第202章  復讐者たちの凱歌


 

 3基のドラグーンが虚空を舞い、3機のM1Aを追い込んでいく。それを操るクルーゼの技量も優れているが、ドラグーンに狙われて逃げられるM1Aのパイロットをほめるべきだろう。
 クルーゼに狙われたエドワードが必死にドラグーンから逃げ回っている。何とか反撃をしたいと思ってはいても、3機のMSに狙われているに等しい状況ではどうしようもなかった。せめてもの救いはクルーゼ本人がこちらに来ていない事だろう。

「情けねえ、たかがオプションに逃げるしかないなんてよ……」
「エド、これって何なのよ、どうして私たちを追えるの!?」
「悪いマユラ、そういう事はエリカさんにでも聞いてくれ。俺には分からん!」
「でも、あっちはあっちで凄いわよね、同じ人間とは思えないって言うか」

 マユラが呆れるのも無理は無い、自分たちがドラグーンに手を焼いている間にも、目の前ではプロヴィデンスを相手に3機のウィンダムが1歩も引かず戦っていたのだ。それもそのうち1機は2基の無線攻撃端末フライヤーを操る特殊使用機だった。4基のドラグーンと2基のフライヤーが戦闘機同士の戦いのように周辺を飛び回り、3機のウィンダムがドラグーンの牽制を気にしながらプロヴィデンスにビームライフルやガウスライフルを向けている。
 クライシスの量産型だけあって基本性能はザフトの核動力MSにも対抗可能という触れ込みであるが、それが嘘偽りではない事を証明するかのような戦いぶりだ。ドラグーンから放たれたビームを受けても撃破される事も無く戦い続けているのも凄い。防御という概念を切り捨てているM1系からすれば羨望の眼差しを向けたくなってしまう。

 このウィンダムの強さにはクルーゼも驚きを隠せなかったようで、プロヴィデンスの動きにも戸惑いが見て取れる。まさか自分がこんな雑魚どもに手を焼くとは思っていなかったのだろう。今も1機のウィンダムが距離を詰めてきてビームサーベルを抜き、切り掛ってくる。それをシールドで防御したクルーゼは力任せに相手を押し戻すと、苦々しい顔でM1Aに向けていたドラグーンを呼び戻した。

「私を止めるとはな、伊達に追撃部隊に選ばれたわけではないということか。良いだろう、全力で相手をしてやる!」

 ウィンダムの強さを認めたクルーゼは本気でこれを仕留める覚悟を決めた。本命のキラのデルタフリーダムに備えて余力を残しておこうなどという余裕は完全に吹き飛んでしまったのだ。
 7基のドラグーンを駆使して戦いを有利に持ち込むクルーゼ。一方無視された形になったエドワードはホッと一息つき、そしてマユラを逃がそうと思って声をかけようとしたのだが、それより先にマユラのM1Aが動いていた。

「今がチャンスよ、ここであいつを落として艦隊の安全を確保するわ!」
「お、おい、待てマユラ、お前が敵う相手じゃない下がれ!」

 お前らじゃあそこに加わっても足手纏いだ、そう怒鳴るエドワードだったが、マユラには届かなかったのか無視されたのか、彼女と部下のM1Aはプロヴィデンスに向かっていってしまう。殺された仲間の敵を取りたいのかもしれない。この最悪の状態にエドワードは悪態をつき、そして自分もプロヴィデンスへと向かった。こうなった以上、ここでクルーゼを倒すほかに道が無いと覚悟を決めたのだ。




 地球にユニウス7が迫るにつれて、地球から離れている場所ではそれぞれに違った反応を見せていた。未だ生き残っている極東連合のコロニー群では自給自足が出来ない為にだんだんと焦りが強くなっている。地球が壊滅すれば水や食料の供給が断たれ、自分たちも枯死してしまうから当然だ。これはプラントも同様であったが、こちらはより深刻で地球が壊滅した後、地球軍の残存が復讐心の矛先を自分たちに向けてくることを信じて疑っていなかったので、ユニウス7落着はそのまま自分たちの破滅に直結してしまう。
 これらに対して、月面都市などは暢気なものであった。こちらはある程度自給自足が可能なので、仮に地球が壊滅してもすぐに影響が出るということは無い。食糧生産施設や水の循環システムを増やしていけば対応できると考えているのだ。
 そんな情勢であったから、プラントから久しぶりにやってきた定期運行シャトルが入港した月面都市の宇宙港でも、戦時下体制の中の警戒以上を感じさせるものは無かった。コペルニクスに降りたユーレクは相変わらずの無愛想な顔で手荷物を手にタラップを降り、必要な手続きを終えてゲートからロビーへと入っていく。そこで彼は視線を巡らし、今最も注目のニュース映像を流しているTVモニターを見つけた。
 それは望遠映像による戦場の様子を写した中継放送で、レポーターが興奮した様子で何かを喚きたてているが、そんなものはユーレクの耳には届いていなかった。

「やはり、地球軍は苦戦しているようだな。クルーゼの奴、最後の最後まで足掻き続けるつもりか」

 あの男のそれはもう復讐心というレベルを超え、狂気に変わっている。自分のキラ・ヤマトに対する執着も狂気に近いものだと自覚していたが、あの男のそれは自分など霞んでしまうほどだった。しかも性質の悪い事に、クルーゼは自分の狂気を自覚し、それすらも楽しんでいる。例えその過程で自分が滅ぶ事となってもあの男は何も気にしないだろう。
 そんな狂人を相手にしては、数で押す事を戦法としてきた地球軍では梃子摺っても当然かもしれない。破滅する事すら楽しんでいるような奴が相手では、常識的な作戦出は対応し切れない。

 ただ、ユーレクはクルーゼの目論見が成功するとは思ってはいなかった。確かにクルーゼは手強い相手であるが、キラはかつて自分を倒した事さえあるのだ。怪物である自分に勝てるほどの男が、クルーゼに遅れをとる筈が無いのだ。むしろ心配しているのはキラの内面の問題である。彼もまた、自分たちと同様に内側に歪んだ部分を持っているとユーレクは感じていたのだ。

「キラ、貴様は私やクルーゼのようにはなるなよ」

 クルーゼと戦う間に、奴に感化されて人間の負の部分に引き込まれなければいいのだが。それだけがユーレクには心配だった。

「……まあ、それを心配するのは私の役回りではないか。さて、エレンの連絡先はと」

 その辺りは向こうにいる誰かが、あの赤い髪の気の強い娘辺りが何とかするだろう。そう考え直して気を取り直すと、連絡先の書かれたメモを手にさてどうやって行ったものかと考え出した。





 地球に迫るユニウス7、もう阻止限界点まで残り僅かというところまで来たこの小惑星に対して、地球連合とザフトの追撃艦隊は必死にこれに取り付こうとしていたが、既に敵MS隊に取り付かれてミネルバ艦隊が脱落し、アークエンジェル艦隊とツクヨミ艦隊もまたユニウス7からの砲撃を受けて窮地に陥っている。
 敵MSが放ってくるアーバレストの砲弾に対して、カガリはツクヨミ艦隊をアークエンジェル艦隊の前に出して盾となることで前進を続けさせていた。とにかくメテオブレイカーを取り付け、ユニウス7を破壊する事が最優先であったからだ。
 味方撃ちを恐れて砲撃を中止していたヤマトも支援要請を受けて砲撃を再開し、アーバレストを使用したMSが隠れているユニウス7の後方に向けて砲撃を再開する。制圧砲撃がユニウス7の岩盤を抉り、遮蔽物ごとMSも消し飛ばしてしまう。アーバレストを構えていたゲイツRたちは当然身を守る為に岩盤の陰に隠れていたのだが、桁違いの破壊力を誇るヤマトの砲撃は彼らの努力を嘲笑うかのように岩盤ごと吹き飛ばしていった。
 アーバレストは巨大な砲であり、完全に隠れる事など出来る筈も無い。せめてユニウス7にある通路にでも入れれば別だったろうが、流石にMSサイズに対応した通路などそう都合良くある筈も無かった。

 アーバレストを抱えた砲撃部隊がヤマトの砲撃で叩き潰され、生き残りは砲撃をする事も出来ずに物陰に縮こまっている。対艦攻撃の切り札であった部隊が制圧砲撃に完全に押さえ込まれてしまった事は直ちにクルーゼに知らされ、クルーゼは苦笑いをしながらその報告を受けていた。

「なるほどな、彼らもやられっぱなしでは無いな」
「どうしますか、期待していたほど船を沈められなかったようですが?」
「何隻叩いた?」
「詳しい損傷は分かりませんが、ヤマトの砲撃が始まるまでに3隻に直撃を出し、2隻を落伍させています。1隻は当たり所が良かったようですな」
「2隻か、では残り6隻、確かに多いな」
「しかも最重要目標のアークエンジェル級、イズモ級は健在です。最後のMS隊を回して阻止を試みますが、クルーゼ隊長もこちらに回れませんか?」
「ふむ、よし分かった、そちらに回るとしよう。ところでアンテラとガザートはどうした?」
「敵MAとの戦闘を切り上げ、こちらに戻ってきている所です。ただ弾薬の消耗が著しく、戦闘力は著しく低下していますが」

 2機のヴェルヌが自由に動けていればここまで手を焼く事は無かった筈なのだが、あの新型MAのせいで予定が大幅に狂ってしまった。だがまあいい、あと少しでユニウス7を阻止する事は不可能になるのだから。
 通信を切ったクルーゼは少し残念そうに軽く頭を振ると、この通信を聞いていただろう相手に声をかけた。

「そういう訳だ、済まないがここでお別れだなエドワード」
「あんたは……イカレ……てるぜ」

 片腕片足になり、もはや戦闘力など残してはいないだろうM1Aがプロヴィデンスの右手に掴まれている。それはエドワードの使っていたM1Aで、そしてここで生きている最後の連合MSでもあった。

「まあ、流石はザルクに属していた男と言うべきかな。M1で私を相手にこれだけ持ちこたえて見せたのだからな」

 M1Aとプロヴィデンスとの間には絶望的な差があり、クルーゼはザフトでも指折りのパイロットだった男だ。それを相手にまだ生きてるのだからエドワードのパイロットとしての実力は優れていたと言えるが、それは守りたい者を守れるほどではなかった。
 無念を滲ませて罵声を放ってくるエドワードにクルーゼはもう一度別れを告げると、ビームサーベルでコクピットを突き刺した。





 各所で味方のMS隊が敗退している。その現実はカガリを焦らせていた。既に迎撃に出したM1部隊は通信を断ち、何機が残っているのかも知る事は出来ない。そして敵機の数は確実に増えているのだ。

「ユウナ、馬場一尉のメテオブレイカー輸送部隊はどうなってる!?」
「残念ながらそっちも音信不通だよ、通信障害が酷いし、ゴミが多くて光学でも追いかけられないんだ」
「くそ、アーバレストの砲撃が止んでるのがせめてもの救いか!」

 制圧砲撃は有効に機能している、そのことだけが現状では唯一の慰めだと言えるが、事態はそんな僅かな救いさえふっとばす勢いで悪化していた。まだユニウス7に達してもいないのに、味方の数は既に半数以下にまで減らされているのだから。
 馬場一尉の部隊が消息不明になっている頃、一番最初にユニウス7に向けて出撃したアスランの部隊はザルクの盛大な歓迎を受けていた。

「ザラ隊長、更にゲイツR2機、それにジャスティス1機来ます!」
「さっき抜いた奴らも追いついてくるぞ、これ以上は不味いか?」
「それに、1機1機がとんでもない凄腕ばかりで、私じゃ対抗し切れません!」

 ジャスティスを駆るルナマリアは泣き言を言うが、彼女はアスランの期待以上に良くやっていた。どうやら彼女は訓練校から送られていたデータのような射撃に適正があるパイロットではなく、接近戦に高い適正を持つパイロットだったようだ。ひょっとして性格から派手な砲撃戦が好きだっただけなのでは、と彼女の活躍を見ていたアスランは呆れた顔で考えていたくらいだ。
 だが、良く頑張ってくれているからといって勝てる訳ではない。期待を上回る強さではあるが、相手が強すぎてどうにか逃げ回れているという程度のものだ。だが1機確実に引き付けてくれるので、アスランとしては助かっている。

「とにかくやるしかない。いくぞルナ、奴らをメテオブレイカーに近づけるな!」
「りょ、了解です!」

 ビームライフルを手に迫る3機を迎え撃とうとするアスランであったが、そこにメテオブレイカー護衛部隊のジャックから緊急通信が飛び込んできた。

「ザラ隊長、ジャックです!」
「どうした、そっちにも新手が行ったか!?」
「後から後から沸いて来ます、フリーダムが来ないだけマシと言えばマシですが、援護には来れませんか?」

 フリーダムの出現、それはメテオブレイカーにとっては致命的な事態だ。フルバーストによる砲撃を完全に防ぐ術が無い以上、ビームなり砲弾なりがメテオブレイカーを捕らえた時点で勝負は決してしまう。
 いますぐそちらの援護に行けば止められるかもしれないが、そうなるとこちらがルナマリア1人になる。それでは結局こちらが突破されてメテオブレイカーに取り付かれてしまう。
 せめてイザークとディアッカが合流出来ていれば、アスランはそう呟いて歯を噛み締めて悔しがっていたが、居ないものは仕方が無い。アスランはジャックに頑張ってくれと言うほか無かった。

「ジャック、すまないがこちらも大人気でな、お客さんで一杯なんだ。悪いがそっちで何とか止めてくれるか?」
「かなり厳しそうですが、やってみます。ところで隊長、ミネルバは無事ですか?」
「一応まだ健在なようだが、細かい事は分からんな。通信が繋がらないんだ」
「そっちもですか、こちらもです」

 余程酷い通信妨害が艦隊との間で行われているのか、それともミネルバ隊の全艦が通信機能を喪失するほどのダメージを受けたのか。前者だと思いたいが、この強さの相手ではミネルバが大破している可能性も捨て切れなかった。




 アスランに任されたジャックは早速迎撃に出ることにしたが、今現在も邪魔な敵機が集まってきているのだ。こちらをオリバーとアヤセだけにする事も出来なかった。だが2人では核動力機の相手は多分出来ない。さてどうするかとジャックが考えようとした時、オリバーがジャックに構わず行ってくれと進言してきた。

「ジャックさん、行ってください。敵機は俺が食い止めますから!」
「オリバー、やれるのかお前1人で。アヤセはメテオブレイカーの運搬から離れられないんだぞ?」
「訓練以上にやってみせますよ、だから安心してヴェルヌを止めてください」
「……ちっ、生意気言いやがって。おし、それじゃやってみせろよ。行くぞエルフィ、シホ!」

 オリバーに任せて全力で新手を食い止める事にしたジャックは、周囲でザクやゲイツRを食い止めていたエルフィとシホを呼び寄せた。

「エルフィ、シホ、俺たちは迎撃に出るぞ。可能な限り遠くで食い止めて見せろ!」
「それじゃこっちが丸裸になっちゃうよジャック!?」
「オリバーが何とかすると言ってる、今はそれに期待するしかない!」
「他の味方は、隊長たちはどうしたんですか!?」
「あっちはあっちで頑張ってるよ、後は何処か別の部隊と運良く合流できる事に期待するしかない!」
「たまには楽な戦いをさせて欲しいわね!」

 エルフィが珍しく不満を口に出してぶつけてきている。それだけ余裕が無いという事なのだろうが、オリバーとアヤセだけにしてしまう事が心配なのだろう。それはジャックもシホも同じで、後ろ髪引かれる思いはある。だが敵機がここに到達すれば全てが終わってしまうのだ。

「フリーダムは居ないが、ザクが居るか。抜かれるなよ2人とも!」
「分かってるけど、そう簡単でもないわよ!」
「お二人とも、来ますよ!」

 ゲイツRやザクウォーリアが高速でこちらに向かってくる。だが何機かは少し様子がおかしい、ここに来るまでに大きな被害を受けていたのか、思っていたより動きが鈍いように思えた。それをチャンスとばかりに3機は敵に挑んだが、シホはザルクがどうしてこれだけの数のザクウォーリアを未だに運用出来るのか不思議でならなかった。ザフトでさえ稼動機が無くて困っているというのに。

「エルフィさん、ザルクは何でこれだけのザクウォーリアを動かせるんでしょうね。私たちにも回ってこないというのに?」
「何でも、帳簿に記されてない機体が結構あって、それがどうもザルクに流れてたとかザラ隊長に聞いてるわ。全く、これだけあったら本土防衛戦はもう少しら楽だったかも」
「全くですね」

 目の前に居る敵機の大半が横領された機体だと思うと、腹立たしくなってくる。でも盗んだザルクにも腹が立つが、それを見過ごしていた後方部隊全体にもなんだか腹が立ってきていた。自分たちが最前線であれだけ苦労してきたというのに、本国では一体何をしていたのか。緊張感が欠けていたのではないのかと文句の1つも言ってやりたい気分になってしまう。
 しかしそんな他所事を考えていられたのも一瞬の事、すぐにジャックの合図が飛び、シホは機体を横滑りさせ、飛来するビームを回避する。そしてビームライフルを2度放つが、それはあっさりと狙ったゲイツRに回避されてしまう。

「くっ、回避プログラムがこちらより優秀なのか、腕が良いのか?」

 2機のゲイツRが支援隊形を組んで1機が接近戦を仕掛け、もう1機が後方から支援砲撃を加えてくる。防戦に追い込まれたシホは顔を顰めながら懸命に回避を試みて、そしてレールガンの砲弾が機体を掠める振動に冷や汗をかいた。自分の回避運動を読んでいるのか、そう不安がよぎるほどの正確な支援砲撃にシホの動きが押さえ込まれ、距離を詰めてきたもう一方のゲイツRが近接戦闘を仕掛けてきた。接近戦を得意とはしないシホは出来れば距離をおきたかったのだが、これでは受けて立つしかない。胸の内が焦燥感で満たされるのを感じながらシホはビームサーベルを出す間合いを考え出していた。





 ザフト部隊が多数の敵機に集られながらもどうにかメテオブレイカーをユニウス7にあと少しの距離まで近付いていた頃、多数の犠牲を払いながらもどうにかアークエンジェルはユニウス7近くまで迫っていた。護衛の船は既にツクヨミと戦艦イリノイの2隻にまで減っている。ザルクの抵抗を排除するために次々に船が脱落し、ここまで減ってしまったのだ。特に戦艦オハイオは向かってきたナスカ級2隻を相手に砲撃戦を挑んでこれを引き付けるという無茶をやっている。
 だが、おかげで先に出撃したアスランたちよりも遥かに早く目的地に達する事が出来た。妨害の排除を僚艦に任せ、ひたすら最大戦速で突っ込んできた事がこの快挙を呼んだのだ。周囲には多数の敵機が集まってきていたが、迎撃に出ているMS隊がどうにか食い止めてくれている。10機ほどのウィンダムやダガーL、オリオンが敵機を阻んでくれている。それを突破してきた敵機にはツクヨミの護衛についているM1A隊が迎撃に向かうのだ。これはガーディアンエンジェル隊のアサギ小隊だった。
 ユニウス7の岩肌を間近に見ながら、マリューは格納庫に指示を出した。

「いよいよね、全機発進用意、メテオブレイカー設置を最優先に動きなさい。アークエンジェルは上方に留まり、敵を防ぎます。ヤマト一尉はMS隊を率いて設置作業の指揮を、バゥアー大尉はアーマー隊を率いて近付く敵の迎撃を任せます!」
「分かりました、キースさん、アークエンジェルを頼みます!」
「頼まれなくても守るに決まってるだろ。お前こそメテオブレイカー設置を成功させろ」
「全力で急ぎますよ、それじゃあまた後で!」
「艦長、右舷デッキよりデルタフリーダム発進します」

 ミリアリアがカタパルトデッキからデルタフリーダムの発進を告げ、続いてヴァンガード、レイダーが出撃していく。そして貨物搬入ゲートを開放し、大型のメテオブレイカーを抱えてフレイとトールのウィンダムが出てきた。

「艦長、メテオブレイカー搬出完了、ユニウス7に向かいます」
「了解、ノイマン中尉、本艦はユニウス7との距離を保ちつつ位置を固定して。ナタル、後は分かってるわね?」
「はい、本艦を盾にして上方に蓋をします。ですが艦長、下部対空砲だけではユニウス7表面からくるMSを完全に阻止する事は出来ませんよ?」
「そっちはバゥアー大尉とキラ君に任せるわ。それとナタル、先行した筈のザフトとオーブのメテオブレイカーはやぱり?」
「ザフト隊は未だに健在なようですが、敵に捕まって思うように進めないようです。ですが、やはりオーブ隊は確認出来ません。通信も繋がりませんし、恐らく……」
「1機残らず殲滅された、か」

 やはり、とマリューは声に出さずに呟いた。ザフト隊が未だに健在なのは護衛のMS隊が自分たちを散々に梃子摺らせてきた連中を中心に編成されているからだ。MSもゲイツRだけでなくジャスティスなども含まれるかなり強力な部隊だ。M1Aばかりでパイロットもオーブではマシな方、という程度のオーブ隊では役不足だったということだ。

「サイ、周辺の戦闘はどうなってるか分かる?」
「周辺でMS戦はなお継続中、ユニウス7正面での戦闘も続いているようですが、こちらの詳細は不明です」
「カズィ、ミネルバ隊との連絡は?」
「通信は妨害が激しくて接続を維持出来ませんが、時々連絡は取れています。どうもミネルバ隊の方は敵が離れてるようですね」
「そうか、主力をこっちに戻してるのね。パル、レーダーに注意してて、すぐに集まってくるわよ。カズィ、ツクヨミとイリノイにも警告を出して」

 最悪3隻とも沈むかもしれない。出来ればツクヨミだけは逃がしたいのだが、カガリの性格を考えればそれも出来ないだろう。むしろユウナがこの作戦にカガリの同行を許している方が不思議なくらいだ。あの補佐官は必要と判断すればカガリを簀巻きにしてプラントのホテルに放り込んでおくくらいはする男の筈なのだが。
 だが、ここまできてしまった以上はもう仕方が無い。無事に何処かの宇宙港に戻れるか、仲良くあの世で再会するかだ。




 ザフトのメテオブレイカー設置部隊は未だに持ちこたえていた。オリバーはジャックとエルフィ、シホに約束した通り、単独で3人を突破してきた敵機を食い止めていたのだ。訓練も中途半端で、実戦の経験も多いとは言えない新米パイロットにしては驚異的な頑張りだと言える。そしてオリバーはこれならユニウス7に辿り着けると淡い期待を抱きだしていたが、いきなりセンサーがミサイル警報を発した。

「な、何だ、ミサイルだと。数は……20発以上ってちょっと!?」

 いきなりミサイルがシャワーのように降り注いでくるのをセンサーが捕らえた。そしてすぐに肉眼でもそれが捉えられ、大量のミサイルがこちらに向かってくるのが見て取れた。流石にこれは洒落にならない。

「ちょ、ちょっとどうするのよオリバー!?」
「う、撃て撃て、撃ちまくれ!」

 オリバーとアヤセが迫るミサイルに向けて全ての火器を動員して撃ちまくり、その大半を撃墜してみせた。だが3発のミサイルが弾幕を突破してきて、メテオブレイカーの近くで炸裂した。
 爆発の衝撃波にメテオブレイカーが揉みくちゃにされ、アヤセのゲイツRも振り回された。突然の攻撃に一体何がと周囲を探すオリバーにエルフィから安否を問う通信が届く。

「オリバー、大丈夫だった。メテオブレイカーは無事!?」
「エルフィさん、今のは一体何です!?」
「ヴェルヌが来たのよ、今迎撃に向かうところ。それでそっちは!?」
「ちょっと待ってください、メテオブレイカーの周辺でミサイル3発が炸裂して衝撃波を受けました。詳しい事はアヤセに聞かないと分かりません。分かり次第連絡します!」

 一度通信を切り、メテオブレイカーに近付いてアヤセのゲイツRを捕まえ、接触回線で安否を尋ねた。

「アヤセ生きてるか!?」
「わ、私は何とかね。機体もとりあえず動くみたい。でもメテオブレイカーが……」
「どうしたんだ!?」
「破片を浴びて壊れたみたいなの、さっきから異常を知らせる警報が来てる」
「直せないのか?」
「無理よ、戦場のど真中で出来る訳ないでしょ!」

 それはそうだ、言ってから何馬鹿なこと言ってるんだと気づいたオリバーはバツが悪くなって黙り込み、そしてレーダーパネル上で接近するヴェルヌの反応に視線を向けた。その反応にジャックたち3機の反応が近付いている。どうやら阻止してくれるようだが、肝心のメテオブレイカーが損傷してはその努力も意味の無いものとなってしまった。
 
「どうするアヤセ、一度ミネルバに戻って直すか?」
「残念だけど、今から戻っても破壊されて終わりよ。それよりもジャックさんたちと一緒にヴェルヌを叩いた方が良いと思う。足付きの方はユニウス7に届いたみたいだし、あっちに期待しよ」
「何で向こうの船の方が先に着くんだよ?」
「……こっちが囮にされたかな?」

 こっちに敵の部隊が集まっている隙に防衛線を突破したんだろう。今回の作戦の目的を考えれば当然の手ではあるだろうが、囮にされた身としては些か面白くは無かった。しかしそんな事で文句を言っている暇も無い。今は向こうの成功に期待してジャックたちの援護に回るべきだろう。オリバーはアヤセに壊れたメテオブレイカーを捨てると伝え、2人でジャックたちの援護に回る事にした。




 ヴェルヌの攻撃でメテオブレイカーが破壊され、オリバーたちからがこちらに合流するとの報告を受け取ったジャックは悔しそうに呻き声を漏らし、そして了解と返事を送って迫り来るヴェルヌに意識を向けた。それまで沢山居た敵機の姿は既に周囲に見られない。たぶんヴェルヌの攻撃に巻き込まれるのを恐れて逃げたのだろう。

「エルフィ、シホ、聞いてたな。俺たちの仕事はヴェルヌ撃墜に切り替わったぞ」
「足付きに良いとこもってかれるか、ちょっと複雑」
「でも、安心して任せられる相手ではありますね。あの人たちの手強さは私たちが一番良く知ってますから」
「確かに、そりゃ違いない」

 これまでに一体何回彼らと戦っただろうか。そのつど勝ったり負けたりを繰り返して、遂に最後まで決着は付かなかった。いや、こちらの負け越しだろうか。でもそれだけに味方なら信頼できる相手だとも知っている。彼らならきっと仕事をやり遂げてくれるだろう。
 だが、迫るヴェルヌの姿をカメラで捉え、それを操っているMSを見た時、3人は戦慄してしまった。そこにはいまやザフトにも1機も稼動機が残っていない最新鋭機インパルスの姿があったのだ。

「まさか、あれを使ってるのは……」
「冗談じゃないわよ、アンテラさんが相手なの!」
「ザフト指折りのエースが、ヴェルヌを!?」

 冗談ではない、アンテラはグリアノスやクルーゼと肩を並べるエースだ。同格の機体でも自分たちでは歯が立たないだろうに、相手の方が遥かに高性能な機体を使っているのだから。




後書き

ジム改 毎度の事ながら役に立たないオーブ軍でした。
カガリ うちの正規軍はヘタリア並なのか!?
ジム改 一応それなりに強いんだが、この戦場じゃ旧式兵器主体の雑魚扱い。
カガリ M1系はゲイツ以上に強いMSなんだぞ!
ジム改 残念だがここでは旧型扱い。改良もされてないしね。
カガリ 貧乏がみんな悪いんだよお、本当なら幾度か改良されてる筈なんだよお。
ジム改 まあ改良するより新型作るって国もあるけどね。
カガリ 戦災からの復興のが優先だ。というわけで賠償金に期待しているぞ。
ジム改 貧乏根性が染み付いてるねえ、まあ無理も無いけど。
カガリ まあ、隕石が地球に落ちる可能性は無さそうだから安心だな。
ジム改 …………。
カガリ 何故黙る?
ジム改 お約束って大事だと思わない?
カガリ 待てお前まさか!?
ジム改 それでは次回、プラントではナリハラとクローカーの努力が実を結んだ。メテオブレイカー設置作業に入るフレイとトール。キラたちは群がる敵機を食い止めるために戦い続けるが、遂にプロヴィデンスやヴェルヌが姿を見せる。次回「クルーゼの誤算」で会いましょう。

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