13話


「くそ!!これ以上先にいけない!!」

「こいつら強い!?」

 アムロがアスランと、ユズハがシャナと戦ってる頃、キラは3体のジンに囲まれて、身動きが取れなくなっていた。しかも、相手のパイロットがなかなかの腕前な上に連携が巧みでかなりの苦戦を強いられる。

「くそ!!」

 ストライクのビームライフルが発射される。しかし、それはジンが今回ビームライフル対策に装備していた盾に阻まれる。ビームコーティングはされていなかった盾は融解するが、その一撃はふせがれ、その隙に後方から2体のジンが現われ、ブレードを十字に重ね、切りつけてくる。

「ぐうっ。」

 PS装甲のおかげでダメージはないがバッテリーは消耗。そして衝撃で体勢が崩れたところに、大型のビーム砲が発射。Gのビームライフル以下の性能しかなかったがそれでもノーダメージではすまなかった。

「うわああ!!」

 装甲の一部が破損。そして、先ほど攻撃を仕掛けてきたジンのうち一体が、その破損した装甲の合間にブレードを突き刺そうとする。

「くそ!!」

 キラはそれをビームサーベルで受け止め、そのまま切り裂く。そして、一度、刃を引いてそのまま突き刺した。

「マズル!!」

 仲間をやられたジンのパイロットが怒り狂う。だが、キラはそこにビームライフルを打ち込んだ。

「な!?」

 針の穴を貫くような正確さで、盾や剣の合間を貫く。もろにビームライフルをうけたジンは爆散した。だが、そこで最後に残ったジンが接近してきた。対処が間に合わず、ジンのサーベルが直撃、PS装甲がダウンする。そこにさらにもう一撃が迫る。

「まずい!」

 あせるキラ。だが、その時他方向から飛んできた弾丸によってジンが貫かれる。

「!?」

 驚いてその方向をみるとそこにはフラガのメビウス・ゼロの姿。だが、その一撃で完全に破壊されなかった、ジンがマシンガンを抜き、発射する。

「ぐっ。」

 フラガはそれを回避するが、僅かにかすり、機体が損傷する。そして反撃で放った一撃がジンを完全に破壊した。

「ちっ、まずいな。キラ、一度、帰艦するぞ。」

「で、でも、まだ、ユズハやアムロさん、それに他の人達も・・」

 戦っている、と言おうとするが、それよりも先にさえぎられた。

「無茶言うな!!お前の機体はエネルギーがほとんど残ってないし、俺だってもう戦える状態じゃねえ。このまま戦っても足で纏いになるだけだ。」

「・・・・・・わかりました。」

 キラは頷き、引き下がった。







「この機体のパイロット、反応速度がどんどんあがってる!?」

 シャナは驚愕を覚えていた。どこか素人くさかった相手パイロットが戦いの中でどんどん鋭さをまし、自分と互角に戦っていたからである。

(ありえない!!)

 胸のうちで驚愕する。戦いの中、これほどの速度で成長することなどコーディネーターでもありえない筈のことだった。自分のようには最高のコーディネーターになるように"創られた"ものであっても。





(見える!!)

ユズハは以前、銃弾をかわした時と同じ感覚を五感が極限まで研ぎ澄まされたような・・・否、それを超え、未来を見通したような感覚。数秒後の光景が"見える"。

(いける!!"倒せる")

あまりにも早すぎる覚醒。アムロ・レイをカミーユ・ビダンを、ジュドー・アーシタをも超える、いや、かれらとはまた根本的に質の違った力。その強大なる力に、かって彼らがそうであったように彼女は飲み込まれようとしていた。





「負けない・・・・私はもう負けられないのよ!!」

前回の戦いは敗北に近かった。この上さらに別のパイロットに負ける訳にはいかない。それは自分が生まれた意味の否定。自分はこのパイロットの存在を"認めるわけにはいかない"殺気が一気に強まり、シャナはこの戦い最高の一撃を放った。





(プレッシャーが強くなった!!)

 この戦いの途中から感じていた相手の意思。自分を倒そうという意思が明確な殺意に変わった。このパイロットは自分が彼女―――相手パイロットが彼"女"であることがなんとなく感じられた相手―――を殺そうとしているように、自分を殺そうとしている。

(させない!!殺されてたま・・・・殺す?)

 そこまで思考した時、彼女の手が止まった。そして気づいた。自分は相手を殺そうとしていたのだと。力にのまれ、ただ相手を破壊する事、蹂躙することしか考えていなかったのだと。そしてその停止した一瞬が致命的な隙となった、気づいた時にはファントム・クロスのビームナギナタガ回避できない位置に迫っていた。







「なんで!!なんで戻ってきてるのよ!!パパがまだ危ないって言うのに!!」

 艦橋に勝手に入ってきたフレイがストライクとメビウス・ゼロの姿を見て叫ぶ。

「しかたないよ、あの損傷じゃあ。」

 サイがそんなフレイをなだめようとする。

「でも、大丈夫だっていったのに!!」

 しかし、フレイは聞き入れず叫ぶ。その時、歌が聞こえてきた。ラクス・クラインの歌が。それを、聞いて、フレイは突然走り出した。

「あっ、フレイ!?」

 慌ててサイが呼び止めるが、フレイは聞かずに歌声が聞こえてくる部屋へと入った。

「あら?」

 前触れもなく入ってくるフレイに気付き、ラクスは歌を止めキョトンと振り向く。

「何か御用ですか?」

「・・・あなた、プラント最高議長の娘よね・・・?」

 睨んで問いかけるフレイの質問に、ラクスはあっさりと頷き答える。

「ええ。そうですわ」

「ちょっと来なさい!!」

 有無を言わせずにラクスの腕を掴むと、そのまま部屋から走り出る。

「まあ、そんなに急いで何処に行くのですの?」

「いいから黙ってついて来なさい!!」

 彼女は答えず、刃物を突きつけた。







ズガアアアンン

 爆発音が鳴り響く。

「まさか、こんな方法で回避なんて!!」

 シャナが驚愕の声をあげる。通常の方法では回避も防御も間に合わないと判断したユズハはインコムを機体とナギナタの間に挟んだ。インコムが爆発してその爆風で吹き飛ばされるが逆にそれで距離を置く事に成功したのだ。

「はあ、はあ。」

 ユズハは揺れる機体の中で気を落ち着けながら。機体を操作し、ビームブレードを握りなおさせる。だが、その操作する手は震えていた。

(私は、このまま戦っていいの?)

 先ほど、自分自身を見失ってしまったことを思い出す。だが、戦わなければ死ぬ。一瞬の葛藤。

(私は、まだ、死にたくない!!)

 そして、彼女は戦うことを選んだ。







 味方戦艦は残り1機となっていた。そしてその最後の1隻、モントメンゴリに向かってヴェサリウスの照準があわせられる。

 その時、アークエンジェルの艦橋にラクスとフレイがはいってきた。フレイの手にはナイフがにぎられ、それがラクスの首に突きつけられていり。そしてフレイが発した。言葉に艦橋にいたものたちが凍りつく。

「この子を・・・殺すわ・・・!」

「!?」

「パパの船を撃ったら、プラント評議会議長の娘を殺すって・・・! あいつらに言って!!」

 フレイの叫び。だが、無常にもその瞬間、ヴェリサリスから、発射された主砲がモントメンゴリを貫き、爆散した。

「いやあああああああああ!!!!」

 フレイが絶叫をあげる。だが、そのときだった。

「脱出ポット確認されました!!」

 士官の声にあわせ、モニターが表示される。そのモニターには爆発に巻き込まれて破損がみられるが、確かに脱出ポッドが映し出されていたのだ。それをみて気を失いかけたフレイの目に力が戻る。だが、その時、脱出ポッドから通信が入ったのだ。

『くるしいい。はやく・・・助けてくれ、1ポッドが壊れて、生命維持装置が・・・・。』

 真っ青な顔でうめき苦しむ乗員の悲鳴。金魚のように口をパクパクさせている。その姿は滑稽であり、凄惨だった。そして、その中にはフレイの父の姿もあった。

「パパ!!パパ!!」

 父を呼ぶフレイの叫び。しかし、その叫びは届いていなかった。そこでナタルがヴェリサリスに向かって通信を入れた。

「ザフト軍に告ぐ。こちらは地球連合軍所属艦、アークエンジェル。当艦は現在、プラント最高評議会議長シーゲル・クラインの令嬢、ラクス・クラインを保護している!」
 
「ラクスさま!?」

 その通信にヴェザリウスの艦長であるアデスが声を上げた。

「偶発的に救命ポッドを発見し、人道的立場から保護したものであるが、以降、当艦への攻撃が加えられた場合、それは貴艦のラクス・クライン嬢への責任放棄とみなし、当方は自由意思でこの件を処理するつもりであることをお伝えする!」

 言葉で取り繕ってはいるが、それはつまりこれ以上戦闘をつづけるのならばラクスを殺すと言っているのと同じだった。

「恰好の悪いことだな。援護に来て、不利になったらこれか」

「隊長・・・・・・」

「分かっている、全軍攻撃中止だ」

 アデスはアークエンジェルを侮蔑しながら、撤退命令を支持した。







「邪魔が入ったようね。」

 忌々しそうに言いながら、ひくシャナ。そしてユズハは顔面を蒼白にしていた。

(こんな事までして・・・・・。これ以上戦い続けることに意味があるの?)

 人質をとる連合の非道、そして、戦いにおぼれかけた自分、ユズハは戦うという事自体に疑問を覚え続けていた。







「卑怯な・・・・・・救助した民間人を人質にとる、こんなものがお前達の正義か。」

 アスランが叫ぶ。イージスは既にぼろぼろだった。

「・・・・・一つだけ教えてやる、軍に正義何かない。連合にもザフトにもな。」

「!?」

 アムロの答えに驚く、アスラン。そしてイージスは飛び立っていった。







『クロスガンダム!!クロスガンダム!!ユズハさん!通信に応答してください!!』

 戦闘が終わって半ば呆然としていたユズハはアークエンジェルからの通信で正気を取り戻した。

「あ、はい、こちらクロスガンダムです。」

 ユズハが通信に応じるとあせった声が返ってくる。

『直ぐに脱出ポッドを回収してアークエンジェルに帰艦してください!!脱出ポッドの一部が破損して、内部の空気が漏れている模様です。このままでは中の人命が『ユズハ!!早くパパを助けて!!』』

 その通信の内容を聞いてユズハは慌てて脱出ポッドを探す。そしてそれを見つけると全速でそこへ移動した。







「連合軍はあんな非道なことまでするんですか!!彼女は民間人なんですよ!!」

 同じ頃、ラクスを人質にとったナタルの脅迫行為に対して同じ軍人であるフラガに対してキラが問い詰めていた。

「そういう非道なやり方させちまうのは俺達が情けねえからだろ。」

 しかし、そのフラガの答えにキラは衝撃を受けた。

「あのままだったら、俺達は負けていた。そうでなくても、味方の戦艦は全部落とされていただろう。俺達がふがいないからあんなことさせちまったのさ。」

「・・・・・」

 その言葉に押し黙るキラ、だが、その時、別方向から反論が飛んできた。

「それは違う。」

それは帰艦し、クライムから降りようとしていたアムロだった。

「キラ達の責任じゃない。責任を負うべきなのは俺とフラガ大尉のような軍人であり、大人だ。キラやユズハは仕方なく戦っている協力者に過ぎないんだからな。」

「しかし、クサナギ中・・・いえ、クサナギさん。戦場にでて戦う以上、どんな立場であれ、責任は負うべきでしょう?」

 フラガの反論、だが、アムロは静かな声で答えた。

「確かにそうだ。だが、彼らが負う責務は自分自身とアークエンジェルを守ることだけだ。それ以上の責任を負うために俺達のような人間がいるんだ。」

 フラガも今度は反論できない。その全てに納得した訳ではなかったが、キラ達に責任の一部を押し付けたことに"逃げ"の気持ちがあったことに気づかされたのだ。

(やれやれ、おれもまだまだ、未熟だな・・・・。)







「これね。」

 脱出ポッドをつかんで呟く。中の人をクロスガンダムのコックピットに移した方がいいかとも考えたが、下手にあければかえって危険な状態にしてしまうかもしれない。それにクロスガンダムのコックピットが広めにつくってあるとはいってもポッドに乗った全員をのせることは不可能だろう。

(だめだ、急ぐしかない。)

 自分の無力差をかみしめ、少しでも早くアークエンジェルへと帰還しようとする。だが全速をだせば、ポッドの中の人たちがどうなるかはあきらかだ。スピードをセーブするしかない。それが酷くもどかしかった。







「パパ!!パパ!!」

「待つんだ、フレイ。」

 泣き叫び父親にすがりつこうとするフレイをサイが押しとどめる。脱出ポッドの中に乗っていたのは全部で7名。その全員が昏睡状態。呼吸や心臓が止まっているものもいる。医師達の懸命な手当て。心臓マッサージや人工呼吸が行われ、呼吸器がつけられる。そして15分の時が流れた。長くも短くも感じられる15分。3人は結局助からなかった。2名は息を吹き返したが低酸素状態で時間が置かれた為、障害が残るだろうと言われた。そして残りの2名は・・・・・・・植物状態になった。フレイの父親もその中にいた。


感想
おお、ストライクをジンで追い詰めてる。かなりの凄腕が揃ってたんですね。しかしユズハ強い。まぐれもありそうですが、アムロが倒せなかった相手と戦えるとは。何気にカスタムジンにボコられてるアスランがちょっと哀れでした。
フレイの父親は何とか生きてたようですが、さてどうなるか。まあ植物状態なら目を覚ます可能性も無い訳じゃないですが、それも設備の整った病院に行けばの話ですか。