8話 SEEDの欠片


キラがハッチの開閉スイッチを押して出撃しようとする。

「―――坊主、何する!!」

「攻撃されてるんでしょう?こんな事してる場合ですか!!」

 そう言って出撃する。だが、内心先ほどのガルシアの言葉が頭の中をめぐっていた。自分は何の為に同じコーディネーターを撃つのか。

「キラ君!!」

 ユズハもキラを追う。それはただキラが心配なのではなかった。
いや、彼が心配なのには違いない。
だが、それは単にキラがやられるといったものではない。彼の心から発せられる孤独、葛藤、それらを彼女は感じていたのだ。
 食堂でもノイマンたちが爆発に気をとられた瞬間に兵を鎮圧していた。

「起動するぞ!!」

「でも艦長達は!?」

「このままじゃあただの的だ!!」

 彼らはすばやくブリッジに移動し、自分のシートに滑り込むと艦を起動させた。ほどなく、独自に脱出したマリュー達が"アークエンジェル"へたどり着く。

「艦長!!」

 喜びの声をあげるクルー達。そしてアークエンジェルは発進した。



「くっ!!」

 その頃ストライクは"傘"が破壊されたことによって進入してきたバスターと交戦していた。

「落ちろおおおお!!!!」

「うわあああああああ!!!!!」

 何かを振り切るようにがむしゃらに戦うキラ。敵の攻撃を回避して、対艦刀を振るう。バスターはそれを回避し、遠距離射撃を仕掛ける。

「駄目、キラ君駄目だよ!!」

 それを今のキラは危ういと感じ取り、とめようとするユズハ。だが、その時彼女は"殺意"のようなものを感じた。

「何!?これ!?」

 反射的にビームライフルをその方向に撃つ。そして"見えない影"はそれを回避した。虚空から一体のMSが現われる。

「やはり"Phamtom"か!!」

「"Phamtom"?何なのそれ、お父さん!?」

 アムロの叫びにユズハが聞き返す。そしてアムロは思い口調で答えた。

「あれはファントム・クロス、俺が作ったクロスガンダムの兄弟機だ。気をつけろ!!あいつの機動力はクロスガンダムより上だ。」

 その言葉に緊張が走る。そしてそのころファントムのパイロット、シャナも驚愕を覚えていた。

「何故わかったの?地球軍はこのシステムに対する対抗手段を?」

 ミラージュコロイドを展開したままの機体は探知できないはずである。もともとは地球軍の機体なのだから、その対抗手段を生み出していてもおかしくないが、それながら何故こうも簡単に進入をゆるしたのか。まさかニュータイプの"感"で見破られたとは夢にも思わないシャナは強い疑問を覚えていた。

「まあいいわ。それなら、真正面から倒すだけ。」

 そして、MSが刃がビームのナギナタのような武器を振り下ろす。

「速い!?」

 かろうじてその一撃を盾で防ぐユズハ。しかし、盾が真っ二つに切り裂かれる。そして、さらに一撃。

「ちぃっ!!」

 シートの後方に載っていたアムロが機体を操作して、ビームブレードで受け止める。

「ユズハ!!お前じゃあいつの相手は無理だ。俺に代われ!!」

 アムロはビームブレードにビームを纏わせると、相手を跳ね飛ばし隙を作り、ユズハを立たせようとする。

「わ、わかった。」

 ユズハが立ち上がり、アムロがシートに座り、自分は裏に回る。コックピットの環境がパイロットの集中力等にどれほど影響を与えるか経験則から知っているアムロはコックピットを広めに作っているので、二人乗っていても、それが邪魔になることはなかった。

「このプレッシャー、あの時のパイロットか!?」

 前回の戦いの時で戦ったカスタムされたジンのことを思い出す、アムロ。そして鋭い連続攻撃がアムロを襲う。

「速い!!だか!!」

 アムロはビームライフルを打ちながら距離を取り、そのまま乱射し続ける。
そして、相手が距離を詰めようとした瞬間、再び距離を取ろうとせず、こちらから急接近した。ビームナギナタの最大の欠点は近接しすぎた状態では使いづらいことである。ファントム・クロスを作ったアムロはそれをよく知っていた。

「しまっ!!」

 己の失態に叫ぶシャナ。そしてアムロがビームブレードを振り下ろす。しかし、シャナは機体を必死に操作して直撃はさけ、左腕を切り落とされるにすまされる。

「今の一撃を避けるか!?」

 驚きながらも、さらなる追撃を放つ。今度は回避できないとアムロもユズハもシャナも思った。だが、その時、シャナの頭の中に何かがはじけるイメージが浮かんだ。

「うおおおおおおおお!!!!!!!!」

「何!?」

 予想外の反応でそれを回避し、反撃を仕掛けてくる。今度はアムロの方が回避しきれず、クロスガンダムの左腕を切り落とされる。

「うおおおおおおおおおお!!!!!!!」

「くぅ!!」

 獣のような唸り声をあげるシャナ。そして、2機の刃が何度も切り結ぶ。技量は互角、しかし、機体とパイロットの反応速度の総和において、ファントム・クロスが上回った。裁ききれない一撃がクロスガンダムを切り裂こうとする。

「お父さん!!」

 その時ユズハが後ろから手を伸ばしインコムを操作した。ビームを発射され、ファントム・クロスの腕と腰の部分を貫いた。

『クサナギ中佐、戻ってください!!この宙域を脱出します』

 そこでアークエンジェルからの通信が入った。見るとストライクの方も退避を始めていた。アムロ達も追撃を諦め、アークエンジェルと帰艦し、そしてアークエンジェルは離脱し、アルテミスはその数分後、壊滅したのだった。











「おい、クサナギさんよお、ほんとにこれでいいのかい?」

 整備班長のアムロのジン改修案を見て言う。その回収案では構造をシンプルにしてしまい、かえって性能を落としてしまうように思えた。

「ああ、クロスガンダムと同じコンセプトで改修しようと思う。これをベースにいくつかの強化を加えて欲しいんだ。」

 ジンの構造はナチュラルには複雑すぎる。にも関らず"G"は性能向上を求めるあまり、その構造をさらに複雑にしてしまっていた。
それに対して"cross"は逆に構造をシンプルにして扱い易くした。それによって機体の柔軟性はいくらか落ちるものの、構造をシンプルにした分、機体の耐久力が増し、余剰スペースを生みだし、それがパワーの向上、コックピット環境の快適化、バッテリーの大型化等を可能とし、性能差を補った。加えて、それでは物足りないエースパイロットクラスの為に、インコムを追加武装と装着できるようにして完成したのが"クロスガンダム"なのである。

「他のジンの残骸からバーニアをはずして、足と腰の部分に増設して欲しい。それから・・・・・・。」

アムロの改修案を真剣に聞くマードック。全ての説明を聞き終えた後、彼は酷く関心したようだった。

「なるほどな。これならかなりの性能が引き出せそうだ。しかし、大改造だな、こりゃ。」

「ああ。だが、ベースがジンだがらな、いじれるのはこの辺が限界か。これではクロスガンダムの7割程度の性能がやっとというところだな。」

「あんたの腕ならそれで十分じゃねえのか?」

「だと、いいんだがな・・・・。」

 マードックのその言葉にアムロは苦い顔をする。確かに並みの相手なら何とかできる自信はある。しかし、前回の戦いで、アムロは敵の実力を過小評価していた事に気づかされた。
こちらの戦力は改修したジンと"ストライク"、"クロスガンダム"、そしてフラガ大尉の"メビウス・ゼロ"それにアークエンジェル。この戦力ならG4機と、相手側のカスタムされたジンを相手に十分渡り合え、娘のユズハやキラと言った子供達をフォローする余裕もあるとアムロは考えていた。
しかし、予想よりもはるかに早くザフト側は"ファントム・クロス"の欠点を改修し、実戦に投入してきた。そして、パイロットの実力は予想をはるかに超えていた。正直ジンでは少しばかり改修したところで勝つのは難しい。だが、だからといって、多少扱い易くしたところで、ジンはユズハに扱えないだろう。そうなると、アムロ自身が"クロスガンダム"で"ファントム・クロス"を相手にしている間、キラとフラガのみでG4機を相手にしなければならない事になり、それもまた困難であることはわかりきっている。結局のところ、現状での一番は自分がジンにのって4機で立ち向かうことなのだ。

「・・・・・子供に頼らなくてはならないとはな。」

 誰にも聞こえぬ呟き。自分の不甲斐なさを感じ、アムロは拳を強く握り締めた。






 アムロが機体の改修を進めている頃、ユズハはキラを探していた。先ほどの戦いの時、強い苦悩を発していた事を感じ取り、彼の事が気になっていたのである。

「あ、キラ君。」

「ユズハ?」

 そして、食堂の隅に座っていた彼を見つけ、近づいていった。

「どうかしたの?」

「うん、キラ君、さっきの戦闘の時から何か変な気がしたから・・・・。」

 その言葉に驚いたような表情を見せ、その後すぐに自嘲的な表情になる。

「気づいてたんだ・・・・。あの時、あの人に言われた言葉が頭から離れないんだ。僕は・・・・同胞を殺してる。」

 その言葉を聞いて、ユズハはああ、やっぱりという気になった。キラの様子がその言葉を発せられた時からなのだから。半ば予想はついていた。それに対し、彼女は自分の素直な気持ちをぶつけた。

「・・・・・そうね、辛いよね。私だって同じだもの。」

 その言葉に驚いたようになり、キラは問い返す。

「それじゃあ、やっぱり君もコーディネーターなの!?」

「ううん、私はでもナチュラル。でも、そんな事は関係ないよ。私は自分と同じ"人"を殺してるんだから。」

「"人"・・・・・・。」

 その言葉を呟き、戸惑いのようなものを見せるキラ。そんな彼に彼女は更なる言葉を投げかけた。

「うん、それとも、キラ君は"コーディネーター"を守る為なら、"ナチュラル"を殺しても心が痛まない?」

「そんな事は!!」

 ユズハの言葉に思わず立ち上がるキラ。そんなキラにユズハは微笑みをかけた。

「そうでしょ?みんな同じなんだよ。私だって、お父さんだって、フラガさんだってきっと好きで人を殺してる訳じゃない。きっと、その事に苦しんでる。キラ君の場合は確かに他の人より少し事情が違うかもしれない。でも、苦しんでるのはあなただけじゃない。あなたは孤独じゃない。一人で抱え込まないで。誰でもいいから悩みを打ち明けて。知ってる?辛い事は人に話すと半分になるってのはホントなんだよ。」

 ユズハの言葉にキラの心がすっと軽くなる。自分の事をわかってくれようとする人がいる。同じように苦しんで、それでもがんばっている人がいる。もちろんそれで全ての悩みが晴れる訳ではない。それでも彼は心の中の重荷をほんの少しでも下ろすことができた。ほんの少しでも・・・・・・・救われた。

「ありがと・・・・・。」

「うん。」

 キラの小さな呟きにユズハは満面の笑みで答えた。


感想
アムロと一戦交えて対等に戦えるとは、シャナって娘は強いんですね。てっきりディアッカの如くサポートに回るかと思っていましたが。ユズハはだんだんNT特性が出てきてますが、このままいくとキラがユズハを見て化け物と呼ぶ日は遠くないかもしれないですな。目指せCEの白い悪魔。