「…無為に時を過ごす喜び、か…」

 いつもの仏頂面で、マルス・エスパーダはボソッと呟いた。現在、彼の部隊の母艦となっているボズゴロフ級、クストーは補給を受ける為に浮上しており、彼はその甲板の上で手製の竿を手に、静かな海に釣り糸を垂らしていた。釣果は、と言うと、傍らに置かれたバケツには一匹の魚も泳いではいない。場所が悪いのだろうか?

 と、いかに待機中とは言え、とても作戦行動中の部隊長を任されている軍人とは思えないような態度を取っているマルス。そこに、

「釣れますか?」

 アスランとニコルがやってきた。マルスは二人を一瞥すると、視線をバケツに移す。二人の視線もつられてそちらに移り、拙い事を聞いてしまったという顔になる。だが、別段それを気にした様子もなく、再び意識を釣り糸に向けるマルス。最初は気位が高そうで、取っつきにくい性格の上官だと思っていたアスランとニコルも、最近はこれが彼にとってはデフォルトであると分かってきたので、邪魔しないようにゆっくりと、隣に腰を下ろす。

 現在、彼等は足つきの出港を待って、オーブの近海で待ち伏せをしている。足つきがオーブにいるとして、アラスカに向かおうとするなら、取れる進路ここしかない。正確には他にも無い事はないが、重力下での高々度飛行が出来ない足つきにとって、他は時間がかかりすぎる迂回路で現実性に乏しいのだ。

 最初、ただ一枚の写真もなく、敵のパイロットを見たと言うだけでこの待ち伏せ作戦を提案する彼等に、正直艦長は難色を示した。ザフトの一大作戦である、オペレーション・スピットブレイクが開始される日も近く、ここでこの部隊だけやる事もなく手をこまねいているだけでは兵達の不満も募るというものだ。

 だがそこはマルスの鶴の一声で全て治まった。ただの英雄としての名声だけでなく、彼が今までの戦場で挙げてきた戦果は誰もが知る所である。その彼が言うのなら、という雰囲気が兵達の間に生まれ、大多数が従った。

「…補給、終わったんですね?」

「…ああ、少々無理を言ってカーペンタリアから最新の装備を回してもらった。そうでもしないとあの艦を沈めるのは不可能だろうからな」

「ところでさっきトビウオが跳ねてたんですよ!! 信じられます?」

 ニコルは興奮したように言う。宇宙で生まれ、育った彼にとって、この地球はそれこそ完全に環境調整されたプラントでは考えられない不思議に満ちているのだろう。それはアスランも同じだった。だが、彼程に純粋に感情を表現する事はない。

「見に行きませんか?」

「…遠慮しておく」

「いや、いいよ」

 二人して断られたのに、少しニコルは残念そうな顔になると、先程と同じように座って、マルスが釣り糸を垂らしている海を眺めた。と、その時、針に動きがあった。

「あ!! 引いてますよ!!」

 言われるまでもなく、思い切り竿を引き、魚を釣り上げるマルス。しかし、

「むう」

「あ…」

「……」

 針にかかっていたのはほんの小物で、それもすぐに針が外れ、逃げられてしまった。少々気まずい空気が流れる。マルスは少し不満そうに表情を歪めると、針を戻し、新しい餌を付け、竿のしなりを使って、再び海に投げ入れた。後はじっと座って待つ。アスラン達もそれに倣う。

「…一つ聞いても良いか?」

「は?」

「え? ええ…」

「…お前達は何故軍に志願したのだ? まあ、答えたくなければそれでも良いが…」

 その唐突な質問にアスランもニコルも、同じように目を見開き、お互いの顔を見合わせる。先に口を開いたのはニコルだった。

「…戦わなきゃいけないな、僕も、って思ったんです。ユニウス・セブンのニュースを見た時」

 ユニウス・セブン。その単語を聞いた時、マルスとアスランの表情に、僅かな陰りが差した。本当に僅かなものだったので、ニコルは気付かなかったが。

「あの、アスランは?」

 と、躊躇いがちに聞いてくるニコル。アスランは目元を和らげて、

「同じだよ、ニコルと」

 答えた。その後で、二人の視線はマルスに向く。勿論、二人ともマルスが遥かに目上の人物であると分かっているから、その視線はかなり遠慮がちな物だったが。彼はそれとそこに込められた意味とを感じ取ると、左手で竿を支え、右手を懐に入れ、ゴソゴソと何かを取り出す。手に握られていたのは写真だった。

 そこには初老の夫婦とその息子だろう、黒髪で日焼けした肌を持つ、マルスとよく似た顔立ちの青年が写っていた。

「……私の戦う理由は彼等の為さ…今もユニウスに眠っている彼等の魂の安らぎの為に。もう二度と、あのような悲劇を繰り返させぬ為に…コーディネイターがコーディネイターらしく、生まれ、生きて、そして死んでいく事の出来る、そんな世界にする為に、少しでも私の力を役立てる事が出来たなら…と、そう思ったんだ」

 そう語るマルスの表情は、とても哀しげだった。アスランとニコルも掛ける言葉が見つからず、沈黙する。と、マルスが立ち上がって、言った。

「一つ忠告しておこう。お前達はこの戦争が終わったら、除隊した方が良い。軍人など、お前達には向いていない。特にニコル、お前のような優しい者にはな」

 そう言うとマルスは釣り道具を片づけると、艦内に入っていった。二人はその後も暫く、静かな海を眺め続けていた。



OPERATION,19 ひとつの決着



 時間は流れるように早く過ぎ、修理を終えたアークエンジェルの出港のその日、いつもは作業員でごった返していた地下ドックも、今はアークエンジェルが発進の準備を進めている為、獣の唸り声のようなエンジン音が響く以外は静かなものだ。

 領海を出るまでは艦の特定を少しでもやり難くさせようと、オーブの艦が随行してくれるとの事だった。恐らくその任に就く艦は既に外で待機しているのだろう、と、そんな事を考えながら、ショウはアークエンジェルの艦橋の上に腰を下ろし、〈注水開始!!〉のアナウンスと共に、両側の壁から水が入ってきて、艦の底部を覆っていくのを眺めていた。

 その時、不意に気配を感じた。それも複数。そちらを向いてみると、設置された桟橋を通って、三つの人影がこちらに向かってくるのが見えた。

 一人はカガリ、一人はキラ、そしてもう一人はロンド、ミナの方だった。ショウは少し意外に思いながらも、フワリ、と跳躍し、彼等の前に降り立つ。ちょうど彼等もタラップを上り、甲板に辿り着いた所だった。

「皆さん…」

 3人を前にして、どういう言葉を発すればよいのか。ショウにもちょっと分からず、戸惑ったようになる。その隙を見て取ったのか、カガリがしゃがみ込み、彼の目線と同じ高さに自分の目を合わせると、手を伸ばし、ショウの体を抱き寄せた。

「…!!」

 戸惑い、身動ぎするショウだが、カガリの力は強く、彼を離そうとしない。諦めて彼女にその身を委ねる。カガリはショウが抵抗しなくなったのを感じ取ると、彼の耳元に顔を寄せ、囁いた。

「…色々あったけど、お前には感謝してる。砂漠で、お前がいなかったら私や、多くの人が死んでいたかも知れない……ありがとう。この世界にお前程優しい奴はいないよ。だから…死ぬなよ」

 彼女らしく少々ぶっきらぼうな物言いではあったが、その声は震えて、彼女の眼には涙が光っていた。ショウは彼女から体を離すと、スッと手を差し出し、その涙を拭いてやると、にっこりと笑い、

「心配しないで下さい。死にませんよ、僕は。あなたもお気を付けて」

 そう、優しい声で言った。カガリも、今まで散々垣間見てきたショウの実力と、今自分に掛けられた言葉の中に宿る、揺るぎない自信に納得したのだろう、頷き、引き下がる。次にミナが前に出た。彼女はカガリのようにしゃがみ込んで目線を合わせたりはしないが、穏やかな光の宿った眼で彼を見詰めている。

「以前にも言ったように、私の元に来る気があるのなら、いつでも来てくれたまえ。待っているのでな」

「…まあ、仕事が完了した後で良ければ、ロンド様が僕のクライアントになられますか?」

 と、じらすように答えるショウ。ミナはその答えに、残念そうな、それでいて悪戯好きの子供を見る母親か姉のような、そんな感情の入り交じった表情を浮かべ、次に照れたように頬を掻くと、言った。

「…私の事はミナで良い。ロンドでは私かギナの事か分からぬだろう?」

「…はい、ミナ」

「うむ。それと、もし私の元に来る気が無いにしても、傭兵やオーブの五大氏族という肩書き無しに、一人の友として私の元を訪ねてくれるなら嬉しい。『サハク家のロンド』ではなく、ロンド・ミナ・サハクとして君を待とう」

「……」

 その申し出にショウは何も言わず、ただペコッと頭を下げた。それを合図としたかのようにミナも引き下がり、最後にキラが前に出た。彼もミナと同じように、静かな眼でショウを見詰める。今回はショウの方から先に口を開いた。

「…この三週間、僕の課した荒行によく耐えましたね」

「まだ、色々教えて欲しい事はあるのだけれど…」

 そう言うキラに、ショウは静かに首を横に振る。

「いいえ、僕があなたに教えられる事は全て教えたし、あなたが僕から学ぶべき事は全て学んだ」

「確かに技術は教えてもらった。だけど、心は…」

 キラのその反論を、ショウは手をかざして、穏やかに制する。

「”心”は教える事は出来ない。心技体、この内、人から教わって身につける事が出来るのは技術だけ。後はあなた自身が学ぶ事。心だけは、人がどうこうするようなものじゃないから…」

 と、ショウが手を軽く振ると、その手には一振りの剣、形状からすると日本刀、が握られていた。それを見て3人が驚いているのを見ると、ショウはヒュッ、という風切り音と共に、その刀を抜き放った。

「おおっ…!!」

 露わになったその刀身を目にして、思わず後ろで見ていたミナが息を呑んだ。その刀身は、それは見事な仕上がりで、まるで星の光を纏っているようにも、冷たい水で濡れているようにも見えた。刀剣の知識など持たないカガリやキラにもそれが分かるようで、目を奪われている。ショウはその反応を見て、クスッ、と笑うとその刀を鞘に収め、キラに差し出す。差し出されたキラは戸惑ったようにショウと、その刀を交互に見ている。

「卒業の証ですよ。受け取って」

 ショウからキラへと、その刀が手渡される。その刀はズシッ、と、見た目からは想像も出来ないような重みが感じられた。その重みは、刀そのものだけでなく、ショウが今まで背負ってきた想いの重さでもあるのだろうか、と、キラは思った。

「一つだけ約束して。僕があなたに授けた力は、人を殺す為のものじゃない、人を護る為のものだって。馬鹿馬鹿しい程に簡単な事だけど、だからこそそれを忘れないで。何があっても。それだけは…」

 真っ直ぐに射抜くようにキラを見詰め、訴えかけるショウ。キラも受け取ったその刀を両手で抱くように持つと、

「うん、誓うよ。君と、何よりも僕自身に。忘れない、絶対に!!」

「ありがとう、キラさん。カガリさん、ミナも、また…」

 そう言うとショウは艦内へと戻っていった。それと前後して、アークエンジェルのメインエンジンに火が入り、前方のゲートが開き、光が入ってくる。アークエンジェルの白い巨体は、その光の中にゆっくりと進んでいく。カガリ、ミナ、そしてキラは、その姿をゲートが閉じて見えなくなるまで、見送っていた。



「……みんないい人達ばかりだったなあ…」

 オーブにいた時間を回想しながら、ショウがアークエンジェルの通路を歩いていると、後ろから肩に手を置かれた。振り返ると、そこにはシェリルが立っていた。ショウは彼女に軽く頭を下げる。シェリルもそれに頷くと、話しかけてきた。

「ショウ、もうすぐ、アークエンジェルはアラスカの防空圏内に入ります。そうすればあなたの任務はそれで終了です。そうなったらあなたは私が都合をつけた小型艇でアラスカを離れなさい」

 と、いきなり本題に入ってくるシェリル。ショウは黙って彼女の話に耳を傾けている。

「今の地球連合の上層部はブルーコスモス、それも急進派のシンパで占められています。コーディネイターであるあなたが、もしこのままアラスカに到着すれば、その瞬間に拘束され、誰かを人質に取られて戦う事を強要されるか、それとも薬物を用いて洗脳されるか、あるいは死か……いずれにせよあなたに良い事はありません。だから…」

「良いのですか?」

「え?」

「だって、以前に僕と交わした約束にしたって、そして今回の忠告にしたって、大佐、いや地球軍にとってデメリットこそあれ、何のメリットもありませんよ? それなのに何故、あなたはそんな事を僕に言うのですか?」

 確かに彼女の忠告は軍人としては明らかに失格者の烙印を押されても仕方の無いような言動だ。考えたくはないが、何か企みでもあるのだろうか? と、少しばかり疑っていると言う事をその言葉に含ませるショウ。それにシェリルは、

「…個人的にあなたの事は気に入っていますし、それにこれはあくまでも私個人とあなた個人との契約。そしてストライクの取り扱いについては現在は私が責任者です。何も、問題は、ありません」

 と、答えた。ショウはほんの少し、無言で彼女を見ていたが、やがて、

「まあ、仕事は仕事。アラスカの防空圏にこの艦が到達するまでの間の護衛。それはやり遂げさせてもらいますよ」

「…そうですか。よろしくお願いしますね。ショウ…」

 暗に忠告は有り難く受け取っておく、という意味のこもった返事に、シェリルもその含まれた意志を読み取ると満足気に頷いて、そして通路を歩いていった。その姿が曲がり角を曲がって見えなくなると、ショウも歩き出すが、

「ショウ君…」

 またしても後ろから掛けられた声に振り返る。そこにはフレイが立っていた。そう言えばオーブに入った後、独房から出されたとシェリルから聞いていたのを、ショウは思い出した。自分はオーブにいる間はキラの修行やM1のデータ収集の為、殆ど艦には戻らなかったので、顔を合わせる機会は無かった。

『…しかし、それにしても…』

 ショウは戸惑ったように彼女を見詰める。今の彼女の表情は、今まで彼が見た事が無い程に安らか、穏やかだった。その表情も以前の憎しみと怒りに歪んでいたものではなく、憑き物が取れたように、とても哀しそうな笑顔を浮かべていた。

「…ショウ君…」

「はい?」

「ショウ君…あの…私……私…」

 静かに、それでいて真っ直ぐにショウに見詰められて、フレイの中で罪悪感が膨れ上がる。言いたい事がある。謝りたい事がある。それは分かっているのだ。でも、なんと言えばいいのか、言葉が見つからない。言いたい事は、言わなければならない事は山程あるのに。

 そう、謝らなければ。結果的にそうならなかったとは言え、彼を利用し、死地へ向かわせようとしていた事。そして何も悪くない彼に銃を向けた事。言わなければならないのを、誰よりもフレイ自身が理解している。だが、再び彼女の中で荒れ狂う感情の波がその想いを言葉にするのを阻んでいる。

「…私は…」

 それでも、ようやく自分の中である程度想いが言葉に纏まり、フレイがそれを口にしようとしたその時、艦内に警報が鳴り響いた。





〈機種特定、シグー1、イージス、バスター、ブリッツ、デュエル!!〉

 既にストライクのコクピットに着いたショウに、ミリアリアが叫ぶ声が、通信機越しに聞こえてくる。やはり、来た。あの時、オーブで出会った時から、これは予想できた未来だった。だが、心の何処かで、全てを胸の内に仕舞い、何の手がかりも得られなかったと、彼等が引き上げてくれる事を願っていた自分がいた事も事実だった。たとえそれが無限大にゼロに近い可能性だとしても。

「…出会いたく、なかったな…あんな良い人達とは」

 ぼやくように小声で呟くと、ショウはストライクの発進シークエンスを進めた。



 一方、クストーから発進した5機も、アークエンジェルの姿を捉えると、一気にそれに向かっていった。アークエンジェルに装備されている火砲が彼等の機体に向けられ、火を吹くが、MSのビームライフルならともかく、そんな巨砲にそうそう今のアスラン達やマルスが当たる訳がなかった。マルスは以前から持っていた技量であるが、アスラン達の操縦技術の向上は、皮肉な事に今まで散々彼等に苦汁を舐めさせてきたショウが一役買っていた。

 つまり、ショウの操縦技術はあまりにも超越的で、その彼の操るMSの戦闘能力は圧倒的だ。だが、それ故に彼と今まで何度か相対し、その都度九死に一生を得てきたアスラン達は、いつしか彼等自身気付かぬ間に、並の赤服など足元にも及ばない高度な操縦技術を身につけていたのだ。実戦に勝る訓練は無いとは、良く言ったものである。

 アークエンジェルのハッチが開く。千載一遇の機会、とばかりにイザークがデュエルのビームライフルの下部に装着されたグレネードランチャーを開いた部分に向け、発射する。いくら装甲が厚くても内部からなら。だが、その弾はアークエンジェルに辿り着く数秒前に、カタパルトから射出されたストライクの狙撃によって撃ち落とされた。

 直撃ではなかったとは言え、流石に至近距離での爆発だったので、ある程度のダメージはあったようだが、それでもブリッジやエンジン・電気コントロール部などには致命的な損傷は与えられなかったようだ。その結果に舌打ちする暇もなく、爆煙を目眩ましとして利用したショウのストライクが、攻撃を仕掛けてきた。

「うっ!! おっ!!」

 放たれるビームの光の矢。イザークは殆ど反射的にデュエルを乗っていたグゥルから跳躍させ、近くの島へと着陸させる。1秒前までデュエルの乗っていたグゥルは、ビームに貫かれ、爆発した。

「やるなっ…」

 今更ながらに宿敵と認識した相手と今の自分との実力の差に、歯噛みするイザーク。だが、勝負はいつも同じとは、ましてや戦闘力の高い方が必ず勝つとは限らない。自分達は数的には有利。ならばやり方次第で勝機は生み出せる筈だ。

 そう考えていると、自分の近くにアスランのイージスと、ニコルのブリッツが降り立ったのが見えた。上空のグゥルが煙を上げながら飛んでいる所を見ると、2機ともストライクに叩き落とされたらしい。そしてそれを追うかのようにストライクが舞い降りてくる。

 3対1。状況を見ると、マルスのシグーは手筈通り、足つきの艦上で黒いジンを釘付けにしているし、ディアッカのバスターは戦闘機との勝負で手が離せないようだ。ならば自分達の方でこいつを撃破し、援護に行くなり足つきを攻撃するなりせねばならない。だが、それがどれ程困難な事なのか、3人とも身に染みて知っている。

「行くぞ、アスラン、ニコル」

「分かった」

「了解!!」

 イザークが声を掛けると、まずブリッツがミラージュコロイドでその姿を消し、デュエルとイージスがストライクの周囲を一定の距離を保ちつつ、旋回し始めた。攻撃の気配を感じさせつつ、ストライクを牽制する。

 そして遂に、イージスが左から両腕のビームサーベルを抜いて突進し、一瞬遅れてデュエルも右から突進する。左右同時攻撃。だが、その攻撃がストライクを倒す事はなかった。ショウは間合いと速さの一瞬の差を見切ると、まずデュエルに背を晒し、イージスに向けて機体を加速させ、そのままタックルで弾き飛ばす。

 更にその反動で右から向かってくるデュエルに向かい、ビームサーベルを振り下ろすよりも早く、その腕を掴み、動きを封じてしまう。装甲越しにイザークの同様が伝わってくる。そのままデュエルごと90度旋回し、立ち位置を変える。すると、ストライクのモニターに、デュエルのボディの向こう側に見える空間に、僅かに輪郭のような物があるのが見える。

 その空間の輪郭に向かって一気にデュエルを突き飛ばす。デュエルはその輪郭、ミラージュコロイドを使用し、攻撃の機会を窺っていたブリッツと激突して、倒れてしまった。衝撃によってバランサーか何かに異常をきたしたようですぐさま立ち上がれないデュエル。またその下敷きになっているブリッツも、ミラージュコロイド展開中でPS装甲がオフにされていた状態で、PS装甲を持つデュエルと激突してしまった為、ダメージは大きいようだ。

 自分達のフォーメーションが簡単に破られ、動揺するアスラン。こんな時こそ冷静でなければならない、と自分に言い聞かせるが、ストライクのカメラアイがこちらを向くのを見ると、得体の知れない恐怖感に襲われる。彼はそんな自分を叱咤して、操縦桿を握る手に力を込めた。

「デュエルとイージスがこちらの周囲を回る事で、僕の感覚を幻惑し、更に旋回するその足音によってミラージュコロイドの弱点である、音による探知をジャミングする。中々良い戦術だけど、僕には通用しない」

「っ…化け物めっ…」

 無表情でイザーク達の仕掛けた攻撃を分析するショウ。ストライクの腰に装備されたビームサーベルを抜き、アスランのイージスと接近戦を演じる構えを見せる。これに対してアスランも、イージスの両腕だけでなく、両足のサーベルも起動させ、斬りかかる。シールドとサーベルでその攻撃を捌くショウのストライク。その戦いは周囲の木々を燃やし、岩壁を融かしながら続いていった。





 アークエンジェルの甲板の上でも、黄金のシグーと漆黒のジン、2機のMSが火花を散らしていた。お互いその手に持つレーザー対艦刀と重斬刀を振り回し、相手を狙うが、その相手、お互いが見事な見切りでどちらの攻撃も紙一重で装甲を削らせる程度に留め、決定打を与えられないでいる。

 ガキィィィィン!!

 激突。二つの刃がぶつかり合って、耳障りな音を立てる。

 2機の武器は、一撃一撃の破壊力ならマルスのシグーの持つレーザー対艦刀の方が上回っている。だがその反面、その大きさと重量故に取り回しが難しく、ストライクに装備されている物と比べると、ある程度は小型化されているものの、それでも予備動作や、攻撃の際に生じる隙はどうしても大きくなってしまう。

 対して、シェリルのジンが使っている重斬刀は元々ジンの基本装備の一つなので、扱いやすさでは対艦刀よりも優れている。それにこの機体に装備されている物は、通常の物と比べて、表面に対ビームコーティングが施され、これによってレーザー対艦刀とも鍔迫り合いが行えるようになっている。

 ただ、このコーティングはビームとぶつかり合った場合、その塗装が蒸発する事によってエネルギーを打ち消す物だ。だから当然、何度も鍔迫り合いを行えばコーティングは剥がれ、効力は失われていく。

 そして遂に、完全に効力を失った剣が、鍔迫り合いの衝撃に耐えきれず、ぶつかり合った瞬間に折れた。ここぞとばかりに迫るシグー。が、その瞬間、何かを感じ取ったかのように、思い切り機体を後退させる。それでもその時、既に攻撃は対艦刀を振り下ろしていた。その攻撃は漆黒に染め上げられたシェリルの愛機の左肩を吹き飛ばし、鋼の色の内部関節が露わになる。

 一旦離れ、距離を置く2機。シェリルのジンは根本から折れた重斬刀を捨て、左手で腰に装備されていたもう一本の重斬刀を抜く。そして右手には、胸部に装備されている、対MS戦闘用ナイフ、アーマーシュナイダーが握られていた。

 先程の激突の瞬間、それまで使っていた重斬刀の強度の限界を感じ取ったシェリルが、それまで右手に持たせていたのを、咄嗟に左手に持ち替えさせたのだ。そして自由になった右手には、別の武器を持たせた。

 そしてマルスも、火花散る剣戟の最中に行われたその動作を、その眼に捉える事は出来なかったが、違和感は感じ取っていた。先程、好機と見てシグーを突進させたが、そのすぐ後に後退させたのは、それが理由だった。それは直感に近い物がある。

 そしてその判断は正解だった。

 彼のシグーのボディに、一筋の、大きな傷が付けられていた。彼の機体は専用機であるので、かなり反応速度や運動能力が強化されているが、それでも避けきれなかったのだ。もう数瞬遅ければ、間違い無くアーマーシュナイダーをボディに深々と突き立てられていただろう。

「…見事なものだ…」

 マルスは目の前の強敵に、畏敬の念がこもっているかのように呟き、計器をチェックする。どうやら異常は無いらしい。傷は浅手のようだ。操縦技術もさることながら、何よりも戦場の極限状態にあっても常に自機の状態を正確無比に把握している冷静さ。分かってはいたが、やはり目の前にすると痛感する。目の前の黒いジンのパイロットが恐るべき相手だと。

 強い。だが強過ぎはしない。自分に脅威を与える存在ではあるが、倒せない存在ではない。尤も、相手にしても自分が同様に映っているだろうが。それに今回はこの艦を撃沈するのが任務。目の前の敵との決着を付ける必要は無い。ならば…

 そこまで考えると、周囲のカメラに映し出される戦闘の様子をモニターに表示させる。ディアッカのバスターは戦闘機の相手で手一杯のようだ。下の無人島ではイージスがストライク相手に猛戦している。そして自分は目の前のソードダンサー相手に手が離せぬ状態。この状況を打破するには…?

「よし!!」

 その一手が、頭にひらめく。と、同時にマルスは機体を突進させた。黒いジンが振り下ろされた対艦刀の一撃を、アーマーシュナイダーと重斬刀の二刀流で受け止める。流石に威力で勝る対艦刀も、これには止められてしまった。だがしかし、それは彼が予想していた通りだった。

 そのまま180度、立ち位置を入れ替え、そこから後ろに飛んで距離を置く。そして素早く腰に装備されていたビームライフルを取り出すと、撃った。

 ズキューン…

 光条が走る。が、シェリルのジンは簡単にそれをかわすと、ビームライフルを使った一瞬の隙を狙い、機体を金色のシグーへ向けて走らせる。その時、後ろから集音センサーを通じて聞こえてくる爆発音。シェリルが機体後方の映像をモニターに出すと、そこには、

「うっ!!」

 左翼を損傷し、黒煙を噴き出しているスカイグラスパーが映っていた。

 やられた。先程のビームライフルによる射撃は自分のジンを狙ったものではなく、かわす事を想定して、機体越しにムウのスカイグラスパーを狙っていたのだ。狙っていたのか、その場の咄嗟の思いつきか、分からないがこのような奇策を実行に移し、そして成功させるとは。やはりザフト最強パイロットの称号は伊達ではないと言った所か。

「しかし、だからこそ、今ここで倒しておかなければなりませんね」

 シェリルはそう呟くと、再びジンを目の前のシグーへと向かわせた。この相手は今ここで殺しておく必要がある。それ程の脅威を彼女は感じていた。それはマルスも同じだった。





 この二人が初めて相見えたのは、ヤキン・ドゥーエ攻防戦の最中だった。黒のパーソナルカラーを持つメビウスと通常のジンが、その余りの迫力に、敵味方共その区画だけ戦場の動きが止まる程の激戦を繰り広げた。この戦闘では最終的にはザフト側が勝利するのだが、戦場の流れから、それがほぼ確定した時、どちらからともなく勝負を切り上げ、離脱していった。

 この戦闘でシェリルは11機のジンを撃墜し、またマルスも40機のメビウスと、7隻の戦艦を撃破している。シェリルはその功績と、プロパガンダとしての役目も兼ねて三階級特進で少佐となり、マルスもトップガンとしてネビュラ勲章の授与と、専用機の開発、そして一部隊の指揮官に任命される。

 その後、シェリルは漆黒のパーソナルカラーに染められたジンを駆り、ソードダンサーの二つ名と共に、名実共に地球軍最強のパイロットとなり、マルスもまた、ザフトで最強のパイロットとしての地位を不動の物としていた。

 次に二人が戦ったのは月のエンディミオンクレーターでの、攻防戦、後にグリマルディ戦線と呼ばれる戦いだった。お互い現在の愛機である、専用のジンとシグーで以て、死闘を繰り広げた。

 だがこの戦いでも、ザフトは地球軍第三艦隊を壊滅させたものの、基地に設置されていた設備、『サイクロプス』の暴走により、撤退を余儀なくされ、二人の間でも勝敗は決しなかった。

 その後も幾度か戦ったが、二人の戦力は全くの互角で、いつも勝負は決まらなかった。





 だからこそ、今この時、全ての決着を。立場は違えど等しき想いを胸に、漆黒のジンと黄金のシグーがぶつかりあった。



「くそっ!! いい子だ!! もう少しだけ保ってくれよ!!」

 左翼を破壊されたスカイグラスパーのコクピットで、ムウは次々とエラーを示す部分の多くなっていく計器に、怒鳴るように、そしてなだめるようにそう叫びながら、必死に操縦桿を操っていた。

 その声が、マシンに届いたのか、それとも只の偶然か、どちらにせよ失速寸前だった機体が再び上昇を始める。ムウはふうっ、と溜息をついた。だがそれも一瞬で、再び気を引き締めると、周囲の状況を確認する。見ると、こちらにもう戦闘能力が皆無と判断したのか、堂々と後ろを向け、両腕の二門の砲を合体させ、アークエンジェルに狙いを付けているバスターの姿が確認できた。

「そう簡単にやらせるかっての!!」

 ムウは操縦桿を切り、機体を反転させる。飛んでいるのが不思議な状態のスカイグラスパーだったが、それでもまだパイロットの意志に応え、飛び続けている。そしてバスターの背後に回ると、搭載されているアグニの照準を合わせ、引き金を引く、

「!!」

 一瞬前にバスターが超高インパルス長射程ライフルを発射した。ムウがそれを認識し、『しまった、遅かった』という言葉が彼の脳裏に浮かぶのと、彼の指がアグニの引き金を引くのは同時だった。放たれる極太の光条。

 しかし、バスターのパイロットが寸前で気付いたらしく、慌てて回避行動を取った。これによってムウが胴体に風穴を開けるつもりが、右腕とそこに装着された砲、乗っていたグゥルを吹き飛ばし、右脚に軽度のダメージを負わせる程度になってしまった。

 だが、下は海で、浅瀬だろうがバスターはそこに落ち、巨大な水柱を立てた。これでしばらくは時間が稼げる。だがのんびりとはしていられない、アークエンジェルも今のバスターの一撃でかなりのダメージを受けたようだ。一旦帰還して、2号機に乗り換えて…

「痛ぅっ…!!?」

 そこまで考えた時、ムウは自分の脇腹に走る鋭い痛みに気付いた。見ると、先程のビームが当たった時にどこかが爆発して吹き飛んだのだろう、鋭い鉄片が、脇腹に突き刺さっていた。今まではアドレナリンが多量に分泌していたせいで気付かなかったのだ。

「くっ……」

 ムウはちょっと気を抜くと手放しそうになる意識を、必死で繋ぎ止めながら、アークエンジェルへとスカイグラスパーを向かわせた。



「その程度ですか?」

「くそおっ!!」

 無人島の上を踊るように移動する紅と白の影、イージスとストライク。イージスの方は両手両足の4本のビームサーベルを全て使い、まるで凄腕の格闘家のような動きで、右手のサーベルと左手のシールドを巧みに使い、その斬撃をすべて捌きながら後退していくストライクを追っていく。

 アスランは先程から自分の中で弾けた感覚、以前にも感じた事のあるクリアな感覚の中で、それがもたらす高い反応速度と状況認識能力に物を言わせて戦っていた。

 だが、それでもアスランの方が分が悪い。イージスの攻撃はシールド以外には殆どかすりもしていないのに対し、ストライクの繰り出す反撃は、イージスの装甲を、ほんの少しずつだが削り取っていっている。このままではいずれ致命傷を受ける。それが分かっているので、徐々に、アスランは焦りを隠しきれなくなっていく。

 その時、左手からストライクに向かって、何か小さな箱のような物が飛んできた。その箱のような物を、反射的にビームサーベルで切断するストライク。瞬間、その箱のような物が爆発した。

「!!?」

 突然の事態に、後ろに跳んで距離を置き、状況を把握しようとするアスラン。ふと、彼から見て右を見ると、アサルトシュラウドを脱ぎ捨て、本来の青と白を基調としたボディとなったデュエルを見て、アスランは理解する。

 先程ストライクに向けて飛んできた物は、アサルトシュラウドの左肩の部分、ミサイルポッドだったのだ。それをビームで斬れば、爆発するのは当たり前だ。イザークは今のミサイルポッドの爆発によって生じた爆煙の中に、闇雲にビームを連射した。

「切り裂くのではなく、シールドで弾くべきだったか…」

 爆煙の中、殆ど無傷のストライクの中で、状況を分析しているショウ。彼も、もう今の攻撃がミサイルポッドの投擲である事は見抜いていた。爆発の瞬間を咄嗟にシールドで防御したので本体はほぼ無傷だったが、それによって使い物にならなくなったシールドを捨てる。

 それとほぼ同時に、爆煙の向こう側から感じる殺気。ショウは感じるままに機体を動かし、ビームサーベルを振り回して、飛んでくるビームを斬っていく。そして爆煙が薄れる頃、エネルギーが切れたのか、ビーム攻撃がこなくなる。

 ショウはそのまま、飛んできた方向に、まだ視界はそれ程利かないが、大まかな照準で、ビームライフルを向け、トリガーを引こうとする。しかしその時、ふと、周囲の景色、薄れ行く爆煙の中の違和感。煙の不自然な動きを、彼は感じていた。

「!!」

 彼の操るストライクが咄嗟に蹴りを放つのが、ミラージュコロイドによって姿を消したブリッツが、左後方からストライクを攻撃しようとするよりも、一瞬だけ早かった。PS装甲を作動させていない所にモロに喰らい、頭を吹き飛ばされ、倒れ込むブリッツ。もはやエネルギーも切れたのだろう、PS装甲の落ちた、鋼色の機体が空間から溶け出すようにして現れた。

 完全に無防備状態のブリッツ。だが、ショウの意識は既にそこには向いていなかった。先程自分にビームを撃ってきていた、殺気、デュエルのそれが、まだ消えてはいなかったからだ。モニターには、未だにこちらにライフルを向けている、デュエルが映っている。

「もらったっ…!!」

 思わずそう呟くイザーク。今のストライクは、ニコルのブリッツを吹き飛ばした動作による硬直状態にある。勝機は今、この一瞬のみ!!

「最後の一発だ、喰らえっ!!」

「なんの!!」

 デュエルの、生命維持装置など最低限の物を除く、全てのシステムの動力を総動員して、やっと確保した一発分のエネルギー。それがビームとなってストライクに向けて飛んでいく。しかし、その絶対のタイミングですら、ショウの反射神経は対応し、ストライクを動かし、回避させる。

「くうううっ…!!」

 暗くなったコクピットの中で、イザークは血の出る程唇を噛み締め、計器に拳を叩き付ける。駄目なのか。ここまでしても、俺は奴を倒す事が出来ないと言うのか。彼の胸が、そんな情けなさと、怒りと悔しさで一杯になる。彼の目には、悔し涙が流れていた。

 そのイザークには見えていないが、外ではストライクに異常が発生していた。突然、右膝を地面に付けて、しゃがみ込んでしまったのである。

 この時点で唯一無事なアスランにも、何が何だか分からなかった。ブラフだとしても、今まではあちらが圧倒的に有利だったのだから、こんな所でそんな事をする必要性は無い。だとすれば!!

 何らかのアクシデントが発生した、という結論に達し、イージスを突進させるアスラン。その時ストライクのコクピットでは、ショウが突然の事態に舌打ちしていた。

「くっ!! 右膝部分がイカレたのか!! 限界以上の速度で機体を操ってしまったか。僕とした事が…」

 彼はオーブを出る時、ストライクの修理を担当していたエレンから言われた言葉を思い出していた。



『一応、老朽化していた部品とかは交換したけど、機体そのものの反応速度には限界があるの。だから、それ以上の速度で機体を操作したが最後、突然動かなくなるか、最悪バラバラになるよ。注意してね』



 彼女が忠告した事態が、今現実に起こったのだ。いや、正確には起こさせられた、と言うべきか。これは偶然ではなく必然だった。イージス、そしてデュエルとブリッツの連携が、こちらに余裕を無くし、一瞬とは言え、機体の限界を遥かに超えた速度での操縦をさせたのだ。それによる負荷は、関節部を破壊するには十分だった。

 目の前を見る。そこには、

「しまっ……!!」

 MA形態に変形したイージスが飛びかかってきていた。

 ガキィィィィン…

 金属のぶつかり合う音と共に、4本のクローでストライクのボディをがっしりと掴む。

「勝ったぞ!! これで終わりだ!!」

 叫びながらアスランはイージスの最大の武器、スキュラのトリガーを引く。しかし、砲口からビームが放たれる事はなかった。二、三度トリガーを引いてみるが、カチカチ、という空しい音が返ってくるだけだ。この状態になって、やっとアスランはコクピットに鳴り響いている警報に気付いた。先程の接近戦でエネルギーを使いすぎてしまった。とっくの昔にパワーは枯渇し、PS装甲も落ちていたのだ。

「…っくっ!! だが、まだ弾は残っているぞ、とっておきのやつがな!!」

 自分でも訳の分からぬ事を口走りながら、アスランは取り出したテンキーに、素早く暗証番号を打ち込んだ。するとモニターにカウントダウンを示す表示が現れる。彼はそれを確認すると、反射的な速さでハッチを開き、脱出する。

 その姿はストライクのコクピットの、ショウからも確認できた。

「自爆、か。それにしても3対1だったとは言え、この僕を破るとは。見事」

 彼の表情と口調は、数秒後には超至近距離でのMSの自爆が迫っているにもかかわらず、のんびりとしたものだった。そしてそこには、アスラン達への敬意と評価の念も、確かにあった。吹っ切れたような表情で呟く。

「まあ、あちらもここで3機も戦闘不能になれば、これ以上の追撃は不可能だろうし……アラスカの防空圏には少し早いけれど……任務完了(ミッション・コンプリート)、かな?」

 その言葉が語り終えられた時、イージスは巨大な光の玉となり、ショウの視界も、そして彼の姿も、すべてその光の中に呑み込まれていった……





「え?」

 ミリアリアは何が起こったか分からなかった。ストライクのモニターがザッ、と乱れ、瞬いて消え、別の表示に切り替わったのだ。

 切り替わったモニターには、『SIGNAL LOST』の文字が、映し出されていた。





TO BE CONTINUED..


感想
金属疲労でストライクが壊れましたか。あの様子では4人組は全員生きてそうですが、ブリッツとイージスは全損扱いですかな。ショウ君は、爆発の後でも残骸の中から平気な顔で出てきそうなんですが。
しかしマルス、手製の釣竿って、艦内の物資で作ったのか、それとも何かを期待して本国から持ってきてたのか。謎は深まるばかりです。