第204章  滅びの時


 

 ミネルバは満身創痍になっていた。多数の敵機に集られ、今も敵のエターナル改級のカリオペと砲戦を交えている。その被害も馬鹿に出来なかったが、それはメリーランドが相手をしていたローラシア級を仕留めて援護に回ってくれたことで解決しそうだった。

「メリーランド、カリオペに砲撃を開始しました」
「分かったわメイリン、どうやらこれで勝てそうね。アーサー、被害状況はどうなってるの?」
「前部格納庫は左右とも中破、格納庫要員は退避させました。これじゃ帰ってきた連中を収容してやれませんね」
「それは生き残ってから考えましょう」

 とりあえず沈まないならそれで良い。後のことは後で考えればいいのだ。

「でも、驚いたわね。まさか彼が出てくれるなんて」
「最初から出てくれてればもっと楽だったんですけど、まあそれは言わないでおきますか」

 本当に余計な事を言うアーサーに艦橋のクルーたちが白い目を向けて、その視線に失言を悟った彼はコホンと咳払いをして視線を自分の端末に降ろした。
 今までミネルバが沈まずにいられたのは、途中から出撃したレイのフリーダムのおかげと言ってよかった。ミネルバが相次ぐ被弾で窮地に陥っていた時、それまで自室に引き篭もっていたレイがやっと出撃を承諾してくれたのだ。彼曰く、船に乗ってる同期連中が死ぬのはやはり嫌だ、という事らしい。
 まあ動機はともかく、出撃したレイは流石は元特務隊という技量を発揮して群がってきていたザルクのMSを迎撃し、これを撃破してくれたのだ。おかげでミネルバは邪魔な敵機の妨害をさほど受けずにカリオペと砲戦にする事ができ、ここまで持ち堪えられたのだ。


 そしてミネルバとメリーランドの集中砲撃を受ける羽目になったカリオペの最後はあっけなかった。それまでMSの援護付きとはいえザフト最強のミネルバを相手に優勢に戦いを進めていたのに、新手が加わった途端に崩れてしまったのだ。
 カリオペを指揮していたロナルドはメリーランドからの砲撃にはアンチビーム爆雷で応戦していたのだが、メリーランドが放ってくる8条のビームの威力と速射性能は圧倒的で、カリオペのアンチビーム爆雷の展開が競い負けてしまった。これで直撃が艦を襲うようになり、エターナル系列艦の弱点である防御力の低さを露呈してしまったのだ。所詮は基本となった艦が高速空母であり、それを戦艦に仕立て直したところで本格的な戦艦と撃ち合うのは無理があったのだろう。
 装甲の薄さ、隔壁の少なさなどがここに来て最悪の事態を招いてしまった。カリオペは相次ぐ被弾によるダメージを食い止めることも出来ず、艦内に発生する2次被害を防ぐ事も出来ずに急速に状況が悪化していった。

「駄目です艦長、左舷側に被弾8箇所、ダメージは中枢にまで及んでいます!」
「機関室のベルスコーニ機関副長より連絡です!」
「ええい、隔壁を降ろして被害を食い止めろ。機関室は何だ!?」
「ベルスコーニです、機関長は戦死、現在は小官が指揮を引き継ぎました。先の直撃で機関室にもダメージが来ました。1番補機が停止、2番補機も止まりそうです。これじゃ主機もいずれ止まりますよ!」

 機関室も駄目になったか、ロナルドは事態の深刻さに僅かに顔を顰めたが、すぐに気を取り直すと状況を尋ねた。

「補機が止まったという事は、砲に回せるエネルギーはどうなっている?」
「かなり落ちますよ、正直、後何発撃てるか……」

 そこで何かが壊れるような音がスピーカーから聞こえ、それっきり通信が途絶えてしまった。

「機関室はどうなった?」
「分かりません、艦内リンクが途絶えています。爆発したか、通信回線が全て切断されたのか……」
「艦長、主砲エネルギーのチャージが止まりました。コンデンサにエネルギーが回ってきません!」

 それが何を意味しているのか、今更言うまでも無かろう。機関室が自爆したか何かで完全に破壊されたのだ。残っている電力でまだ艦内の機器や照明は動いているが、これもいずれ止まるだろう。
 万事休す、そう悟ったロナルドは何処か晴れ晴れとした顔で艦橋の窓から見えるミネルバとメリーランドの姿を眺めた。

「最後の最後にザフトと連合の最新鋭戦艦と撃ち合って果てる、か。まあ戦艦乗りとしては悪くない最後だな」

 出来ればどちらか1隻は沈めたかったなと呟いた時、ミネルバの放ったビームがカリオペの艦橋を直撃し、そこにいたクルーもろとも艦橋を吹き飛ばした。それに続いてメリーランドの放ったビームのうち4発が船体を捕らえ、致命的な被害をカリオペに与えた。この直撃弾のダメージに耐えかねたようにカリオペの船体が大きく震え、遂に内側から爆発を起こして前と後ろに分かれてしまった。





 ユニウス7の表面にある凹凸の間を縫うようにして巨体を軽快に動かすプロヴィデンス。それを追撃したキラとシンは奇襲的に周囲から襲ってくるドラグーンと、プロヴィデンス自身のビームライフルに苦戦を強いられていた。接近すればヴァンガードに食われる、開けた場所ではデルタフリーダムに吹き飛ばされる事が理解出来たのだろう、クルーゼは自分の技量を信じて障害物だらけの場所に2人を誘い込み、ゲリラ戦紛いの攻撃を仕掛けてきたのだ。
 障害物が多すぎてプロヴィデンスの位置を掴めないキラは粒子砲を撃つのを躊躇い、シンは敵が槍の間合いに入ってこないと不満を零している。

「くっそお、敵の姿が一瞬見えるだけじゃ、粒子砲は撃てない。残り少ないのい無駄撃ちになるじゃないか!」
「キラさ〜ん、俺が盾代わりになってんですから、早く何とかしてくださいよ。何時までも持ちませんよ?」
「もう少しだけ待ってくれシン、今プロヴィデンスの動きをシミュレートしてるんだ。あと少しで……」

 相手の攻撃と振動音紋から敵の動きのパターンを読み切ろうとするキラ。だがその間シンはドラグーンの射撃をひたすらゲシュマイディッヒパンツァーで防ぎ続けるという地味で過酷な役目を振られてしまい、かなりご立腹であったりする。だが突進しか能が無いヴァンガードはこういった障害物だらけの所では逆に使い難く、デルタフリーダムの1発頼みになってしまったのだ。
 ちなみにヴァンガードに搭載されているHALはキラを手伝ってデータのサンプリングなどに回っている為、ヴァンガードは文字通り壁にしかなれない状態であった。

「なんつうか、やっぱ一点特化は使い難いっすね。もう少し汎用性がないと」
「仕方が無いさ、カタストロフィ・シリーズは実験機だしね」
「ウィンダムは良いっすよね、バランス良くて武器も使い易くて。特にフレイさんのフライヤーは反則でしょ」
「ウィンダムはクライシスのデータを元に作った汎用主戦機だから、バランス良くて当然だろ。っと、そこかな!?」

 ある程度割り出せたのか、キラが粒子砲を近くのビルに向けて発射する。それは残念ながらプロヴィデンスを直撃する事は無くキラを落胆させたが、実は後ちょっとでプロヴィデンスに直撃を与えていた。クルーゼは自分が移動しようとしていた先をいきなり荷電粒子の束が周囲の建造物の残骸を巻き込みながら貫いていったのを見て慌てて進路を変え、別のポイントに向かったのだ。その際にドラグーン2基を吹き飛ばされ、表情から余裕が失われてきていた。これまでの戦いで手持ちのドラグーンを使い果たしそうになっていたのだ。

「凄まじい威力だな。だが、まぐれでそうそう当たる物では……」

 無い、と言おうとしたクルーゼは、背筋を駆け抜けた死の予感に反射的に機体の向きを返させた。再び荷電粒子ビームが眼前を貫き、今度は右腕を肘から先まで持っていかれてしまった。
 この攻撃を受けたクルーゼは表情を引き攣らせた。最初は偶然だと、まぐれ当たりだと思ったのだが、2度連続で至近団を送り込んでくるとなればこれは偶然ではない。空間認識能力による位置把握か、何らかの索敵手段でこちらの位置を割り出しているのかは知らないが、キラは自分の位置が分かるのだ。

「ライフルも無く、ドラグーンも残り3基、ここまでだな」

 もうこれ以上は戦えない、クルーゼは負けを悟ると、戦場から離脱にかかった。こうなった以上、最後の仕事を終えなくてはいけないのだ。




 クルーゼが逃げた事に2人が気付いたのは、彼が戦場を離れて少ししてからであった。近くに居た友軍機が偶然ここを離れていくプロヴィデンスを発見して、その情報がデータリンクで届いたのだ。ユニウス7の進行方向に逃げたクルーゼ、それを追撃したキラとシンは、プロヴィデンスがユニウス7の建造物に入っていくのを確認して怪訝そうな表情を作っていた。何でユニウス7なんかに入っていったのだろう。あれはもうすぐ地球に落ちるというのに。

「どういう事だろ、ユニウス7と一緒に地球に落ちる気なのかな?」
「かもしんないすね、変態の趣味は俺みたいな常識人には理解できないっすけど」
「……シンのシスコンも十分変態レベルだと思うけどね」
「だから何度も言ってるように俺はシスコンじゃねえってば!」

 周囲にシスコン呼ばわりされるのが余程気に食わないのだろう、シンはムキになって言い返してくるが、彼はどう見ても重度の真正シスコンである。
 キラはそう言ってやりたかったが、珍しく彼は自重した。今はシンをからかうよりも重要な仕事があるのだ。ここで確実にクルーゼを始末するという仕事が。

「シン、僕たちも後を追うよ!」
「そんなに焦らなくてあいつにはもう逃げ場は無いっすよ」
「シン、君は甘いよ。あの人のしぶとさは台所の黒い奴にも負けないくらいなんだ」
「そいつはキラさん並に不死身って事ですか?」
「……シン、君とは一度じっくりと話し合う必要がありそうだね?」

 くだらない事を言い合いながら2人はプロヴィデンスが入っていった施設へと向かった。流石にプロヴィデンスが入れるだけの事はあり、施設はMSにも対応した巨大な物だ。キラとシンは何でこんな所にクルーゼは来たのかと疑問を感じながらも建物へと入っていき、そこで乗り捨てられたプロヴィデンスを発見する。
 驚いた2人はコクピットが空なのを確かめると、急いで周囲を調べだした。何処かにクルーゼが隠れているのではないのかと思ったのだ。だが熱源に反応は無く、どうやら本当に乗り捨てて何処かに行ったらしい事が分かっただけだった。

「キラさん、どうも中に行ったみたいですけど、どうします?」
「仕方ない、僕が追うから、シンは事情をアークエンジェルに伝えてくれ。あ、プロヴィデンスで逃げられたら困るから持って行ってくれるかな」
「でも1人じゃ危険ですよ。HALも1人で行かせるのは危険すぎるって?」
「シンは生身での戦闘訓練なんて受けてないだろ、足手纏いさ。僕はこう見えても少しはやってるからね、アルフレット少佐に死ぬ半歩手前まで追い込まれてさ……」
「そ、それは大変でしたね」

 あの人に付き合ってたら命が幾つあっても足りない事を骨身に染みて知っているのはシンも同じだ。まあ実際には死ぬ少し手前で止めてくれるので死ぬ事は無いのだが。この辺りは戦時の現地徴用兵であるキラやシンの特殊な事情ゆえで、平時の兵士ならもっと普通に鍛えてもらえる。時間をかけることが出来たフレイヤトールはフラガやキースにしごかれたが2人ほど酷い目にはあっていない。
 さてどうするかと辺りを見回した時、キラはプロヴィデンスのわき腹の辺りから1基の大型ドラグーンが砲身をこちらに向けている事に気付いた。

「シン、ドラグーンがまだ生きてる!」
「へ、、ちょっと!?」

 咄嗟にヴァンガードを手で突き飛ばしたデルタフリーダムを3条のビームが襲い、左足をもぎ取られ、頭部も半ばから抉られてしまった。ドラグーンの攻撃はそれで終わったのか2射目は無く、沈黙を保っている。

「キラさん、大丈夫すか!?」
「ああ、メインカメラと左足を壊された以外はね。今サブカメラに切り替えてる。電源もカットしたから問題は無いけど、これ以上の戦闘は辛いかな」
「じゃあ、どうします。キラさんはここで戻った方が」
「いや、僕はクルーゼを追うよ。シン、君は悪いけどプロヴィデンスをここから運び出してくれるかな」
「へ、こいつをですか。何にするんです?」
「持って帰れば何かの役に立ちそうだろ。それに、こんな危ないMS残しておきたくも無いし」
「それならぶっ壊した方が早いんじゃ?」

 シンは何処か納得出来ないという顔をしていたが、言われたとおりにプロヴィデンスを運び出す事にした。
 キラはデルタフリーダムのコクピットハッチを開放すると、備え付けの突撃銃とスキャナーを手にとって機体の外に出てシンに後を任せた。ハッチを閉じてセキュリティをかける、これでクルーゼに機体を簡単に奪われる事は無い筈だ。
 その間にシンは乗り捨てられているプロヴィデンスを抱え込み、運び出している。

「でもキラさん、本当に気をつけて下さいよ。俺もこれ届けたらすぐに応援と一緒に戻ってきますから」
「ああ、頼むよ」
「でもこれ、持ってったら爆発したりとか、しないすよね?」
「多分しないんじゃないかな」
「多分、って所が激しく不安なんすけど。じゃあまた後で」

 シンはプロヴィデンスを抱えてユニウス7を離れていく。それを見送ったキラは銃を構えると、クルーゼが入って行ったであろう通路を見た。実のところキラの戦闘訓練の経験は素人よりマシというレベルで、本職の歩兵部隊にみっちりしごかれたフレイやゲリラで経験積んできたカガリなどとは比べるべくも無いのだが。
 そしてキラは一度だけ振り返り、ヴァンガードが出て行ったゲートを見た。
 
「元気でねシン、これは僕が終わらせなくちゃいけないんだ」

 


 最後のメテオブレイカーが破壊され、地球軍はユニウス7を阻止する手段を失った。MS隊はメテオブレイカーを守るという任務から開放され、怒りに駆られて全力でザルクの殲滅にかかった。生き残っている艦艇も同様で、アークエンジェル、ツクヨミもメテオブレイカーの盾となる位置から動き、近くに居た敵のナスカ級に対して砲撃を加えだした。
 そして2隻より前から迫るナスカ級と砲戦を交わしていたイリノイは、撃ち合っていた敵艦を砲戦の果てに撃沈し、艦内が歓声に沸き返っていた。

「艦長、敵艦沈黙、誘爆らしき閃光を確認しました!」
「当然だろう、1対1でイリノイがナスカ級に撃ち負ける訳は無い」

 ヤマト級を除けばワイオミング級は宇宙で最強の戦艦だと大西洋連邦は自負している。アークエンジェル級は空母という性格が強い船なので戦艦としてみるとワイオミング級に劣っていると見られているからだ。
 その攻防の性能はミネルバのタリア艦長が瞠目するほどだから、ミネルバより性能が遥かに劣るナスカ級が歯が立つわけが無いのだ。
 そして次の目標に向かおうと艦長がイリノイの進路を変えるように命じようとした時、プラントからの通信を受信したと通信士が報告して来た。

「プラントからだと、何を言ってきた?」
「それが、航路データと一緒に指示された宙域から急いで退避しろと」
「退避しろだと、一体どういうことだ?」

 疑問に思った艦長がデータをメインモニターにデータを表示させ、それをじっくりと見る。そしてそれが何であるかを察して唖然とし、周囲の部隊にも急いで逃げるよう通信を送らせた。

「急いでこの内容を全軍に回せ、ここに居たら全滅するぞ!」
「りょ、了解しました!」
「上層部は何を考えている、これはジェネシスの射線データだぞ?」

 それはプラント侵攻作戦の際に各部隊に見せられたジェネシスの射線データと同じ物であった。ただし、狙っているのは地球に向かうユニウス7であったが。あれは使えなくなったと聞いていたのに、もう直したのだろうか。
 疑問は幾らでも沸いてくるが、今はそれどころではない。あんな物で撃たれたら多少防御力が高くても何の意味も無いのだ。もう脇目も振らずに逃げ出すしか出来る事は無い。幾らユニウス7でも、ジェネシスの直撃を受ければ怪我ではすまないだろう。上手くすれば1撃で破壊できるかもしれない。メテオブレイカーを全て失った以上、もうここに居ても出来る事は無いのだから。


 ジェネシスがユニウス7を狙っている、という知らせは瞬く間に全部隊に知れ渡り、彼らは急いで逃げ出し始めた。ジェネシスに撃たれるなど冗談ではないと誰もが考えたのだ。それはアークエンジェルでも同様であり、マリューが血相を変えてアークエンジェルを射線上から退避させるべく針路変更を命じている。

「全速で射線上より退避します。カズィは各部隊への退避勧告を続けるように。ナタル、MS隊を今すぐ呼び戻して!」
「それが、呼び戻しているのですが……」

 ナタルが困った顔でマリューを見た後、視線をミリアリアに移す。ミリアリアはインカムに手を当てて全員に指示を出し続けているのだが、どうも芳しい答えが返ってこないようだ。

「駄目です副長、誰も目の前の敵を片付けたら戻るって言って聞きません!」
「目の前の敵だと。キースはフレアモーターの破壊に向かい、フレイとトールはメテオブレイカーを破壊した敵機に向かった。クロトはそこで敵機の相手をしてるから分かるが、キラとシンは何処に行ったのだ?」
「プロヴィデンスを追撃してユニウス7の進行方向に行ったようですけど、連絡が取れません!」
「くっ、それではキースに頼んで連絡を取らせろ。手持ちの中ではコスモグラスパーが一番速い!」
「は、はい!」

 ミリアリアが急いでキースのコスモグラスパーを呼び出そうと通信機と格闘を始めている。ナタルを指示を出した後重苦しい溜息を吐き、視線をユニウス7に向けた。そのナタルに、マリューが戸惑いを含む声で問いかける。

「ナタル、大尉を向かわせて良かったの?」
「最善の手です。あの2人を有無言わせず連れ戻せて、この戦場を単機で駆け抜けられる腕の持ち主となると、キースしか……」
「そうね、ムウも居ないし」

 あの我が強い2人を一言で黙らせて連れ帰れるのは確かにキースしか居ないだろう。アルフレットも居る筈なのだが、こちらからは連絡が取れない。まああの人が死んだとも思えないのでアメノミハシラにでも戻ったか、連絡が取れない辺りで今も戦っているのだろう。

 後はキースに任せるしかない、そう判断してマリューは急いでこの場から離れるように再度命じたが、いきなりパルが悲鳴を上げた。

「艦長、ユニウス7表面に敵機です!」
「MSは!?」
「ありません、銃座で迎撃します!」

 下方を向いている複数の銃座が近付いてくるゲイツRに向けて火線を叩き付ける。だが、そのゲイツRはアーバレスト装備機の生き残りだった事がアークエンジェルにとっての不幸だっただろう。ゲイツRは多数のパルスレーザーによって機体を爆砕されたたが、その前にアーバレストを放っていたのだ。かつてアークエンジェルを大破させた砲が再びアークエンジェルに向けて放たれ、左舷側推進器を直撃、完全に破壊してしまった。
 これで推進軸が狂ったアークエンジェルは大きく艦首を振り、ユニウス7地表に向かってしまった。衝撃に顔を顰めたマリューがノイマンに艦を立て直すように叫ぶが、ノイマンが必死に推進軸の再調整を始めるも間に合わず、アークエンジェルの左舷はユニウス7の山か何かだったと思われる部分に激突してしまった。メテオブレイカーを守る為にユニウス7にギリギリまで近付いていた事が裏目に出たのだ。

「左舷艦首部が突起部に激突しました、すぐには外せそうにありません!」
「パージは出来ないの!?」
「これまでの被害も含めてダメージが大きすぎます。作動しません!」
「くっ……仕方ないか。カズィ、イリノイに救助を要請して。格納庫は使えるランチの用意を、総員退艦します!」
「艦長!?」
「急ぎなさいナタル、ここはジェネシスに狙われているのよ!」

 無駄に時間を使ってジェネシスに撃たれる事だけは避ける、そう決断したマリューの声には迷いは無く、ナタルもその指示に素直に従う事しか出来なかった。





 アークエンジェルが座礁した頃、指示を受けたキースはキラたちを探す為にユニウス7の進行方向へとやってきていた。まさかこんな状況でこんな命令を受けるとは思っていなかったが、ジェネシスに狙われているとあっては聞かないわけにはいかず、部下を退避させてここまでやってきたのだ。周囲には味方のMSがちらほらと見受けられ、それらにも退避勧告を出して回っている。

「くそ、指示が全部隊に伝達されて無いのかよ。指揮系統が機能してないのか、何やってんだカガリは?」

 敵の数は随分少なくなっているが、まだ散発的な残敵掃討が続いている。こんな事をしている暇は無いというのに。

「ええい、仕方が無い。トール、フレイ、ちと遅れるが、無事でいろよ!」

 指揮系統が混乱して味方に指示が届いていないなら、自分がよけない事をするしかない。そう決断してキースは周辺の味方機にこの宙域からの脱出命令を伝え始めた。

 
 そのフレイとトールは、地球にかなり近い辺りで戦闘を継続していた周囲では敵味方のMSがまだ残っていて散発的な衝突を繰り返しているが、全体としてこちらが優勢なようだ。どうやら他からユニウス7に到達したMSやアメノミハシラ配備のMS隊もいるようで、追撃部隊には加わっていない筈のストライクダガーやデュエルダガー、デュエルやバスターなどの懐かしいMSの姿もある。
 2人は動きの鈍くなったジャスティスを追い詰めてはいたのだが、ジャスティスの方も中々に粘り、未だに致命傷を与えられないでいた。それでもフレイが2基のフライヤーを使ってジャスティスを追い込もうとしていたが、巧みな回避運動で逃げられ続けてしまい、いまだ致命傷を負わせるには至っていなかった。

「この、ちょこまかと!」
「フレイ、あいつの足を止めてくれ。俺が接近戦を仕掛ける!」
「簡単に言わないでよ、あいつ物凄く動きが良いんだから!」
「出来ない奴にやれなんて言わない!」

 そう怒鳴ってトールは突っ込み、フレイがフライヤーを左右に散らす。左右からのフライヤーの砲撃とフレイの銃火がジャスティスを襲って直撃弾が機体表面に火花を散らすが、装甲を撃ち抜けないので致命傷にはなっていない。
 フレイが銃撃をしている間にトールのウィンダムが距離を詰め、ビームサーベルを抜いて切りかかった。

「いい加減に落ちろよ、糞野郎!」
「そうはいかん、どうせならあれが地球に落ちる様をこの目で見たいのでね!」

 振るわれたビームサーベルをシールドで受け止め、蹴りを当ててウィンダムを弾き飛ばすガザート。トールが離れたのを見てフレイがまた銃撃を加えるが、ガザートも背負い式のビーム砲で反撃してきた。あのボロボロの機体でまだ反撃が来る事に驚きを禁じえないフレイであったが、核動力MSがそれだけ信頼性の高い兵器だということだろう。アスランの命を懸けたデータ蓄積は無駄ではなかったのだ。
 だが、それは今この状況では迷惑なだけだ。なまじ頑丈で高い信頼性を誇るせいで撃っても撃っても反撃が来る。

「でもね、この戦いはもうこっちの勝ちなのよ。ここに残ってるのはあんただけなんだから!」

 そう、既にザルクの抵抗は終焉を迎えている。幾ら腕が良かろうが、大軍を相手にここまで連戦を続けてきたのだ。ザルクは確実に消耗を重ね、そして連合軍は少しずつではあるが各地から援軍が送り込まれ続けている。アメノミハシラの部隊も残っている。この物量を前に遂にザルクは押し切られ、殲滅されようとしていたのだ。
 この近辺のザクルMS隊は既に1機も無く、ガザートのジャスティスが最後の1機だったのだ。この最後の戦いに加勢しようと数少ない生き残りのウィンダムやダガーL、ストライクダガーが集まってきている。
 それらの連合MSに混じって、ザフトのシグー3型とゲイツRがやってきた。

「その赤いウィンダムはフレイだな!?」
「……その無駄に大きい声は、イザークね。何しにきたのよ?」
「手が空いたから助けに来てやったに決まっているだろう!」

 イザークのシグー3型が接近戦を仕掛け、ディアッカのゲイツRがそれを広報から支援しながらフレイの隣に並んでくる。

「悪いね、邪魔だったかい?」
「いいえ、助かったわ。あのジャスティス良い腕してて苦労してたのよ」
「まあそうだろうな、ありゃガザートのジャスティスだ」
「ガザート?」
「ガザート・サッチ。ザフトじゃ結構名の売れてたエースだぜ。サシなら俺やイザークよりも上さ」

 そう、ガザート・サッチは人付き合いの良い凄腕のパイロットの筈だった。昔は自分たちと共に地球軍に立ち向かった事もある。その腕は実際に見てきた自分が誰よりもよく知っているのだ。
 だが彼の腕は自分たち全員を相手にする程ではない。アンテラやクルーゼほど恐ろしい相手ではない。そして彼のジャスティスはもうボロボロなのだ。イザークの相手は務まらないだろう。
 そのディアッカの読みを証明するかのように、イザークのシグー3型とトールのウィンダムはジャスティスを追い込まれていた。四肢をもがれ、バックパックを抉られたジャスティスはもはや戦闘力を失い、地球に流れている。

「お前邪魔だ、こいつは俺が仕留めるんだよ!」
「引っ込んでろ、裏切り者は俺たちが片付ける!」
「後から来たくせにしゃしゃり出るなよ!」

 無駄な争いを繰り広げる2人は最後の止めを刺そうと2人で大気圏すれすれまで降りていく。それはかなり危険な動きであったが、熱くなりすぎている2人はその事に気付いてもいなかった。後ろから見ていた2人が流石に不味いと静止をかけようとしたのだが、その前にガザートが最後の賭けに出てくる。

「どうやらここまでだが、地獄にいくのに1人じゃ寂しいんでな。どっちか一緒に来てもらうぜ!」

 死んでいる、と見せかける為に噴射を止めていたスラスターを全開にし、向かってくる2機目掛けて加速するガザートのジャスティス。その突然の動きにイザークとトールは吃驚して回避に入ったのだが、間に合わずにトールのウィンダムが右足をジャスティスに掴まれてしまった。

「な、何する気だこいつ!?」
「こうするんだよ!」

 ウィンダムを掴んだまま、今度は一気に地球に向けて加速するジャスティス。それでこいつが何を考えているのか気付いたトールは顔面蒼白になってビームサーベルで自分の機体の右足を切断してジャスティスから離れたが、その時には既に重力に捕まってしまっていた。
 このままでは燃え尽きる、その恐怖に震えながらトールは全てのスラスターを全開にして重力からの脱出を試みたのだが、ウィンダムの推力はトールが期待したほどには上がらなかった。彼の機体もまた無傷では無かったのだ。

「ちょ、ちょっと待て、こんなのありか!?」

 トールの絶叫も何もかもを地球の重力は引きずり込んでいく。それは人間の力では容易に抗えない自然の力だった。



後書き

ジム改 やっと最終回が見えてきたぞ。
カガリ 残ってるのはアンテラくらいか。次回はアスランの回かな?
ジム改 彼女は侮れんぞ、ザルク最強のパイロットだからな。
カガリ ラスボスより強いってのもなんか卑怯だよな。
ジム改 でもやっと終わるか、長かったなあ。
カガリ 何でもっと短くしなかったんだ。
ジム改 当初の案通りならもっと早く終わっていたんだがな。
カガリ 当初の案?
ジム改 うむ、ラクスもカガリもカット、オーブは記号だけ、フリーダムはストライクの発展型でアラスカでキラに支給という案だ。クルーゼはただのアスランの上官だった。
カガリ 何じゃそりゃあ!?
ジム改 いや、まさに1stの再現のような展開にしようかと。当然シンも出てこない。
カガリ 何で止めたんだ?
ジム改 いや、クルーゼがショボ過ぎてな。やはり悪党というのは相応にでかい事をしないと。それにこれじゃSEEDじゃないという気もしてな。
カガリ 計画性の無い奴だな……。

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