「お父さん!!」

 アークエンジェルに戻ったユズハがアムロに抱きつく。そっと娘の頭をなでるアムロ。

「心配かけたな。」

 アムロはこの艦で手術を受けて以来ずっと眠り続けていた。医者にも1日くらいは目を覚まさないかもしれないと言われていたがやはり、目を覚まさないというのは娘であるユズハにとって不安なことであった。

「クサナギニ佐、申し訳ありませんがお話したいことがあります。」

 親子の対面をさえぎってしまったことを申し訳なく思いつつ格納庫にやってきたマリューがアムロに声をかけてきた。

「わかった。すまん、ユズハ、話は後でな。」

「うん。」

 アムロは答え、ユズハの体を放すと、マリューと一緒についていった。




「それでは、あなたはこの技術が連合の機密が盗み出したことをしらなかったと?」

「ああ。俺は全く聞いていない。」

 ナタルが問いかける。
 専守防衛という名目で作成された"cross"はその実、利権を求めた、連合の高官とヘリオポリスの高官の命令で作成されたものだと言う。
 だが、それについて、アムロは勿論、アムロの直接の上司すら、その事実を聞かされていなかった。

「・・・・そうですか。では、それとは別に、お願いがあります。今、私達の部隊にはパイロットが不足しています。あなたはどうやら、操縦技術を取得しているようですから、今後も協力していただけないでしょうか?」

「・・・・・わかった、承諾しよう。その代わり幾つか条件がある。一つは"cross"作製について、その責任を問わない事、俺の身柄を拘束しようとしない事。俺は公的にはこの戦いに参加しなかったことにすること。」

「それは・・・・。」

「わかりました。いいでしょう。」

 返事をしようとするマリューに対して、それよりも先にナタルが答える。
 実の所、連合側は、アムロ等、現場の人間が機密の事実を知らなかったと主張するのなら、それ以上追及する気はなかった。
 今回の件に関しては連合にも責があり、オーブ側はヘリオポリス壊滅など、大きな被害をこうむった。加えてアムロはオーブ高官、ダイキ・クサナギの義息子でもある。この状況の下手な追及は、国際問題に発展し、無用な敵を作る恐れがあるからだ。
 だが、ナタルは交渉を有利に進める為、あえてその事実を伝えなかった。

「それから次の条件、ユズハやそれにキラ君、他の少年達も臨時兵として志願したと聞いたが避難民と一緒に解放すること。それを約束して欲しい。」

「それは・・・最初からそのつもりですが。」

 そのナタルの行動を気にせず、アムロは次の要求をする。
 それに対し、マリューは何故、彼がそんな要求をするのか、いまいち理解できない様子で頷いた。

「なら、いいがな。」

 アムロが呟くように答える。
 マリューには理解できなかったようだが、ユズハやキラの能力を考えればかっての自分のように軍に拘束されつづける可能性は高い。
 また、例え彼ら自身を拘束せずとも、友人を人質に取ることで、彼らを縛り付けられる可能性もあるので、それをされることのないように釘を刺す。

「それからこれが最後だ。クロスガンダムにはユズハの方を優先して乗せて欲しい。」

「それは、クサナギ中佐がクロスガンダムに乗った方が戦力的には向上するのでは?それに娘さんを戦わせても・・・」

「艦長!!」

 未成年の民間人を戦わせる事に対して、躊躇いを持つマリューが言うが、現状で戦力を減らすなどとんでもないと考えているナタルが叱責する。それに対してアムロが溜息をついて答える。

「できれば、娘には戦わせたくないんだがな。あいつは妻に似て頑固なんだ。おまけに正義感が強い。いざとなれば今回の俺のように無理にでも出撃するだろうからな。それだったら少しでも強い機体で最初から戦わせて俺が守るようにした方がまだ安心なんだよ。」

「それは・・・・なんというか・・・。」

 その答えを聞いて、どう答えていいかわからずひきつった笑みを浮かべるマリューとフラガ。

「しかし、それでは戦力が低下するのではありませんか?クサナギ中佐の個人的な感情で艦全体の危険率を上げるようなことは。」

 そこでナタルが指摘する。だが、アムロは平然と答えた。

「ジンは複雑すぎてユズハには操縦できない。俺だって手一杯なんだ。調整すれば少しは扱いやすくなると思うが、それでも無理だろう。それにユズハはクロスガンダムになれてきているようだ。頭数を減らしてしまうことを考えれば今のままでもそれほど戦力は変わらないだろう。勿論、戦局によっては俺がクロスガンダムに乗った方がいいかもしれないが、通常の防衛戦に関しては今のままで特に問題はない筈だ。そもそも俺はともかくとして、民間人を戦わせている状況で無理はいえないはずだろう?」

 最後の言葉には少しだけ威圧するような怒気を込められていた。

「・・・・わかりました。」

 アムロの話は一応筋が通っていたので、多少不満げながらもナタルも承知した。そこで話が締めくくられた。

「条件はこれだけだ。これを守ってもらえれば俺は協力する。」

「わかりました。承諾します。ご協力お願いします。」

 敬礼するマリュー。そして、その後、アークエンジェルは何事もなく、アルテミスにまでたどり着いた。





 アークエンジェルはアルテミスに入航した。ここは通称「傘のアルテミス」と呼ばれている。それは難攻不落の光波防御壁に守られる軍事要塞だからだ。もっとも、その防壁は外側からの攻撃を防げる代わりに内側からの攻撃を不能にしてしまっているが。試験艦であった為、識別コードを持たないアークエンジェルは簡単には入航させては貰えない、最悪攻撃されるのではないかとも思われたが、予想に反してアルテミス側はあっさりと入航許可を出してきた。

「キラ、ストライクの起動プログラムをロックしておくんだ。君以外の人間には、誰も動かす事が出来ないようにな。できれば、クロスガンダムの方もクサナギ中佐かユズハにしか動かせないようしておきたい所だが、できるか?」

 基地に入港しようとした時、フラガがキラに耳打ちした。

「あ、はい、出来ますけど、どうしてですか?」

「すぐにわかる。」

 しっくりこないという顔をしながら、いわれた通りシステムを調整するキラ。だが、程なくして彼はその意味を知る事になる。入港してすぐ、アークエンジェルはいきなり武装した兵士やMAに囲まれたのである。エアロックが破られ、武装した兵士達がなだれこみ銃を突きつけてきたのだ。

「この世界の軍もおなじようなものという訳か・・・。」

 それを見てアムロは前の世界の軍という体制を思い出し臍をかんだ。





 マリュー、ナタル、フラガの3人の士官は基地司令の元へと連れて行かれ、残りのクルーは食堂へと集められた。クルーたちは不安げに身を寄せ合い、ひそひそと話している。そんな中、ユズハ、キラ、サイ、フレイ、トール、ミリィ、カズィ、それにアムロがほんの少しだけ間をおいて集まっていた。

「なあ、何がどうなってるんだろうな?クサナギさん何かわかりませんか?」
 
 ユズハの父親ということで子供達から多少とっつき易く思われ、軍人でもあるアムロにカズィが尋ねる。アムロは難しい顔をして答えた。

「俺にも正確なことはわからないが・・・・おそらくは利権争いがからんでいるのだろうな。」

「利権争いですか?」

 アムロの言葉にサイが訝しげな顔をして問い返す。アムロは頷き、答えた。

「ああ、数の差で何とか戦局を保っているが連敗続きの連合なかでこの艦は圧倒的不利な状況を切り抜けてきた。その功績を自分のものとしたいのだろう。そうでなければヘリオポリスのコロニーを壊滅させてしまった責任の押し付けか。まあ、そんなところだろうな。」

 子供に話す話でもないかと思ったが、同時に戦争、そして軍というものに関して早めに教えておいた方がこの先何か不測の事態が起きた時対処しやすいかもしれないとも思い、アムロはあえて自分の推測を包み隠さず話した。その話を聞いて子供たちには驚きとも怒りともあるいは不安とも付かぬ複雑な表情が浮かんだ。

「私は当衛星基地司令官、ジェラード・ガルシアだ。この艦に積んであるMSのパイロットと技術者は何処だね?」

 その時、兵士二人と将校らしき男が入ってきてぶしつけに質問を投げかけた。

「あ・・・・・・。」

 素直に手を上げて立ちあがろうとするキラをアムロが押し止めた。キラがその行為に戸惑いっていると、管制官のノイマンが問いただした。

「何故我々に聞くんです。艦長たちが言わなかったからですか?」

「別にどうもせんよ。ただ、せっかく公式発表より先に見せていただく機会に恵まれたのだ。色々聞きたくてね。パイロットは?」

「フラガ大尉ですよ。お聞きになりたいことがあるんあら、大尉にどうぞ」
 
 ノイマンが答えるが、ガルシアはそれを鼻で笑い嘲るように言った。

「先の戦闘はこちらでもモニターしていた。ガンバレル付きのゼロを扱えるのはあの男だけだ。それくらい私でも知っている。それにもし彼だとしてもMSは2機あったはずだ。もう1機は誰があつかっていたのだね?」

 ガルシアは辺りを見渡した。誰も答える様子がない所を見ると、近くにいるミリアリアの腕を掴んだ。

「きゃっ」

「まさか女性がパイロットとも思えないが、この艦の艦長も女性という事だしな・・・・・・。」

そうにやけて言う。そのあまりのやりようにキラが叫ぼうとした時、それよりも早く叫んだものがいた。

「ミリィを放して下さい!」

 それはユズハだった。

「威勢が良いな、嬢ちゃん。なら誰がパイロットなのか、言ってもらおうか?」

「私です!!」

「ユズハ!!」

 アムロが娘を制止しようとする。そして、ガルシアは笑った。

「ははは、まさか本当に女性だとはな。だがね、お穣ちゃん。あれは君のようなお穣ちゃんが扱える物じゃないだろう。ふざけた事を言うな!」

 そう言って、ガルシアは突然殴りかかってきた。だが、それを直感で予知していたアムロが立ち上がりそれを受け止め叫ぶ。

「連合軍は民間人の女にも殴りかかるのか!!」

「なんだ!?貴様だれだ!?」

「・・・・・・その子の父親だ。」

 少し考えてそれだけ答える。ここでオーブの軍人である事をばらすのはまずいと考えたからだ。もっとも、マリュー達の口から報告されている可能性もある事はわかっていた。例え彼女達にその気がなくても上官の追及を退けるまでしてくれるとは最初から期待していない。

「ふん、親子で逆らうか!!民間人が邪魔をしおって!!」

激昂して、再び殴りかかろうとするガルシア。だが、ユズハが飛び出し彼を投げ飛ばした。その光景に皆が一瞬呆気に取られるが、ガルシアの部下たちが慌ててアムロ達を取り押さえようとする。それを見てキラ達も動いた。

「止めてください!!」

 キラがあっさり一人を組み伏せる。だが、もう一人の兵士がサイを殴り飛ばした。その光景を見てフレイが叫ぶ。

「止めてよ。その子がパイロットよ。だってその子、コーディネイターだもの!」

 そう言ってキラを指差したのだ。アークエンジェルのクルーが痛恨の表情を浮かべ、兵士達の動きが止まった。

「何だと?ではお前達も?」

 ガルシアは驚きアムロ達の方を見た。そこで再び、フレイが叫んだ。

「その二人は違うわ。クロスガンダムは操作が簡単なんだって!!だから扱えるんだって!!」

「なるほどなあ。」

 教えられた事をそのまま叫ぶ。ガルシアは疑いの目を全く変えないままそう言い、3人を格納庫へと連れて行った。そして彼らが去った後、サイがフレイに対して叫ぶ。

「何であんな事言うんだよ、お前は!」

「だって、本当の事じゃない!」

 フレイは詫びれずに言った。その言葉にトールも怒る。

「キラ達がどうなるとか、全然考えない訳、お前って!おまけにクサナギさん達までコーディネーターだって疑われちまったじゃないかよ!!」

「お前、お前ってなによ。だってここ、地球軍の基地なんでしょ。パイロットが誰かぐらい言ったって良いじゃない。なんでいけないのよ!?」

 罪の意識がまったく無いフレイの物言いに、トールがさらに激しく怒り叫んだ。

「・・・・・・地球軍が何と戦ってると思ってるんだよ!」





「OSのロックを外せは良いんですね」

 ストライクのコックピットに乗り込みキラが言う。それに対してガルシアが嫌な笑みを浮かべて答えた。

「ふむ、それはもちろんやって貰うが、ね。君"達"にはそう、もっといろんな事が出来るだろう。たとえばこいつを解析して同じ物を作るとか、逆にこういったMSに対抗できる兵器を作るとか。」

 明らかにアムロやユズハもコーディネーターだと疑った物言いだ。それに気づいてはいたがアムロはあえて黙っている。

「僕はただの民間人です。軍人じゃないんです。そんな事をしなくちゃいけない理由はありませんよ、」

「だが、君は裏切り者のコーディネイターだろう?」

 ガルシアの言葉に、キラは強い衝撃を受け、凍り付いたように動きを止めた。

「・・・・・・裏切り者?」

「どんな理由でかは知らないが、どうせ同朋を裏切った身だ。ならばユーラシアで戦っても同じだろう?」

「そんな言い方!!」

 ガルシアの言葉を遮ってユズハが叫ぶ。だが、彼女にも否定は出来なかった。どんな理由があれ、キラがコーディネーターを同類を殺しているのは事実なのだ。そしてユズハ自身に関しても同じ"人間"を殺していると言う点においてはそれは変わらないことなのだ。

「ち、違う・・・僕は・・・・・・」

 突きつけられた事実にただ呟きを繰り返す事しか出来ないキラ。その時だった。

「なんだ、この振動は!?」

「不明です、周囲に機影無し。」

「だが、これは爆発の振動だろうが!」

 続いて更なる振動が襲ってくる。間違い無い、攻撃を受けているのだ。

「ぼ、防御エリア内にMSが!?」

「なんだと、そんな馬鹿な!?」

 笠が破られた事に呆然とするガルシアたち。キラ達はその隙にハッチを閉じると機体を動かし、ソードストライカーパックを装着させる。そして、ガルシア達が混乱している隙にアムロが一人の兵を殴り飛ばし銃を奪う。慌てて他の兵が銃を撃とうとするが、それよりも早く、アムロは2人の兵士の腕を打ち抜く。そして、2発の弾丸が放たれるが、それを予測していたアムロそれを回避し、さらに2人を撃つ。しかし、残った兵士が撃った一発の弾丸がユズハの方に向かう。

「ユズハ!!」

アムロの叫び。そしてユズハはそれを"避けた"。それを"目で追いながら"。
かってシャアは言った「ニュータイプでも体を使う事に関しては普通の人間と変わらない」と。
だが、それは半分正しく、半分間違いである。道具の扱いが一般人より上手いニュータイプは最も身近な道具である自分の肉体の扱いにも長けているのだ。
 肉体には身体能力の限界があり、結果、MSにのっている時ほどの大差は生まれない。しかし、同程度の身体能力を持った相手に対してはそれは大きなアドバンテージとなり、加えてアムロが"感"と称する超常的な知覚能力を持ってすれば相当の実力となる。
 だが、それを考えても銃弾を"目で追う"という行動は異質だった。

「はっ!!」

 その光景に一瞬呆然とするが、すぐに正気を取り戻し、残りの兵士を撃つ。そしてユズハの方に向き合った。

「ユズハ、お前は・・・・・・。いや、とりあえず、俺達もクロスガンダムに乗り込むぞ。」

 先ほどの行為に関して問い詰めようとするが今はそれど頃ではないと考え直し、自分自身のした事にやはり呆然となっているユズハを引っ張りクロスガンダムに乗り込ませ、自分もそのまま乗り込むことにした。

「しかしここの要塞の防御力は相当なものの筈。にも関らず、存在すら探知されずにどうやって・・・・そうかミラージュコロイドか。」

 アムロは呟き気づいた。ミラージュコロイドを纏ったMSは視認も含め、あらゆる探知から逃れることを。そして、ザフトはミラージュコロイドを搭載した機体を2機有している。ブリッツと"Phamtom"を・・・・・・。


感想
流石にアムロでも頭部の無いジンでデュエルと殴りあうのは無謀な気が。いや、原作でもガンダムでやってましたけどね。とりあえずアルテミスではアムロがクロスを使うんですかね。何となくアルテミス守りきれる気がしてしまう。