14話 たくらみ
アークエンジェルに戻ったキラは、早速艦長室に呼び出され、軍事裁判を受けていた。
「〜〜当法廷は同人を、銃殺刑とします」
マリューのその言葉に顔を真っ青にするキラ。しかし、その後に彼女は柔らかな笑みを浮かべ言った。
「しかし、あなたは軍人ではありませんので軍事裁判で裁く事はできません。ただ、それでもあなたが勝手な行動でこの艦を危険にさらしたのは確かです。したがって、3日間部屋で謹慎とし、極力外出は控えてもらいます。」
その言葉にほっとし、退出するキラ。するとそこにはユズハとサイ、ミリアリア、トールが待っていた。
「大丈夫だったか!?」
「なんて言われたの!?」
サイとミリアリアが彼が問いかけをする。キラは笑って答えた。
「大丈夫。3日間の謹慎だけだって。」
「よかった。」
「なんだ、お前の方が楽じゃないかよ。」
キラの答えにユズハがほっとした声を返し、トールが不満気な声を返す。
「え!?それじゃあ、トールは!?」
「2週間、艦内の男子トイレ全部の掃除だってさ。」
うんざり、っと言った風にで言うトール。その様子に皆がご愁傷様といった感じになり、和やかな雰囲気になる。
「そっか、ごめん。」
「いいよ、俺が好きでやったんだからな。」
申し訳なさそうに言うキラはトールは笑って答えた。
実はキラに対する処罰に対し、不満を覚えているものがこの艦に二人いた。ナタルと・・・・・アムロである。ナタルは軍人として規律を重んじるところからだが、アムロはもっと現実的な点からである。アムロは今回、キラが行動した事が必ずしも間違っているとは思っていない。それどころか、彼に協力を求められていたら自分も力を貸していただろう。それはその行動が道義的にも、利害的にも正当性が存在すると考えていたからである。
ラクスのような立場の人間を人質に使い、さらに拘束し続けていたのならばアークエンジェルは今まで以上にザフトの標的になり、それを逃れたとしても政治的な問題を引き起こしていた可能性が高い。その場合、最悪、蜥蜴のあしきりとされ、戦犯としてアークエンジェルの乗員全員が処罰されていた恐れすらある。また、連合の中立国からの印象も悪化するだろう。
とはいえ、問題なのはそこではない。問題なのは彼が独断で今回の件を行なったという点だ。今回正しい判断をしたからといって、次もそうだとは限らない。次、彼が勝手な行動をした時、それによって今度は取り返しのつかない出来事が起こる可能性がある。子供はしかられなければなかなか反省できない。それを自らの若い日の苦い経験から理解しているアムロはマリュー達に彼に重度の処罰を与えないように依願する一方で軽度の罰を与えるように頼んでいたのである。しかし、それによって与えられた罰は軽すぎるものだった。
「何も問題が起きなければいいが・・・・・・。」
アムロはその事に嫌な予感を覚えた。
キラ達は食堂で食事を取っていた。一応食事とトイレの時のみは部屋から出てもいい事になっていたからだ。その時食堂にフレイが入ってきた。
「フレイ・・・!?」
最初にサイが彼女を見つけ、その声でユズハとキラがそちらを見る。
「フレイ・・・大丈夫なの? まだ休んでいた方が・・・」
少し罪悪感を含みながらユズハがフレイに声をかける。キラもフレイの父親の事は聞いていたので顔を背ける。するとフレイは小さく笑った。
「ユズハ・・・・・・さっきはごめん。」
「う、うん。」
身構えていたユズハは、フレイのその言葉にほっとした表情を浮かべる。
「あの時、私・・・パニックになっちゃって・・・凄い酷い事、言っちゃった・・・」
ちらと上げたフレイの目に、涙が浮かんでいた。
「ごめんなさい・・・ユズハ達は一生懸命戦って。キラだって頑張ってくれたんでしょ?それでも、私達を、守って戦ってくれたのに・・・私・・・」
「そんな、気にしないで!!私が・・フレイのお父さんを守れなかったのは事実なんだし。」
慌てて否定した後、うつむくフレイ。
「ううん、そんな事無いわ。パパはあんな風になっちゃったけど、死んだわけじゃないし。だから、お願い!!酷いことを言ってるのはわかるけど、これからも戦って!!私達を守って!!」
「!?・・・・・わかった。私戦うわ。」
一瞬、戦う事に対する忌避感等が頭を過ぎったが、罪悪感もあって頷いてしまった。
「うん、僕も戦うよ。それが僕に出来る事だから。」
そしてキラも、半ば勢いに押され発言する。そんな二人を見てフレイは薄く笑った。だが、今の二人はその笑みの意味に気づけなかった。
『総員第一戦闘配備!! 繰り返す、総員第一戦闘配備!!』
ユズハとキラがフレイに言われ戦う事を決意したその時、艦内に警報が鳴り響いた。
「―――もう少しで合流だってのに・・・!」
カズィがぼやく。アークエンジェルはもう少しで月艦隊と合流できる筈だったのだ。ともかく今は戦わなくてはならない。そう思いユズハやキラが慌てて食堂からでようとする。その時、避難民の小さな女の子とぶつかってしまった。
「ごめん! 大丈夫・・・?」
尻餅をついてしまった女の子をキラは助け起こそうとするが、それを制する様にフレイが前に出て立ち上がらせる。
「ごめんねぇ、お姉ちゃん達、急いでるから」
彼女は優しい手つきで女の子を立ち上がらせると、ニッコリと笑いかける。
「また、戦争だけどこのお姉ちゃんとお兄ちゃんが戦って守ってくれるからね。」
そう少女に言い聞かせるフレイにユズハはその時初めて何か違和感のようなものを感じた。しかし、彼女はすぐにその考えを隅に追いやってしまう。彼女は友人に対して疑いを持つには少しばかり優しすぎた。
「ほんとぉ・・・・?」
女の子はおずおずとユズハとキラを見上げる。それに対してフレイは力強く頷いた。
「うん、悪い奴はみんなやっつけてくれるんだよ」
「――――キラ!ユズハ!!」
その時サイが二人を呼びかけた。慌てて走り出し、そして食堂の外にでた。
「そうよ・・・」
ユズハとキラの姿が通路の先に消えるのを見送った時、フレイが呟きだした。
「みんなやっつけてよ、ユズハ。親友だもんね。仇を討ってくれるよね。」
「―――い、いたぁい!」
フレイの手に突然力がこもり、女の子は鳴き声を上げてその手を振り払った。フレイは彼女を見ようともせず、自分の手に力がこもった事にも気付かない。その口元には切り裂かれた傷口の様な、冷ややかな笑みが浮かんでいた。
「ひっ!!」
彼女の顔を見た女の子は、何故か恐ろしくなり、短く悲鳴を上げるとベソをかきながら母親を探して駆け出した。1人取り残された事に気付いた様子もなく、フレイは突っ立ったまま、調子の外れた声で何度も繰り返す。
「みんな、みぃんな・・・やっつけて・・・」
アークエンジェルから出撃した4機に相対するのは"ファントムクロス""デュエル"、"バスター"、"ブリッツ"とジンが3機、それとローラシア級の戦艦が一機。
「イージスがいないな、修理がまだ済んでいないのか?」
フラガが呟く。イージスは前々回アムロと戦闘した時、かなりの損傷を受けている。もともと自軍の兵器ではない為に修理も困難だろう。前回ラクスを迎える時にも修理が済んでいなかったようなので今回の戦闘では出てくるつもりは無いのかもしれない。
「貴様!!あの時の借りを返すぞ!!」
その時、デュエルがまっすぐにクライムに向かって突き進んだ。パイロットのイザークは以前、アムロに破損したジンで瞬殺されるという屈辱を味わわされて以来、復讐の機会をずっと待ち続けていたのだ。
「イザーク!!一人じゃ無理です!!」
ニコルがそれに続く。2体のGに囲まれるクライム。それを援護しようとキラがストライクで近づこうとする。だが、そのストライクに向かってバスターの94mm高エネルギー収束火線ライフルが襲う。
「くっ。」
とっさに回避するが、さらに次々と連続する射撃。距離を取られた戦いではストライクよりもバスターの方が有利。キラは防戦一方になってしまった。
「このっ!!うっとうしい。」
そしてフラガの周りには3機のジンが取り囲んでいた。攻撃の効かないGやファントムクロスよりはある意味やりやすい相手とはいえ、3対1というのはやはり苦しいものがある。彼もまた回避で手一杯となる。
「こんどこそ、決着をつけましょう。」
そしてユズハはファントムクロスと五たび相対していた。シャナの挑発に対し、ユズハはまっすぐに目を向けた。
「いける!!見える!!」
ユズハとシャナ、クロスガンダムとファントムクロスの戦いは互角の様相を見せていた。今回は前回のように強烈な戦闘衝動に飲み込まれるものもなく、冷静に戦いを進めることが出来ていた。相手の動きが先読みできる。だから一つ一つの動作の鋭さでは負けていても互角に戦う事が出来る。
「インコム!!」
4機のインコムでファントムクロスを取り囲み一斉にビームを発射する。それを驚異的な反応で回避し、ビームライフルを3連射するファントムクロス。
「くっ。」
クロスガンダムはビームをシールドで防ぎ、反撃でビームライフルを撃つ。今度は自分がシールドで防ぐファントムクロス。そしてお互いに銃を納め、近接用の武器を手にする。
「うぉぉぉぉ。」
先に仕掛けたのはシャナ。ビームナギナタをまっすぐに振り下ろす。だが、ユズハのクロスガンダムはビームブレードでそれを弾き飛ばし、かえす刃で切りつける。後方に機体をずらし、それを回避するファントムクロス。回避しながら今度は横凪で振るわれたビームナギナタを受け止めるビームブレード。お互いにはじかれ、後方に飛んだ。
「うおおおお!!!!!!」
キラのストライクがバスターの攻撃をかいくぐり近接に成功した。そして対艦刀を振り下ろし、バスターの右腕を持っていた銃ごと切り落とした。
「くっ。」
そして、同時にフラガによってジンが1機破壊された。戦局を見ていたクルーゼは不利を悟り、退却を命じた。イザークなどはそれに対し、不平を叫んでいたが、結局それに従い、ザフトは撤退していった。