「エターナ、聞こえるか?」

 ソレイユのブリッジ、その前面にある大型モニターにミナの顔が映る。艦長席に座るエターナは、冷静な表情で彼女に頷いて返した。

「知っての通り所属不明の機体が一機、このアメノミハシラに向かって高速で接近中だ。お前達に対応してもらいたい」

 と、ミナ。エターナはもう一度、「勿論そのつもりです」と付け加えて頷いた。元々こういう有事の時の為の防衛力として、自分達はミナに雇われているのだ。早速彼女は回線を繋ぎ、格納庫で待機中のMS各機に言う。

「皆さん、ご存じとは思いますが所属不明の機体がこのアメノミハシラへと接近中です。そこで……」

〈……その機体を墜とせばよいのね>

「………向こうからの攻撃がない限り、こちらから撃ってはいけません」

 ガンダムヴァサーゴCBのコクピットからいつも通り無愛想な声で言ってきたシスに対して、エターナは頭を抱えつつ言い返した。

 アメノミハシラの防衛力はまだ多分に不完全だ。MSは宇宙用のM1Aなどが量産され、徐々に数が揃ってきてはいるが、それを扱うパイロットはまだまだ少なく、特に一人前と言える腕前の者はほんの一桁という有様であった。

 だがそれも当然の事で、アメノミハシラにいるオーブ国籍の者はその多くが地球連合のオーブ解放作戦の後サハク家のミナを頼って避難してきた者であり、その中には少なくない数のコーディネイターも含まれていた。彼等はその持ち前の技術や能力をここの工場区などで活かし、MSの生産などに役立てている。

 こういう事情があってMSの生産や防衛施設の増強などは、ミナが当初考えていたよりもずっと速いペースで進んでいた。だがそれらが進めば進む程、逆に浮き彫りとなってきたのがそれを扱う能力のある人間の少なさ、あるいはいたとしてもその練度の低さであったと言う訳だ。

 先に言った通り現在アメノミハシラにいる人間は、ミナと彼女の直属の部下であるオーブ軍人、そしてエターナ達フェニックス部隊を除いては、オーブから避難してきた者がその殆どを占める。そしてオーブには国民の義務としての兵役などはないので、彼等は軍人としての訓練を受けた事もなければ、ましてやMSなど触った事さえなかった。

 今はショウやエターナを筆頭とするフェニックス部隊が守りを努めてくれるからそれで何とかやっていけている。だがいつまでも彼等に頼る訳にはいかない。

 ミナはそう思った。故に避難民の中に呼びかけ、彼等の中から義勇兵を集う形でアメノミハシラの守備軍の戦力を増強しようと考えたのだ。幸いミナは避難民からは頼りにされていたので多くの者が彼女の呼びかけに応え、守備軍に志願した。

 が、勿論それで万事解決、となる訳もない。

 戦い方を知らない兵士など何人いても何の役にも立たない。たとえそれがコーディネイターであったとしても、訓練を受けなければその潜在能力は発揮されない。コーディネイターがナチュラルより優れているのはあくまでも潜在能力、下地・素地の部分であって、何の訓練も経験も無しでは兵士としてはヒヨッ子である事に変わりはないのだ。

 守備軍に志願した者達にはここが攻められた際、敵を撃退出来るだけの能力が求められる。

 と、口で言うのは簡単だがそれだけの能力を持った兵士に育成する為の手間や時間は膨大な物がある。

 これは戦争が長期化して優秀な人材が少なくなっている現在、地球軍とザフトでも、とりわけ後者では上層部を悩ませている問題である。機体の替えはいくらでも利くが人材はそうは行かない。ましてや志願兵である彼等はこれまで何の訓練も受けた事がないので、教える側はゼロから仕込まねばならない。現在アメノミハシラにいる軍人の数が限られている事もあり、これが最も深刻な問題として挙がるのも必然の流れであった。

 エターナ達も時々サービスで訓練を手伝ったりしているが、その時の手応えでは、

『これはまだまだ時間がかかりそうですね……』

 といった感じで、今しばらくは自分達はここを離れる事は出来ないと思っていた。ミナとは『このアメノミハシラに駐留し、防衛力を提供する期間はここの防衛の態勢が整うまで。その間ロンド・ミナ・サハクは物資や食料の安定した補給を約束する事』と契約してある。

 自分達にはここを守る義務があった。

 現在接近中の機体は確かにオーブの物ではないが、だがだからと言って敵だとは限らない。もしかしたら何らかの事情で本隊とはぐれたとか燃料切れで漂流しているとか、そういう事情があるのかも知れない。それを迂闊にこちらから先制攻撃を掛ければ、下手をすれば国際問題にまで発展する可能性がある。そうなれば最悪、連合かザフトの戦力がここへ向けられるかも知れない。

 ただでさえこのアメノミハシラは大規模な工場施設がある拠点であり、それを狙う者も多いのだ。何もわざわざ危ない橋を渡り、敵を増やす必要はない。もし接近する機体が敵だったとしても、相手は一機。迎撃は相手の敵意を確認した後でも十分に間に合う。

 エターナがシスに先制攻撃を止めるよう言ったのは、そういった考えあっての事だった。シスもその辺の現状は理解しているので、それ以上反論したり異議を唱えたりする事はなかった。

「…それでは取り敢えずシス、ステラ、カナード。あなた達3人に、接近中の機体への接触をお願いします」

<……了解、シス・ミッドヴィル。ガンダムヴァサーゴCB、発進します>

<ステラ・ルーシェ。ガイア、行くわよ!!>

<カナード・パルス。ハイペリオン、出す!!>

 ソレイユのカタパルトから3つの流星が、宇宙空間へと飛び立った。



OPERATION,33 世界の敵



 発進した3機のコクピットの中で、3人は早速レーダーに向かってくる機体の機影を捉えていた。接近する機影は報告にあった通りかなりの速度でこちらに向かってきている。そのスピードは確かにそれがMAやMSの物だとするなら異常だ。それ程速い。そして、

「大きいね……」

 ステラが口走った。シスとカナードもそれに頷く。

 まだMSのカメラでは捉えられていないので正確な大きさまでは分からないが、それでも通常のMS等と比べるとかなり大きな機体が接近中である事が、レーダーの機影から分かった。

「それに近くに戦艦なども確認出来ないという事は、単独行動が可能なよう航続距離に改造が施されているか……それとも一から開発された新型か?」

 ハイペリオンのコクピットでもカナードがそう推測する。可能性としては五分五分と言った所だろう。

「……後5秒で視界に入るわよ……」

 シスはそれだけ言うと、モニターの一点に意識を集中させた。それが装甲越しにも伝わったのか、ステラとカナードもそれぞれ気を引き締め、例え一瞬後に何が起こったとしても対応出来る姿勢を取る。そんな3機の眼前に、遂にその機体が姿を見せた。

「!」

「あれは……」

「MA……?」

 と、シス。彼女が呟いた通り、その機体は全体としてMAの特徴を持っていた。戦闘機だと言うにはあまりに形状がいびつだ。これは空気抵抗の存在しない宇宙空間での運用を前提として設計されており、また戦闘機以上の武装や推力を追求した結果なのだろう。機体は流線型で、いかにもスピード重視という風に見える。シスはその機体に全周波で通信を入れた。

「……接近中の機体に伝える。こちらはオーブ所有の衛星軌道ステーション、アメノミハシラの守備軍。許可なくこれ以上接近する事は禁止されている。速やかに機体を停止させ、目的を……」

 彼女が額面通りの内容を告げていた、その時だった。

 ガバアッ!!

 突然、その機体の前部が4つに、まるで節足動物が足を広げたようにして分かれた。

「!!」

 瞬間、レバーとペダルを目一杯引き、機体に回避行動を取らせるシス。その行動は戦士としての直感でもあったが、もう一つそれとは別に理由があった。その機体の4本の足のようなパーツに隠されていて、そしてそれを広げた事によって露わになった部分に砲口のようなパーツが存在していたのを見たからだ。そしてそれはエネルギーの充填を完了させ、いつでも発射する事が出来る状態を整えていた。

 カッ!!

 そして次の瞬間には彼女の判断が正しかった事が証明される。

 そのMAが前面に装備されていた砲から、ビームを放ったのだ。その形状や威力は、イージスのMA形態やその状態で使用出来る最大の武器、スキュラのそれに酷似していた。その恐るべき威力を、シスの操るCBはすれすれの所でかわした。

「!! シス!!」

「警告もなく撃ってくるとは……」

 ステラとカナードはそのMAのあまりの不作法に憤慨しつつも、それぞれの機体のライフルやマシンガンを構えさせた。シスもCBのコクピットでそれを確認して、一言呟く。

「これで……先に撃ってきたのは向こう………ソレイユ、記録は取ったわね……?」

 これはあくまでも通信ではなく独り言である。だが同時に確認の意味でもあった。エターナやミラが、これらの記録を見落とす事など有り得ないのだから。ともあれ、これであのMAを攻撃してその所属する勢力から何かしらの抗議があったとしても、それはこちら側の正当防衛で通る。

「………行くわよ」

 そう呟き、彼女はCBを突進させた。

 ステラもカナードも既に攻撃を始めている。

「このっ、このっ!! 当たれ!!」

 ガイアがライフルを乱射するが、再びそのMAは4本の足を畳み、流線型の形状となって飛び回る。その速度は実際に眼で見ると思った以上に速く、ビームは悉く避けられ、牽制ぐらいの意味しか為さない。それを見て取ったカナードは作戦を変える事にした。

「……あの大きさであのスピード、おいそれとブレーキは利かない筈だ。”点”ではなく、避けられない”面”攻撃なら!!」

 ハイペリオンはビームサブマシンガンを微妙に動かしつつ、面を制圧するような射撃を放った。そしてその狙いはそのMAそのものではなく、その機体が移動するであろう未来の位置。速度などを計算に入れ、そこへとビームのシャワーを浴びせる。

 計算通り、その機体は一瞬後には自分からビームの雨の中へと飛び込んで、ダメージを被る。

 と、思われたが。だが。

 ジャキィィン!!!!

「!! こいつは……MAとは……違う!?」

 そのMAは思いも寄らない方法で攻撃を回避した。

 そして”それ”を見たカナードは、驚愕をその表情に浮かべる。

 その機体はMAではなかった。可変機能を備えたMSだったのだ。今の未来位置を予測したカナードの射撃をかわした急制動を可能にしたのは、その特性故だった。攻撃が命中するかと思われたその一瞬、その機体はMAからMSへと変形し、その動作によって機体に掛かっていた加速を完全に殺してしまったのである。そしてMSへと変形したその姿は。

「こいつは……ガンダム!?」

 毒々しい紫色を基調とした装甲に、敵を威嚇するかのような鋭角的なフォルム。MA時に視界を確保する為だろう、脚部にもモノアイカメラが確認出来る。武装は確認出来る物は手持ちのロングビームライフル。最も特徴的なのは機体の背中の巨大なバックパックであろうか。用途は不明だが不自然なまでに大きい。何か隠された機体特性があると見るべきだろう。

 そしてその頭部は、明らかにガンダムタイプの特徴を持っていた。

「………新型……でも何であれ関係ない。このアメノミハシラを侵そうとする敵は、私が倒す」

 シスはそう言うと、CBの両腕のクロービーム砲をそのガンダムへと向け、連射する。相手のMSのパイロットは警告も無しに突然攻撃してくるような常識知らずではあったが、だがどこの勢力の機体にせよ明らかに最新型のMSを任されているだけあって、パイロットとしての技量は中々の物。連射されるビームを軽くかわしていく。

「………腕は確かなようね。でも熱くなりすぎて周りを見ていない。戦場全体の動きを。ステラ!!」

<了解!!>

 シスが通信を入れると威勢の良い返事が返ってきて、同時にガイアはビームライフルを構え、撃った。

 放たれたビームはちょうどCBの攻撃を回避する途中であったそのMSの胸部に命中した。

 今の攻撃は二人のコンビネーションだった。どれ程反応が良くても、回避運動が正確でも、回避動作の最中。その間だけは、別の角度からの攻撃には回避する事は出来なくなる。ステラはそこを狙ったのだ。

 今の攻撃で与えたダメージは、撃墜に至る程ではないが、だがもう戦闘を継続する事は出来なくなる筈。シスはそう踏み、他の二人に通信を入れた。

「あの機体はもう戦えないわ。撃墜するよりも捕獲して、どこの勢力の物か、何故いきなり攻撃してきたのかを問い質しましょう」

 彼女のその命令を受けて、ハイペリオンは距離を置いてCBと共に牽制。ステラのガイアがそのMSを捕まえようと接近する。

 最早勝負は決まった。

 そう、カナードとステラは思い込んでいた。そこに一瞬の隙が生まれた。そしてシスもそう思い込んではいたが、だが強化人間の鋭敏な感覚が、周囲の異常を捉えていた。思わず彼女は叫ぶ。

「気を付けてステラ!! 何か来る!!」

「え?」

 シスのその言葉の意味が理解出来ず、一瞬ガイアの動きが止まる。その時、謎の機体から通信が入ってきた。

<……この程度で、勝ったと思っているのか?>

 そしてそれとほぼ同時に、隕石の陰にでも隠していたのだろうか。MS用のポッドが飛び出してくる。援軍、新手か? と、3人は警戒する。

 だが違った。

 次の瞬間、謎のMSは予想外の行動に出た。何とボディとバックパックを切り離し、そのボディをまるで巨大な砲弾のようにしてガイアにぶつけてきたのである。咄嗟の事でステラは避けきれず、まともに喰らう。

 幸いガイアはVPS装甲であったので損傷は軽微だが、衝撃までは殺せずに後ろへと弾き飛ばされる。

「きゃあああっ!!」

「「ステラ!!」」

 そしてシスとカナードの意識が吹き飛ばされたガイアに向いた間隙を狙って、バックパックの部分が動き、そしてポッドから出て来たMSのパーツと合体、変形。そこには先程と変わらない、謎のMSの姿があった。今度は勝ち誇った声で通信が入ってくる。

<お前達が破壊したのは本体じゃあない、この機体の予備パーツ。壊れたパーツを捨て新たなパーツに交換すれば元通り!! これがこのMS、『リジェネレイト』の能力だ!!>

「!! 予備パーツ……本体はMSではなく、その背後のパックパック?」

「リジェネレイト………再生……成る程、相応しい機体名ね……」

 相手の特性を分析するカナードと、無表情に感想を述べるシス。その時、リジェネレイトの方に動きがあった。

<まずは……その黒いのからヤる!!>

 開きっぱなしの通信回線からそんな声が聞こえてくると同時に、MSからMAへ。リジェネレイトが変形した。先程警告を発したシスのCBを攻撃した時と同じ、スキュラを放つ形態だ。対してガイアは未だにAMBACやバーニアを使って体勢を立て直している状態で、今攻撃されれば無防備に喰らうしかない。そこを狙う敵パイロットの判断は的確だった。

 そして無情にも破壊の光が放たれ、一瞬後にはガイアは爆散する筈だった。だが。

「危ないステラ!!」

「!! シス!?」

「ぐっ!!」

 その未来は訪れなかった。

 ビーム攻撃の軌道上に、シスのCBが立ちはだかった為だ。当然、如何にCBと言えども直撃を受ければ無事では済まない。右腕と右足が吹き飛び、見るも無惨な姿となる。その上当たり所が悪かったのか、機体のコントロールも出来なくなってしまった。

 すると再びリジェネレイトから、今度は高笑いと共に声が聞こえてきた。聞く者を不愉快とさせる、人を見下した響きの声が。

<ハハハハハハ!! 仲間一人助ける為に、自分がやられてりゃ世話無いぜ!! だが丁度良い機会だ。狩られる獲物の分際で、身の程知らずにも俺に手傷を与えてくれた償いをさせてやる!!>

 と、かなり危ない発言が入り込んでくる。

『……戦闘狂の殺人狂、サディスト………?』

 と、シスは動かない機体の中で敵パイロットの正確を分析する。そして今度はこちらから、リジェネレイトに通信を入れた。

「あなた………」

<ん?>

「あなたの機体、パーツを次々と交換して”再生”出来る事から『リジェネレイト』と呼ばれているのよね………」

<………その通りだが、それがどうした?>

 何故そんな質問をしてくるのか狙いが読めない、といった感じの声で返事が返ってくる。シスは対照的に普段の感情を感じさせない声で、返事をした。

「だけど”再生”なら、私の機体だってそれなりには出来るわ」

 そう彼女が言った刹那、CBの破損した筈の右腕と右足が、破損した部分から新しいパーツが、文字通り”生えて”きて再生した。

<な……何ィィィ!?>
 
 これはフェニックス部隊のMS全機が標準装備しているオプションパーツ、『ネェルDG細胞』の効果であった。自己再生の特性を持つDG細胞を更に改良した特殊なナノマシンが、機体の損傷を瞬時に修復するのである。

 流石にMSの破壊された腕が、しかも戦闘中に生えてくるなどという状況は相手も想定出来ていなかったのだろう。驚いているのが装甲越しに伝わってくる。まあ当然の反応というヤツだ。『ネェルDG細胞』一つ取ってもこの世界に於いては完全なオーバーテクノロジーなのだから。

 敵パイロットが動揺して集中の乱れたその瞬間を狙って、シスはコントロールも回復したCBの、クロービーム砲を撃った。今度は敵が動揺している事もあったので面白い程簡単にビームは機体に突き刺さり、リジェネレイトの両腕と右足が吹き飛ばされる。

<ぐおおっ………野郎ォォォッ………!!>

 通信回線からは唸り声が聞こえてきて、そして破損したボディを捨てて再び別の予備パーツへと合体し、襲ってこようとする。だが、

「!!」

 ドオオオオオ………

 リジェネレイトとシス達3機の間を巨大なエネルギーの奔流が横切る。これ程の破壊力を生み出せるのはフェニックス部隊の中でも唯一機、カチュアのウイングゼロカスタムだけだ。そう思ってシスが見ると、そこには予想に違わず宇宙空間に純白の翼を広げ、ウイングゼロカスタムがこちらへと向かってきていた。向こうから撃ってきた事で戦闘が始まったので、エターナが出撃させたのだろう。

 部隊専用の通信回線からカチュアの声が聞こえる。

<シス、大丈夫!?>

「ええ、問題ないわ……」

 と、愛想のない返事を返すシス。カチュアもこれがいつもの事なので別に怒ったりはしない。

 リジェネレイトの方はと言うと、流石に全員がエースパイロット以上の腕前を持つ敵を相手に1対4は厳しいと思ったのか、動きはない。と、思っていたそこに通信が入ってきた。

<今回はここまでにしよう……だが忘れるな。お前達はこの俺、アッシュ・グレイの獲物だ。いずれ必ず、その命を貰い受ける………必ずな………>

 そう捨て台詞を残すと、リジェネレイトは高速機動形態に変形し、戦闘宙域からあっという間に離脱してしまった。

「……へえ、正確はキレてるみたいだけど、中々判断力はあるみたいね」

 と、カチュア。カナードがそれに頷く。

「確かに。この4対1という状況の中、自分の不利を悟るとあっさり退くなんて中々どうして……」

「ともあれ、取り敢えず私達の任務、『アメノミハシラの防衛』は果たしたわ……引き上げましょう」

 と、シス。全員がこれに従い、それぞれアメノミハシラへと戻っていく。その途中で、CBにステラのガイアから通信が入った。回線を繋げる。

「どうしたの? ステラ?」

<シス……さっきは、ありがとう………>

「……………」

<……シス?>

 相手が何も言ってこないのを、ステラが疑問に思い始めた頃、

「…ん……どういたしまして。ステラ……」



 数日後、あの所属不明の機体、リジェネレイトの情報を探っていたフェニックス部隊であったが、見るべき情報は皆無。

 地球軍かザフトかは分からないが、とにかく上層部があのMSについての全ての情報を隠匿しているのだろう。パイロットは恐ろしく問題のある人格・性質であったが腕は確かであり、またあのMSの性能をフルに引き出している感じでもあった。あれは明らかにエース級の腕前だった。この人材難の現状で、どちらの軍にしてもエースと呼べる腕前のパイロットを手放せるような余裕は無く、処罰するにしても大した事は出来ない。

「……それを良い事に、暴れまくっている訳ですかねぇ?」

 ユリウスがモニターを前にして、頬杖を付いて言った。彼の目の前のモニターには、あのリジェネレイトがやった物であると思われる被害などが表示されていた。とにかく勢力問わずに大勢の者が。地球軍もザフトも、そして戦争には中立の立場を取っているジャンク屋ですらも、あのMSによって被害を受けている。

 それ故フェニックス部隊に傭兵として、「あのMSを破壊してくれ」という内容の依頼がこの数日で十数件も舞い込んできている。フェニックス部隊としてはそれを受けない理由はなかったが、だが仮に受けるにしても今は無理だった。

 今は完全に情報が不足している。

 どこの所属で、居場所も分からない。そんな物を倒せと言われてもそれは無理な相談だった。

 だが、そんな中にも転機は訪れる。始まりは、ある男からの通信だった。





<俺は情報屋のケナフ・ルキーニ。フェニックス部隊。君達に用がある>

 年齢は30代ぐらいか。中々一筋縄では行かなそうな面構えで、フライドチキンのような特徴的な髪型をした男だった。フェニックス部隊の面々も、彼の事は知っている。彼は業界では随一と言われる敏腕の情報屋で、確かに情報の値段は高いがその情報には値段以上の価値があると評判である。その反面、渡された情報を正確に吟味しなければ、その情報に足をすくわれる事にもなる、と、警戒されている人物でもあった。

 そんなルキーニを前にして、ここはやはりショウが不在の現在、彼から隊長代行を任されているエターナが前に出て応対する。

「あなたの名前は知っていますが、ですがお会いした事はなかった筈です。仕事のご依頼ですか?」

 と、エターナ。ルキーニは「そう思ってくれて構わないよ」そう返すと、詳しい話に入る。

<あなた方が先日接触したあの機体。あの機体は私にとっても厄介な代物でね。それに聞いた所によると君達はあの機体とまた一戦やらかすつもりでいるという。そこで私にも少し協力させてもらいたいと、そう思ったのさ>

 フレンドリーに話しかけてくるルキーニだが、フェニックス部隊の方はいまいち信用ならない、といった表情である。

 まあそれも当然。傭兵や情報屋の世界では、興味半分で何かをすると言った事はない。全ては純粋な損得勘定であり、ギブアンドテイクだ。

 今回の場合、フェニックス部隊の仕事に協力する事によってルキーニが何か得する事があるのか。それを話さない限りは、おいそれと信用する訳にはいかなかった。ルキーニの方もその反応は予想通りであったのだろう、にやりと笑うと、次のカードを切った。

<疑っているのなら、協力する理由を話そう。あの機体はかつて連合が極秘開発していた4機のMSをザフトが奪取し、それを元に独自に開発した11番目の機体だ。そしてそれが守っている存在が、私にとってどうにも邪魔な物になってきてね>

「………ですが、ご存じとは思いますが、私達はこのアメノミハシラを守る任務を現在も継続中です。ここを留守にする訳にも行きませんから、仮にあの機体の所在が分かったとしても、全ての戦力をそちらに差し向ける事は出来ませんよ」

 エターナはそう答える。だがルキーニの返事は、そういった事情をも想定した物だった。

<無論それ分かっている。だからそこからが私に出来る協力だよ。一つはあのMSの居場所についての情報の提供、そしてもう一つは……>

「貴殿がMSにでも乗って協力してくれるのでござるか?」

 脇で聞いていたケインが質問する。ルキーニはその質問には穏やかに首を横に振った。

<私はいわゆる手配師みたいな者でね。MSには乗らないが、君達を有利にする為の協力者を呼ぶ事は出来る。ジャンク屋と傭兵。双方にはもう話を通してある。正義感と仕事、両者の行動理念は対極に位置する物ではあるが信用出来る奴等だよ>

 そうしてルキーニはモニターを切り替える。そこには、こちらへと向かってくる数機のMSの映像が映っていた。

「あれは………赤と青のアストレイ!?」

「ミナさんが言っていた、P02とP03。ヘリオポリス崩壊の際、オーブの手を離れた機体………」

「最強のジャンク屋、ロウ・ギュールと、業界最強とも言われる傭兵部隊サーペントテールのリーダー、叢雲劾……ですか……成る程、協力者としてはこれ以上は望めませんね」

 と、フェニックス部隊の面々はそれぞれコメントする。

<で、この依頼、引き受けてくれるかね?>

「その前に一つ聞かせて下さい。あの機体が守っている存在とは……一体何なのです?」

 もっともな質問であるが、だがルキーニははぐらかして答えた。

<それは君達が自分で確かめる他はないね。口で言っても”あれ”の恐ろしさは伝わらない。実際にその眼で見なければ………ただ、ヤツの守っている存在は、そして奴自身、全世界の人間の『敵』となるべき存在だとは言っておこう……>

「……………」

 挑発していると共に、知識欲をくすぐるような物言いである。それに対してエターナはしばし瞑目して思案した後、答えた。

「良いでしょう。その依頼、引き受けましょう」



 同じ頃、地球軍月基地では。

「謎のMA、ですか?」

 ソキウス達に宇宙空間での戦闘を教えていたシェリルであったが、その途中に上官の一人に呼び出され、新しい任務を与えられていた。

「そうだ、ここ最近、かなりの速度を持つ所属不明の機体によって、我が軍の補給基地や拠点が攻撃を受けている。勿論防衛部隊も応戦はするのだが、そのMAの速度は尋常でない程に早く、それによって一撃離脱の戦法を取られると、対処する方法がなくなってしまうのだ。君には、このMAの拠点の捜索、及び可能であれば機体の奪取、もしくは破壊を行ってもらいたい」

 その命令に、シェリルは敬礼をして応え、復唱する。

「了解しました。シェリル・ルシフェル大尉、これより正体不明MAの捜索任務に就きます!!」





TO BE CONTINUED..


感想
ガンダムファサーゴはチェストブレイクでは無いのですな。あれならトリプル・メガ・ソニック砲でリジェネレイトくらい1発でケリが付くのに。でもVPS装甲はMS級の質量がぶつかっても耐えられるのですかな。確か自由のレールガンに撃ち抜かれた事があったような。
ところで丸い悪魔やサイコロの登場は何時ごろでしょうか?