そしてヘリオポリス内部で戦闘が開始された。クルーゼ隊は数機のD型装備ジンを使い、攻撃を仕掛けてきた。これに対して、ショウはソードストライクガンダムで迎撃した。

 結果は、ショウの能力を一度戦って知っているミゲルの機体以外は全て落とされ、その攻撃の余波によってヘリオポリスが崩壊するという事になってしまった。

 大地が裂け、空気が猛烈な勢いで宇宙空間に吸い出される。

「・・・民間人の人達は避難しているようですね・・・一年戦争初期の悲劇が繰り返さなかっただけでも良し、とするべきなのかな?」

 確かにあの時、核攻撃で3つのサイドが壊滅した時に比べれば、遥かに良い状態と言えるかも知れない。この世界に来てミゲルから聞いた、血のバレンタインの悲劇に比べれば。もっともそのようなものと比べる時点で問題があるのかも知れないが。ショウはそう呟きながら、絶妙な機体操作で、流れ出る空気の流れに乗り、宇宙空間に脱出した。

 つい先程まで確かに在ったヘリオポリスの大地は、今や眼前に広がるスペースデブリの一つと化していた。

「余りに脆弱な世界・・・簡単に壊せてしまう。でもそれをやろうとする人はいない。普通は・・・するとこの攻撃を行った指揮官は普通ではなかったのかな・・・?」

 と、ショウ。彼の分析は大正解だった。その時、電子音が鳴った。機体のセンサーが何かを捉えたのだ。

「・・・?」

 そこにはランプを点滅させている、円筒形の物体があった。

「救命ポッド・・・?」



 回収した救命ポッドに乗っていた避難民の中には、ミリアリア達の友人、フレイ・アルスターの姿もあった。彼女はサイの姿を見るなり、涙目になって、彼に抱きついた。やはり彼女も心細かったのだろう。

 そんな姿を見て、救出してきた当人であるショウは、フッ、と優しい笑みを浮かべた。



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OPERATION,3 ショウ・ルスカVSクルーゼ隊


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 艦長達の会議の結果、アークエンジェルはユーラシアの軍事要塞、アルテミスへと向かう事が決定した。その決定は当然ショウにも知らされる。

「デコイを使って月方面への離脱と見せかけ、実際はそのアルテミスへのサイレントラン・・・いい作戦だと思いますが・・・敵はこちらの思惑通りに動いてくれますかね?」

「うーん、相手はあのクルーゼだからな、ちょっと厳しいかも知れん。だがそんな時の為に、俺とお前がいるんだろ?」

 ムウはそう言ってショウの背中を叩いた。全くその通りですね、と、ショウは合わせた。



 その頃食堂では、フレイが何やら怯えたような顔つきになっていた。

「じゃああの子、コーディネイターだったの?」

 と、ミリアリア達に言う。

「ええ、本人の言う所では、ね」

「ちょっと・・・じゃあ敵じゃない」

 フレイは恐ろしいものが身近にいる、ということを感じたように、体を震わせて言う。だがそれに、トールが異議を唱える。

「コーディネイターでもあいつは敵じゃねえよ!! あいつは一度俺達を助けてくれたし、さっきも俺達を護る為に戦ってくれてたんだぜ?」

「まあ落ち着け、トール」

 サイがなだめる。そこにミリアリアが、

「でも、私達に何かできる事はないのかしら? あんな小さい子に戦って、護ってもらって、私達はこの艦の中で震えているだけで・・・?」

 その場に沈黙が下りる。その時、艦内アナウンスが放送された。

<・・・ショウ・ルスカは艦橋へ、ショウ・ルスカは艦橋へ・・・>



 そのアナウンスを聞いて、ショウはパイロットスーツに着替え、ムウから今回の作戦の説明を受け、ストライクのコクピットシートに着いた。その間に、ストライクにはエールストライカーユニットが装備されていく。

<ショウ君>

「ミリアリアさん?」

 通信機が鳴り、それに出ると、画面には地球軍の軍服に身を包んだミリアリアの姿が映し出された。ショウは若干の驚きを込めて、彼女の名を呼んだ。

<私達も何か手伝える事はないか、って・・・でも私達にできる事なんてたかが知れているけど・・・以後、私がMS及びMAの戦闘管制担当となります、よろしくネ?>

<よろしくお願いします、だよ>

 彼女は最後に照れ隠しのようにウインクをし、その奥からトノムラが叱り飛ばす声が聞こえてきた。私達、と言う事は恐らくは彼女以外の三人も同じなのだろう。

「・・・ありがとう・・・・・・ございます」

 ショウは聞こえないようにそう言った。彼は自分の中に、何か暖かいものが点った事を実感していた。

 やがて、アークエンジェルがエンジンを始動し、それを探知した前方のヴェサリウスと、後方のガモフから、イージス、バスター、ブリッツ、デュエルの四機が発進してくる。

<ショウ君、ストライク、発進どうぞ>

「了解」

 一拍置いて、彼はこの言葉を口にする。ここに来るまで、あらゆる時代、あらゆる世界の、あらゆる場所で、パイロットして、彼が叫び続けてきた言葉を。

「ストライク、ショウ・ルスカ!! 行きます!!」

 その掛け声と共に、彼の身体は心地よいGに包まれ、ストライクは宇宙空間へと発進した。それ自体は、ショウにとって、もう何度も体験してきた事だった。

 ただ、組織の一員としてではなく、一個人として戦うことは、彼は初めてだった。



 宇宙空間に出ると、アークエンジェルの進行方向から真紅の機体が、後方から三機のMSが接近してくるのが見えた。

「前方は指揮官機、後方の三機は汎用型、砲撃戦用、接近戦用か、ならばまずは!!」

 一瞬でそれぞれの機体の特性を把握すると、ショウはまずはストライクの背中のビームサーベルを抜き、バスターに向かって突進した。まずはこちらの射程外から攻撃してくる機体を潰そうという狙いだ。

「なあっ!? は、速い!!」

 バスターのパイロット、ディアッカ・エルスマンはそのスピードに驚愕した。ストライクのパイロットは凄い、と、ミゲルから話は聞いていたが、彼とイザークはそれでも「所詮はナチュラル」と侮っていた部分があった。いきなりそのツケが回ってきた。慌てて両腕の砲を撃ちまくるも、ストライクはそれを全て回避しながら、一瞬で懐にもぐりこんでくる。

「ヤバッ・・・」

 構えられたビームサーベルを見て、一瞬血の気の引くディアッカ。しかしそのサーベルがコクピットを貫くことはなかった。この戦いは4対1、であったから。

「ディアッカ!!」

 ニコルの乗るブリッツが、ストライクめがけてビームを撃つ。ストライクはバスターに蹴りを喰らわすと、その反動でビームを避けた。

「何!!」

 テキストには載っていない戦闘技術に一瞬面食らうニコル。しかしすぐに気を取り直し、ブリッツの左腕に装備された黄色い爪、グレイプニールを撃ち出す。ストライクはこれを半身ずらしでかわし、ワイヤーを持ち、

「単調な攻撃だね。並みのパイロット相手ならいざ知らず、僕には通用しない!!」

 その、ショウの叫びと共に、ブリッツを投げ飛ばした。

「うわあああああっ!!」

 吹き飛ばされたブリッツは、援護に来ようとしていたアスランのイージスと激突し、二機とも体勢を崩す結果となってしまった。ここまではショウの圧倒的優勢。だがまだ敵はいる。

「手に負えないって言うなら俺が貰う、下がっていろ!!」

 ビームライフルを撃ちながら突っ込んでくるデュエル。だが、そんなものがショウに通用する筈もない。ストライクは全く危なげのない動作で、全ての攻撃を避けていく。

「ならばっ・・・」

 イザークはデュエルのライフルをしまい、代わりにビームサーベルを抜き、ストライクに接近戦を挑んだ。収束したビームの刃がその白いボディーに向かって振り下ろされる。

「勝った!!」

 イザークはそう確信し、我知らず顔をほころばせる。しかしその攻撃がストライクを倒す事はなかった。機体に衝撃が走り、デュエルのサーベルを持つ右手が跳ね上げられる。ストライクはその左手に持つシールドで、デュエルの右腕の肘の部分を打ち、攻撃を止めたのだ。そしてそこから胴体に蹴りを放ち、デュエルを吹き飛ばす。イザークは意識を失いそうになるも、何とか堪え、体勢を立て直した。



 ヴェサリウスでもその戦闘の様子はモニターされていた。

「バカな・・・4対1で、なおこちらが圧倒されているなど・・・」

 赤服のパイロットの乗っている機体がナチュラルの動かす機体に手も足も出ず、いいようにあしらわれている。その目の前の事実を否定しようとするように呟くアデス艦長。その隣で、クルーゼは別の疑問に突き当たっていた。

「あのMAはまだ出られん、ということなのかな?」

 彼にしてみれば、あの男、ムウ・ラ・フラガが何もせず、あのストライクというMS一機に戦局を任せきりにしている、と言う事が腑に落ちなかった。まああれほどの戦闘能力があるのなら必要ないかも知れないが・・・やはり、自分が先程かなりのダメージを与えたメビウスゼロの修理がまだ終わっていないのだろう、と納得する。その時!!

「!!」

 途端に背筋に走る悪寒、もはや馴染みとなってしまったこの感覚、これは・・・

「アデス、機関最大! 艦首下げろ、ピッチ角60!!」

 指示を出すクルーゼ。しかし、彼の感じた感覚を理解できないアデスは虚を衝かれた様に、彼の顔を見るだけだ。だが、次の瞬間にはそんな感覚を持たない彼にも状況が理解できた。オペレーターが報告してくる。

「本艦底部より接近する熱源、MAです!!」

 その報告を聞いたアデスは迎撃の指示を出すも、全ては遅すぎた。ムウの操るゼロが、そのガンバレルも含む最大攻撃力での一斉射撃は、ヴェサリウスの機関部に甚大なダメージを与えた。そのまま離脱していくゼロ。

「ムウめ・・・」

 小さくなっていくオレンジ色のMAを見て、その目に憎悪の炎を爛々と燃やすクルーゼ。しかし、事態はそれだけに留まらなかった。前方のアークエンジェルの右舷蹄部が開き、特装砲”ローエングリン”が火を吹いたのだ。クルーゼやアデスの指示を待つまでもなく、操舵手は必死に回避運動を敢行する。その甲斐あってか、何とか直撃は喰らわずにすんだものの、この一撃でヴェサリウスの戦闘能力は完全に奪われる事となってしまっい、戦線を離脱する他はなくなってしまった。



「どうやら、作戦は成功したみたいですね」

 ストライクのコクピットの中で呟くショウ。

 と、すれば相手はそろそろ撤退するだろう。こちらのエネルギーにはまだまだ余力がある。何しろこれまでビームサーベルも殆ど使わない格闘戦のみで戦ってきたのだ。だが向こうはビームの連射と、こちらの与えた攻撃によるPS装甲の電力消費によって、そろそろ息が上がる頃、とショウは読んでいた。それは実際にその通りだった。

 デュエルにはもう余りエネルギーは残されていなかった。にもかかわらず、イザークは退くつもりはなかった。ヴェサリウスにダメージを与えられ、ここでストライクも落とせないなら完全な負けになってしまう。しかもナチュラル相手に。それはプライドの高い彼には許せない事だった。

「イザーク、撤退命令だぞ!!」

 アスランが叫ぶも、イザークは聞き入れない。彼だけでなくディアッカも。

 イザークは再びストライクに接近戦を挑んだ。ビームサーベルを振り下ろす。が、

「その太刀筋は既に見切っているよ」

 ストライクはデュエルの腕を掴んで攻撃を止めてしまうと、拳法のように関節を逆に捕り、デュエルの動きを封じてしまった。そしてそのまま加速し、アークエンジェルの装甲にデュエルを激突させた。

「かはっ・・・」

 如何にPS装甲と言えど、コクピットに伝わる衝撃までは緩和できず、イザークは気を失ってしまった。そんなイザークを何とか助けようと、ディアッカはストライクを狙撃しようとするも、それもできなくなってしまった。ストライクは動かないデュエルを盾にして、こちらに突っ込んできたのだ。

「くそっ、汚ねぇぞ!!」

 毒づくディアッカ。が、ストライクの意外な行動はそれだけではなかった。

「でやっ!!」

 何と、デュエルの腕を持ち、それを振り回すようにデュエルの機体そのものを巨大な打撃武器として、バスターにブチ当てたのである。

 宇宙空間では高速で動く質量そのものが強力な武器となる。つまりショウの戦法も効率的なものと言えるのだが、勿論教科書に載っているものではない。コンマ一秒先に何が起こるか分からない実戦の中に常に身を置く者のみが持つ、咄嗟の機転とでも言うべきか。

 その攻撃でバスターもパイロットが気絶してしまったのか、プカプカと漂い始めた。ショウは、そのバスターもデュエルと同じに掴むと、悠々とアークエンジェルにストライクを帰艦させた。アスランとニコルは、身を裂かれるような無力感と共に、それを見ている事しか出来なかった。

 こうして、クルーゼ隊とアークエンジェルの最初の衝突は、奪取された四機の内の二機を奪還、パイロットを捕虜として、アークエンジェル側の大勝利、と言って良い結果に終わった。



 ショウがデュエルとバスターをMSデッキに持ち帰ると、アークエンジェル内、特に整備班はひっくり返ったような騒ぎとなり、皆口々にショウを褒め称えた。なお、その裏でムウがすねていた事を追記しておく。

 イザークとディアッカはコクピットから下ろされた後、すぐに意識を取り戻し抵抗を試みるも、後ろに回ったショウが二人のパイロットスーツごと着衣を全て足首まで引きずり下ろし、

 ブラン

 と、露になった急所にデコピンを一閃すると、二人とも白目を剥いて轟沈しまい、その間に営倉に入れられた。一部の整備班は、ショウのこの所業を、

「えげつな・・・」

 と言っていたとか言っていなかったとか。

 兎にも角にもとりあえず目の前の脅威を排除したアークエンジェルは光波防御帯をもつユーラシアの軍事要塞、アルテミスへと入港した。しかしここも、彼等にとって安息の場所足り得なかったのである。





TO BE CONTINUED..