5話 友との間にできる壁
宇宙に放り出された後、よろよろとしながらも何とか、アークエンジェルに戻ったユズハ。そして、その数分後、崩壊したヘリオポリスを見て、茫然自失となっていたキラがなんとか正気を取り戻し、帰艦しようとしたときだった。
「救難信号?」
電子音がコックピックとに響き渡り、モニターに円筒形の細長い物質が表示された。
「推進部が壊れて漂流していたんです。」
『本艦はまだ戦闘中だ。それにすぐ避難民を回収する艦がくる。』
キラはその救難ボートを回収し、アークエンジェルにのせようとするが、それに対して、ナタルが拒否的な回答をする。
「このまま放りだせとでもいうんですか!?」
それに対し、苛立ちを覚えるキラ。そしてマリューが口を開く。
『わかりました。許可します。』
『艦長!!』
『壊れていてはしかたないでしょう。今はそんなところで揉めて時間をくいたくないの。』
その言葉で決まり、脱出ポッドを持ったまま、ストライクが乗艦した。
「あ、あなたサイの友達のキラ・ヤマト!?」
ストライクからおりたキラ、救難ボートのなかから出てきた避難民の少女の一人、フレイ・アルスターがそのキラをみて飛び出し、キラの胸に飛び込む。
「フレイ・アルスター!?このボートに乗っていたのか!?」
キラはフレイに抱きつかれ顔を赤くした。そんなキラの様子に気付かずに、フレイが次々と質問をしてくる。
「ねえ、一体何があったの?ヘリオポリスは?私、友達とはぐれちゃって・・・とっても心細かったわ!なんであなたがこの艦に、MSに乗っているの?サイは?サイ・アーガイルは一緒なの!?」
「う、うん、一緒だよ。それからユズハも・・・。」
矢継ぎ早の質問に戸惑いながらも取り合えず最後の質問に対し、何とか答える。そして、彼女がユズハが仲がよかったことを思い出し、彼女のことをつけたす。
「ユズハが!?」
その言葉にうれしそうな表情をするフレイ。
「キラ君おつかれ。」
その時、噂をすればなんとやら、ユズハがそこに現われる。そして、はたから見ると抱き合っているように見えるキラとフレイを見て、顔を真っ赤にする。
「キ、キラ君とフレイってそういう関係だったんだ・・・・・・。」
「ち、違うんだ!!」
「あ、そうじゃなくて、知ってる人に会えて、ついうれしくなっちゃって。」
ユズハの抗弁に慌てて否定するキラとフレイ。だが、その様子がなおさら怪しく見えるのに二人は気づいていないのだった。
「このような事態になろうとは・・・」
ヴェサリウスのブリッジでは、いまだ動揺のさめないアデスがヘリオポリスがあった宙域を見つめていた。クルーゼ隊、副官アデスは一つ息を吐き、自分を落ち着かせるとクルーゼを振り返って見た。
「いかがされます?中立国のコロニーを破壊したとなれば、評議会も・・・」
「連邦の新型兵器を製造していたコロニーのどこが中立なのかね?」
クルーゼは迷いも後悔もせずに言い放った。
「住民のほとんどは脱出している。問題はないさ・・・血のバレンタインにくらべればな」
アデスは言葉をのみ、また外に目をやった。
(確かに、ユニウスセブンに比べれば大した事はない・・・だが、あの惨劇と比べられるような事を我々はしてしまったのだぞ?なぜ、隊長はこうも冷静でいられるのだ・・・?)
「アデス、敵新造戦艦の位置はつかめるか?最後の“G”ともうひとつの“cross”を奪取、もしくは破壊し、戦艦を落とす。」
クルーゼの言葉にアデスは驚いた。
「まだ追うつもりですか?しかし先の2度の戦闘でこちらのMSは隊長のシグーとシャナのカスタムしたジンしか残っておりませんが。」
否定的な意見を述べるアデス。だが、クルーゼは薄く笑って答えた。
「あるではないか。新型のMSが5機も。」
「奪った5機のMSを全機投入するのですか?」
クルーゼの奇抜な発言に驚くアデス。
「その通りだよ。」
「ですが、あの“Phamtom”と呼ばれる機体は最終調整がまだ済んでいない未完成品です。ソフト面ならともかくハード面に問題があり、すぐには出撃できません。」
「ならば4機だけで、十分だろうさ。」
なんでもないという風に答えるクルーゼ。そこにアスランと赤い髪の女、クルーゼ隊エース、シャナ・ペインが入ってくる。二人は先の戦闘、勝手に出撃し、そのことで呼び出されていたのだ。
「アスラン、先の戦闘に出撃する際、何故君は命令を無視して勝手に出撃したのだね?それにシャナ・ペイン、君が彼を手引きしたと聞くが。」
「申し訳ありません・・・どうしても確認したい事がありまして・・・。シャナはその私の願いを聞いて、協力してくれました。」
アスランは俯きながら答えた。
「ほう。確認したい事とは?」
「実は・・・・あの、奪取し損ねた最後の“G”に乗っているのはキラ・ヤマト。つきの幼年学校で私の友人であった・・・・・コーディネーターです。」
「なるほど・・・戦争とは皮肉なものだな。」
アスランの告白を聞き、一息ついたあと答えた。
「そういうことなら動揺も致し方ない。仲の良い友人だったのだろう?」
「はい・・・一番の親友でした」
「わかった。そういう事なら次の出撃に君は外そう。」
クルーゼのその言葉にアスランは、はっとして顔をあげた。
「そんな相手に銃をむけられまい・・・。私としても部下に友人を殺す様な事をさせたくはないからな。」
「いえ、隊長! それは!!」
アスランは首を振り反論するがクルーゼは言い続ける。
「彼が君の友人でも今は我々の敵だ。撃たねばこちらが撃たれる」
「キラは・・・あいつはナチュラルに利用されているんです!あいつ優秀だけどぼうっとしててお人よしだから。だから私は説得したいんです。」
「君の気持ちはわかる。・・・・・だが、聞き入れない時は?」
アスランは息をのみ、そして答えた。
「その時は・・・・・・私が撃ちます。」
「サイ!! あの子が、キラがコーディネーターだって本当なの!?」
割り振られた部屋でサイとトールが休んでいると、フレイが駆け戻ってきた。
「!? フレイ、その話はどこで・・・誰から聞いたんだ!?」
サイが静かに問いただす。
「カズィがそう言っていたのを聞いたの。ねえ、本当なの!?」
その答えにサイはカズィの口の軽さを呪う。彼はいい奴ではあったが、時々そういうところがあるのだ。
「本当だ。でも、ザフトじゃない。キラがなんであろうと、俺達の仲間で友達だ」
フレイの問いに対して、サイはハッキリと答えた。
「・・・・・・それじゃあ、それじゃあユズハはどうなの!!」
フレイがは少し考え込んだような仕草を見せた後、悲鳴をあげるように言った。
「!!!!!」
その言葉に衝撃を受けるサイ。それは彼自身心のどこかで疑っていた事だった。自分達と同じただの学生であったにもかかわらず、コーディネーターであるキラと互角な活躍を見せるユズハ。もしかして彼女もそう考えた事はある。だが、彼女はそうではないと言った。そしてその言葉に嘘を付いているような様子は見られなかった。
「・・・・・いや、違うって言ってたよ。本人から聞いただけだけど多分本当だと思う。」
「そう・・・。」
ほっとしたような、それでもどこか疑わしそうな表情をみせるユズハ。その時、キラとユズハが部屋に戻ってきた。
「・・・? みんな、どうかしたの?」
気まずい空気に気付かずキラが不思議そうな顔をして聞く。
「いや、別に・・・。それよりも二人ともマリューさんに呼び出されたって聞いたけど何かあったのか?」
トールがはぐらかし、話題を摩り替える。その様子に不穏な気配を感じとっていたユズハは変な顔をするが、特に何も言わない。
「私達にこれからも戦えってね。」
ユズハの言葉を聞いて、全員に衝撃が走る。
「なんで、民間人のキラ達が戦わなくちゃいけないんだ!?」
みんなの気持ちを代弁するかのように、トールが叫ぶ。
「ヘリオポリスがあんなふうになっちゃって。しばらくこの艦に残るしかなくちゃったから。この艦軍の基地にあのMSを届けに行くんだって。それでまた敵がおそってくるかもしれないから・・・・・。」
ヘリオポリスに触れたとき、辛そうに言うユズハ。その言葉を聞いて誰も何もいえなくなる。
「大丈夫。みんなは私達が守るから心配しないで。それに私も一人じゃないから。キラも一緒だしね。」
そう言って強気を装う。だが、それはだれもだませない下手な演技だった。
「それじゃあ、私、少し疲れてるからごめんね。」
そう言って、ベッドに入る。ついでキラも同じような事を言って、ベッドに入る。そうすると二人はすぐに寝息を立てた。
「二人とも・・・疲れてたんだな・・・」
トールがキラを見ながら心配そうに言うと、トールがサイに真剣な表情で話しかけてきた。
「なぁ・・・俺達、キラやユズハに守ってもらってばっかでいいのか・・・?確かに、二人は凄いけど、万能じゃないんだ。」
「そうだな、オレ達はMSで戦う事は出来ないけれどが、それ以外の方法でならキラを助け、艦を守る手伝いが出来る。」
サイの言葉に二人頷く。
「ミリアリアやカズィにも持ちかけてみようぜ。」
そう言って、トールが部屋から出て行き、サイも続こうとするがフレイに呼び止められる。
「サイ! 私も、何かした方がいいの・・・?」
「いや・・・フレイは機械の操作とかは苦手だろう?二人を見ていてやってくれよ。」
サイはそう言い残し、フレイの返事を待たずに部屋から出て行った。
「ユズハ・・・・・あなたは本当にコーディネーターじゃないの?」
フレイは父親の影響でコーディネーターに対して強い偏見を持っていた。その為、親友であるユズハがコーディネーターであったらと恐れを抱いているのだ。その時、艦内に警報が鳴り響く。
『総員第一戦闘配備! 繰り返す、総員第一戦闘配備! MS隊、発進スタンバイ!!』
その警報にユズハが目を覚まし、キラを揺り起こす。
「た、大変、行かないと!!ほ、ほらキラ君起きて。」
「う、ううん。」
そして、目を覚ましたキラが格納庫へと走り出し、ユズハもその後に継ごうとする。
「待って!!」
その時、フレイがユズハを呼び止めた。
「何?フレイ?今は急いでるから話なら後・・・」
「お願い!!」
半ば悲鳴に近いフレイの言葉にユズハが立ち止まってキラの方に向かって言う。
「ごめん、キラ君、先に行ってて。私もすぐにいくから。」
「う、うん。」
少し引き気味になりながら答え、走り出すキラ。それを見送ると、フレイの方に向き合って言う。
「それで・・・・どうしたの?」
真剣な顔つきでフレイに問いかけるユズハ。そしてフレイも息をのんで言った。
「ユズハ・・・あなたはコーディネーターなの?」
しばらくの間二人の間に流れる沈黙。そして口を開く。
「・・・・・・・・・どうしてそう思うの?」
「キラがコーディネーターだって聞いて・・・・・。」
その言葉からフレイのコーディネーターに対する嫌悪を感じ取ったユズハはこう言った。
「もし、そうなら、私の事嫌いになる?もう友達じゃない?」
「それは・・・・・。」
予想外な切り替えしに押し黙るフレイ。そしてユズハはそっとフレイの腕を掴み静かに語りかける。
「フレイ、コーディネーターだとかそうでないとか本当に重要なのはそんな事じゃないわ。少なくとも私はそう思う。」
そう言って、ユズハはフレイに背中を向ける。そして最後に一言言って走り出した。
「私はコーディネーターじゃないわよ。」