起こす為に双方の憎悪を煽るような活動を数年前からしていたらしい。当時勢力を拡大していたブルーコスモスの中から、あるいはプラントの内部から対立を煽るように工作を行い、双方が歩み寄ろうとする動きを見せればこれを潰して回っていた。
 クルーゼの組織、ザルクの結成は思いのほか古く、戦前に遡れる。ヘンリーの調査では4年前にはその名を見る事が出来たらしい。ブルーコスモス内部に潜入していたクルーゼの手下もこのザルクの人間だったようで、各地で重要なテロ活動に関わっていたらしい。その内の幾つかはアズラエルも関わっていた計画で、プラント要人や連合諸国内部の親プラント派の人間の暗殺、脅迫などである。

「参りましたね、僕も一枚噛んでいた訳ですか」
「知らず知らずのうちにね。しかしまあ、調べれば調べるほど私はクルーゼという男が怖くなったよ、天才というのは彼のような人間を言うんだろうな」
「天災の間違いでしょう、全く迷惑な話です」
「だが1人で世界を手玉に取ろうとしたんだ、道を踏み違えなければ時代を代表したヒーローになれただろうに」
「ヒーローがそんなに良い物とも思えませんけどね。身近に1人、ヒーローの実例が居ますが碌なもんじゃないですよ?」
「彼は例外と思いたいけどね、まあ今は置いておくとして、問題はもう1つあるんだ。ザフトの記録によればクルーゼは現在25歳、4年前にザルクが活動を開始したとして当時21歳、組織設立を考えれば彼は20前からこんな活動をしていた事になるんだけど、おかしいでしょう?」
「……たかが20前の餓鬼にやれる事じゃありませんね。能力以前に信頼が得られない」

 幾ら天才だろうと、20にもならない子供についていく物好きはそうは居まい。あるとすればその少年に余程のバックが付いているか、その年で豊富な実績を積み上げているかであるが、クルーゼはそのどちらにも該当しない筈だ。だがそうでなければザルクのような危険な組織を作れる筈が無い。それに組織を作る為の資金はどこから得たのだ。
 だがザルクは存在し、そして多くの活動を実行して見せている。これを説明するにはクルーゼに何らかの助力があったか、あるいは子供を信用した馬鹿が沢山居たかだ。だがそんな馬鹿なと笑うアズラエルに、ヘンリーは2つの可能性を提示して見せた。

「実は私の調べた限りでは、クルーゼはアル・ダ・フラガのクローンの可能性がある。確定は出来ないが、それなら年齢と資金源の問題は説明が付くだろう?」
「つまりクルーゼはフラガ家の資産を手に入れ、更に本人は老化が進行している可能性があると?」
「君も知ってる通り、クローンは非合法だ。その技術も各地の研究所で許可を受けた分の蓄積しかない。表向きにはね。そして不幸な事にメンデルという研究所にはその技術があり、資金を渇望していた狂った技術者が居た」
「ユーレン・ヒビキですか。なるほど、調整体の素体以外にも複数作っていたわけですね。OK、疑問の幾つかが解けてすっきりしました」

 調整体の最終型、8番目の調整体には天才の家系と呼ばれるフラガ家の人間のクローンが使われている。それがユーレン・ヒビキがアル・ダ・フラガに頼まれて作ったクローンだというのは知っていたが、それ以外のものは全て廃棄したと報告されていた。それが虚偽だったという事なのだろう。
 だがこれで資金と年齢の問題は解決した。となれば後は協力者だろうか。一体誰がザルク結成の手助けをしたのか。それとも母体となった組織が別にあって、クルーゼがそれを引き継いだのか。

「何とも根の深い話になってきましたね。これ以上は私立探偵じゃなくて軍の情報部にでも任せた方が良いかも知れません」
「私も同感、非公然活動じゃもう限界だよ。それに、他にも興味を引かれるものが出てきたからね」
「……余り妙な事に首を突っ込まない方が良いですよ」

 この好奇心の塊のような知人の相変わらずな行動にアズラエルは呆れ、何か分かったらまた教えてくれと頼んで通信を切った。
 そして真面目な顔になり、どうしたものかとこれからの事を考え出した。ここまで来ると一体誰が敵なのか、何を打倒すればこの戦争にケリをつけられるのか、分からなくなってきたのだ。

「何でしょうね、どうにも気に食いません。まだ何かある気がしますよ」

 アズラエルの持つ天性の勘、匂いを嗅ぎわける力とでもいうべき商売人の感性が損をする時と似たような何かを嗅ぎ取っていた。こういう時は何か悪い事が起きる前兆なのだが、情報が少なすぎて対策が立てられなかった。ただ、クルーゼを始末しても今回の騒動にケリはつかないのではないか、そんな気がしだしていた。




 大きな犠牲を払いながらもどうにかボアズを制圧した地球軍は、ここですぐに部隊の再編成を始めていた。先ほどのとんでもない兵器が再度発射されるまでにボアズを発ち、プラントに攻撃を仕掛けなくてはいけない。
 プラント侵攻軍の司令官代理となったハルバートン少将はそう考えて準備を急いでいたのだが、そこに連合軍総司令部から待ったがかけられた。総司令部はハルバートンに月から急行している第1、第2艦隊と合流するまで待ってから出撃しろと命令してきたのだ。
 これを受け取ったハルバートンは激怒し、我々に座して死ねと言うのかとモニター越しに総司令部のスタッフに怒号をぶつけたのだが、司令部のスタッフはハルバートンの怒りにも涼しい顔であった。彼らはプラントを攻略するには戦力が足りないと考えており、速攻を主張するハルバートンを急ぎすぎていると逆に止めてきている。
 その司令部の反応にハルバートンは事態の重大さがまるで分かっていないと激昂し、独断ででもプラントに侵攻すると吐き捨てて通信モニターの前から立ち去ろうと腰を上げかけたのだが、それを慌ててホフマン大佐らの司令部スタッフが押し留めた。ここで席を立ったりすればハルバートンが解任されかねない。
 だがハルバートンは完全に怒りで冷静さを欠いているようで、押さえ込んでくる自分の部下にまで罵声をぶつけて退かそうとしていた。だが複数から押さえ込まれてしまっては抵抗などできず、椅子に押さえつけられている。
 怒りに顔を赤くしているハルバートンを無視するかのように伝える事を伝えると通信を切ってしまった。それを見たハルバートンはまた怒鳴り散らしていたが、文句のネタが尽きたのか遂には黙り込み、そして帽子を右手で握り潰してホフマンに艦隊の幹部を集めるように指示した。

「作戦の立て直しだ、もう一度会議を開くぞ。ジェネシスとかいうのをもう一度撃たれる可能性が出てきた」
「分かりました、それでは早速」

 言われてホフマンは部屋を出て行き、ハルバートンは苦々しい顔で腕組みをしながら考え込んでしまった。せっかく計画していたプラントへの早期侵攻計画を練り直さなくてはいけなくなった。それも、ジェネシスが発射されるのを前提にしなくてはいけないというおまけ付きでである。




 しばし待機となったことで、地球軍は傷の少ない艦艇を使って哨戒線を敷く事にした。アークエンジェルも1個駆逐隊を伴って出撃し、プラント方向に進出して艦載機を放っている。
 アークエンジェルから進出しているのはデルタフリーダムと赤いウィンダムのコンビだ。フラガのセンチュリオンは動力部の損傷とそれに伴う放射線漏れが確認されており、動力炉を停止した上で封印されてしまった上に、シンのヴァンガードも本来の状態、全ての封印が外れた戦闘モードが起動したこともあって総点検が行われている。よって使えるMSは今実働4機しかなかった。シンは暫くの間は予備のウィンダムに乗る事になりそうだがまだ準備が出来ていない。
 フレイは2基のフライヤーを伴って散開させており、フライヤーの索敵システムを用いて広範な索敵エリアを確保していた。地球軍が空間認識能力者用に開発した双方向量子通信システムはこういう応用の仕方がある事をフレイは幾度ものテストの中で発見していて、便利に使っていた。ザフトのドラグーンは一方方向だけなのでこういう応用は効かないのだが、フライヤーは大型なだけあってシステムにも余裕があった。まあドラグーンほど沢山は動かせないのだが。

「う〜ん、反応無し、敵は居ないみたいね」
「フレイ、僕にはやっぱり疑問なんだけど、本当に分かるのそれ?」
「ええ、普段はフライヤーにこちらから命令を送るだけなんだけど、フライヤーの索敵データをこちらに転送させて、ウィンダムのシステムで処理して索敵情報を表示させてるの。ただこれやるとウィンダムの能力じゃ処理追いつかなくて戦闘は無理なのよね」
「そりゃ普通のMSのシステムが想定してる方法じゃないからね。処理能力強化した方が良いんじゃない?」
「でもなあ、そこまでやるくらいなら最初から偵察機使った方が良いし」
「なんていうか、便利なようで無駄な能力だね」

 本来の運用とは違った事が出来たとしても、それが上手く使えるかどうかは別問題という事だ。だがこの使い方は既にアークエンジェルに報告されていて、そこから後方に渡されている。あとは彼らが上手い使い方を考えてくれるだろう。それにこれで先に見つけることが出来れば本来の運用に戻して先制攻撃をかけることも出来る。ようは使い方なのだ。
 だが、そんな単調な偵察を続けていた時、フライヤーから奇妙なデータがもたらされた。フライヤーの1機がSOSらしき信号を受信したのだ。



 アークエンジェルの医務室ではベッドに固定された状態のステラがいた。まるで薬物中毒の兵士を拘束しているかのようで、集まってきた者たちは沈痛の表情で手足を縛り付けている拘束具を見ている。
 既に意識は戻っており、ベッドを囲んでいる人間を不安そうな顔で見回していた。そして椅子に腰掛けているスティングにあれこれと話しかけられているが、彼女は全く話を理解できず、知らない、分からないと返している。それどころか自分の船に返して欲しいとまで言っている。その口調や仕草からステラなのは間違いないが、自分たちの事を完全に忘れているらしい。アウルやムウ、自分の事まで忘れられてしまったスティングは残念そうであったが、覚悟はあったのかショックは受けていないようだ。
 だが、その後隣に座ったシンを見たステラは何故か彼の名を口にし、周囲を驚かせていた。

「俺のことを覚えてるのかステラ!?」

 驚くシンであったが、ステラは首を左右にフルフルと振って違うと態度で示す。どうやら名前だけ頭に浮かんできたようだ。まあ何も思い出さないよりはいいことなのだが、この事はスティングに物凄いショックを与えていた。

「アウル、俺達の関係はあんな特撮マニアの餓鬼に負けるような薄っぺらい物だったみたいだぞ。それともあれか、これが愛は強しって奴なのか?」
「いや、多分だけど違うと思うぞスティング。ステラの事だからもっと変な理由だと思う」
「大方シンがステラの前で余程印象的なドジでもしたんでしょ」

 トールが落ち込んでいるスティングを慰め、ミリアリアが憶測から確信を付いてしまう。だがスティングはがっくりと肩を落とし、壁に手を付いて逝ってしまった弟分に愚痴を言い続けていた。
 だがそんな仲間達を差し置いてシンはステラに手を握られて顔を赤くしていて、なんだか医務室の中に2つの世界が同居しているかのようであった。


 そしてマリューに対してドミニオンから派遣されてきた医師、というより科学者が調べた結果を報告している。彼はアズラエルの命令を受けて機材と共に連絡艇でやってきて、ステラの体を一通り調べていたのだ。

「状態は急激に悪化しています。薬物投与なり、何らかの装置で調整を受けていたのでしょうな」
「容態の悪化は分かるわよ。直す為に貴方がここに来たんじゃないの?」
「まあ、そういう事で来たのですが、この様子では……」

 科学者は調べたデータを記したボードを置くと、身振りを交えて説明を続けた。

「簡単に申しますと、彼女の体は改造強化を受けています。丁度ドミニオンのブーステッドマンのように」
「強化人間はみんな改造を受けているんじゃないの?」
「正確には違います。ブーステッドマンは物理的に改造を受けていますが、エクステンデッドは洗脳による能力の開放を行います。まあどちらも一長一短があるわけですが」
「細かい説明は結構よ、聞いてると貴方を殺したくなってくるから」

 強化人間に関する技術的な資料はマリューも見たことはないが、概要だけでも反吐が出てくるような代物なのは想像に難くはない。そんなものを知りたくもないし、知る機会があっても御免蒙りたい。
 科学者もマリューの剣呑な雰囲気を察したのだろう。咳払いを交えて説明を終え、ステラの事に話を戻す。

「ようするに、彼女はプラントで我々の知らない改造を受けているという事です。実際に計測してみなければはっきりとしたことは分かりませんが、恐らくブーステッドマンと同レベルか、それ以上の能力を得るために」
「治療方法は?」
「ここでは不可能です、彼女はプラントで強化を受けていると言ったでしょう。何処にどういった強化が施されたのか、そのカルテが必須なんです。逆に言えば、それがあれば治療の可能性もあります。そう、施設と処置をした医師なりが有ればより確実です」
「つまり、プラントに行ってステラちゃんを改造した研究所なり病院なりを無傷で確保して、手を加えた人間を捕まえないと駄目という事なの?」
「分かり易く言えば、そういう事です。それも時間との勝負でして、今は安定していますが鎮静剤が切れれば」

 科学者の回答にマリューは頭痛がしてきた頭を押さえた。それは死亡宣告と同義ではないのか。プラントを制圧するのは確かに目前だが、無傷でそれらの施設を押さえられる保証はない。いや、下手をすれば核攻撃を加えて全てを吹き飛ばすかもしれないのだ。
 幾らなんでもステラ1人のために作戦計画の変更を軍がするはずも無く、ザフトが降伏してくれるのに期待するしかないだろう。
 絶望的な現実を前にしてマリューは疲れた顔で椅子に腰を下ろし、どうしたものかとノイマンに相談をした。

「中尉、どうしたものかしらね?」
「ザフトが降伏してくれれば万事丸く収まるんですがね」
「そんな事は分かってるわよ。問題なのはそんな都合のいい解決法は望めそうに無いということ」
「ですよねえ。でも、我々に出来る事はありませんよ。まさか1隻でプラントに乗り込むわけにもいかないでしょう?」

 目の前で苦しんでいる人間が苦しんでいても何も出来ない。その無力感がマリューを苦しめていた。

「偵察に出ているのは、今は誰?」
「ヤマトとアルスターです。定時連絡は送ってきていますから、問題は起きてないでしょう」
「ならいいんだけど……いえ、こうなったらむしろ何か起きた方が都合が良いかしら?」
「どういう事です?」
「敵の攻撃があったりすれば、そのまま戦闘に引きずり込めるじゃない。そうすれば敵を追撃するなりなんなりでプラントに攻め込むことも出来るわ。ここからなら目と鼻の先だもの」
「……艦長、だんだんと言う事がハルバートン提督やアズラエル理事に似てきましたね」

 何時の間にか随分とタカ派になったもんだとノイマンは苦笑いを浮かべてしまった。ヘリオポリスから逃げ出した頃は将校でもない頭でっかちの技術士官でしかなかったのに、随分と攻撃的になった物だ。これも経験からくる変化なのだろうか。
 だが、その時いきなりCICから内線が飛び込んできた。

「艦長、偵察に出ていたキラとフレイから通信です!」

 その内線にマリューは壁の送信機に向かい、何があったのかと問いかけた。

「どうしたのサイ、敵がでたの!?」
「そのようです。それとSOSを出しているシャトルを発見したから、すぐに迎えに来て欲しいと。自分達は先行して逃がすために残ったMSを援護すると言っていました」
「また勝手な事を。しょうがない、アークエンジェルを前進させてシャトルの救助を。近くに他の機体が居たら援護に回して頂戴」
「既に哨戒に当たっていた近くのコスモグラスパー小隊にもう頼んでいます」
「上出来よ。それとカズィに近くの艦を呼ぶように伝えて、場合によっては艦隊戦になるわ」
「は、はい!」

 内線が切れ、医務室に静寂が戻る。マリューは少し疲れた顔で室内を振り返ると、全員に戦闘配置に戻るように命じた。それを受けて全員が散っていくが、動こうとしない男が1人居た。

「シン君?」
「すいません、MSの準備が出来るまで、ここに居ていいですか?」

 その求めにマリューは困った顔になったが、すぐにしょうがないなと微笑を浮かべてマードックの指示が来るまでなら、という条件でそれを許可した。別に彼の力が必要になるほどの事態になるとも思えないので、マリューも許可を出す事にしたのだ。





 そのシャトルを最初に見つけたのはフレイのウィンダムだった。SOS信号を受信し、それを辿っていった先に減速中のシャトルを発見したのだ。最初は先の戦闘で損傷して漂流した遭難者だと思っていたのだが、どうもそうでは無いらしい。パニック気味なのか、緊急周波数で早口に何かを喚いている。

「何あれ、照合だとプラントのシャトルだけど」
「プラントも危ないからね、脱出してきた人かも」
「とりあえず通信で聞いてみましょ、少なくとも戦う事はなさそうだけど」

 流石のあのシャトルでMSやMAと戦えるとは思っていないだろう。フレイは落ち着いて通信回線を開き、そのシャトルに声をかけた。だが、その返事はフレイの意表をつくものだった。

「こちらTFS804、フレイ・アルスター2尉です、そちらのシャトル、所属と目的を明らかにして下さい」
「地球軍ですか、お願い、アスランを助けて!」
「はい、アスラン?」

 何でいきなりその名が出てくるのだ。とりあえずフレイは慌てふためいている相手を落ち着かせてどういうことかを問い、要領を得ない問答の末にアスランと一緒にプラントを脱出してきた事、そのアスランが追っ手を食い止めるためにジン1機で残った事などを話してくれた。
 それを聞いたフレイは何て無茶な事をと思ったが、彼らしいとも思ってしまった。だがそれを聞いたキラがいきなりデルタフリーダムを加速させ、シャトルがやってきた方へと向かっていってしまった。

「ちょ、ちょっとキラ、何処に行くのよ!?」

 言ってからフレイは何を馬鹿なことを、と自分の発言を自嘲した。あの方向で戦っているのが誰なのか、考えれば分かる事ではないか。キラはアスランを助けに行ったのだろう。なんだかんだ言ってもやはり友人の身が危ないとなればやはり心配なのだ、きっと。

「悪いけど、このままボアズの方に向かって。シャトルの操縦は出来る?」
「で、出来ないわ。このシャトルは自動操縦なの」
「そう。減速してるから、ボアズの手前で止まるわね。このまま行けば私の母艦と合流できるから、拾うように言っておくわ。私はキラの援護に行くから」
「あ、あの、アスランは!?」
「……大丈夫よ、任せておいて」

 女の勘が彼女のアスランに対する気持ちを察しさせてしまった。だからフレイはあえて軽い調子で安請け合いして見せて彼女を安心させるようにし、キラを追ってアスランを助けに向かったのだった。




 アスランはジンHM1機でよく頑張っていた。追撃してきたゲイツ部隊を文字通り1機であしらっていたのだから。だがその攻撃には今ひとつ精彩というものが欠けていた。同じザフトのパイロットが使っているという認識がアスランに致命傷を与えるような攻撃を控えさせているのだ。
 しかしそれでは幾らアスランでも限界が来る。機体に無数の傷を作り、段々と追い詰められていくのがアスラン自身にもはっきりと分かっていた。

「これ以上は不味いな。こいつらはたいした腕じゃないが、ジンじゃ無理があった」

 せめてジャスティスなら、そう呟くアスランの前に、ビームサーベルを抜いたシグー3型が高速で飛び込んでくる。それを機甲突撃銃を向けて追い払おうとしたが、間に合わないと考えて大きく後ろに飛ぶように移動する。

「アスラン、何で脱走なんかした。地球で俺達の先頭に立って戦ってたお前が、プラントを守ろうと必至だったお前が、何でプラントを裏切った!?」
「違うディアッカ、俺はプラントを裏切った訳じゃない。ただ知ってしまっただけだ!」
「何を知ったんだ、ええ!?」
「この戦争の裏で誰が糸を引いていたかだ。クルーゼ隊長はプラントと地球の共倒れを狙っている。それを知ったから俺は追われる身になったんだ。いや、どっちかというと巻き込まれただけで俺が進んでそうしようとした訳じゃないんだがな」
「……相変わらず、運の無い奴だなお前」

 横薙ぎに振るわれたビームサーベルが胸部装甲を抉り、1次装甲を引き剥がしてしまう。そして逃げようとするジンHMに肩のレールガンが放たれ、左肩を半ば抉ってしまう。そのダメージで機体を吹き飛ばされたアスランは必至に操作して安定を取り戻させて何とか追撃に備えようとしたが、ディアッカのシグー3型は追撃の手を何故か止めていた。

「なあアスラン、もう止めようや。俺達が戦う事は無いだろ。おとなしく投降してくれれば親父に俺から頼んで命は助かるようにしてやるからよ」
「ディアッカ、俺が戻ればシャトルは見逃してくれるのか?」
「それは無理だな、こっちも仕事なんでね。分かってるだろアスラン、俺もザフトなんだよ」
「そうだな、つまらない事を聞いた。それじゃディアッカ、俺がどう答えるか分からないお前じゃないだろう?」
「……この頑固野郎が!」

 やはり無理か、残念そうにそう怒鳴りつけ、ディアッカは再度攻撃を仕掛けた。今度はもう逃がす気は無い、確実に落としてやる。その決意を感じさせる攻撃を加えてきた。片腕を使用不能にされ、もうボロボロのアスランのジンHMにその攻撃を凌ぎきる力は無く、迫るシグー3型のビームサーベルが一閃するたびに機体の何処かを抉られ、コクピットの中のカメラが次々に死んでいく。流石にもう駄目だと思った時、いきなりコクピットに高エネルギー反応を感知した警報が鳴り響いた。
 それはディアッカの方でも感知しており、慌てて機体を後退させる。その直後に2機の間を割るように強烈な荷電粒子の奔流が通過していき、周囲に拡散していく粒子の余波が2機を弾き飛ばしていく。

「な、なんだ、アスランの出迎えか!?」

 このタイミングで来たのなら、地球軍の部隊がアスランを迎えに来たとしか思えない。少なくとも自分達より先に動いたザフトは居ない筈なのだ。新手が出てきたかと慌てて迎撃体勢をとるディアッカ隊であったが、続けて飛来したビームは正確にアスランのジンHMを襲っていた。続けて第3射もアスランを襲っており、ひょっとして味方なのかと疑問を抱いたが、姿を現したのはよりにもよってあのフリーダムモドキであった。

「照合完了、足付きのフリーダムだと!?」
「どうします教官、戦いますか?」
「馬鹿言うな、ジャスティスの1個小隊が必要な相手だぞ。俺達なんか相手になるものか!」

 ディアッカは急いで逃げに入った。相手は1機ではなく、新型が更にもう1機居る。足付きに乗っているMSを相手にするにはこちらもエース級が乗る新型が必要なのだが、こちらは自分しかいない。しかもアスランと交戦後の状態だ。相手にもならないだろう。
 そんな事を言っている間に新型の方からミサイル2発が発射された。長距離ミサイルなど当たる筈が無いとタカをくくっていたのだが、それが近くまで来た所でいきなり分離し、多数の子弾がそれぞれに狙ったゲイツに向かっていく。狙われたゲイツは慌てて逃げに入ったが、彼らでは多数の複合誘導弾を振り切る事は出来なかった。
 それがスターファイア長距離誘導弾だと知っていればディアッカも無視することは無かっただろうが、このミサイルを使えるパイロットは地球軍にも少なく、その存在さえまだザフトには伝わっていない。だから完全に奇襲を受ける羽目になったのだ。
 粒子砲の余波で吹き飛ばされたジンHMを守るようにフレイがウィンダムで壁を作り、2機のフライヤーを使ってゲイツを追い払いにかかる。

「ちょっとキラ、あんたまさかアスラン狙ってない!?」
「……な、何を言ってるんだフレイ、そんな訳無いじゃないか。誤射だよ誤射」
「何でそこで詰まるのよ、しかも至近弾の余波でジン大破したじゃないの。私が回収するから、あんたはゲイツ追い払いなさい!」

 フレイにそう言われてキラは渋々ゲイツに砲を向けたが、この時既にディアッカ隊は撤退を完了していた。流石にこんな化け物と戦うのは彼の手持ち戦力では不可能な話だから。
 キラがディアッカ隊を蹴散らしている間にフレイはジンの様子を確かめ、爆発したりはしないのを確かめてからアスランに接触回線で通信を繋いだ。

「アスラン大丈夫、まだ生きてる!?」

 だが声をかけても何故か返事が来ない。おかしいと思ったフレイはここをキラに任せてジンを引っ張って急いでアークエンジェルに戻る事にした。もしかしたら最悪の事態かもしれないから。

「キラ、私はジンを引っ張って戻るから、ここはお願いね」
「あの〜フレイさん、僕1人じゃちょっと大変じゃないですか?」
「何言ってるのよ、私は出来ない人に頼んだりしないわよ」

 それじゃ後はお願いね、と言い残してフレイはフライヤーに背後を守らせながら戻っていった。残されたキラはこれって信頼されてると思っていいのかなあと緩んだ顔で考えながら、逃げていく敵機をレーダーから消えるまで眺めていた。




後書き
ジム改 これで次回からプラントが舞台になるぞ。
カガリ 思えば長い道のりだったなあ。
ジム改 後はプラントを木っ端微塵にすれば全てケリがつく。
カガリ ちょっと待て、それは色々と困るぞ!
ジム改 困るのは理事国の大企業くらいだろう。
カガリ ……そういえばユウナもプラントが無くなればオーブ製品が売れてウハウハ、とか言ってたな。
ジム改 うむ、プラントが無くなればオーブの工業製品は世界に売れるぞ。
カガリ この戦争中もそうやって儲けてたんだよなあ。
ジム改 あの、もしもしカガリさん、本気で考えてないですか?
カガリ オーブの被害も大きいからなあ。
ジム改 代表になって以来、お前さんも大変だねえ。
カガリ 何をするにも金が要るんだよ!
ジム改 それでは次回、感動の再開を果たすキラとアスラン、プラントとの地下組織との連絡が付いた事でアズラエルは関係者にもう1つの作戦を伝えるが、それは混乱を引き起こしてしまう。そしてプラントではそれぞれの思惑が渦巻きながら自らの信じる道に向けて動き出した。次回「司令官はカガリ」でお会いしましょう。

 

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