第70章  アルビム



 デプリベルトで作業をする複数のジャンクシップがある。その光景自体は今の宇宙では珍しい物ではなかったが、彼らが回収しているのはいずれもMSや艦艇といった軍事兵器ばかりであり、しかも回収に使っているのは良く見かけられるミストラルだけではなく、ジンなどの軍用MSの改修機が含まれている。
 その目的が単なるデプリの収集で、軍事兵器は双方の軍が高い金で買ってくれるから集めているのならば問題は無いのだが、必ずしもそうとは限らない。特に作業をしている見慣れぬ赤いMSは、連合のGタイプに酷似した外観を持っていた。
 その赤いMSがジャンク屋の船としてはそこそこ有名なリ・ホームに中破したジンを運び込んでいた。

「よし、固定完了だ。樹里、次はどれを持ってくるんだ?」
「あと、ここから見て右上の方に直せそうなメビウスが3機漂ってるから、それもお願い。それを積み込んだら船が一杯になるから、引き上げよ」
「やっと終りかよ。積み過ぎじゃないのか?」
「文句言わないの。マルキオ導師は得意先なんだから。ロウだって分かってるでしょ?」

 樹里に窘められてロウは渋々仕事に戻っていった。レッドフレームが艦から離れていくのを膨れ顔で見ている樹里の背中を見ていたリーアムは書類を挟んだボードを手にニコニコとしていたが、その前にドリンクのチューブが差し出された。隣を視れば何時の間にやらプロフェッサーが来ていた。

「どう、仕事の進み具合は?」
「順調ですね。今回の収集で頼まれていた数の半数は集めましたし、期日には間に合うと思います」
「そう、なら良いんだけど」

 良いんだけど、と言う割にはどこか不満そうなプロフェッサーの横顔に、リーアムは飲んでいたチューブを放して問い掛けた。

「どうかしたんですか?」
「……今回の仕事、どうにもキナ臭いのよね。導師の仕事だっていうから引き受けたけど、ひょっとして私達、何かヤバイ仕事を引き受けちゃったんじゃないかってね」
「あの導師が、集めた兵器で何か企んでいると?」
「善人だから悪事はしない、とは限らないでしょ?」

 プロフェッサーの話を聞いたリーアムは、反論を避けてじっと考えてしまった。マルキオ導師が悪い人ではないのは確実だ。それは誰も疑う事はあるまい。だが、確かにこれだけの兵器を集めるというのは裏を勘繰ってしまうだけの意味を持つ。これだけあれば連合の哨戒部隊くらいなら叩けるだろう。

「マルキオ導師が、戦争を始める準備をしているかもしれないと考えてるんですか?」
「まさかね、と笑い飛ばすには、ちょっと数が多すぎるわ。これだけのMSやMA、艦艇を集めさせておいて、土木工事に使うとは思わないでしょう?」
「深読みしすぎじゃないですか?」

 リーアムはマルキオ導師が戦争を拡大するような事を考えている筈が無いと笑っている。彼の反応が一般的で、マルキオを疑っているプロフェッサーの方が人間性を疑われるのだろうが、プロフェッサーは自分の感じている疑惑を消す事が出来なかった。ただ、リーアムの言葉に形だけ頷いて見せ、それ以上推測を口にする事はしなかった。
 しかし、これから数ヵ月後、彼女はこの日の事を苦い思いと共に思い出す事になる。






 その頃、プラントではテロの魔の手を掻い潜る事の出来たパトリックが地上に送る戦力の説明をしていたが、その説明を受けたアスランは驚きを隠せなかった。

「訓練校の兵士達をですか?」
「うむ。スピットブレイクに備えて地上戦力の補充をやっておかねばならぬのだが、地球−プラント間の補給線に対してナチュラルの通商破壊戦が活発化していてな。そちらにかなりの兵力を回しているために、地球に回す戦力の目処が立たんのだ。それで苦肉の策として、訓練校の生徒の中から成績優秀者を選抜して卒業時期を繰り上げ、カーペンタリアに送る事にしたのだ」
「ですが、訓練未了の兵士など物の役には立ちませんよ?」

 アスランは実戦を知る者として、パトリックの考えに異を唱えた。戦争において確かに数は力であるが、所定の訓練を終えてもいない素人などどれだけ居ても烏合の衆でしかない。むしろそんな未熟な兵士をベテランが庇わなくてはならなくなる為、かえって総合戦力が低下してしまうのだ。特にザフトは将兵1人1人の個人技量に大きく依存した軍隊なので、未熟練兵が加わるというのは深刻な問題となりえる。
 この事はパトリックやユウキにも分かっているのでアスランの異論に対して反撃する事も出来なかったが、現実問題として地上戦力は不足している。特にスピットブレイクには地上戦力の半数を投入される為、引き抜いた部隊の穴を埋める後詰が必要なのだ。それなは未熟な兵でも何とかなるだろう、とザフト上層部は判断しての決定である。
 本当に後方任務で使うだけならばとアスランも渋々頷いたが、内心ではここまで追い詰められたのかと苦々しく思っていた。まさか訓練校を卒業もしていない兵士を前線に回さなくてはならないほど、プラントの人的資源が枯渇していたとは。
 もっとも、これはちょっと考えれば誰でも分かる事だ。地球という広大な土地を制圧するにはプラントの全人口を投入しても足りはしない。仮に国内の1割にあたる200万を兵士として使ったとしても、プラントから地球の間、そして地球各地の拠点を維持するだけでも困難を極めるに違いない。かつて地球上で起きた独ソ戦では、ドイツは300万の将兵を持ってソ連領に攻め込み、その広大さに飲み込まれてしまったのだ。占領地域の維持には兵士は幾ら居ても足りないのである。
 この人口の少ないプラントがこれまで連合軍を圧倒してこれたのは、MSが連合の戦車やMAに対して優位に立つことが出来たからであり、NJがレーダー戦を崩壊させたおかげである。決してザフトの戦術や戦略、軍組織が連合諸国に対して優位に立っていた訳ではない。第2次大戦の序盤から中盤にかけて、航空機に対抗できるのは航空機のみという時期において、航空優勢が戦争の趨勢を決したのと同じである。

 仕方無さそうに頷いたアスランに、パトリックは明日訓練校を卒業した学生達が輸送船でカーペンタリアに向うから、アスランもそれに同行するように言った。アスランは頷くと、渡された資料に目を通すべく敬礼して部屋を後にしようとしたが、その背中にパトリックがふと質問を飛ばしてきた。

「そういうえばアスラン、今日はシーゲルの家に行くのか?」
「その予定ですが。シーゲル様に招待されてますし」
「そうか。次は何時戻れるか分からんからな。顔を出しておくのも良いだろう」
「……はい、逝ってきます」

 うんうんと頷くパトリックに向けて、アスランは何故か悲壮さを感じさせる笑みを浮かべて部屋を後にした。それを見たパトリックとユウキは不思議そうに顔を見合わせていた。






 アークエンジェルが救出作戦を発動して海中から潜水艦が迫っている頃、アルビムの中ではナタルとフレイが多少の情報を提供させられた後に別室に監禁されていた。監禁といっても独房に様な所に押し込んでいるわけではなく、恐らくは重要人物のものと思われる広い宿舎に入れられたのであるが。
 ここを占拠し、ナタルとフレイを拘束したハダトという男、最初は粗暴なだけの男かと思われたが、2人が軍事機密以外の事に関してはそれなりに協力的であったことも幸いしてか、意外にも2人に対して危害を加えるような事は無かった。それどころか口調が荒っぽい事さえ除けば紳士的とさえ言える対応をしていた。
 質問を終えて2人を監禁する部屋まで案内する時も暴力に訴えかけてくるような事は無く、VIP待遇で歓待してやるという言葉は誇張ではなかったらしい。
 フレイは回答を期待せずにどうやってこの都市を占拠できたのかを問い掛けたが、驚いた事にこの男はそれに応えてくれた。

「どうやってここを落としたかだって? 簡単さ。俺たちはナチュラルに追われたコーディネイターの難民を装って近付いたのさ」
「コーディネイターの難民?」
「ここはそういう連中の集りだからな。そのせいか、俺たちの嘘を疑いもしなかった。おかげで楽に中に入れて、後はご覧の通り」

 海底都市の中で壁を爆破するぞと脅したらしいが、この中で戦闘を行う事をアルビムの住人は恐れていたのだろうか、戦闘の跡は無い。どうやら本当に抵抗もしなかったらしい。この事に関してナタルが不甲斐なさを指摘したが、それを聞いたハダトは失笑を漏らしてアルビムを弁護してやった。

「まあ、情けないと言いたいのも分かるが、こういう所に住んでれば誰だって壁を壊されるのは怖いもんだ。俺たちだってプラントの外壁に穴を開けると言われたら抵抗できないぜ」
「そういう、ものか?」
「それがこういう所に住んでいる人間に共通する特徴さ。宇宙船に乗ってる奴は船に穴が開くのを病的に怖がるだろうが」
「それはそうだが」

 ハダトの応えにナタルは納得したような、しないような複雑な表情になってしまった。この手の恐怖症は職業や生活環境に影響されるものなので、状況が違う他人には理解し難いのも無理は無い。
 そんな事を話しているうちに、2人は居住フロアの中でも大きな部類に入るブロックへと案内された。そこで2人はそれぞれに別に部屋に入れられるらしい。どうやら余計な事をさせないための対策のようだが、そんな事をされなくても2人には脱出する術など無いので余計な気の回し過ぎというものであった。
 だがフレイは、入れられた部屋で一人の人物と会う事になる。フレイが入れられた部屋はどこかの執務室のようであり、大きな机の向こうにある壁は巨大なガラス張りになっており、ちょっとした水族館のようであった。まだ日光が届くおかげだろう。視界にはサンゴ礁とは言わないまでも、かなりの数の珊瑚が点在している。そこには色とりどりの魚が泳いでいた。
 その美しさにフレイが感嘆の声を漏らしたのを聞いて、ハダトは飽きるまで眺めててくれと言い残して扉を閉じた。当然扉にはロックがかけられており、内側から開けるのは不可能なようだ。
 フレイは無駄な努力をしようとはせず、水族館にやってきたような気持ちで耐圧ガラスに歩み寄った。そこで目を輝かせているフレイに、全く予想外の所から声がかけられた。

「海の中は初めてかね、お嬢さん?」
「え!?」

 吃驚したフレイは慌てて声のした方に向き直る。するとそこには、些かくたびれた感じの1人の老人が立っていた。頭部は見事に禿げ上がっているが、口元は豊かな白い髭に隠されている。ついでに言うと、その老人の両手は振り返ったフレイの胸を上手く捉えていた。

「うむ、中々の胸じゃ。将来有望じゃな」
「い、いやぁー、痴漢――っ!!」

 慌てて手を振り払い、返す刀で条件反射の右フックが放たれたが、それは空しく宙を抉った。いつの間にか目の前にいたはずの老人は手の届かない所まで下がっていたのだ。事態の変化に付いていけないフレイは呆然とした顔でその老人に声をかけた。

「あ、あの、お爺ちゃんは?」
「儂か? 儂はこのアルビムの責任者で、イタラという死に損ないじゃ」
「ここの責任者? そんな人が、どうしてこんな所に?」
「ここが儂の仕事場じゃからな。それより、お嬢さんは何でこんな所におるんじゃ? 見たところ大西洋連邦の軍人のようじゃが?」

 イタラという老人の問い掛けに、フレイはここに連れてこられた事情を話して聞かせた。それを聞いたイタラはなるほどと頷き、顔を窓の外へ向けた。

「それでは、お嬢さんはここから出られんな」
「何でですか。アークエンジェルがすぐに助けに来てくれますよ?」

 マリューたちが自分を見捨てるかもしれないとは欠片も考えていないフレイはイタラの言葉に首を捻っている。それを見たイタラは、とても優しげな笑みを浮かべてこの人の醜さを理解できていない少女を見ていた。

「若いというのは、良いものじゃな。儂のように年を食うと悪い面ばかりが見えてしまう」
「え?」
「儂がお嬢さんと同じ立場に立たされても、他人を信じる事など出来んということじゃよ。何時裏切られるか知れんからの」

 何故そうなったのかをイタラは語らなかった。だからフレイはそれを理解できなかったが、この人も苦労してきたのだという事は何となく理解できた。この老人もこれまでに出会ってきた幾人かの人たちと同じような目をしていたから。
 でも、どうしても言ってやらないと気が済まない事もあったので、フレイはこの老人に言い返すことにした。

「お爺ちゃん。私は、きっとみんなが助けに来てくれると思います。そう信じてます」
「裏切られた事が無いうちはそう思えるがね、一度裏切られれば嫌でも考えが変わると思うぞ」
「…………」

 裏切られれば、という言葉にフレイは沈黙してしまった。あの日、父が死んだ日に、大丈夫だと言ったが守り切れなかったキラをフレイは激しく憎み、罵倒した過去があるからだ。確かに裏切られたと感じた時の憎悪は計り知れないものがある。恐らく自分が離れた後でキラが暴走したのも、裏切られたと感じたせいなのだろう。
 でも、そんな経験を重ねていても、フレイはまだ仲間を信じる事が出来た。何だかんだと色々騒動の多い艦であるが、何故か信じられる人間ばかりだから。なんでこんな変人が揃っているのか、些か謎ではあるのだが。

「大丈夫です。きっとキラは来てくれます」
「……キラじゃと、まさか」

 イタラの声の質が僅かに変わる。

「まさか、キラ・ヒビキという少年かな?」

 フレイがキラの名を出した途端、それまでやれやれという感じに苦笑を浮かべていたイタラが緊張感を漂わせた。その突然の変化にフレイは驚きを隠せなかったが、イタラの鋭い目が持つ無言の圧力に屈するように頷いていた。イタラもアルビムの指導者という重責を追う人間であり、その内に秘めた気迫はフレイなどが対抗しえるようなものではない。
 フレイがヒビキじゃなくて、ヤマトなんですけどと言うと、イタラは少し考え込んだ後で、苦々しい表情を作って吐き捨てた。

「メンデルの亡霊め。性懲りも無く化けて出おったか」
「メンデルの、亡霊?」
「亡霊じゃよ。奴こそ人の業が形を成した化け物じゃ」

 イタラはキラを知っているらしい。そしてイタラはキラの事を激しく嫌う、いや、憎んでさえいるようだ。その顔には苦々しいものが浮かび、目には露骨な嫌悪感が見て取れる。だがフレイの知るキラはどこか自分に自身が無い、頼り無さげな少年でしかない。一体イタラは、キラの何を知っているというのだろうか。
 フレイはこの老人の知るキラを聞いて見たいと思ったが、イタラはフレイの疑問など気付く事も無く話を続けていた。

「お嬢ちゃんは、その最強最悪のコーディネイターを信じていると言ったの?」
「は、はい」

 フレイの答えを聞いてイタラは視線を海中へと向けた。その目にはここではないどこか遠くが映っているようで、フレイは思わず息を呑んでしまう。

「お嬢ちゃんは軍人じゃったな。なら、コーディネイターの戦いというのがどういうものか、骨身に染みて知っとるじゃろう。ナチュラルとは格の違う身体能力と反応速度、高い情報処理能力。これ等はナチュラルには有り得ない、化学の狂気が作り出した力じゃ」

 イタラは、まるでフレイに言って聞かせるように語りだした。イタラの言った事は確かにフレイもこれまでの戦いで実感している。ザフトの歩兵は連合の歩兵を身体能力で圧倒していたし、キラやセランの運動能力は目を見張るものがあった。そして2人は自分達では不可能なほど端末を早く操作する事が出来る。まるで頭の中にコンピューターでも入っているかのような能力なのだ。

「分かるかのお嬢ちゃん、ナチュラルとコーディネイターは別のものなのじゃ。違うのじゃよ」
「…………」
「だから……お嬢ちゃんたちとコーディネイターは互いに分かりあうことは出来ないのじゃ」

 そう言って、イタラはフレイに視線を戻した。その顔には先ほどまでとは違い、何の感情も浮かんでいないように見える。

「ナチュラルはコーディネイターを道具として使い続けようとするじゃろう。仮にもし、何かのはずみで立場が対等になったりすれば、儂らの能力・戦闘力は危険なものとして疎まれる事になる。丁度今の世界のようにな」
「…………」
「言っておくがの。大昔にあったような人種差別なんぞと一緒にはしてくれるなよ。儂らとお嬢ちゃんたちは、違うものなのじゃからな」

 フレイはイタラの言葉を否定したかったが、それは声となって出ては来なかった。これまでの旅で体験した事の全てが、多くの人から聞かされた言葉が、見てきた現実がイタラの言葉を否定させなかったのだ。
 フレイが反論したくても出来ないでいるのを見て取ってか、イタラはようやく表情を崩した。

「いや、お嬢ちゃんの考えは間違ってはおらんよ。少々理想主義に走りすぎてはおるが、コーディネイターを信じようとしてくれるのは嬉しいと思う」
「ど、どうも……」

 そんな風に言われても褒められた気はしないので、フレイは複雑な顔になってしまった。そんなフレイを見てイタラは苦笑を浮かべた。

「だがな、お嬢ちゃん。儂らがどうしてこんな所に住んでおるか、分かるかの?」
「いえ、住み易いからという訳じゃないみたいだし」
「まあ住み易くは無いの。儂らがこんな所にいるのはな、逃げたからじゃよ。ナチュラル主導の世界からな」
「逃げた?」
「そう、逃げたのじゃ。儂らはプラントに行く気にはなれず、さりとてナチュラルの中では道具としてしか扱われぬ。故に儂らは海の中に逃げたのじゃよ。ナチュラルの社会から逃げ出し、自分たちの世界を作り上げたのじゃ」

 アルビムという組織が地球の中でそれなりに問題を抱えているという事はキースたちの話でそれとなく想像していたが、何らかの思想に支えられた独立勢力か何かと思っていたフレイにとって、この言葉は驚きであった。特にコーディネイターがナチュラルから逃げ出したというのは信じられない事だった。

「何でです? コーディネイターの方がずっと強いのに?」
「強い、か。まあそうなんじゃが、コーディネイターは数が少なすぎるんじゃよ。多少能力が優れておっても、3人がかりで襲われたら抵抗も出来ずに叩きのめされてしまうからの」
「…………」

 質で量を圧倒するには相手との隔絶した技術格差が必要となる。兵器の世代が2世代以上は違わなくては数に飲み込まれてしまうだろう。幾ら最新兵器を揃えても相手が1世代前の安い兵器で飽和攻撃をかけてきたら、撃ち漏らした兵器に叩かれてしまうのだから。
 もっとも、数だけでは意味が無いわけで、せめて現代戦に最低限通用する兵器を準備する必要がある。現代のアイオワに大和級3隻が挑んでも、姿を見ることも出来ずに全艦海の底に送られてしまうだろう。
 G兵器はフェイズシフト装甲が重突撃機銃を確実に防いでくれるというふざけた防御力のおかげで圧倒的優位に立てているが、それもゲイツの登場で失われつつある。ビーム兵器に対してはフェイズシフト装甲は無力だからだ。

 コーディネイターたちも1対1なら何の問題も無かったのだろうが、人口比で数百倍の差がついていてはお話にもならない。人数差はそのまま迫害となって跳ね返ってくるからだ。そしてプラントと地球の関係悪化の煽りを受けた彼らは、それぞれの母国から逃げ出して地球の各地にナチュラルの手の及ばない場所に逃げ込み、共同体を作ったのだ。このような場所は世界中に幾つか存在し、彼らはそれをスフィアと呼んでいる。

 イタラの言葉にフレイが考え込んでいた時、いきなり建物が激しく振動した。フレイはバランスを崩して慌てて手近な物に掴まって転倒するのをこらえると、何事かと辺りを見回した。

「な、なんです?」
「これは、地震ではないの。むしろ戦闘の衝撃のようじゃが、誰かが近くで戦っておるのか?」

 イタラは振動の感じから外からの衝撃を受けたのだと感じた。そしてそれを聞いたフレイはもしかしてと思って窓から周囲の様子を確かめ、奇妙な光景を目にする事になった。

「……あれ、ザフトのMS同士が戦ってる?」
「ふむ、ゾノじゃな。あれはザフト正規軍の機体じゃよ。戦っておるのはうちのゾノやグーンじゃから、ザフトが攻めてきたという事かもしれんの」
「でも、凄い強さですね」

 ザフトのゾノはアルビムのゾノやグーンを圧倒している。同じ機体のはずなのにどうしてここまで差が出るのだとフレイが驚いてしまうほどだ。実は乗っているのはイザークなので、強くて当然なのだが。


 そしてこの攻撃に面食らっていたのはフレイたちだけではなく、近くまで来ていたキラたちも同様であった。アルビムを視界に納めたのに、何故か目の前でザフト製のMS同士が激しい戦闘を繰り広げているのだ。
 その様子を確認したキラはどうしたら良いのかをキサカに問いかけた。

「あの、どうしたら良いんでしょう?」
「……この混乱に乗じて中に潜入したいところだが、それが出来るかどうかだな。その辺りの事はプロフェッショナルの判断に任せた方が良いだろう」

 特殊潜航艇を出すタイミングの判断は海兵隊に委ねられている。母艦のエルパソから出撃した3機のディープ・フォビドゥンも近くに居る筈なのだが、潜航艇の小さな窓から得られる視界には居ないらしい。
 そして暫く待っていると、ようやく潜航艇が動き出した。スクリュー音を殆ど立てない静粛性は特筆に価する程で、その静かさにはオーブの軍人であるキサカが驚いている位だ。元々は港などに潜入して破壊工作部隊などを上陸させる為に作られたそうで、こういう任務に使われるのは臨むところだとエウロパ艦長は笑っていた。
 その優れた静粛性能と、見逃されがちだが距離が開いていると極めて効果的な迷彩塗装が戦闘に集中しているザフトから潜航艇を隠している。
 時間的には大した物ではなかったが、潜航艇の中に居るキラは物凄く長い時間に感じていた。緊張で浮かび出た汗が髪を額に貼り付け、時々艇を揺らす爆発の衝撃のたびに恐怖に顔を引き攣らせる。潜水艦という艦種に乗るのは初めてのキラにしてみれば、この耳に叩き付けられるような音はかなり堪える。それはキースやアーシャも同じようで、悲鳴こそ上げてはいないがかなり表情を引き攣らせている。
 そんな同行者達に気付いたのだろう。海兵隊指揮官のハル・ムーア少佐が笑いかけてきた。

「そんなに心配する事は無い。海の中は衝撃が遠くからでもよく伝わるからこんなに大きな音がするんだ」
「そ、そういうものですか?」
「ああ、だからそんなに怖がらなくても良いい。大丈夫だ、この艇はちゃんと海底都市の外壁に取り付く」

 ムーアの言葉にはなんら保障のあるものではなかったが、キラは信じる事にした。というより、信じる以外に道が無いからだ。こんな状況では自分には何も出来ないのだから。そしてムーアは艇の中を見回して兵たちに声をかけた。

「エマーソン少尉、外壁に進入口を開いたら君の隊がまず突入しろ。周辺を征圧して他の隊を突入させる」
「了解です」
「マヌエル伍長、君は分隊を率いてアークエンジェルからのお客さんを守るんだ。特にアーシャさんは中の事情に通じている重要人物だからな」

 ムーア少佐の命令にキラの傍に座っていた黒人の兵士が頷いた。伍長はキラとキース、アーシャ、キサカを見て野太い笑みを浮かべ、任せてくださいと胸を叩いた。それを見てキースは自分のアサルトライフルを軽く持ち上げ、自分は経験者だから、素人2人を守ってやってくれと頼んだ。
 伍長はキースの言葉に頷くと、キラとアーシャに戦闘中は身を小さくして物陰に隠れているように言ってきた。銃を持った事の無い者がいきなり撃っても当たりはしないからといって。
 キラはそれに頷いて、そしてマヌエル伍長に質問をしてきた。伍長は何で戦っているのかと。それを聞いた伍長は不思議そうな顔をしたが、上官の質問だからと答えてくれた。

「自分は南アフリカ統一機構の兵士でしたが、母国がザフトに敗北した際に家族と共に大西洋連邦に逃れたクチなんです」
「それで、何で今も軍に?」
「大西洋連邦に逃げたは良いんですが、生憎と余所者の黒人に仕事なんか無くって。このままだと家族を路頭に迷うというところで、丁度兵士の募集を見たんですよ。幸い元正規兵ですから、直ぐに採用してもらえました。おかげで家族は小さい官舎を与えられ、生活保護を受ける事が可能になりました。このまま1年戦えば、市民権も貰えるんです」
「でも、家族は反対しなかったんですか?」
「一家揃って飢え死によりはマシですよ。それに、祖国を命からがら逃げ出した家族に、もう一度同じ辛酸を舐めさせたくはありません」

 顔は笑っているが、言っている事は笑い話では済まない事だ。住んでいた国を無くし、難民となれば明日をも知れぬ生活に追いやられてしまう。難民を受け入れてくれるような国は少ないうえに、受け入れられた後でも余所者扱いをされる。行く当てが無ければマヌエルも家族と一緒に収容センターに放り込まれて窮乏生活を強いられていただろう。
 そういう意味では自分が前線に出る事で家族の安定を確保したマヌエルの判断は間違っているとは言えまい。誰だって自分の家族を最優先に考えるだろうし、その手段として軍に入るという選択は珍しい物ではない。

そして伍長はキラの方を見ると、自分の傍に立てかけてあったアサルトライフルを掴んでキラに差し出してきた。

「持っていて下さい少尉。いざという時に役に立ちます」
「で、でも、僕撃った事無いんですよ?」
「敵を殺すのは我々の仕事です。少尉はいざという時に撃ちまくりながら逃げてください」

 真顔で逃げろというマヌエル伍長にキラは驚いてしまったが、マヌエルにしてみれば訓練も受けてない素人に無理をされても困るだけなので、逃げてくれた方がいっそ楽なのだ。もとよりキラを戦力と見てはいない。オリンピックに出れるスポーツ選手にいきなり銃を持たせても歩兵としては使えないのである。コーディネイターもこれと同じなのだ。

 その時、キラは奇妙な音を聞いた。いや、これは人の声か。しかもどこかで聞いたことのある声だ。

「おい、狭いんだからもっと小さくしてろよ」
「今でも小さくなって無理に入ってるのを、これ以上どうやって小さくなれと言うのかね?」
「だああ、何処触ってやがる」
「不可抗力だ、気にしないでくれたまえ」

 本当にどこかで聞いたような声だ。いや、というか聞き慣れた声だ。キラは立ち上がると、声のする床を見た。そこはネジ止めされているはずの床板が置かれているのだが、何故かそのネジは全て外されている。キラは物凄く嫌な予感を覚えながらその板を外してみた。すると、その中にはかなり小さな空間があり、そこにはキラの予想通りカガリとヘンリーが蹲っていた。
 2人はこちらを見上げ、物凄く引き攣った愛想笑いを浮かべていた。それを見たキラは石化しかけている脳みそを何とか動かしてカガリに当り前すぎる質問を口にした。

「……な、何してるわけ、カガリ?」
「よ、よおキラ。こんな所で合うなんて奇遇だな。はっはっは」

 とりあえず、この状態の何処に奇遇という言葉が当て嵌まるのだろうと真剣に考えてしまうキラ。既に現実逃避が始まっているかもしれない。その間に体を穴から出した2人は、唖然とする周囲の視線の中で愛想笑いを浮かべていた。
 と、その時、いきなりキサカがカガリに飛びついた。

「カカカ、カガリ様、どうしてこんな所にいるんです!?」
「いや、フレイを助けに行くって聞いたから、じっとしてられなくてな」
「そういう問題じゃないでしょう。全く貴女という方はどれだけ言ったら分かってくれるんですか!?」

 もう泣き出さんばかりにカガリに詰め寄っているキサカに、周囲の者達は本気で同情した視線を送っていた。この男も苦労が多いんだろうなあと、誰もが理解してしまったからだ。
 そしてキースは呆れ果てた目でヘンリーを見ていた。

「お前、どうやってここに忍び込んだんだ?」
「はっはっは、この特殊潜航艇に小さな隙間があることは知ってたからねえ。エルパソの乗組員に嘘付いて格納庫に忍び込んだんだ。いやあ、サザーランド大佐の発行してくれた身分証明書は凄いよねえ」
「……軍事機密の特殊潜航艇の構造を何処で知ったんだよ、お前は?」
「それは企業秘密という奴だね。まあ、金を掴ませれば情報を流す奴は何処にでもいるって事だよ」
「おいおい」
「なんだったら、詫び代わりにオーブのMS開発計画の情報でもあげようか? 結構面白いよ」

 にたにたと嫌味な笑顔を浮かべるヘンリーに、キースは露骨に嫌悪感を見せた。別に悪人というわけではないのだが、この男の危険を楽しむ悪癖はどうにかならないのだろうかと思ってしまう。何時かその悪癖が命取りになるぞと忠告しているのだが、この男は一向に聞く様子が無い。





 結局このアホな密航者は、ムーアが頭痛を堪えるような表情でキースに一任してきた。キースは思いっきり迷惑そうな顔をしたが、こっちの管轄にある人間なので文句を言う事も出来ず、渋々了承する事になる。因みにキサカはすっかり暗い影を背負ったまま、何も言わなくなってしまっている。その姿を直視できる者はいなかった。

 暫くして何かにぶつかるような衝撃が走り、そして物凄い衝撃音が響いた。余りの音にキラは耳を押さえたが、直ぐにそれは収まり、そしてエマーソン少尉率いる小隊が解放された艦首部のハッチから外に飛び出した。どうやらさっきの衝撃は都市の外壁をぶち抜いた衝撃だったらしい。破れた外壁と艇の間には発砲セラミックのような充填材が満たされており、海水が浸入してこないようになっている。
 エマーソン小隊が周辺の通路を制圧した頃にはムーア率いる本隊も都市に入っており、キラとキース、アーシャもやって来ていた。ムーアは辺りを見回して安全を確認すると、部下に指示を出した。

「サヴェージ軍曹、ここに仮設の指揮所を作れ。ボッシュ中尉は1個小隊を纏めてこの先にある中央エレベーターを確保し、上下の連絡通路を敵に使わせないようにするんだ。エマーソン少尉は分隊を纏めて管制室を制圧しろ」

 部下達に指示を出したムーアは、ようやくキラたちのほうを見た。

「悪いがアーシャさんはここで私に協力してもらう。バゥアー大尉とヤマト少尉はマヌエル伍長の分隊と共に人質2人の救出に向ってくれ」
「それは構いませんが、場所が分かりませんよ?」
「何処かはさっきエマーソン少尉たちが捕らえた捕虜が口を割った。アルスター少尉は議長室。バジルール大尉はその隣の貴賓室だそうだ。VIP待遇という話は本当のようだな」

 ムーアはそう言って笑みを浮かべた。それを聞いたアーシャが即席の地図の部屋を1つを指差し、ここに2人がいる事を伝える。それを聞いたキースは力強く頷くと、キラとマヌエル分隊を連れて教えられた部屋へと駆けて行った。キサカとカガリもこれに続いている。なんだかキサカがいつもよりもかなり好戦的になっているようで、色々とストレスが溜まりすぎているらしい。
 それを見送ったムーアは少し困惑した表情を作り、小さな声でを呟いた。

「自分で連れてきておいてなんだが、奇妙な話だな。コーディネイターの少年がナチュラルの少女を助けにコーディネイターと戦いに志願してくるとは」

 それを聞いたアーシャは小さく頷き、キラたちが走っていった通路からムーアに視線を移す。

「不思議な人ですよ、キラさんは。他人の事なのに、まるで自分の事みたいに怒ってくれて」

 アーシャの言葉にムーアは何も答えず、視線を地図に戻した。既に都市内の敵兵との戦いは始まっているのだから。ただ、幸いにして数は少ないようで、こちらは数で押し切れそうだという報告が上がってきていた。






 このザフトのグーンの襲撃に続いて行われた連合歩兵の侵入は直ちにハダトの知るところとなり、彼はモニターの先にいるマリューに向ってどういうことかを問い質したが、彼女はテロリストが騙し討ちを卑怯と言うのかと逆に侮蔑交じりに問い返してきた。
 これまでの交渉が単なる時間稼ぎに過ぎなかった事を悟ったハダトは怒りで力任せにコンソールを叩くと、通信を打ち切って直接迎撃の指揮を取ろうと部屋から出て行こうとしたが、それを部下が呼び止めた。

「た、隊長、大変です。ザフトの潜水艦がアルビムのすぐ傍に現れました!」
「何だと!?」
「奴ら、見たことも無い変なMSを出してます。歩兵揚陸用のホバークラフトも確認!」
「くそっ、変なMSだと。映像を出せ!」

 ハダトの指示に従って映像がモニターに回されたが、それを見たハダトは絶句してしまった。そこに映っていたのはグゥルに乗ったバスターとシグー2機だったのだから。

「バスターだと。まさかこいつら、あのザラ隊なのか?」

 最新情報が途絶えている為にジュール隊に再編された事を知らないハダトはザラ隊と呼んでいるが、その名は部下達を戦慄させた。ザラ隊といえば赤服が5人も集っているエリート集団で、優秀な機体を最優先で送られているエース部隊だ。足つき追撃の戦績は芳しくないが、決して弱いわけではない。
 そんな部隊が来ていると分かった事で、ハダトはようやく自分の部隊を蹴散らしたゾノの正体も理解できた。こいつはあの部隊のゾノなのだ。

「何て奴らだ。1機のゾノでこっちのゾノやグーンを全滅させたってのか?」
「いえ隊長、1機じゃないです。識別不能の新型の姿もあります。こっちのグーン2機が食われました」
「新型だと? まさか、ナチュラルのMSなのか!?」

 ナチュラルが水中用MSを開発したという話は聞いていないが、陸戦用MSの配備は急速に進んでいるという事は聞かされている。それを考えれば、奴らもとうとうグーンやゾノに対抗できる機体を投入してきたのだと考えていいだろう。
 ザフトとナチュラルが手を組んでいるとは考え難いが、自分たちという共通の敵を前にお互いの指揮官が相手に手を出すなと指示を出している可能性はある。今現在双方が戦っていないのだから、その可能性は極めて高いかもしれない。この時ハダトは、自分たちの命運が尽きた事を悟ってしまった。

「くそっ、ナチュラルやザフトが相手じゃアルビムの奴らなんぞ人質にとっても意味が無いか。すでに中にも進入されたってんなら、勝ち目は無い」
「た、隊長、それじゃどうするんですか!?」

 部下が悲鳴のような声を上げて問うてきたが、ハダトにはそれに対する答えが無かった。既に銃撃戦の音は扉で仕切られているはずのこの部屋にまで聞こえるようになっている。もうナチュラルの兵士達がそこまで来ているのだ。






 ハダトの予想は実は当たっていた。この攻撃が開始される前、アークエンジェルはアースロイルの次席指揮官であるフィリスから一時停戦と、ハダト隊との戦闘に置いて共同戦線を取る事を提案されている。この通信を受けたマリューは驚いてしまったが、モニターの向こうに居る少女がハダトを犯罪人としてカーペンタリアに連行し、裁判にかけなくてはならないと伝えてきて、ようやく合点がいった。

「つまり、私たちは人質を取り戻したい。そちらは犯罪者を捕らえたい。そういう事ね?」
「はい。そちらにとっても損になる話ではないと思います。フレイさんを助けるにはどうしても歩兵を突入させる必要があるでしょうから、その為の陽動をこちらでやります」
「そちらが敵のグーンやゾノを引き付けてくれている内に、こちらは歩兵を突入させろという事ね?」
「はい。その代わり、ハダトは生かしたまま当方に引き渡してもらうという事で」

 このマリューとフィリスの間で成立した取引は直ちに双方の実戦部隊に伝達され、ジェーンやイザークの多少の反発を招いたものの実行される事になった。ただ、通信能力の関係で特殊潜航艇には届かなかったのであるが。
 この攻撃は成功し、イザークの攻撃に水中用MSが出向いた所を特殊潜航艇は突く事が出来た。おかげで海兵隊が都市内部に突入する事が出来、数が少ないハダト隊の兵士達を逐次制圧することが出来たのだ。ハダト隊の兵士達はアルビムの市民を人質にとってもナチュラル相手では意味が無いと考え、僅かな抵抗の後に降伏する事になる。

 この時フレイはイタラの部屋で銃撃戦の音を聞いて震えていた。幾度も戦場に出てきた彼女だが、MSパイロットは歩兵ではないのだ。銃撃戦に巻き込まれたら彼女はただの女の子でしかない。ただ、クリスピー大尉から銃の訓練を受けた事があり、キラよりはマシだったりするのだが。
 この音に対しては民間人のはずのイタラの方が平気そうであった。銃撃の音が近付いてきても表情には揺らぎさえ見られず、楽しげな笑みを浮かべている。

「お嬢ちゃん、1つ儂と賭けをしないか?」
「賭け?」
「そうじゃ。これは多分お嬢ちゃんたちを助けに来た連合軍じゃろう。外にはザフトのものではないMSもあったでな。その連合軍兵士の中に、キラ・ヤマトは居るかどうかじゃ」
「…………」
「儂は……来ないと思う。コーディネイターがナチュラルのために命を賭ける事などあるはずが無い、というのが儂の考えじゃからじゃ」

 イタラは扉の方をじっと見たまま、フレイとは目を合わせずに話を続けている。その姿が、フレイには何かを期待しているように見えた。

「じゃから、儂の考えが間違っているなら、もしその少年が儂にもう一度未来を信じさせてくれるなら、その時は何でもお嬢ちゃんの言うことを1つだけ聞いてやろう」
「どうして、そんな賭けを?」

 フレイの問い掛けに、イタラは答える事は無かった。その胸中をフレイが伺い知る事など出来るはずも無く、この時はそれで終わる事になった。だがしかし、フレイにとって、イタラの意味不明な言葉は後に大きな意味を持つ事になる。




後書き

ジム改 カガリがますますお馬鹿になってきてしまった。
カガリ 何で私があの変態と一緒に居るんだよ!?
ジム改 フレイを助けに来たから。
カガリ それは良いとして、なんであんな所に!?
ジム改 堂々と潜行艇の中に居るのは不味いだろう。
カガリ だからって何もあんな所に隠れなくても。
ジム改 たぶん後でキサカにこってりと絞られるだろう。
カガリ 嫌だぁ。キサカの説教はしつこいから嫌だ〜!
ジム改 今回はまだ語る事も無いから今日はこれくらいで終わろうか。
カガリ いや、次回予告がある。
ジム改 そんなもんやらなくても……
カガリ やらないと私の出番が減るだろうが。
ジム改 栞に似てきたぞ、お前。
カガリ では次回、アルビムで休息と補給をさせてもらうアークエンジェル。そこでキラと私は自分の出生の秘密を知る事になる。そしてアスランは生死の境を彷徨いながら地球に向う輸送船に訓練生と共に乗り込むのだった。そこでアスランは大きな出会いをする事に。
ジム改 そこまで言わんでも良いと思うのだが……。

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