11話 激突
「俺、ちょっと様子みてくるよ。」
中々帰って来ないキラ達を心配して、また、さきほどキラが暗い顔をしていたことを思い出し、サイが立ち上がり、食堂をでた。
「・・・・フレイってさ、ブルーコスモス?」
サイがいなくなったのを見てカズィがささやくように尋ねる。ブルーコスモスは遺伝子を改変したコーディネーターに対し、自然に反していると抗議活動を行う団体である。当初はまっとうな団体であったが、次第に過激化し、テロや海賊行為をするものも増え、武器商人でもある盟主のアズラエルを中心として軍とも強いつながりを持っている。
「違うわよ! 失礼ね!!」
それに対して心外だというようにフレイは声を上げるが、すぐに声のトーンを落とした。
「・・・でもあの人達、ブルーコスモスが言っている事は間違ってないじゃない。病気でもないのに遺伝子をいじったりするなんて、やっぱり間違った存在よ。」
彼女はむっとした表情で、みんなの顔をみまわした。」
「・・・・ほんとは、みんなだって同じように思ってるんでしょう!?」
その言葉に皆は押し黙る。正直カズィの中にはフレイの意見に同意する部分もあったのだ。そして他の皆にもそのような感情が全く無いわけではなかった。
「なんかつい、忘れてたけど・・・・・・キラもコーディネーターなんだよな。あんなモビルスーツに乗ってたたかえちゃうんだもんなあ・・・。」
その呟いた言葉には自分より遥かな上にいるものに対する嫉妬が混じっていた。
「そんなこと言わないでよ。それにユズハだって、モビルスーツで戦ってるじゃない。」
「ご、ごめん。」
少しだけ、声を荒げて言うミリアリア。それに対して謝るカズィ。だが、内心で彼は思っていた。きっと彼女は天才という奴なんだろうと。そして、そんな事を考えてしまう自分が彼はたまらなく嫌だった。
1ユズハとキラが談笑を終え、ラクスの部屋から出ようとする。
「もう、行ってしまわれますの?」
「ごめんね。」
少し寂しそうに言うラクスに頭を下げるユズハ。そこでふと思いついたように手を叩いた。
「あ、そうだ。」
そして、きょろきょろとして少し大きな声を出して言う。
「ハロペ、いない?」
「ヨンダカ?」
するとどこからともなく、ハロ・ペットが転がってきたのだ。
「呼んどいてなんだけど、いったいあなたどこにいたの?」
「ヒミツダゾ」
毎回、毎回いいタイミングで出てくるこの丸い物体に対し、一体父親がどんなメカニズムを組み込んだのか本気で悩んでみるユズハ。
「ま、いっか。ハロペよかったら、ラクスやピンクちゃんの話し相手なってあげてくれる?後、勝手に部屋からでないように見張りを。」
「イイゾ」
小声にして聞いたユズハのお願いを承諾するハロ・ペット。それをうけ、ハロペをラクスたちの方に差し出す。
「よかったら、話し相手代わりにこれをおいて置こうと思うんだけど、どう?」
「まあ、うれしいですわ。」
にっこりと笑ってハロ・ペットをうけとるラクス。そして、ユズハとキラは部屋をでた。そしてそこでサイと会う。
「あれ・・・? サイ?」
「あ、キラ。遅いんで心配になってな。それにお前さっき暗い顔してたし。やっぱフレイの所為か?」
「あ、いや、違うよ。もう大丈夫、気にしないで。」
実際にはそれも原因の一端ではあったが、そう答える。それよりも自分を心配してくれたサイの気遣いがうれしくて自然笑顔になる。
「そうか、ならいいけど。」
サイは少し納得いかない様子でもあったが、キラの自然な笑顔を見て、悩みは晴れたのだろうと思いほっとする。その時、ラクスの歌声が聞こえてきた。
「この歌・・・あの子が歌ってるの・・・?」
「きれいな声だな・・・」
「うん・・・・。」
3人はしばし、敵国の歌姫の声に聞き入った。しかし、その時サイがポツリと漏らした言葉で、和らいでいた空気が凍りついたように二人は感じた。
「・・・・でも、やっぱ遺伝子いじってるから出る声なのかな・・・・。」
「艦長、通信です! これは・・・第八艦隊先遣隊です!!」
通信士のパルが叫びをあげた。その言葉に艦橋がざわめく。
「第八艦隊!?ハルバートン准将の指揮下の部隊だわ!!通信できる!!」
予想外に味方、しかもG計画に関り、マリューの直接の上司であったハルバートンの指揮下の部隊との合流に喜ぶマリュー。そして通信がつながった。
『第八艦隊所属のコープマンだ。』
「こちらはアークエンジェルです。」
『うむ、そちらの事はハルバートン准将から聞いている。それで、今後の指示なのだが・・・・・。』
「そのことですが、本艦には現在避難民が数多く搭乗しております。できればそちらの方もなんとかしていただきたいのですが・・・・。」
マリューが相手の言葉を遮って言う。その言葉にコープマンは驚いたような顔をしていたが、少し考え込むような仕草を見せた後に答えた。
「何だと?・・・・・わかった、とりあえず、乗員名簿を送ってくれたまえ。」
「わかりました。」
そこで乗員名簿を送る。そしてランデブーポイントと到着予定時刻を決める。すると、最後に話をしたいというものがあらわれた。
『大西洋連邦事務次官、ジョージ・アルスターだ。まずは民間人の救助に尽力してくれた事に礼を言いたい』
(アルスター・・・? 確か、キラ君達と一緒に居るあの娘も・・・)
マリューはフレイの事に思い当たる。そして、彼女が連邦事務次官の娘であるとサイが言っていたのを思い出した。
『あー、その。乗員名簿の中に、私の娘フレイ・アルスターの名前があったのだが・・・
出来れば顔を見せてもらえるとありがたい・・・・・・・』
予想が当たっていてやっぱりと言う気持ちなる。同時にあまりの公私混同ぶりに溜息がでる。結局、コープマンの取り成しもあって、それは我慢してもらった。
そして、合流まで、後、少しで合流と言う時、先遣隊が敵に襲撃された。
警報が鳴り響く中、ユズハが格納庫に向かい、ラクスの部屋の前を通り過ぎ様とした時だった。
「なんですの?」
唐突にドアが開き、ラクスがドアの隙間から顔を出してきた。
「ラクス!?ハロペどうなってるの!?」
何故鍵が開いたのか一緒にでてきたハロ・ペットに問いただす。
「ピンク、カギアケタ。ピンク、カギアケタ。」
(なるほど、ピンクだったのね。)
その言葉でユズハは納得してラクスのもちピンク・ハロを見つめる。しかし、一応軍の施設の鍵をあけてしまう、ピンク・ハロの高性能に感心すべきか、軍のセキュリティの甘さ、もしくは技術の低さを貶すべきか悩んでしまった。
「急に騒がしくなったようですけど・・・?」
「戦闘配備なんです。危険なんで中に入ってください。それから、ハロペ、今度はもっとちゃんと見張ってね!!」
ラクスとハロペに言い含め、部屋に戻す。そして、再び走り出そうとした時、腕を掴まれた。
「ユズハ! 戦闘配備ってどういう事? パパの船は!?」
それは不安顔のフレイだった。
「あれ、ユズハにフレイ?どうしたの?」
そして、そこにさらにキラが現われた。
「い、いや、私もよく・・・・・。フレイどういう事?」
事情が飲み込めないユズハがフレイに問いただすとフレイは悲鳴をあげるように叫んだ。
「今、襲われている艦にパパが乗ってるの!!だ、大丈夫よね? パパの船やられたりしないわよね!?」
何故、フレイの父が乗っているのかはわからないが、大体の事情は理解したユズハとキラ。何とかフレイを安心させようとフレイは力強く頷く。
「大丈夫よ、フレイ。私達がんばるから。」
「うん、僕もいくから。それにアムロさん達だっているし。」
キラもフレイを励まそうとする。その二人の言葉に少し安心したのか、僅かにほっとした顔をする。
「それじゃあ、いくから。」
そう行って二人は走り出した。
アークエンジェルから4機の機動兵器が出撃する。
「イージスか!?」
敵勢力は戦艦3機に加え、イージス、そしてジンが全部で8機。
「イージスは俺が抑える!!」
そう言ってアムロが飛び出す。彼はユズハを通じて、イージスのパイロットがキラの親友であることを聞いていた。どのみち彼に人を殺させなくてはいけないのは変わらないが、せめて友殺しは避ける事で彼の負担は減らしてやりたいと考える。
「見える!!」
「何!?」
ビームライフルによる遠距離からの連続射撃。それをぎりぎりで回避するイージス
「あの機体ジン!?しかも、あの距離から仕掛けてきたと言うのか!!そうか、例のパイロットだな。」
クライムの姿を見て驚きの声をあげるアスラン。そしてそれを見て、イザークを退け、「血にまみれた妖精」と言う二つ名を持つエースパイロット、シャナすら退けた相手。
「あいつもキラと同じようにコーディネーターなのか?」
一瞬、そうためらうが、すぐにそんな事を考えている場合ではないと飛び出アスラン。
「喰らえ!!」
「甘い!!」
2本のビームサーベルを振るうイージスをアムロはビームコーティングされたブレードでそらすように流す。
「悪いが子供に付き合っている暇は無いんでな!!」
サーベルを片手に持ちながらビームライフルを撃つ。それをなんとか回避するイージス。
「くっ!!ただのジンじゃないな!!かなり性能が上がってる。」
バーニアの出力をあげ、加速した状態から再びビームサーベルを振るうイージス。その攻撃がかすり、装甲を削りとられながら、カウンターであわせてブレードを縦にし、突きを叩き込む。
「ぐぅぅぅ。」
PS装甲でガードされているとはいえ、この一撃は衝撃が大きく、機体を激しく振動させ、バッテリーを大きく消耗させる。
「喰らえ!!」
そして、アムロは2つのインコム使ってイージスに2条のビームを発射し、左腕を落とす。バランスを崩し一瞬停止するイージス。さらにビームライフルを撃とうとするアムロ。しかし、その時横方向から弾丸が放たれた。それは本来味方機である筈のメビウスだった。元はジンであるその機体を敵と誤認したのである。
「くっ。」
とっさにそれを回避するアムロ。しかし、それによって今度はクライムの方が崩れた体勢になる。
「うおおおおおお!!!!!」
アスランはおたけびをあげ、ここぞとばかりにビームサーベルを振るい、クライムの装甲をなぐ。そして飛び弾くクラインの右足をビームライフルで破壊する。
「こちらは友軍機だ!!識別信号をちゃんと見ろ!!」
「!?もうしわけありません。」
アムロは通信でメビウスのパイロットをどなりつけ、再びイージスに向かい合った。
「この程度?どうやら、今回のパイロットは最初に戦った時の相手のようね。」
アムロがアスランと戦っている頃、友軍の援護をしようとしていたユズハは予想外な相手に阻まれていた。整備に僅かに不十分なところがあった為に出撃が控えられていたファントム・クロスがアークエンジェルの介入によって出撃してきたのだ。
「な、なめないで!!」
相手に侮られていることを感じたユズハがビームブレードを振るう。だが、そんな怒りに任せた攻撃など、簡単に避けられてしまう。
「はっ!!」
ビームナギナタを振るうファントム・クロス。その一撃をビームブレードで受け止める。クロスガンダムの盾では止められないのは前回の戦いで承知の上だった。次いで放たれる連撃。
「やらせない!!」
その一撃を今度は、受けずかわす。そして、出来た隙、今度は胴体を狙ってビームブレードを振るう。
「!!」
その攻撃に驚愕の表情を浮かべながら、ビームナギナタの反対方向で受け止めた。
「腕があがってる・・・?どうやら、侮れる相手じゃなかったみたいね。」
感嘆の言葉を漏らすシャナ。そして、2機の"cross"の戦いが再開された。