第200章  破壊の権化



 地球に迫るユニウス7、その周囲には12隻のザルク艦が展開し、さらに2隻の船がユニウス7に着底して作業を行っている。フレアモーターは最終調整に備えて点検しなくてはいかないし、核弾頭の設置作業もある。
 着底しているカリオペの艦橋で作業の進捗をロナルドから聞かされたクルーゼは満足そうに頷き、そしてユニウス7の前方に展開している艦隊を見据えた。

「相変わらず、我々に合流しようとする気配は無しか。頑迷な奴らだな」
「ですが、なぜサトー隊が我々を助けるのでしょう。ジェネシス戦でも彼らは我々の側に付きましたし。でも味方とは思えぬ動きを見せています」
「奴らはナチュラルへの憎悪で動いているのだろうさ。我々とはたまたま目的が一致しただけで、別に味方だという意識は無いということだろうな。まあ、アレは無視しておけばいい。結果的にこちらの益になるのならばな」
「分かりました。しかし、たまたま利益が一致しただけですか。我々の関係とも似ていますな」
「ふふふ、そう言えばそうだな」

 ザルクのメンバーは仲間ではない。個人レベルではともかく、組織としてはただ共通の目的のために手を組んだ組織であるが、そこに仲間意識は無い。彼らが組織の為に死を選ぶとすれば、それは別に他のザルクメンバーの為ではなく、単に世界滅亡という願望の妨げになるという判断からくるものだ。
 その彼らからすれば、目的の為に自分たちと行動を共にしているサトー隊は別におかしな存在とは映らない。ただお互いを利用しあえば良いのだ。

「それより、こちらの戦力だ。どの程度残っている?」
「先ほどの規模の敵ならばもう一度相手をする事は十分に可能です。ですが核はもうほとんど残っていません。ユニウス7と共に爆発させる為に2発を回しましたから、残っているのは3発です。頼りとするには少々心許ないかと」
「3発か。まあ良い、元々あまり当てにはいていなかったからな。私はプロヴィデンスで前に出る。後は頼むぞロナルド」
「分かりました、艦隊の方はお任せを」
「それとヴェルヌも出せ、ここからは総力戦だ」
「出し惜しみは無し、ですな」

 これが最後の戦いだ、あと2時間と少しで地球の命運は尽きる。地球連合も最後の抵抗を試みてくるだろうが、それを排除すれば勝利は決まるのだ。たとえここで自分たちが全滅したとしても、地球圏に生きる100億以上の人間を道連れにすることが出来るのだ。それは自分たちを作り出してしまったこの歪んだ世界と、愚かな人間たちに下される審判なのだ。

「そういえば、アンテラはどうしている?」
「はあ、ご命令通りにガザートと共にヴェルヌの準備をしているはずですが、やはり気になりますか、彼女の動向が?」
「ああ、今のところ彼女は私の命令に忠実だが、何時まで従っているのかな。先のジェネシス戦でもかなり揺らいでいたようだがな」

 なんとも楽しげに言うクルーゼに、ロナルドは本当にそれで良いのかと何度目になるか分からない問いかけをする。もし彼女がヴェルヌを手に敵に回ったりすれば、自分たちは確実に致命傷を負わされる事になる。彼女はザルク最強のパイロットであり、MS同士であってもプロヴィデンスに乗ったクルーゼに引けはとらない強さを持っている。
 そんな彼女にヴェルヌを与えて本当に良いのか。いや、むしろ今のうちに彼女を始末してしまい、後顧の憂いを断つべきではないのか。
 だがこの進言に対するクルーゼの答えはいつも放っておけである。それはクルーゼの持つ遊び心というよりも狂気と紙一重の道楽のようであったが、アンテラに関する事になるとクルーゼは些か甘くなるのではないかとロナルドには思えてならなかった。この自分から見ても時々背筋が寒くなるような狂気を纏った男が唯一見せる情とでも言うのか。

「それよりも、もう1つの問題のほうだ。後方の艦隊はやはり追いついてきそうか?」
「地球への阻止限界点前に一戦交えるのは覚悟しないと駄目でしょう。ですがそれより先にこいつが来ます」

 ロナルドは後方から追撃してくる追撃艦隊とは別に動いている、追撃艦隊よりも後からプラントを立ったにもかかわらずこれを追い越して、しかも減速に成功しようとしているふざけた戦艦を表示した。その特徴的な紡錘形の船体を見てクルーゼが露骨に眉を潜める。

「こいつは、ヤマトだな」
「はい、これまでの情報収集の結果、シナノはボアズで損傷して脱落し、ムサシもプラントで撤退していますから、これはヤマトで間違いないでしょう。超長距離航行を前提とした外宇宙用戦艦だという触れ込みでしたが、恐ろしいほどの巡航性能ですな」

 ヤマトはその巨体からくる火力と装甲に目が行きがちだが、その本当の恐ろしさは巡航性能にある。巨体ゆえに移動時の立ち上がりやとっさの小回りは悪いが大出力の大型推進器によって加速性能は高く、長距離移動時の速度はずば抜けている。今回ではアークエンジェルなどは追加ブースターなどで加速しているにもかかわらず、ヤマトはこれを後追いで追い越してきたのだ。
 この巡航性能で素早く戦場に移動し、長射程大威力の偏向荷電粒子砲を叩き込んでくる。この特徴を生かしてプラント侵攻作戦ではザフトを恐怖のどん底に叩き込んだのだ。それが今、1隻とはいえ後ろから急速に距離を詰めてきている。それはクルーゼでさえ背筋に冷たいものを感じずに入られない程のプレッシャーを感じさせてくれる。あの荷電粒子砲はユニウス7の岩盤さえ平気で砕いてしまうだろう。

「何とかしたいところだが、あの装甲にはこちらの武器が何の役にもたたんからな。どうしたものか」
「核ミサイルを叩き込めば流石に破壊できるでしょうが、あの船の対空火力を考えるとまず届かないでしょうし」

 PS装甲を戦艦に採用されるとこれほど厄介になるのか、と思わずにはいられない。プラント本土決戦ではヤマトとムサシの2隻を相手にザフトは総力を投入し、どうにかムサシを撃退できたに留まっている。
 だがまあ、気にしてもしょうがない。あの船は脅威であったが、今すぐやって来るわけではないのだ。今気にするべきは正面に立ち塞がっている最後の敵だろう。これを突破すればたとえヤマトが来てももうユニウス7を止める事は叶わない。

「さあ、タイムリミットは近いぞ。どうするのだキラ・ヒビキ?」

 自分に生意気な事を言ってくれたあの最高のコーディネイターが来る事を、クルーゼは疑ってはいなかった。何故あの男が自分に牙を向くのかは分からないが、ユーレクと並んで自分の計画を引っ掻き回してくれたあのコーディネイターには是非とも借りを返しておきたかったのだ。

「いや、地球を失った後の世界の中で絶望に浸らせるのも一興か?」
「クルーゼ隊長、遊んでいる余裕は無いと思いますが?」
「多少は構わないだろう、これが最後なのだからな」

 この悪い癖だけは死んでも治らないのだろうな、とロナルドは鈍い痛みを訴えだした腹を右手で押さえた。何とかと天才は紙一重とは言うが、まさにこの男はその典型なのだろう。




 ユニウス7の阻止限界点に入る前の宙域に展開を開始した地球艦隊、その数は44隻、新鋭艦の姿も無く、最新鋭MSのウィンダムや第2世代Gの姿は数えるほどしかない。頼りになりそうなのは旗艦として配置されているイズモ級特務艦のイズモくらいだろうか。
 指揮をとっているのは大西洋連邦のジョーダン少将で、ミナから借り受けたイズモに座乗して戦場にやってきている。借り受ける際にミナから傷1つ付けずに返せよと励ましを受けていたが、それが本気かジョークかは判断し辛い所であろう。

「艦隊は方形に展開を完了、ユニウス7は地球への突入コースを維持しています。阻止限界点までの距離は時間にしておよそ2時間です!」
「敵の動きはどうだ?」
「敵も出し惜しみをするつもりは無いようです。ユニウス7の直援と思われる艦が12隻、それと前衛と思われる艦が4隻確認されています」
「小細工は抜きか、覚悟を決めたようだな。アメノミハシラは?」
「我々の後方に移動して待機しています。要請があり次第MSを送り込むと通信も来ています」
「準備は整ったか。よし、先制攻撃をかける。ミサイル第1波用意、核ミサイル、反応ミサイルの使用許可も下りている、派手に行くぞ!」

 命令を受けて44隻の艦が一斉にミサイルランチャーのカバーを開いた。そして1隻辺り6発から8発のミサイルが発射され、推進剤の輝きを曳きながらユニウス7へと向かっていく。流石に全てが核ミサイルや反応ミサイルではないが、一度に250発ほどのミサイルが発射される様は物凄い迫力がある。
 そして撃たれた方はその数に焦りを見せるかに思われたが、意外にも彼らはあまり慌ててはいなかった。何故ならば、彼らは飛来するミサイルを防ぐ用意があったのだから。



 ユニウス7はともかく、ザルクの艦隊は一撃で片が付くと思われるだけのミサイルであったが、艦隊乗組員が期待の眼差しを向けている先でいきなり幾つもの巨大な閃光が生まれ、ミサイルの反応の多くが消し飛んでしまった。
 何が起きたかは明らかだ。核弾頭は破壊されたら起爆はしないが、反応弾頭は破壊されたら反水素が反応して大爆発を起こす。あれは反応ミサイルが破壊された光なのだ。

「ミサイル第1波、迎撃されました。ユニウス7よりかなり手前の宙域です!」
「何だと、どういう事だ。何が迎撃してきた!?」
「移動熱源を2つ確認しました、MAのようです!」
「MAだと……まさか!?」

 そう、ミサイルを迎撃してきたのはもはやザフトにすら稼動機を残していない大型MA、ヴェルヌだ。ザルクはザフトから最新鋭の装備を横領していたそうだが、どうやらその中にヴェルヌも混じっていたようだ。まったく、ザフトの奴らは自分たちの装備の管理も出来ないのかとジョーダンは罵るが、それが横領された機体なのか、どこかの戦場で破壊されたと報告された機体なのかは分からなかった。いや、もしかしたらどこかの戦場で撃破された機体をサルベージしたジャンク屋から買い取ったのかもしれない。戦後の事になるが、実際ザルクに関する調査の中で相当数の兵器がジャンク屋から調達していたことが判明している。
 だがヴェルヌが相手というのは洒落にならない。あれに対抗可能な機体がコスモグラスパーのストライカーパックに用意されてはいるが、アレを使えるのは一部の凄腕だけだ。使い難すぎて並みのパイロットでは飛ばすだけでも精一杯という、対ミーティア、ヴェルヌ専用という無駄の多い兵器なのだ。
 アレは多数の目標を同時に攻撃する能力に長けた兵器だという。ミサイルの飽和攻撃に対処するのはヴェルヌにとっては最も得意とする戦い方だろう。そしてアレに対抗可能な機体を、自分たちは1機しか保有していない。

「やむをえん、こちらも切り札を切らせてもらうとしよう。アメノミハシラのアルフレット少佐に連絡だ、ウォーハンマーを持って煩いハエを叩き落せ!」

 ジョーダン少将はアメノミハシラに残してきた切り札の早期投入を決めたが、その前に彼らはユニウス7から前に出てきたサトー隊とザルクの一部を相手に戦わなくてはならなかった。艦隊の前方にダガーやGが展開して敵のMS対を迎え撃とうとする。
 ただここで地球軍にとって致命的だったのは、ヴェルヌに対処できる兵器が無かった事だろう。大量のミサイルを一度に発射して数機のダガーが砕け散り、PS装甲のおかげでミサイルには耐えたGも続いて襲ってくるビームを受けて落とされている。また一度に複数のミサイルを受ければPS装甲は耐えても中の機器や人間が耐えられず、故障を起こしたりパイロットが気絶したりして無力化される機体も出ていた。

「速い、あれがヴェルヌって奴か」
「だが当たればいける筈だ、撃って撃って撃ちまくれば落とせないはずが無い!」

 ミーティアやヴェルヌはその巨体に似合わず装甲は紙で、しかも巨大なミサイルコンテナを抱えているので一撃貰っただけで大爆発を起こす事もある。だがその加速性能に物を言わせて駆け回るので当てるのは容易ではない。アークエンジェル隊のエースたちでさえ当てるのに梃子摺ったのだから、並みのパイロットたちがそうそう当てられる訳がない。弾幕を形成しようにもそれが出来るMSは限られている。
 その限られているMSの1つ、マローダーが3機がかりで駆け回るヴェルヌの進行方向にガトリング砲で高速弾の壁を作り上げたのだが、ヴェルヌはそれまでの直線機動から急に進路を変更するという離れ業を見せ、巧みにマローダーの攻撃を回避していた。
 ナチュラルなら確実にGで死んでしまうような動き、いやコーディネイターでも無事では済まないだろう動きを見せる相手にカラミティやレイダーを駆る強化人間でさえ驚いているくらいだ。
 それは戦闘用コーディネイターだけが辿り着ける領域だった。極めて強靭な肉体を持つからこそ耐えられる動きで機体を操るアンテラとガザートは更に10機を超すMSを仕留めた後、艦隊に攻撃を加えだした。

「脆い奴らだな、所詮は居残り部隊か」
「ガザート、調子に乗って弾を使い過ぎないで。厄介なのが出てこないとも限らないわ」
「はっはっは、アンテラは心配性だな。この程度すぐに終わらせてやるよ」

 戦艦を大口径ビームで撃沈してガザートは上機嫌な様子であったが、アンテラはそこまで敵を舐めてはいなかった。後方から追撃部隊も来ているし、あまり無理をして補給中のところを教われでもしたら面白くない事になる。
 だが、アンテラもガザートを嗜めはしたが、本当にそんな化け物が出てくるとは思っていなかった。せいぜいウィンダムだろうと思っていたのだ。

 しかし、ガザートはもとよりアンテラも予想していなかったことだが、この時急速に戦場に迫る巨大な物体がいた。アンテラはいきなり鳴り響いたロックオン警報に慌てて機体を蛇行させ、回避運動に入る。そして機体のすぐ傍を2本の荷電粒子ビームが貫いていった。
 一体何が、と射線を追ったアンテラが見たものは、MAのような速度で迫る小型駆逐艦とでも形容すべき代物であった。

「な、何ですかあれは!?」
「MAにしちゃでか過ぎるよな。新型艦なのか?」

 だが、新型艦といってもこれは速すぎる。ヴェルヌにも引けをとらない速度だ。そしてデルタフリーダムと同様の荷電粒子砲を2門装備しているとなると、火力面でも並ぶ物はあるまい。なんて物を作るんだとアンテラは思ったが、これはアズラエル財団が進めていたカタストロフィ・シリーズの完成系だったのだ。
 カタストロフィ・シリーズは次世代主力MSの可能性を探るためにアズラエル財団が貸与していた最新技術の塊と言える実験機だ。このウォーハンマーはそれらのデータを下に将来的なナチュラル用空間機動兵器を模索した上で作られた実験機であったが、複数の実験MSから得られたデータに戦訓を加えて作られた機体は、何故かメビウスを二回りほど上回る大型MAになってしまっていた。
 アンテラはこの大型MAを狙って火線収束砲を放ったが、それは直撃前に何かに阻まれ、燐光のような飛沫をあげて散らされてしまった。それが大西洋連邦のMSだけが持つ特殊なエネルギー偏向シールドである事はザフトならば周知のものだ。

「ゲシュマイディッヒパンツァーまで装備してるなんて!?」
「ならミサイルだ、完璧な防御なんてあるわけないんだからな!」

 ガザートが20発ほどのミサイルを放ってウォーハンマーを捕らえようとするが、ウォーハンマーは迎撃ミサイルを発射し、デコイをばら撒きながら回避運動に入ってこれを防ぎ、回避し、それを突破してきたミサイルには機体に装備されていたCIWSで対応してきた。

「どういうMAだ、駆逐艦並の防御火器を揃えてやがる!?」
「ザフトのミーティアやヴェルヌとは全く違う思想のMAみたいね。速度で振り切るんじゃなくて防御しきるのが前提みたい」
「となると、装甲も?」
「多分PS装甲か、それに類するものでしょうね。こんな物を作ってたなんて……」
「トンデモ兵器はザフトだけの特権じゃなかったって事かよ。たく、ミーティアを相手したナチュラルの気持ちが分かってきたぜ」

 ビームは偏向シールドで防ぎ、ミサイルは迎撃火器で叩き落し、砲弾は装甲で弾き返す。そして主砲は一撃必殺の荷電粒子砲、これはまさに宇宙に出現した戦車ではないか。もちろんこれほどの機体だ、継戦能力が高い筈がない。戦っていればいずれ戦えなくなって帰るだろうが、それまで放置する事も出来ない。

「行くわよガザート、あれの足を止めないと!」
「と言われても、どうやって止めるんだよあれ?」

 目の前で綺麗に旋回から捻ってこちらに向き直った大型MAの動きに、パイロットも尋常な腕ではないと察したガザートは嬉しくなさそうであった。




 このウォーハンマーを操っているのは負傷して地球に帰還していたアルフレットであった。退院後にこれのテストパイロットを命じられ、アメノミハシラを基地としてこれまで試験をしていた物だ。

「やっぱり小回りが悪いな。まあこの巨体だし、生半可な攻撃は弾き返すから良いんだが、ゲシュマイディッヒパンツァーはエネルギー消費が酷すぎるのがな」

 やはり実験機だけあって実戦に出すような事は考えていない作りだ。偏向シールドはエネルギー消費が大きすぎて長時間動作できないし、装甲はTP装甲だがこれもこれだけでかければ結構電力を食う。更に主砲となっている2門のエグゾスター荷電粒子砲は馬鹿みたいにエネルギーを食う武器だ。これ以外にも多数の火器に大型コンピューターの搭載などで、その消費電力は洒落にならない状態になっている。ようするにMAサイズにまとめるには無理があったのだ。今もエネルギー不足で主砲は充電待ちになっている。
 従来のNJCを用いたMS用原子炉の転用ではジェネレーターとして不足だったのだが、実験機だからまあ良いだろうという事でそのまま進められたのがウォーハンマーの不幸だったろうか。かといって2基搭載していたら更に動きが鈍くなってしまうので難しいところだろう。
 結局、荷電粒子砲2門が多すぎるんだとアルフレットは愚痴を零し、砲のモードを手動操作に切り替えて1門ずつの交互撃ちに切り替えた。これは当初搭載されていなかったのだが、テストの結果ジェネレーターの出力不足が判明した事で後付されたモードだ。これなら片方を使用可能なうちにもう片方の充電が完了する。
 後ろから迫ってくる2機のヴェルヌを後方監視モニターで確かめたアルフレットは、距離を詰められているのを見て渋い顔をしていた。

「ちっ、向こうのほうが速いのか。まああっちはコーディネイター用だから仕方ないんだがな!」

 加速性能は向こうのほうが上だと見たアルフレットは機体を反転させ、勝負を仕掛ける事にした。防御と火力では確実に勝っているという自信がそこに表れているが、それはそのままアンテラとガザートの焦りを呼んだ。真っ向勝負になるとあれを落とせる武器が巨大なビームサーベルくらいしかないのだが、流石にMA同士の戦いで使える武器ではない。
 結局2人は正面からあの荷電粒子砲を食らうのを恐れ、機体を捻って正面から離れていった。


 この大型MA同士の戦いが行われていた頃には双方のMS同士が激突していたが、ビーム兵器が両軍に普及した状況ではPS装甲もあまり当てには出来ず、第1世代Gのデュエルやバスターの価値はストライクダガーと大して変わらなくなっているのでゲイツ相手でも苦戦していた。
 この戦場で活躍していたのはダガーLだった。数がそこそこいる上に性能ではゲイツRとも渡り合えるのでGやストライクダガーよりも目立っている。第2世代Gであるレイダー制式型やソードカラミティ、マローダーなどはジャスティスやフリーダムの相手をさせられているので押されているように見える。
 だが地球軍側にとって有利な材料は、彼らには援軍の当てがあるという事だ。第1次防衛線の部隊と同じように、彼らもここで可能な限り時間を稼ぎ、敵に損害を強要すれば止めはこちらに接近中の部隊が刺してくれる筈だという余裕がある。だから彼らはザルクほどには焦ってはいなかった。
 逆にザルクは短期でケリをつけないと新手がくるという恐れがあったので遮二無二攻撃している。質では圧倒しているので押し切る事は可能なのだが、問題は敵の増援が何時やってくるかなのだ。それに数は向こうの方がはるかに多い。ヴェルヌにかなり減らされているが、それでもまだ向こうの方が多いのだ。
 だが、その数の優位もクルーゼのプロヴィデンスが出てくるまでだった。多対一の戦いに特化しているこの化け物MSがドラグーンを使用しだした途端、地球軍の反撃は目に見えて衰えだしたのだから。何処からともなく飛来するビームに撃ち抜かれて1機、また1機と撃墜され、あるいは損傷して戦闘能力を奪われてしまう。

「ふむ、思っていたよりも数が多いな。それにずいぶんと懐かしい機体も沢山来ている。それにしても……」

 何だあのふざけたMAは、とクルーゼは唸っていた。切り札と考えていた2機のヴェルヌを完全に拘束してしまっている。おかげでこちらの計算は完全に狂ってしまい、考えてもいなかった消耗戦に近い殴り合いをするハメになってしまった。アンテラとガザートが使っていて何て様かと思ったが、相手のパイロットの腕もまた凄まじいものであるようで、ナチュラルの限界を超えているような機動を見せている。クルーゼが見ていてもよくあの巨体を上手く動かせるものだと思ってしまうくらいだ。
 そしてそんな、フラガすら凌ぐと思わせるパイロットはクルーゼの知る限りナチュラルには1人しかいない。そしてあれから感じ取れる気配がその答えを確信に変えてくれる。

「アルフレット・リンクスか。プラントには来ていない様だったが、地球圏に残ってあんなものに乗っていたとはな。そんな情報は得ていなかったのだが」

 ターミナルの情報も完璧ではないという事か。クルーゼはここ最近の忙しさであれの情報に頼りすぎていた事を悔やんだ。アルフレットに関してはプラント侵攻作戦の前に負傷して構想されたという情報までは得ていたのだが、それ以上注意を払っている余裕をなくして無視していたのだ。
 それがここに来てこんな計算違いとなって出てくるとは、何処まで足掻いてくれるのだこの世界は。

「最後の最後まで見苦しく足掻き続けるのか、何処まで私に逆らい続けるというのだ人間ども!?」

 シールドチャージを仕掛けてきたデュエルダガーを逆にシールドで弾き飛ばし、ビームライフルで撃ち抜いて破壊しながらクルーゼは沸き起こってくる怒りを口から吐き出した。キラ・ヒビキが来るのならば分かる。フラガとの決着が不完全に終わった今、自分が戦いたいのはあの最高のコーディネイターだけだ。なのにどうしてまた自分の邪魔をする奴が出てくるのだ。

「アンテラ、何をしているさっさと片付けてこちらの支援に回れ!」
「そうは言いましても、このMAの強さは尋常ではありません。何よりこちらの武器がほとんど役に立たないんです!」
「……ならザクに相手をさせる。あれの高周波トマホークならどんな装甲でも切り裂けるはずだ」
「無理です、MSで付いていける速さではありません!」

 あれを落とせるのはゲシュマイディッヒパンツァーの出力を上回る大威力のビームを直撃させるか、ソフトキル防御が意味を成さない大質量の砲弾を撃ち込むかだ。やるならアーバレストを使うのが一番効果的だろうが、あれは高速機を狙撃するような用途の兵器ではない。対PS装甲用に開発されたが、取り回しが悪すぎて対艦、対要塞兵器としてしか使われていないのがそれを如実に証明している。
 つまりあれを落とすのに一番有効なのは艦砲の一斉射撃だということだ。多数の艦砲を揃えてMAが回避できないように一斉に撃ち込めば、どれかが直撃してダメージを与えられるはずなのだ。いくら偏向シールドがあろうが装甲がPS装甲だろうが機動兵器の防御力で艦砲を受ければ無事では済むまい。

「クルーゼ、こちらで何とかあれの動きを止めてみます。そこを艦隊の艦砲で撃ってください!」
「出来るのか?」
「やってみるだけです!」

 アンテラのヴェルヌが火線収束砲を連射してウォーハンマーの頭を押さえにかかり、ガザートが巨大なビームサーベルを展開して斬りつけようとする。それを機体を僅かに上向かせて回避し、降り注ぐビームは偏向シールドに任せるアルフレット。2機の攻撃パターンが変わった事には気づいていたのだが、だからといって対処できるわけでもなかった。

「こいつら、俺の足を止める事に集中してるようだが、何考えてんだ?」

 何時までもこいつらの相手をしている訳にもいかないのだが、そんなことを考えているアルフレットの脳裏に、ふと死の予感が駆け抜けた。殺気を感じたとでも言うか、とっさにアルフレットは操縦桿を倒して機体を沈ませ、下方に向けて機体を急激に動かした。それは彼の体に著しい負担をかける動きだったが、それは正しく報われた。直後に頭上を幾筋ものビームの光や大口径の砲弾が突き抜けていったのだ。それを受けていたら幾らウォーハンマーでも耐えられなかっただろう。
 なるほど、こちらの動きを止めて艦砲で落とす気だった訳だ。ウォーハンマーは巨体だから艦砲でも十分に当てる事が出来る。昔は地球軍が宇宙でMAとの組み合わせで使った手であるが、ザフトにもこういう手を考えてくる奴がいたらしい。

「ちっ、こんな手に嵌るなんざ、俺も焼きが回ったか?」

 お返しとばかりに火線収束砲をぶっ放してきたヴェルヌに荷電粒子砲を発射して回避を強要し、もう片方にはこれまで使っていなかったミサイルを発射して牽制した。単発の大型ミサイルなど当たるものかとガザートは鼻で笑ったが、それがNJの影響下で正確にこちらに向かってくるのを見てビックリしてしまう。

「な、何でこんなミサイルが正確に!?」

 NJの干渉にある程度対抗できるミーティアやヴェルヌのFCSならともかく、ナチュラルがどうしてこんな誘導が出来るのだ。奴らも遂にNJに対抗できる誘導システムを完成させたというのか。
 そんな事を考えている間にもミサイルは迫り、近くに来たところで4発の子弾を放ってきた。それは量子通信誘導のスターファイアミサイルだったのだ。本来ならフライヤーを随伴させる事も出来るのだが、今回はフライヤーは伴っていなかった。




 戦闘開始から30分、クルーゼ隊は迎撃に出てきた第2防衛線の部隊をほぼ壊滅状態に追い込む事に成功していたが、未だ無力化は出来ずにいた。だがこれならユニウス7に取り付かせはしない、阻止限界点を超えるまであと僅か、そこまで来た時、遂に恐れていたものが背後から襲い掛かってきた。レーダーに巨大な反応が現れ、ものすごい速さでこちらに迫ってくる。それが何であるのかは確認するまでもない。後方から追撃してきていたヤマトが遂に現れたのだ。

「ロナルド艦長、ヤマトが来ました!」
「エネルギー反応増大、砲撃来ます!」

 その報告の直後、後方から巨大なエネルギーの本流が襲い掛かり、ユニウス7を直撃した。高エネルギー火線収束砲ではありえない破壊力のビームがユニウス7の岩盤を打ち砕き、抉り取っていく。運動エネルギーを持つ重イオン粒子ビームならではの威力だ。
 収束して撃ってきた、というのは分かったが、まさか強固な岩盤を削り取るなどという出鱈目をしてくるとは。どうやら最大射程で発射したようで、命中が期待できる巨大な目標を狙ったことが推察できるがまさか威力を維持できるとは。

「くそ、この距離で撃ってこの威力か。拡散してる筈だろうに!」
「ヤマト、更に接近、MSらしき反応多数出現!」
「迎撃用意だ。それと機雷戦用意、ヤマト進行方向に散布し、奴の頭を押さえろ。あの巨体だ、一度足が止まればすぐには追ってこれん!」

 機雷は地味だが一撃の威力は大型艦を一撃で大破に追い込む事も可能だ。これならば幾らヤマトといえども無視は出来ないはず。ロナルドはそう考えていた。だが、ここで機雷を大量に使ってしまえばこの後にやってくるアークエンジェルらへの対処が難しくなる。だがそれらを相手にするのはあの化け物を相手にするよりずっとマシなはずだとロナルドは考えていた。




機体解説

GAT−X457  ウォーハンマー

兵装  荷電粒子砲2門
    多目的ミサイルランチャー8基
    40mmCIWS2基
    エネルギー偏向シールド2基

<解説>
 カタストロフィ・シリーズの最終モデル。1番機から6番機までのシリーズから得られたデータを元に次世代主力機動兵器の可能性を模索して完成された実験機。デルタフリーダムと同様のエグゾスター荷電粒子砲を機首方向に2門装備し、ゲシュマイディッヒパンツァーとTP装甲を採用、絶大な火力と防御力を誇る。
 反面副次火器は40mm砲とミサイルランチャーがあるだけで、主砲意外は少ないと言える。量子通信システムも装備されており、本来はフライヤーなどの攻撃端末を運用する事も可能である。だが本来想定されていた完全自動型のフライヤーが間に合わず、今回は装備されてはいない。
 極めて強力な機体であるが、その莫大なエネルギー消費を支えるにはジェネレーターが貧弱であり、実験機の域を出ていない機体である。この機体の出現は、ナチュラルが再びMAに回帰する動きを見せている事を示している。



後書き

ジム改 地球滅亡まであと僅か、アークエンジェルは何時来るのか!?
カガリ ウォーハンマーてMAかよ!
ジム改 SEED世界のテクノロジーだとナチュラルはMAに向かうとしか思えんのだ。
カガリ つまりこの後の地球軍の主力はザムザザー?
ジム改 かもしれない。
カガリ 私は嫌だぞ、あんな怪しい機体は!
ジム改 まあオーブはM1系で行けば良いさ。
カガリ これで次回で私らも到着か。今までの借りをまとめて返してやるぜ。
ジム改 まあ戦力的にはフルボッコタイム確定と言えるかもしれんがね。
カガリ それじゃ次回、遂に戦場に到着する追撃艦隊、メテオブレイカーを設置するためにユニウス7に取り付こうとするが、ザルクも最後の抵抗を試みる。果たしてキラたちは時間までにユニウス7を砕けるのか。次回「タイムリミット」で会おうな!

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