第3話 二人の出会い



「ラミアス大尉!!」

死んだと思っていた上官の帰還に喜びをあらわにするナタル。

「ご無事で何よりです。」

「あなた達こそ、よくアークエンジェルを守ってくれました。」

上官――マリュー・ラミアスが感謝の言葉を述べる。そこで、ナタルは気になっていたこと――マリューの後ろにいた少年達について尋ねる。

「その子達は?」

「彼らはヘリオポリスの民間人です。軍事機密のXナンバーを目撃してしまった為、一時的に拘束しました。特に、彼、キラ・ヤマト君は"ストライク"に搭乗し、操縦しています。」

そう言って一人の少年を指し示す。その言葉と行為にナタルは驚きとまたかという気分を覚えた。民間人の子供がMSを操縦したということと、ユズハに続いて再び民間人が軍事機密に触れてしまったこと。その時、彼女の後方から軍のエースパイロットであるフラガ大尉が進み出てキラの前に立って言った。

「君、コーディネーターだろ?」

その言葉に周囲に緊張が走る。そしてキラは答えた。

「・・・・・はい。」

その肯定の言葉と共に兵士達が一斉に銃を向ける。コーディネーター、遺伝子をいじり操作した彼らの軍であるザフトは連合が今、戦争をしている相手なのだ。

「何なんだよそれは!!」

「待てよ!!軍はコーディネーターだってだけで民間人にも銃を向けるのかよ!!」

キラの友人達が彼をかばおうと前にたつ。

「銃を下ろしなさい」

そこでマリューが命じる。だが、ナタルが異を唱えた。

「しかし、コーディネーター、『敵』ですよ!?」


「我々が『敵』として戦っているのはザフトです。コーディネーターとではありません。それに、ここは中立のコロニーなのですから、戦火から逃げたコーディネーターがいても上思議ではないでしょう。」

「ええ、僕は一世代目ですし。」

キラがぼそっと言う。一世代目というのは両親がナチュラルでその受精卵を遺伝子操作して生まれた子供のことである。

「すまなかったな、騒ぎにしちまって。」

この騒ぎの張本人であるフラガが悪びれず言う。

「俺はただ、確認したかっただけなんだがね。"ストライク"のテストパイロットの奴らは相当訓練しても、のろくさ動かすのがやっとだった。それ簡単に動かしちまうなんてちょっと普通じゃないと思ってさ。」

その言葉を聞いてナタルはふと思う。"cross"の周囲にはジン3機が破壊されていた。まだ詳しい事情は聞いていないが状況からしてそれが"cross"によるものなのはおそらくまちがいないだろう。そして、それに乗っていたのはクサナギ二佐とその娘。

(もしかして彼らもコーディネーターなのか?)





「ユズハさん・・・でしたね?ちょっと聞きたい事があるのですがいいでしょうか?」

医務室に戻ったナタルがユズハに問いかける。民間人、それも軍の二佐の娘ということで丁寧に対応する。

「かまいませんが・・・・・。」

先ほどの件もあって、少し不機嫌そうながらも答えるユズハ。だが、ナタルは気にせず続けた。

「あのジンを破壊したのはあなた達が乗っていたMS、"cross"なのですか?」

「そうですけど・・・・・。」

あっさり肯定したユズハの態度に少し驚きつつさらに質問をつづけるナタル。

「そのMSを操縦していたのは?」

「お父さんと・・・・・私です。」

自分が人を殺してしまったという事実を思い出し、声を小さくするユズハ。そして、ユズハの肯定の言葉にナタルは自分の推測が当たっていたのかと思う。

「質問はこれで最後です。あなたとクサナギ二佐はコーディネーターなのですか?」

「?いえ、違いますけど、どうしてですか?」

本当に何故そんな事を尋ねるのかわからないといった答えにナタルは困惑する。自分の推測は外れていたのだろうか?ならば何故、彼女達はMSを操縦し、しかもジンを倒すようなことができたのだろうか?

「それでは、何故あなた達はMSを操縦できたのですか?」

「質問はさっきので最後じゃなかったんですか?」

もともとその扱いからナタルに対して不信感を持っていたユズハは再び声を不機嫌にして問う。

「今度こそ、最後です。答えてください。」

「そんな事言われても・・・私はお父さんが操縦するのを見てて、お父さんが怪我がくるしそうだったから私が代わってお父さんの真似をして動かしただけなんですが。」

その言葉にナタルは考える。

(彼女が嘘をついている様子はない。と、言う事はクサナギ博士は子供でも操作できるほど操作が簡単でしかも、ジン3機に勝てるほど高性能なMSを生み出したと言うのか?)

それはにわかには信じられない話だったがこの時点ではまだ判別がつかない。連合ではないといえ、軍の二佐の娘であるユズハに対しこれ以上不快な思いをさせるのもまずいと思い、これ以上の追求はさけることにした。

「ご協力感謝します。とりあえず、部屋を用意しました。申し訳ありませんがしばらくはあまり外をであるかないでください。」

「あの、お父さんのお見舞いは・・・・。」

「それは許可しましょう。しかし、それ以外では無闇な場所に立ち入らないように。」

そう答え、部下に命じ部屋に案内させた。





「あれ?ミリアリア?」

「ユズハ!?どうしてここに!!」

部屋の前にたどり着いた時、友人のフレイと同じサークルのメンバーで彼女を通して何度か知己のあるキラ達の友人のひとりである少女、ミリアリアを目撃し、驚きの声をあげるユズハ。

「知り合いか?」

「へえ、かわいいじゃん。」

トールやカズィがそれを見て騒ぐ。そんな男共をみて少し不機嫌な様子をみせるミリアリア。

「もう、やめなさいよ。それでどうして、ユズハが?」

「うん、お父さんに会いに行って戦いに巻き込まれちゃって、軍の機密って奴にふれちゃったね。」

少し困ったような顔をするユズハ。その言葉にキラ達は衝撃を覚える。

「え、ユズハも!?」

驚きの声をあげるミリアリア。その言葉を聞き、今度はユズハの方が驚きの声をあげる。

「私"も"ってことはミリアリア達も?」

「うん、それで私達も拘束されちゃったの。」

「そうだったんだ・・・・・。でも、なんでミリアリア達はどうしてそんな事にになっちゃったの?もしかして、私みたいに家族が軍の関係者の人がいるとか?」

ふと気づき疑問におもったユズハがミリアリアから視線を外し、キラ達の方を見回して言う。しかし、ユズハの言葉にキラ達は押し黙ってしまった。

「もしかして、私・・・・何かまずい事言っちゃった?」

その沈黙に気まずそうに言うユズハ。そして、キラが口を開いた。

「僕が・・・軍の施設に紛れ込んでしまって、MSを操縦して戦ったんだ・・・・・・。」

「え!?あなたも!?」

まさか、MSを操縦して戦ったところまで同じという事が驚きだった。そして、そのユズハの驚きにキラも衝撃をうける。先ほどを繰り返したような光景。だが、その驚きは先ほどよりもさらに大きい。

「あなたも・・・・って、君もMSを動かして戦ったの?」

「それじゃあ、君もコーディネーター・・・?」

驚くキラ、ぽつりともらすカズィ。

「ううん、私はコーディネーターじゃないわよ。でも、その言い振りだと、もしかしてキラ君ってコーディネーターなの?」

「う、うん。」

うつむいて答えるキラ。

「あ、もしかしたらさっきのはそういうことだったのかな?」

「さっきの?」

ぽつりともらしたユズハの言葉にカズィが疑問を挟む。

「うん、さっき、この艦の副長とナタルって人にコーディネーターじゃないかってきかれたの。私もMSを動かしたからそう、思われたんじゃないかと思って。」

苦笑いして答えるユズハ。そして続けた。

「それにしてもお互いこんな事になって大変だよね。」

キラがコーディネーターである事を全く気にした様子を見せず気軽に接してくるを見て、キラはまるで信じられないものを見たかのような気分になった。友人のサイ達ですら、彼がコーディネーターである事を知ったすぐにはよそよそしさなどを見せたのだ。ましてやいまは戦時中、ナチュラルとコーディネーターが戦争している世の中なのだ。

「ユズハさんは、その、僕がコーディネーターでも気にしないの。」

「私、両親からそういうことで人を差別するような人間になるなってしつけられてるから。昔、TVか何かで言ってた"コーディネーターは悪者だ"見たいな発言をそのまま真似したらお父さんに本気で怒られちゃった。」

軽く笑って答えるユズハ。自分を恐れたり、嫌ったりするどころか、特に意識した様子も見えない少女にキラはさらに新鮮な驚きを覚える。こうして、この戦争に、ひいてはこの世界そのものに大きな影響を与えることになる二人の出会いは友好なもので始まるのだった。





「これから先どういたしましょうか?」

「避難民のこともあります。彼らを一旦安全な場所に運ばないといけませんね。」

ナタルの問いにマリューが答える。先ほど、キラ達の乗艦と共に、キラが避難民を乗せた救難ボートを見つけ、回収していたのだ。

「しかし、我々の任務は新兵器の"Xナンバー"と"cross"を送りとどけることです。」

「ええ、それはわかってるわ。」

アムロが防衛用と言われ、開発していた兵器は実は連合の密約によって作成された連合の新兵器だった。しかし、その情報がザフトに漏洩し、ストライクを除くXナンバー4機と、アムロが開発したもう一つの"cross"は奪われてしまったのである。

「だが、戦力が圧倒的に足りない。俺たちの手元にあるのは俺の乗ってきたメビウス・ゼロと虎の子の"ストライク"と"クロスガンダム"だけだ。それにしたって、乗り手がいない。」

「ストライクかクロスガンダムには大尉が乗れば・・・・・」

ナタルの発言に対し、フラガは難しい顔をする。

「クロスガンダムの方はなんとかなるかもな。あの機体は操縦者の事をよく考えて作られていてナチュラルでも十分活用可能だ。インコムって武装もガンパレルによく似てるから慣れるのにそれほど時間はかからないだろう。ただ、完成したシュミレーションは先に開発計画が始まっていた"G"の方に規格に合わせたものだったからな。訓練がたりないんだ。もちろん、規格事態にそれほどにそれほど大きな差異があるわけじゃないんだが、そもそも俺はそのシュミレーション事態、遊びでやった2,3回ぐらいしかないんだ。いきなり、実戦にでるのは正直ちょっときついんだよ。」

「それではストライクの方なら!?」

例え2,3回でも"G"に規格をあわせたシュミレーションをやっていたのならば、そう思い再び問いかけるナタル。しかし、フラガは首を振る。

「ストライクはもっとだめだ。あのOSを見たか?ありゃナチュラルに使いこなせるようなもんじゃないよ。だからと言って、OSを元にもどしたら性能ががた落ちになって使い物になりゃしない。」

その言葉にマリューが悔しそうな顔をする。自分が設計に関った機体がアムロの設計した"cross"に劣っているように言われたように思えたのだ。

「しかし、それではやはり、初搭乗で稼動させジンを撃退したクサナギ二佐やユズハ・クサナギはコーディネーターなのでしょうか?」

初心者には扱いが難しいと言う事を聞いて、先ほどの疑問をフラガにもぶつけてみる。それに対してフラガは少し考えこむようにして答えた。

「わからん。さっき言ったようにクロスガンダムは訓練しだいではナチュラルでも十分使える機体だ。クサナギ二佐はもしかしたらその訓練を受けたことがあるのかもしれんし、そうでもなくてもクロスガンダムの設計者だ。その構造、操作方法は熟知している。動かせたとしてもおかしくないのかもしれん。」

「そうですか」

フラガの答えにナタルはすっきりしない声で答える。

「それよりも現状の問題は戦力をどうするかだ。もっとも現状の手ゴマを考えれば取れる手段は限られてるがな。俺がメビウス・ゼロにのって、あのキラ・ヤマトとかいう少年をストライクに乗せる。それしかないだろうな。」

「しかし、民間人をそれもコーディネーターの子供に大事な機体をこれ以上任せるわけには!!」

根っからの軍人である彼女にとってそれは容認ならざる事だった。だが、フラガが現実を突きつける。

「せめて、クサナギ二佐が怪我を負っていず、さらに協力してくれるつーなら、他に遣りようもあるがな。例え俺がクロスガンダムに乗り換えたとしてもどのみち一機じゃどうしようもない。敵勢力を突破するには最低限2機以上の戦力が必要だ。そうなるとやはり彼の力を借りるより他ないな。」

正論を突きつけられナタルは押し黙るしかなかった。





「この状況で寝られちゃうってのもすごいよな。」

ベットに横になり、寝息をたてるキラをみてカズィが呟く。ちなみに部屋にはユズハもいる。彼女が希望して彼らと同じ部屋にしてもらったのだ。

「疲れてるのよ。キラ大変だったんだもの。」

「大変だった・・・・か。キラはこんなことも大変だったてすんじゃうんだな。」

フォローしようとするミリアリアに対し、カズィが嫌な感じの表情をみせる。

「あなた、何が言いたいんですか?」

正義感の強いところのあるユズハがそれを咎めるよう言う。その迫力に一瞬、ひるんだカズィだが、すぐに平静となり自嘲的に答えた。

「別に・・・けど、キラの奴OS書き換えたっていってたじゃん。それっていつだったと思う?」

「いつ・・・・・・って。」

そして、皆が気づく。そのタイミングは、敵の前にたって、戦っていたわずかな間以外にない事を。キラの・・・・コーディネーターという存在の脅威的な力を改めて皆が実感する。

「そんなんと戦って・・・・地球軍勝てるのかよ。」

カズィの呟き。部屋に暗い沈黙がながれた。

「キラ・ヤマト!」

その時、マリューとフラガが部屋に入ってきた。慌ててキラを起こすトール。そして、マリューが口を開いた。

「あなたにストライクに乗って、戦ってもらいたいの。今の我々では戦力が足りないわ。このままでは今度敵の襲撃があればこの艦は沈められてしまうわ。私達はあなたの力が必要なのよ。」

寝ぼけなまこだったキラはその言葉で一気に目を覚まし、否定した。

「―――お断りします。何故僕がまたあれに乗らなきゃいけないんです!あなたが言った事は正しいかもしれない。けど、ぼくらは戦いが嫌で中立のヘリオポリスを選んだんだ!もう、僕らを巻き込まないでください。」

「だが、あれには君にしか乗れないんだ。しょうがないだろ?」

怒るキラに対してフラガが言う。しかし、キラにしてみればそれで納得できる出来る筈もない。

「しょうがないって!僕は軍人でもなんでもないんですよ!?」

「いずれまた戦闘が始まったとき、そういいながら死んでいくか?」

反論するキラにフラガがあっさり言い放ち、キラはうしなった。

「今、この艦を守れるのは俺とおまえだけなんだ「違いますよ」」

フラガの言葉を遮った人物に皆の注目があつまる。その人物はユズハは続ける。

「もう一人いますよ。私です。」

「いや、しかし、君は・・・。」

突然の行動にとまどうフラガ。しかし、ユズハは毅然とした態度で・・・・いや、毅然とした態度に"一見見える"様子で答えた。

「キラ君とあなただけじゃないです。私がいます。私も・・・・MSを操縦して、ジンを2体・・・・・破壊しました。」

その言葉にその場の全員が驚く。フラガやマリューにしてもジンを倒したのはおそらくはアムロの方であると思っていたので強い衝撃を覚える。

「私が戦います。その代わり・・・・・。」

ユズハは震えていた。震えながら答えていた。近くにいるものならばそれがはっきりとわかるほどに。彼女とて怖いのだ。だが、彼女は友人や父親が危険にさらされているのに黙っていられるような性格ではなかったし、嫌がるものに何かを強要させるぐらいなら自分が代わって行おうとする少女だった。

「その代わり?」

ユズハの発言に対してマリューが問いかける。すると、今まで下をうつむいた状態だったユズハが顔をあげ、はっきり答えた。

「一発殴らせてください!!中立だったヘリオポリスを戦争に巻き込んだあなた達を!!お父さんをだまして防衛用の兵器だと言ってあれを作らせたあなた達を!!」

「・・・・・わかったわ。」

「ああ。」

マリューとフラガが答える。そしてユズハは彼らを思いっきり殴った。