9話 ピンク色の髪の少女


「しかし・・・・これからどうすべきかしらね。」

 マリューが憂鬱な顔をして言った。当初の予定ではアルテミスで補給を受けた後、月の本部までGを届ける予定であったが、結局補給は受けられなかった。現在この艦に残っているのはヘリオポリスで慌てて積み込んだ僅かな物資のみなのである。おまけに避難民を乗せたことで物資の不足は深刻化していた。

「実際のところどうなんだ?やばいのか?」

「食料は非常食もありますが、問題なのは・・・・・・水と弾薬ですね。クロスガンダムやストライクの修理パーツも不足してはいますが、とりあえず施設にあったものはあらかた持ち出せたのでまだしばらくは持ちそうです。」

 フラガの問いかけに少し考えた後で答えるマリュー。

「水か・・・・・・。」

そこでフラガはふと思いつく。

「そういえば、この航路はデブリベルトの近くを通ってたよな。」

「そうですが、それが何か?」

 デブリベルトは地球を取り巻く宇宙のゴミのたどりつく宙域である。それがどうしたのかと思いマリューが尋ね返すとフラガはにやりと笑って言った。

「不可能を可能にする男かな、俺は?」









「あ、フレイ、それにサイ君たち・・・・。」

 キラとユズハが二人話している食堂にサイ達が入ってきたのをみつけるユズハ。そして二人の姿をみるとサイがフレイを軽く肘で小突いて言う。

「ほら、フレイ・・・。」

「わ、わかったわよ・・・。」

 少し嫌そうな顔をしながらキラの方に行く。
 

「こ、この前は、ごめんなさない・・・・・。」

「えっ?」

 突然、謝れて驚いた顔をするキラ。

「ほら、この前のアルテミスでの時。」

フレイの補足説明を受けて、納得した顔になるキラ。そして軽く笑って答えた。

「ああ、いいよ、気にしてないから。」

「そう!?」

 キラの答えに一気に明るい表情を浮かべるフレイ。そんな友人を見てユズハは小さく溜息をついた。フレイは政府の事務次官の娘として生まれ、また、散々甘やかされて育った性か、どうも自己中心的というか、まわりに気を配らないところがある。そして、依存性が強い。自分より弱い立場の人間に対しては割りと面倒見のよいところもあるし、日常においては、明るく一緒にいて楽しいなど割といいところもあるのだが。

「ねえ、ついでだしそろそろお昼だから何か食べていかない?」

 そこでミリアリアが提案した。元々はキラに謝らせようとサイ達がフレイを連れて探させていたのだが、気がつくとちょうど昼食をとるにはいい時間だったのである。

「そうだね。そうしよっか。」

それにユズハが賛同して昼食を取る事になった。
「ちょっと物足りないなあ・・。」

 トレイに並べられた食事をみて言うカズィ。物資の不足により、先のことも考えてその量はかなり少なめにされていた。

「……私の少し食べる?」

 ユズハが自分のトレイを見て申し出る。彼女にはパイロットと言う事で他のクルーよりも少し多めに支給されているのだ。

「いや、いいって。ユズハはパイロットなんだから、それだけエネルギーだって使うんだろうし。それに他の人たちの事、考えたらそんなわがまま言えないしさ。ま、そんなに足りないって程じゃないし。それより水だよな・・・。」

 一人あたりに支給された水はコップ3分の1程度、それが1日3回である。食事以上に少ない。
 そんな話をしていた時、サイがふとフレイが他と距離を置いて座っている事に気づいた。

「どうしたんだ?」

 言いながら一つ席をつめる。すると、また、フレイが距離を置く。再び席をつめるサイ。また、距離を置く。先ほどキラ達を探していた時にもフレイは同じように距離を置いていた。その時はキラに謝りづらく逃げているのではないかと皆思っていたのだが違うようである。

「どうしたんだよ?」

 少し大きな声で言うサイ。するとフレイは呟くように言った。

「だ、だって…給水制限で…シャワー浴びてないんだもん。」

 その場違いな発言に、サイら一同からどっと溜息が漏れた。そしてユズハは苦笑する。確かに場違いではあるが、その気持ちはわからないでもなかった。特にパイロットであるユズハは汗を人よりも多くかく。実は彼女自身も少し汗臭く、それが他の人に気づかれないか冷や冷やしていたりしたのだ。そして、この状況では当分シャワーなど望むべく得ないのはわかっている。それを考えると少し溜息がでる。不謹慎かもしれないが、彼女もほんの少し前までただの学生の15歳の少女だったのだ。








「あそこの水を……!? 本気なんですか?」

 資源を補給する為にアークエンジェルはデブリ・ベルトへとむかったのだ。デブリ・ベルトには戦艦の残骸も数多く浮かんでおり、そこで補給をしようというわけである。残骸にまじり数多くの死者が眠るその場所で墓荒らしのようなことをしようとすることに渋々ながらも納得していたキラ達だが、水を"ユニウス・セブン"から補給しようとするということを聞いてキラが叫びをあげた。

「あそこには一億トン近い水が凍りついてるんだ。」

 ナタルがキラの問いに答えぬ説明をする。"ユニウス・セブン"、この戦争の開始の原因となった核攻撃を受けたプラント。多くのコーディネーターが眠るその地をあさる事はキラにとってより一層抵抗の強い事だった。

「けど、あのプラントは何十万人も亡くなった場所で・・・・・」

「けど、水はあそこでしか見つかってないんだ。誰だってあんなところには踏み込みたくない。けどな、俺達は生きてる・・・だから、いきなきゃならねえんだよ。例え死者の眠りを妨げてもな。」

 キラは抵抗しようと反論するが、フラガの言葉に押し黙るしかなく、またユズハも悲痛な表情を浮かべるのだった







 プラント最高評議会。召集を受けて報告を行ったアスランは退室しようとして、はなしかけられたアスランは振り返り、とっさに敬礼した。

「クライン議長閣下!」

「そう他人行儀な礼をしてくれるな、アスラン。」

「いえ、これは・・・・・・その。」

 苦笑混じりに言われてアスランはようやく自分が敬礼している事に気付いた。慌てて手を下ろし、シーゲルと顔を見合わせて笑いあう。

「やれやれ、せっかく君が帰ってきてくれたのに、いまは娘が仕事で出かけておる。擦れ違いが多いというのも困ったものだな」

「ラクスは、いないのですか?」

 残念そうなアスランに、シーゲルは済まなそうに答えた。

「ユニウス7の慰霊団代表になってしまってな。今は事前視察に出かけておる。あれも君に会いたがっておったよ」

「そう、ですか」

 シーゲルの娘のラクスとアスランは親が決めた婚約者同士であった。親が決めたものとはいえ、二人の仲はそれなりに良好で恋と呼べるかどうかはいまだはっきりしないものだがそれなりの好意は抱きあってもいた。

「また、休暇が取れたら会いに来ます。ラクスにもそうお伝え下さい。」

普段忙しさからあまり会えないことを気にしていたので。そう伝言を伝えておく。

「ああ、伝えておこう」

頷くシーゲルに頭を下げ、その場を後にした。だが、このすぐ後に、慰霊団の船が通信不能になった事を知る。








「あれ?なんだろ、これ?」

「どうした、キラ?」

 ユニウスセブンの凍った水をストライクで切り運んでいたキラが何かを見つけた。キラの呟きに対しサイが問いかける。キラの視線の先には球体の物体があった。

「脱出ポッド?」

 同じように作業を行っていたユズハがそれを見て呟く。それは確かに脱出ポッドだった。それをアークエンジェルに持ち帰るキラ。

(……気付かれなかったようだな。)

 その一連の動作を見ながらアムロがほっと一息つく。アムロの後方にはジンの残骸があった。おそらくはその偵察用の機体をアムロは撃ったのだ。多くの死者が眠るこの場所でまた新たに死者を生み出してしまったことを辛く思い、同時にそれを子供達にさせずに、そして知られずにすんだ事にほっとしていた。







「よお、クサナギさん、どうだった"クライム"は?」

アークエンジェルに戻った

「バランサーがちょっと不安定みたいだな。あとは調整が不完全な部分を整備すれば、何とかなると思う。」

 いつまでもジンカスタムでは紛らわしいということで"クライム"というペットネームがつけられていた。PS装甲にも対応できるようにクロスガンダムの予備のビームライフル、インコム2機を装備し、敵の機体と誤認されないように頭部の形は大きく変えたものがつけられメインカメラが修復されている。その形はアムロがいた世界の"リ・ガズィ"というMSにもよく似ていた。テストも兼ね、今回の調査に参加したのである。

「そうか、その辺しっかりやっとくぜ。ところで、あれ、見に行かないか?」

 救命ポッドを回収して帰艦したストライクをさして言う。

「ああ、頼む。実はさっきからあの脱出ポッドの方が気になっていてな。」

「クサナギさん結構子供っぽいところがあるんですね。」

 アムロの発言を聞いて整備員の一人が笑う。

「はは、まあな。(もしかしたらあれと関係あるのか?)」

 表面的な明るさとは裏腹に、デブリベルトを探索していた時に見つけた破壊された真新しい駆逐艦があったことを思い出し、何か厄介なことが起こりそうな嫌な予感を覚えつつ、アムロは整備員達と一緒に救命ポッドの方に向かった。








「開けますぜ」

 マードックの手で救命ボートのハッチが解放された。そして次の瞬間ピンク色の物体が飛び出してきた。

「ハロ、ハロ」

 気の抜ける声を発しながら飛び出すピンクの球体。耳がパタパタと動き真ん中には二つの目、そして一部の者には見慣れたものだった。

「ハロペ!?」

 ユズハが叫ぶ。それはユズハのハロ・ペットとそっくりな形をしていた。ただし、バレーボールサイズのハロ・ペットに比べて3回り以上小さいが。ハロ・ペットを作ったアムロやそれを見たことのあるものが驚いている。

「オマエ、ナンダ、ニテルゾー。オトウトカ?」

「ミトメタクナーイ」

 2つの球体の会話、なにやら異様な光景だった。

「ありがとう、ご苦労様です」

 そして次いでほんわりとしたその状況にそぐわぬ声でピンク色の髪の少女がポットの中からでてきたのだ。

「あら、あらあら?」

 そして、よろよろと倒れこむ。それを見て慌てて支えるキラ。

「だ、大丈夫ですか?」

「ありがとうございます。」

 礼を言う少女、そして、少女は周囲を見回し、連邦の制服を見て言った。

「……まあ、ここはザフトの船ではありませんのね?」

のんびりとしたその物言いにその場にいた半数以上が頭を抱えたくなった。

(何か不思議な感じ……)

 そんな中ユズハは彼女に対して不思議な"何か"を感じていた。
 少女に対しての尋問が士官室の空き部屋で行なわれていた。尋問を行っているのはマリュー、ナタル、フラガの3人。そして、その扉の前に人垣が出来ており、キラやトール、サイ、カズィ、さらにはトノムラはパルまでが加わっていた。ふいにドアが開き、扉に寄りかかっていた連中は一斉に折り重なって倒れ伏した。それをナタルは冷たく見下ろし叫んだ。

「お前たちはまだ積み込み作業が残っているだろう。さっさと作業に戻れ!」

 ナタルの怒声に一同は慌ててその場から消え去った。それを見ていた少女は驚いていたが、すぐにクスクスと笑い声を立てた。

「失礼しました。それで・・・・・・」

 マリューが続きを促す。するとラクスは話し始めた。

「私はラクス・クラインですわ。これは友達のハロです」

 少女がピンク色のロボットを出して紹介する。アムロの作ったハロ・ペットに良く似てると皆思った。ただ、アムロの作ったものの方が少なくともAIでは優秀な用である。

「クラインねえ。たしかザフトの最高評議会議長どのも、シーゲルって名前だったよなあ・・・」

 フラガの言葉にラクスが嬉しそうに頷く。

「その通りです。良くご存知ですのね」

 あっさり答えたラクスに状況が理解できていないのか3人が肩を落とす。

「・・・・そんな方が、どうしてこんな所に?」

 気をとりなおしてマリューが尋ねる。

「ええ、私、ユニウス7の追悼慰霊の事前調査に来ておりまして・・・・・・そうしましたら、連邦軍の艦と出会ってしまいまして。臨検するとおっしゃるので、お受けしたのですが・・・
連邦の方々には、わたくしどもの船の目的がどうやらお気に障ったようで・・・些細な諍いから、船内は酷い 揉め事になってしまいましたの。」

 そこまで言って彼女のその柔らかな眉が悲しげに寄せられた。

「それで・・・わたくしは周りの者達に、ポットで脱出させられたのですが・・・あの後どうなったのでしょう。連邦軍の方々がお気を鎮めて下さっていれば良いのですが・・・」

 その言葉に3人は黙る。あの宙域にあった破壊された艦、状況から考えれば何が会ったかは明らかだった。

「祈りましょうね、ハロ。どの人の魂も安らぐように」

 そう、彼女の言葉が響き渡った。



感想
ハ、ハロが、ハロが対面している。語彙の数の差はアムロとアスランの技術力と経験の差でしょうか。原作のハロはそういえば銃弾弾き返してたなあ。しかしアムロ、見つけたジンをさっさと始末する辺りが歴戦の貫禄かな。何気にこの世界では一番MS戦の経験が豊富な男の筈ですし。
とりあえずラクスが入って、どうなる次回?