第2話 力の目覚め、悲劇



 地上にあがったアムロ達を待ち受けていたもの、それは3機のザフト製MSジンだった。

「くっ。まずい。」

 MSで戦闘をするのは16年ぶりである。おまけに今は腹部に怪我まで負っている。この状況で3対1。クロスガンダムの性能がジンを大幅に上回っている事を考慮に入れてもかなり分が悪い。しかも、ジンのデータ自体数ヶ月前のもので当てになるかどうかわからないのだ。

「おとうさん・・・・。」

 心配そうな表情でアムロを見上げるユズハ。その手は彼の胸元を握り締めかすかに震えていた。アムロは覚悟を決めた。

(父親が娘の前で位かっこつけない訳にはいかないな。)

そんな事を考え、自分も年をとったのだろうか思う。そして機体を操作し、構えをとる。

「はっ、ナチュラル風情がたった一機で俺たちと張り合う気でいるぜ。」

 それを見てジンのパイロットの一人が嘲笑しとびだす。クロスガンダムの肩口に振るわれるブレード。

「PS装甲展開!!」

 しかし、ジンのブレードがクロスガンダムを切り裂く寸前、フェイズシフト装甲を展開され、ブレードがはじかれる。そして、アムロは体勢が崩れた瞬間を狙ってクロスガンダムの腰に備え付けられていたブレードを振るい、切り裂く。

「なっ!?」

 攻撃をはじかれたこととナチュラル程度と侮っていた相手に反撃をくらったことで驚愕するジンのパイロット。そしてアムロはその隙を逃さなかった。

「インコム!!」

 肩の後方に収納されていた有線ビーム砲台、インコムを発射する。そしてインコムはアムロの巧みな操作で、ジンを取り囲む。そして、全てのインコムから一斉にビームが発射され、ジンを貫いた。

「ナチュラル風情がよくもやったな!!!」

 その光景を見てはっとするユズハと仲間をやられたことで怒りをあらわるにするザフトのパイロット。マシンガンを乱射する。PS装甲のおかげで機体にダメージは無いがその振動によってアムロはその傷口が開いてしまう。

「くっ。」

「お父さん!!」

 苦悶の声を上げるアムロとそれを見て悲鳴をあげるユズハ。アムロは苦痛をこらえビームライフルを抜くと何とか反撃をしかける。強力なビームがジンの腕を吹き飛ばした。

「何て威力だ!?ナチュラルがこんなもの作ったって言うのかよ!?」

 驚愕するザフト兵。だが、アムロもほとんど力尽き、よろめく。ユズハが慌てて声をかける。

「お父さん!?大丈夫!!」

「あ、ああ。」

「キケン、キケン、アムロ、ピンチ。」

 答えとは裏腹にアムロの声に力がないのは誰の目にも明らかだった。高精度のコンピュータを積んだハロ・ペットも危険を訴えている。それを見て、ユズハはある決意をする。

「お父さん。下がってて。私が・・・・・・私が戦う!!」

「!?無茶だ!!お前はMSの操縦なんてしたこと・・・・・・。」

 娘の突然の衝撃的な発言に思わず大声で叫ぶアムロ。だが、それに傷に響き再び苦悶の表情を浮かべる。それを見て、ユズハは再び決意を固めた。

「大丈夫。さっきお父さんが動かすのを見てて操作方法は大体覚えたから。」

「覚えた!?」

 娘の発言にアムロが驚愕しかけた時、ジンが再びビームバズーカーを発射した。コックピットの横にいたユズハが身体を乗り出し、とっさに機体を操作する。そして、機体は反応をしめし、それを回避する。

「あ、あぶなかった・・・。」

 それにほっとするユズハ。だが、アムロにとってはその光景は衝撃的なものだった。

(!!まさか、たったあれだけ見ただけで本当に操作方法を取得したと言うのか!?まさか、まさかこの子もニュータイプなのか!?)

 娘が行った行為に愕然とし、さらに傷の痛みで意識を朦朧とさせながらも、それでもこれだけは言わなければと口を開く。

「だが、ユズハ、わかってるのか?ここで戦うってことは人殺しをするってことなんだぞ?」

 その答えにびくっと身体を震わせながら、それでもしっかりした声で答えた。

「わかってる・・・・。けど、私は死にたくないし、お父さんが死んじゃうのも嫌だから・・・・。」

 その悲壮な決意に何も言えなくなり、なりよりも娘にそんな決意をさせてしまった自分をアムロは誰よりも不甲斐なく思えた。そして、ユズハはアムロを壁の法に持たれかけさせると自分がシートに座り機体を操作する。

「これで!」

 クロスガンダムのビームライフルを発射する。だが、ザフトのパイロットも流石に素人のそんな攻撃にそうそうやられたりはしない。ジンを操作し、それをあっさり回避してしまう。そしてその流れ弾の一発が建物にあたり倒壊する。

「ユズハ、ビームライフルはあまり使うな。下手をしたらシェルターに危害をくわえてしまう・・・。」

「う、うん。」

 アムロの指示に従いビームライフルをおさめ、ブレードを抜くユズハ。そこにアムロが操作を加え、ブレードにビームが纏われる。

「PS装甲なら多少の攻撃は受けても大丈夫だ・・・。バーニアと盾をつかいながら、なんとか近づいて接近戦にもちこむんだ。それに胸部のコックピット以外を狙えば相手を殺さずにすむかも・・うっ。」

「バ、バーニア・・・。ど、どう使えばいいの?」

「その右のレバーを操作するんだ。」

 そういってアムロは右の方にある装置を指し示す。それを握り締めるユズハ。

「わ、わかった。お父さん、もうちょっと我慢してね。すぐに病院に連れて行ってあげるから。」

 腕が振るえる。だが、その振るえを押さえユズハはレバーをひいた。機体が急激に加速する。

「!!速い!?」

 その加速に驚愕するザフト兵。マシンガンで迎撃するが、PS装甲がまたもそれをはねのけジンに近接する。

「うわあああああああ!!!!」

 ユズハが叫びながらクロスガンダムのブレードを振るう。ザフト兵はジンのブレードを盾にして防ごうとするが、加速のついた状態で振るわれたその剣はジンのブレードごと切り裂き、ジンの首を跳ね飛ばす。

「メインカメラが!!?くそ、ナチュラルが!!」

 メインカメラを破壊されたそのジンはバランスを崩し倒れる。そして返す刃でその隣にいた最後の一機をコックピットを避けて、機体の肩口から切り裂いた。

「はあ、はあ。」

 息をつく、ユズハ。そして、そこでエネルギーが付き、PS装甲が落ちた。戦いは終わった、そう思われたときだった。

(!!?)

 唐突に感じた悪意、慌てて機体を反転させたその先には首をはねられたジンが起き上がり、銃口をこちらに向けていたのだ。

「ま、まずい!PS装甲がとけた今の状態で攻撃を喰らったら・・。」

「いやあああああああ!!!!!」

 アムロの言葉とユズハの悲鳴が重なる。半ば無意識に機体を操作し、インコムを発射するユズハ。インコムから放たれたビームがジンを貫く。そしてジンは・・・・完全に停止する。

「な、何、これ、何なのこれ!?苦痛?憎悪?私、私、殺しちゃったの?い、いやああああああああ!!!!」

「くっ。」

 ジンに乗っていたパイロットは間違いなく死んだ。アムロのニュータイプ能力はそれをしっかりと感知していた。そして力に目覚めかけていたユズハも。その感覚に、初めて人を殺してしまったという事実に錯乱するユズハ。アムロにできることはそんな娘をしっかりと抱きしめて抑えてやる事のみだった。






「落ち着いたか、ユズハ?」

「う、うん・・・。」

 戦闘から数分が経過し、落ち着きを取り戻したユズハ。最もその声に力はないが。そして彼女はアムロの怪我の事を思い出す。

「そ、そうだお父さん!!早く病院にいかないと!!」

「あ、ああ・・・。」

 そう言って、コックピットから降りると、ユズハの肩を借りて市街地の方へと歩き出す。市街地の方でも先ほどまでは交戦する気配を感じていたが今はもう感じない。そして、真二つに切り裂かれたジンの横を通り過ぎようとしたときだった。

 ズキューン

 ユズハの目の前を銃弾が通り過ぎたのだ。髪がはらりと落ちる。驚いた彼女は腰を抜かし、座り込む。

「き、きさまらああああああああ!!!!」

 それはザフトの兵士だった。二人は失念していた。ユズハが殺してしまったのは2体のジンのパイロット内一人だけだった事を。彼は機体から這い出し、銃をこちらに向けていた。アムロは銃を抜こうとする。だがザフト兵士の方が早い。

 ズキューン

 再びの銃声。だが、それをもたらしたのはアムロでもザフト兵士でもなかった。連合軍の制服を着た数人の男達だった。

「あなた・・・・は?何故、ここに連合軍が・・・・。」

 アムロは問いかけながらユズハを背中にまわし、ハロ・ペットが二人を守るようにくるくるまわる。

「それよりもあんた達は何者なんだ!?何故機密扱いのMSに乗っている!?」

 彼らはアムロの質問に答えかけず怒鳴りつけ、銃を向けてきた。アムロは声を搾り出して答える。

「俺は・・・・オーブの研究部所属・・・・・アムロ・・・・クサナギニ佐だ。」

「ニ佐!?それを証明するものはあるのか!?」

 男の一人が叫び、アムロはポケットの中に入れておいた階級章をとりだしてみせる。

「これじゃあ・・・・不満かい?」

「これは!!失礼しました。」

 アムロの階級章を見た兵士達はすぐさま敬礼をとった。

「敬礼はいい・・・から手当てを・・して・・くれないかな?もう・・・限界なんだ。」

 よろめくアムロ。ユズハは慌てて立ち上がり彼を支え叫ぶ。

「そうよ!早くお父さんを助けて!!」

「アムロ、キケン、キケン。」

「は、はい。」

 慌てて数人の兵士がアムロに駆けよる。そこでアムロは気を失った。






「お父さん!!お父さんは大丈夫なんですか!?」

「ええ。全ての急所は外れていますから命に別状はありません。ただ、出血が酷かったのでしばらくは調子が戻らないと思いますが。」

 その言葉にはほっとするユズハ。街がめちゃくちゃな事もあり、連合の戦艦アークエンジェルの医務室に運ばれ、治療をうけた。そして結果を聞き安心するユズハ。するとタイミングを見計らったように一人の女性が入ってきた。そしてユズハに声をかけてくる。

「私はこの艦の副長、ナタル・バジルール少尉です。ちょっと聞きたいことがあるんだけどいい?」

「あ、はい。」

「あなたクサナギニ佐の娘さんらしいけど。あなた自身は軍とは関係があるの?」

「い、いえ。私はただの学生です。」

 ユズハの答えを聞いて少し顔をしかめるナタル。そして厳しい声に変わって言った。

「あなたがのったMSは軍の機密にあたります。例え、軍関係者の家族であっても機密に触れた以上、軍に直接的関係のない人は拘束しなければなりません。」

「えっ?」

 ナタルの言葉に驚き、そして怒りと困惑と恐怖とそれらがない交ぜになって訳がわからなくなって叫んでしまう。

「そんな!!だって、あれはお父さんが作ったんですよ!!オーブのものじゃないんですか!?」

「情報によりますと、連合の軍人の中にヘリオポリスの高官に軍事機密を漏らしたものがいるようです。おそらく、アムロ二佐はその機密をもとにあれを設計したのでしょう。ですから、より細かい事実関係がはっきりするまであれは凍結させていただき、あなた方にはこの艦にとどまっていただきます。」

「そんな・・・・・・・・・。」

 呆然とするユズハ。その時ナタルに艦内放送で呼び出しが入った。

「申し訳ない。呼び出しがはいったので話の続きは後にしてもらいます。あなたはの名前は・・・・」

「ユズハです。」

「そうか、ユズハ・クサナギ。あなたには私が戻ってくるまでこの医務室からでないでもらいたい。もし、でたらその時は反逆罪に処せられる可能性があります。」

少し厳しい口調で話し方も変えてそう言うと、ナタルは医務室を立ち去り、鋼板へと移動した。残されたユズハはただ呆然とするのだった。