「さて、あのMS………リジェネレイトでしたか? あれを討伐する為のメンバーですが……」

 ルキーニが集合する宙域と時間を告げて通信を切った後、エターナは部隊のメンバー全員を集め、そこへと派遣する人員を選んでいた。彼女達の仕事はあのMSを破壊する事だけではなく、このアメノミハシラの防衛もあるのだ。

 戦力を分散するのはあまり良い判断とは言えないが、だが受けてしまったからには仕方がない。彼女達はプロだ。契約が成立している以上、依頼主を裏切る事はない。その為リジェネレイト討伐に向けるメンバーの選出は、良く考えねばならなかった。

 彼女は顎に手を当て、思案する。その仕草は彼女の美貌と相まって、まるで一つの完成された絵画や彫刻のような芸術品の如く見えた。

 その美しさは男であれば誰もが目を奪われかねない程で、現にブリッジに集合したメンバーの中で、ユリウス、オグマ、ケイン、スティング、アウル、カナードらの男衆は、例外なく彼女に見とれている。

 しばらくそうしていた後、考えがまとまったのだろう。エターナは顎から手を離し、全員を見渡す。それとほぼ同時に、鼻の下を伸ばしていた者達もキリッ、とした表情に戻る。まるでだるまさんが転んだである。

「?」

 エターナはそこに僅かな違和感を感じていたようだったが、だがほんの少し首を傾げただけだった。そうして本題に入る。

「今回出撃するのは、まず……ケイン」

「承知つかまつった」

 変わり者揃いのこの部隊の中でも、一際異彩を放つ陣羽織の男が頷く。

「それにユリウス、あなたです」

「了解しました」

 ショウと年の変わらない、自称天才の彼もまた頷く。

 今回出撃するメンバーはこの二人か。と、ブリッジに集められた者達は思った。まあ二人と言ってもフェニックス部隊の正規メンバーであるこの二人の実力はまさに一騎当千。あのMS、リジェネレイトが何を守っているのかは知らないが、ちょっとした拠点ぐらいを墜とすには十分すぎる戦力と言える。だが、エターナの言葉には続きがあった。

「それと、今回は私も征きましょう。いきなり撃ってくるような礼儀知らずには、教育の必要がありますからね」

 おっとりとした口調だったが、それを聞いた者の中で、正規の部隊メンバーは例外なく驚愕をその表情に浮かべた。逆にこの世界に来てからメンバーに加わった、ステラやアウル、スティング。    カナードやセトナはその反応に戸惑っているようだ。

 そんな彼等に気付いているのかいないのか、エターナは静かな笑みを浮かべ、言った。

「私達が戻るまでの部隊指揮権は、いつも通りニキ、あなたにお預けします。よろしくお願いしますね」

 それを受けて、ニキは頷いた。多少杓子定規ではあるが、彼女は戦術・戦略に関してはかなり造詣が深く、この世界に来る前はその能力を使ってかなりの功績を収めている。だからこそ、それを評価されてこの部隊にいる訳であるが。エターナの人選は的確と言えた。

「それでは、出撃準備に取り掛かるとしましょう」

 エターナのその指示と共に、ブリッジに集まっていた一同は一斉に動き始めた。



OPERATION,34 ジェネシスα攻略戦 



 暗礁宙域。

 そこは地球と月の間にあり、重力の均衡によって小惑星やスペースデブリなどが集結した宙域である。

 当然そのような条件下である為、そこを宇宙艦やMSが通過しようとすれば高確率で衝突事故に繋がる危険な場所であり、また周囲を常に飛び交う障害物によって、Nジャマーの影響を抜きにしてもレーダーの能力は著しく低下し、人間で言うと夜中にサングラスを着用したような状態となる。それ故に通常の艦の航行ルートは、こういった宙域は避けて通るのが常識とされている。

 そこは静寂が支配する、見捨てられた世界。

 時々ジャンク屋の類が一攫千金のお宝目当てでやって来るぐらいだ。そしてそれは当然ながら一歩間違えれば死に直結する、一か八かの行為だ。それ故ここにやって来るジャンク屋は、その多くが余程の命知らずや自信、ただし根拠のないものに満ち溢れた者がその殆どだ。

 と、この地球圏で最も寂しい場所の一つとも言えるこの宙域であるが、裏を返せばそれは例えばザフトがここで秘密兵器の建造を行っていたとしてもそう簡単に地球連合には悟られない場所であるという事で、盲点と言えた。

 だがこの日、ここに集まっていたのは地球連合の軍人でもなければ、ましてやザフトの兵士でもなかった。

 隕石と隕石の隙間を縫うようにして、黄色い輸送邸が進んでいる。

 その船体にはジャンク屋組合のメンバーである事を示す、スパナを組み合わせたマークがあった。

 この艦の名は『リ・ホーム』。現在ジャンク屋の中では中々の有名人ともなっている、ロウ・ギュールをリーダーとするジャンク屋達の母艦であった。

 そのブリッジには、今は彼等ジャンク屋のメンバーだけではない、傭兵や、元連合兵であり、現在はL4コロニー群に潜伏中のアークエンジェルとクサナギに身を寄せているパイロット兼技術者など、多種多様な人種が、だがそうしている事に何の疑問も違和感も感じていないかのように、自然とそこに在った。

「みんな聞いてくれ!!」

 ロウが叫んだ。

「俺はジャンク屋だから出来れば戦いなんかしたくない!! だが、奴を止めなければ……奴の後ろに強大な殺戮兵器があると分かった今、俺は何としてもその動きを食い止めたい!! 今まで悪い奴や嫌な奴、色んな奴に会ってきたが、だがだからって死んでも良いなんてある筈がない!! みんな俺に力を貸してくれ!!」

「「「おおーーーっ!!!!」」」

 ブリッジに歓声が上がる。

 ロウの言葉は感情が剥き出しで、美辞麗句などとは程遠く、また要領を得ない所もあったが、だがそれでもそこには純粋で、それでいて強い意志と人を動かす”何か”、カリスマとでも言うのだろうか、それが確かにあった。

 興奮に包まれ、気のせいか数度程室温が上昇したのではないかと感じられるブリッジで、一人氷のように冷静な男がいた。

 傭兵部隊サーペントテールのリーダー、叢雲劾である。

「……5分前だ」

「えっ!?」

 彼がぼそりと呟いたその言葉に、ブリッジが急に静かになった。

「ルキーニが言っていた、今回の作戦を協力して行う傭兵達が合流するという時間まで、あと5分だ」

 そう言われてプロフェッサーがレーダーをチェックするが、

「今の所レーダーにはそれらしい機影は確認されていないわね………」

 と、言う事らしい。MSの速度などから考えるといかにここが暗礁宙域でレーダーの調子が良くないとは言え、そろそろ探知されても良い頃だろうが……

 そうこうしている間に1分過ぎ2分が過ぎ、合流予定時刻の1分前となった。

「ふん、奴等来ないつもりだ。最強の傭兵部隊なんて言ってるが、臆病風に吹かれたのか、それとも時間も守れないような奴等なのか……」

 サーペントテールのメンバー、イライジャ・キールは吐き捨てるように言った。

 傭兵という仕事は信用で成り立っている。彼等が生きているのはいつ裏切られるか分からない殺し殺されの裏の世界。だが逆にそれ故に、信用は重要な物だった。信用出来ない兵士を使いたいと考える者などいない。そしてそれは口先だけではなく、態度で証明し、そして勝ち取る物だ。彼等サーペントテールも当然その辺りは徹底しており、契約が成立し報酬が支払われている限り、決して依頼人を裏切ったりする事はない。

 今回一緒に仕事をする事になったフェニックス部隊というのはここ数ヶ月の間に急激に頭角を現してきた傭兵部隊で、どこの所属にもない未知のMSを運用し、戦闘能力だけならサーペントテールをも凌ぐとさえ言われる集団である。だからどんな凄い奴等かと正直会うのを楽しみにしていたのだが……その実、約束の時間も守れないような三流傭兵だったとは。

 それなりに期待が大きかった為に、失望を感じるイライジャ。その時だった。ブリッジにいた最年少の人物、風花・アジャーが声を上げたのは。

「みんな見て!! 前の隕石を!!」

 彼女の言葉に全員の視線が一点に集中する。

 リ・ホームの前方にある隕石の一つ。別に何の変哲もないように見えるが、だがその隕石に、突如として赤い筋が縦に走った。これはビームサーベルによって切断面が赤熱化される現象だ。

 そして次の瞬間、断面がドロドロに融けた隕石が真っ二つに割れ、その背後からX字の翼に、巨大な剣を持ったMSが現れる。と、同時に、

<フェニックス部隊が一人、クロスボーン頑駄無X3!! ケイン・ダナート推参!!!!>

 リ・ホームのモニターに、ケインの顔が大写しになる。続いて、

「!? これは………艦の周囲に何か高速で動く物があります!! MS……にしては小さすぎますが……」

 と、プロフェッサーに代わってモニターをチェックしていたリーアムが報告する。既にリ・ホームの窓からでも、艦の周りを飛び回る何かが見えていた。

 滅茶苦茶な軌道を描いていたかに思われた”それら”は、やがて一点へと収束する。

 手、足、胴体。それらはMSの各部のパーツだった。

 バラバラだったパーツが合体し、それは一体のMSとなる。同時にケインで一杯だったモニターを二分して、少年の顔が映し出された。

<フェニックス部隊整備主任兼MSパイロット、ターンX!! ユリウス・フォン・ギュンター、只今到着!!!!>

 レーダーにも引っ掛からず、突如として現れた2機のMS。そして個性的という言葉すら生温く感じる程の強烈なインパクトを与えるそのパイロット2名に、リ・ホームの者達は開いた口がふさがらない。

 が、これがまだ前座に過ぎない事を、彼等は即座に思い知る事となった。

 ビー!! ビー!!

 突如としてリ・ホーム内に警報が鳴り響く。慌てて我に返ったリーアムが計器をチェックすると、彼は愕然とした表情を浮かべた。

「大変です!! 上方より巨大な隕石が接近中、回避間に合いません!!」

 X3とターンXの登場に誰もが気を取られ、本来気付いて然るべき筈の隕石の接近を見落としていた。当たればリ・ホームの艦体など一発で粉砕させ、航行不能、轟沈、乗組員は全員死亡するだろう。

 しかし。

 ピシッ………

 宇宙では音は聞こえないが、だが思わずそんな音が聞こえたように思えたのは、その隕石に突如としてクモの巣のように、無数の亀裂が入ったからだ。

 バゴォォォォォォ………

 次の瞬間には、リ・ホームよりも巨大だった隕石は文字通り木っ端微塵に粉砕され、その殆どは無害な石ころ程度の大きさとなって周囲に飛散した。

 そして残骸の中から姿を現す、漆黒のMS。

 だがそれは彼等の知るMSとは、明らかに一線を画する存在だった。

 何よりも目を引くのは、その巨大さだった。

 MSの全高は大抵20メートル前後という所。それはMSは機動性を重視した兵器であり、無闇に大きくては速度は落ち、また的が大きければ敵に狙い撃ちされるという考えが働いているからでもある。それによって発揮される高い機動性によって戦艦やMAを圧倒するというのが本来のMSの戦い方であり、それによってMSはMAの5倍、パイロットによっては10倍とも言われる程の戦力の獲得に成功したのだ。

 突如として出現したそのMSは、そんなMS本来の運用思想から大きく逸脱した存在である事は間違いなかった。

 肩や胸、脚にはそれぞれ大口径のビーム砲が多数装備されているのが確認出来る。

 恐らくこのMSは移動砲台に機動性を付加する目的で建造された機体で、主たる任務は後衛での援護射撃だろう、と、リ・ホームの中で最もそれらの分野に関して造詣の深い人物、ジャン・キャリーは分析していた。実際それは正解ではある。

 だが彼はこの後そんな小賢しい考えが、人の力によって凌駕される事を知らない。

<フェニックス部隊副長、サイコガンダムMkーV、エターナ・フレイルです。この度ケナフ・ルキーニ氏との契約に従い、こうして参りました>

 例によってモニターに、今度は銀髪の美女が映る。もう誰一人、言葉もない。劾さえも。

 否、一つだけあった。

「………時間通りだな」





 こうして予定のメンバーが揃い、リジェネレイト攻略に向かう一行。

 既に予測される戦闘宙域に突入している為、リ・ホームは後方で待機。これ以降はMSを単独で前進させている。

 まず第一陣として出撃するのは、ジャン・キャリー専用の白いM1アストレイ、イライジャ専用の青と赤が入り交じったカラーのジン。そしてエターナのサイコガンダムMk−Vの3機である。

 今回の作戦では、まずセンサーユニットを装備した劾のブルーフレームがアッシュ・グレイが守っているという”もの”の所在を探知。攻撃はそれからという段取りになっているので、前衛である彼等は劾が調べ終わるまで、母艦を攻撃されないよう防衛ラインを死守する必要がある。

 その点、巨体に似合う重装甲により、鉄壁の防御力を持つサイコガンダムMk−Vは適任と言える。

「来ますね………」

 エターナが呟く。

 そのきっかり2秒後、レーダーが敵影をキャッチした。ジャンとイライジャは彼女がレーダーに機影が映る前からリジェネレイトの接近を察知していたのには驚いたが、良く考えればそれはサイコガンダムの索敵能力が優れていた為であろうと納得する。

 そう考えている間に、今回の作戦のターゲットの一つが姿を現した。

 この作戦、アッシュ・グレイが守っている”存在”を破壊するのも勿論重要ではあるが、それと同様に奴自身をどうにかする事も重要だった。奴の暴走によって出た被害は、それが民間の物だけに絞っても数え切れない程だ。しかも驚く程の短期間で。放ってはおけないというのは、ロウ達も、そしてエターナ達フェニックス部隊も仕事を抜きで考えたとしても共通の認識だった。

 今回、確認出来る機体は一機。リジェネレイトただ一機のみだ。

 腕に自信があるのか、それとも獲物を他人に横取りされたくないのか。恐らくは両方と言った所だろうが。

 守備隊もいるだろうが、彼等には後方の防衛をやらせているようだ。

 と、そこまで3人が考えた時、リジェネレイトに動きがあった。全周波で狂気を孕んだ声が入ってくる。

<仲良く殺されに来たかぁ!!!!>

 その通信がパイロットの耳に届くと同時に、リジェネレイトはロングビームライフルで3機を撃ってくる。

「ううっ!?」

「うおおっ!!」

「出て来なければ倒さずに済むのに」

 イライジャ、ジャン、エターナの3人は反射的に機体を操作し、すんでの所でビームの光の槍を避けた。連射されるビームは一発一発の正確さもさる事ながら、こちらが回避する事も予測して、避けたその瞬間を狙ってくる。

「きわどい狙いだ!!」

「性格はキレているようだが、攻撃は正確だぞ!! 心してかかれっ!!」

 二手に分かれてリジェネレイトを牽制しようとするM1とジン。サイコガンダムMk−Vはやや後方で、援護射撃を行う。

「貴方の好きにはさせませんよ」

 胸部の連装ビーム砲の砲口に光が宿り、そこから無数の光条がリジェネレイトへ向かい迸る。リジェネレイトの方は、持ち前の素早い動きと精密性も高い操縦によって雨のように放たれるビームをかわした。

「…………」

<このボンクラ共がぁぁぁぁーーーーっ!! ガハハハハハハハッーーーーッ!!>

 アッシュは反撃のビーム攻撃を、眼前の黒い巨大なMSへと放った。





「凄いですね………」

 リ・ホームのブリッジでは、プロフェッサー、樹里、リーアム、風花達が前方のエリアで繰り広げられるMS戦をモニターしていた。パイロットの性質がそのまま反映されたかのようなリジェネレイトの猛攻を、サイコガンダムMk−V、M1、ジンの3機は上手くかわし、リジェネレイトの気を引きつけている。

 ここまでは予定通りなのだが、その戦いは凄まじいの一言に尽きた。

 アッシュ・グレイ、ジャン・キャリー、イライジャ・キール、そしてエターナ・フレイル。

 この4人はいずれも現在この地球圏に於いて最高クラスのパイロット、エースパイロットの中のエースパイロットと言って良い実力の持ち主であり、その乗機も最上級の物か、あるいはその特性をパイロットが知り尽くし、最大の能力を発揮出来る機体だ。

 それらの最強とも言える組み合わせが戦うのだ。戦いが激しい物となるのは、ある意味必然と言えた。

 風花がその凄まじさを思わず口に出したのだとリーアムは思い、

「ええ、これがエースパイロット同士の戦いというものなのですね……」

 と、相鎚を打つ。だが風花は「そうじゃなくて」と返した。

「私が言ってるのは、あのエターナさんって人の操縦技術の事です」

「!」

 そう言われてリーアムが見ると、モニターには依然として戦闘の様子が映し出されていた。

 4機のMSはめまぐるしく動き回り、互いの敵を撃ち倒さんとビームやマシンガンを撃ちまくる。

 そのスピードは確かに凄まじいが、だが風花はその先を見ていた。

 全ての機体は敵の攻撃を紙一重でかわし、そして間髪入れずに反撃に移る。そう、全ての攻撃をかわして。

 だが、他の3機と比べてサイコガンダムMk−Vには明らかに異なる特徴があった。

 それは一目瞭然、機体のサイズだ。ジンやM1の倍近くはある。そんな機体を操っていながら、なお他の機体と同様に回避行動を行う。サイコガンダムMk−Vの設計思想が敵の攻撃を回避する事を想定していないのは明らかだ。それよりもむしろ火力を高く、装甲を厚くして、ちょっとやそっとの攻撃は蚊が刺したように跳ね返し、大火力で敵を掃滅する。それがあの機体の本来の戦法の筈だ。

 だがエターナはそんな機体に乗っていながらなお、見事な操縦でリジェネレイトの攻撃を全てかわし切っている。

 推力が強化されているのかサイコガンダムMk−Vの機動性は他の3機にも劣らない程度の物だが、その大きさ故運動性は明らかに劣る。それにも関わらず、だ。

 エターナの操縦技術はトップエースの中にあっても、そこからもう一段階頭抜けているものなのだ。

『それにしてもこれ程とは……以前オーブで見た、ショウ・ルスカという傭兵と互角か、あるいはそれ以上かも………』

 将来の夢として傭兵を志す風花はそんなエターナに、羨望と畏怖、そして尊敬の感情を抱いていた。



 そうしてリジェネレイトの注意を3機が引きつけている間に、センサーユニットを装備したブルーフレームがリ・ホームに帰還した。どうやら「目標の物」を見つけてきたらしい。ここでこのまま戦いに加わらないのは、センサーユニットは索敵能力重視の装備なので、リ・ホームで戦闘用の装備に換装する為である。

 既にリ・ホームの格納庫では、ロウがジャンから受け取った新装備の最終調整を行っている。

「『目標』は確認したぞ。ロレッタとリードは残してきた」

 劾は簡潔にそれだけ言うと、一旦ブルーフレームを格納庫に入れた。プロフェッサーはそれを確認すると、次の指示を出す。

「OK、装備を換装しましょう。レッドフレームの装備の調整も、そろそろ終わる事だし」

 その指示を最後まで言い終えるのを待たずに、リーアムは慌てて格納庫へ走った。構造は迅速が一番である。

 彼も一見地味であるが、メカニックとしての腕前は本物である。ものの2分でブルーフレームの装備の換装をやり終えてしまった。報告をブリッジに入れる。

 プロフェッサーはそれを受けて、思い切り受話器に怒鳴った。

「ロウ!! 劾!! 今外に出すわよ!! 助っ人のお二人さんも、ここからが正念場よ!!」

<了解、まあ天才であるこの僕に任せといて下さい>

<承知>

 エターナ達を信用していない訳ではないが念には念を入れて、リ・ホームの周囲を護衛している二機、ターンXとクロスボーンガンダムX3から通信が入ってくる。それを確認すると、プロフェッサーは格納庫のハッチを開放した。

 リ・ホームの甲板にあるクレーンのようなパーツが動き、その中からMSがせり上がってくる。その数は2。



<ブルーフレーム、カモーーーン!!> 



 一機は静けさと冷たさを感じさせるような蒼のフレームを持つ機体で、機動力を重視しているのであろう、背中には巨大な翼のようなパーツを装備している。軽量化に伴い装甲は薄そうなので、防御はパイロットの腕による回避が中心となるのだろう。乗り手を選びそうな機体である。そして、



<レッドフレーム、カモーーーン!!> 



 もう一機は燃えるような赤のフレームを持ち、全体的にはスッキリとまとまった感じのフォルムの中で、一際巨大な腕部が目を引いた。一目見てパワー重視のMSであると分かる。一見すると無骨な印象を受けるが、だがその中にも機能美に通じる美しさを感じる。

「新開発パワーシリンダーを組み込んだパワードレッドフレームだ!! こいつで貴様を止めてみせる!!」

 ロウの叫びと共にレッドフレームが動き、リ・ホームの横っ腹に括り付けてあった”もの”を抜く。

「おおっ!!」

「あれは………」

 それを目の当たりにして、思わずケインとユリウスは驚きの叫びを上げた。

 それは日本刀だった。だが普通の日本刀ではない。「MSサイズの」ただの日本刀でもない。刀身が150メートルはある、戦いのプロであるケインやユリウスをして冗談以外の何物にも見えないかのような、そんな恐ろしい程の長さを持つ日本刀であった。

「ウーム、見事な仕上がりでござるな」

 と、侍であるケインは簡単の溜息を吐く。大きさは非常識だが、だがその出来は見事という他はなかった。刃に向けて髪の毛を吹き付ければ、それだけでその髪の毛が切れるだろう。そんな鋭さと、少々の攻撃は跳ね返す強度、つまり粘りを感じる。その刀、”150メートルガーベラ”は、間違いなく名刀であった。

「確かに間合いが長い方が戦闘では有利ですが……」

 ターンXのコクピットで、ユリウスが半ば呆れながらもそうコメントした。

 彼の言う通り、戦闘において間合いが長いという事は、それだけで有利に立ち回れる。聞いた話ではあるが、例えば同じ段位の剣道と薙刀が戦えば、まず薙刀の圧勝で終わるそうだ。剣で槍に勝つ為には、剣で戦う者に槍の3倍の技量が必要だとも言われている。武器が長いという事は、それ程圧倒的なのだ。が……

「使いこなせるのですか? そんな物?」

 まあ、ユリウスの疑問も尤もであった。大体一振りするだけでも、MSの駆動系や関節部分に尋常ではない程の負荷がかかるだろうに。と、極めて常識的な疑問を抱く。だがしかし、

「うおおおおおりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃあ!!!!」

 そんな彼の不安を払拭するように、動作確認の意味もあったのだろう、レッドフレームは見事な剣舞を見せた。しかもあれだけの大きさを振り回して、駆動系にも関節部にダメージを受けた様子は全く無い。これには、日頃から異常な物を見慣れているフェニックス部隊の面々も、

「うむ、良い太刀筋でござる」

「見事ですね」

「………脱帽だよ」

 と、感心するばかりだった。

 そしてまたアッシュ・グレイも、その剣捌きを驚異に値する物だと本能で感じ取ったらしい。

「ふん、ではこちらも切り札を出す事にするか………」

 そう呟くと、手元にあった計器を操作する。

「ミラージュコロイド解除!!」

 その掛け声と共にリジェネレイトの背後の空間が歪み、そこから何かが現れる。

「あれは……」

 いやその表現は的確ではない。現れると言うよりも、それは以前からそこに在った。それをミラージュコロイドで隠蔽しており、今それを解いた為に姿を見せたのだ。どちらかと言えば小型の、それでもちょっとしたステーション並みに大きいが、それは、エターナ達にはどのような用途で使用される物なのか、一目で分かった。

「コロニーレーザーやソーラレイ、カイラスギリーと同じタイプの………」

「超長距離大量殺戮兵器………」

 彼女達の驚愕を楽しんでいるかのように、アッシュが笑いながら叫んだ。

「そう、ジェネシスα!! ザフトの超兵器!! こいつの発するレーザーは、射線上にある物全てを焼き尽くす!!!!」

 ますます狂気を強めて笑い出すアッシュを見て、エターナはあの男、ルキーニが何を懸念して自分達にリジェネレイトとそれが守っている存在、つまりジェネシスαの破壊を依頼したのか理解出来た。

 これは最悪の組み合わせだ。適当な口実を付けて殺戮を繰り返す男が乗る最高級MSと、核ミサイル以上の超兵器。確かにこの組み合わせは全世界の人間の『敵』となるべきもの。放っておけばルキーニ自身も危ない。それが理由であったのだ。

 そしてこれを見てしまった以上、エターナも引き返す訳には行かなかった。元よりそのようなつもりもないが。

 必ずやこの兵器とリジェネレイトを破壊せねばならない。

「覚悟は良いですか? 私は出来ています。私達の後ろには、多くの命があります、負ける事は許されません!! 行きますよ皆さん!!」

「「「おおっ!!」」」

 エターナの掛け声と同時に全機がリジェネレイトへと襲い掛かった。



 そうして、リジェネレイトは最も守るべきジェネシスαを離れて、エターナやロウ達を迎え撃つ構えを見せた。

 それはアッシュが自分の腕に絶対の自信を持っており、またジェネシスαの周りには守備隊の中でも選りすぐりの者を配置しているという安心感からの行動だった。

 だがこの時頭に血が上っているアッシュ・グレイは気付かなかったが、その守備隊が配置されているはずの宙域には、現在は無数のジンやゲイツの残骸しか存在してはいなかった。

 しかもそれらの残骸は破壊されてからそれ程時間が経っていない、と言うよりも今、破壊されたという感じだ。

 不意に空間が歪み、その歪みの中から融け出すようにしてMSが姿を現す。ジェネシスαに使用されていた物と同じ、ミラージュコロイドである。

 姿を現したMSは、やはりミラージュコロイド装備機の特徴としてブリッツやゴールドフレーム天のような黒を基調とした機体色をしていた。だがその二機と比べて、その機体の黒は深い。一切の光を呑み込んでしまうかのように。

 『葬儀』の名を持つその機体は、その漆黒と両手に持った二振りの対艦刀から死神、いや処刑人を連想させた。

 そのMSの背後から、3機のロングダガーが姿を現す。

「未確認のMSの捜索に来てみれば……何やらおかしな事になっているようですね……」

 と、漆黒のMSの中でその女性は呟いた。

 地球軍大尉。

 剣を持つ舞姫。

 GAT−X402フューネラル、『ソードダンサー』シェリル・ルシフェル。彼女もまたこの戦場に来ていたのだ。

「取り敢えず、まずは調査を行いましょうか……ソキウス、私の後に付いてきて下さい、くれぐれも気取られぬよう……」

 彼女がそう命令するとフューネラルと3機のロングダガーは、回り込むようにゆっくりと主戦場へと向かっていった。





TO BE CONTINUED..


感想

あれ、ジェネシスαってただのレーザー推進システムじゃありませんでした? サイズも小さいし、ガンマ線レーザー砲には改造されてない筈ですが。しかしまあ、アストレイが何故か邪魔者でしかないような化け物に乗ってますねえ、フェニックス隊は。ターンXがいて何故劾たちが必要なのか。そしていつの間にかこんな所に来ているシェリル、何でこれの存在ってるんでしょう。