17話 別れる道


出撃したクロスガンダムとストライクは戦場の中心へと飛び出していく。そしてその姿を確認したファントムとイージスとデュエルは2機に接近した。

「あのジンもどきはいないのか!?」

 以前、自分に屈辱を合わせたクライムの姿が無い事にイザークは腹ただしげにするが、代りとばかりにストライクにビームを放つ。

「くっ。」

 キラはそれを回避するとソードストライカー装備のストライクで接近戦に持ち込もうとする。

「好き勝手にやらせると思うか!!」

 だが、追加装甲のアサルトシュラウドを装備し、以前より中遠距離に特化した形になったデ・Gルは接近を許さず左肩のレールガンを発射して牽制する。さらに右肩のミサイル、ビームライフルと連射し、その攻撃がストライクに直撃する。

「うわあああ」

 PS装甲のおかげでミサイルによるダメージは受けなかったが振動までは殺せない。衝撃で停止した所にビームライフルを受けたストライクは損壊をうける。

「キラ君!!」

 更なる追撃をしかけようとしたデュエルに対してクロスガンダムが援護に入った。イザークは反応するが、それよりもユズハの攻撃の方が早かった。クロスガンダムのビームブレードがデュエルを切り裂こうとする。

「やらせないわ」

 だが、そこにファントムのカバーが入った。ビームナギナタでクロスガンダムのブレードを受け止める。

「ユズハ!!」

 イザークがクロスガンダムに気をとられた隙に体勢を立て直したストライクのビームブーメランが放たれる。それを回避するデュエルとファントム。1対1の2組になる筈だッ多戦いは自然に2対2の戦いへと移行した。







「アムロさん、いいんですか?」

「・・・・ああ。」
 
 トールの問いに答え、アムロはシャトルに乗り込む。アムロ個人としては無論、この艦に残りユズハを守ってやりたい。敵からも、そして軍と言う存在からも。
 だが、彼の立場がそれを許さなかった。オーブのニ佐であるアムロがこれ以上ここに残れば、いやおうなくオーブが戦争に巻き込まれる事態になる可能性が高くなる。自分と、そして娘一人のわがままの為にそんな事をする事は出来なかった。

「ユズハ・・・・死なないでくれ・・・・。」

 ぽつりと呟く。今の彼には祈る事しか出来ない。彼の背中は普段とは違い、とても小さく見えた。







 4機のMSはしばらくの間2対2の戦いを戦い続けていたが、そこに他のMSやMAが入り込み、混戦状態になる。その中で4機は拡散し、互いの姿を見失う。

「くそっ!!どこだ!!」

 クロスガンダムとストライクを探すがその姿がイザーク。その時、メビウスが一機、彼の目に入った。

「ちっ、雑魚が。」

 彼の狙いとは違うとはいえ、敵である。イザークはメビウスに狙いを定める。だが、その時、地球に降下しようとしていたシャトルがその斜線上を塞いだ。

「!?・・・戦場から逃げ出す気か!!腰抜け兵め!!」

 苛立ったイザークはそのまま引き金をひく指に力をかけた。







 クロスガンダムのビームライフルがジンを一機打ち落とす。その時、ユズハの脳裏に不吉なイメージが流れた。

「な、何、この嫌な感じ。」

 自分でもはっきりと理解できないその直感的な悪寒に、反射的に周囲を見渡す。するとモニターの端に小さくデュエルの姿をみつける。そして、そのデュエルのライフルが地球に降下しようとしているシャトルに向けられているのがわかった。

「だめええええええええええええええええええ!!!!!!」

 反射的にライフルを構え引き金を弾く。ビームライフルの射程圏内ギリギリの超距離射撃にも関わらず、放たれたビームはデュエルのライフルを正確に貫いた。







「な、何!?うわあああああ。」

 ライフルが至近距離で爆散した事でデュエルの胸部が破損。更にその衝撃で計器の一部が破裂し、飛んだ破片がイザークの顔を切り裂いた。

「いたい!! いたい!! いたい、いたい!!・・・・あ、あの距離から撃ってきたっていうのか!!」

痛みに耐えながら、何とか状況を把握しようとしたイザークはクロスガンダムの姿を見て驚愕する。
 そしてちょうどそのタイミングで、アークエンジェルの地球への降下が始まった。







「ナスカ級、こちらに突っ込んで来ます!!」

「特攻!!刺し違えるつもりか!?」

 オペレータの指示を聞きハルバートンが叫ぶ。その時、メネラオスにガモフの放った砲弾が着弾し、ブリッジが大きく揺れる。ハルバートンは歯を食いしばる。

「ここまで来て、あれに落とさせてたまるか!!」

 もはや艦の最後を悟ったハルバートンは通信回線を開き、全艦隊に最後の命令を出した。

「全艦隊に告ぐ! 無事な艦はこれより戦闘宙域を離脱し、月基地へ帰還しろ!! 以後の命令、行動はそれぞれの艦長に委ねる!!これが第八艦隊提督、ハルバートンの最後の命令だ!! 総員、生き残れよ・・・!!」

 通信を終えると、ブリッジから見える一杯にガモフが迫ってくるのが見えた。メネラオスから1隻のシャトルが発進し、姿勢を制御しながら艦を離れていくのを認めると、ハルバートンの目に僅かな安堵が表われた。

(後は、アークエンジェルが無事に目的地へ着くだけだな・・・)

 そう思った時、ガモフがメネラオスへと接触し、各所で大規模な爆発が発生する。そしてハルバートンの意識と身体は炎と爆発に包まれた。

  





「艦長、フェイズスリー、突入限界点まで2分を切ります! 融除剤ジェル、展開用意!!」

 ノイマンの声に、マリューより早くユズハとキラの出撃を確認していたナタルが反応する。

「ユズハとキラを呼び戻せ!!早く!!」

 マリューは凍りついた様にモニターを見つめていた。ぶつかり合った2つの艦は、装甲を大気との摩擦に灼かれながら爆発を起こしていた。ふいに、メネラオスが大規模の爆発を起こし、それがガモフにも伝わり2艦揃って爆発四散する。

「ハルバートン提督・・・!」

 灼かれ落ちていくメネラオスの破片を見ながら、マリューは立ち上がりゆっくりと敬礼をし、ナタル達もそれに倣う。

(閣下の遺志・・・しかと届けます)







「貴様!!」

「その機体でまだ戦いつづけるの!? これ以上続けたらお互いただじゃすまなくなるわよ!!」

 攻撃を受けたイザークは損傷した機体でユズハのクロスガンダムに攻撃を仕掛けてきた。二体の機体は地球の重力に引かれ、徐々に大気圏内に落ちていっている。これ以上戦い続ければ2機とも重力から抜け出せなくなる。

「このままじゃあ。こうなったら一刻も早くこの機体を落とすしかない!!」

 ユズハが帰艦する事からイザークのデュエルを落とす事に意識を切り替える。だが、その時だった。

「イザーク!!何してるの!?このままじゃあ、戻れなくなるわよ!!」

 その時シャナのファントムが駆けつけ、クロスガンダムにビームライフルを見舞う。それをユズハは何とか回避する。

「ファントム!?」

 驚くユズハ。計算外の介入にあせりが生まれる。

「うるさい!!こいつは俺が始末する!!」

 しかし損傷を負わせられた事で冷静さを失っているイザークはそのままクロスガンダムに攻撃を仕掛けようとする。それを見て説得を諦めたシャナはそのままクロスガンダムに攻撃を仕掛ける。2対1で不利になったと思われた時、そこにさらにストライクが介入した。

「ユズハ!!」

 ユズハを助けようと援護に入るキラ。その結果、4機は膠着状態に入ってしまい、逃げ出す事も一気に勝負をつける事もできなくなり、そして、4機は重力に飲み込まれ大気圏内に突入した。







「駄目です、本艦とストライクとクロスガンダムの降下角度に差異があります。」

 パルの報告にマリュ−は決断した。

「艦を寄せて! アークエンジェルのスラスターならまだ動ける筈よ!」

「そかし、それでは本艦の降下地点が・・・・・・」

 ノイマンが抗議をするが、マリュ−はねじ伏せる様に言いきった。

「ストライクを失っては、意味が無い。早く!」

 ノイマンは仕方なくスラスターを操作しだした。ゆっくりとアークエンジェルがストライクに近づいて行く。そして、新たに算出された降下地点はなんとアフリカ北部。完全にザフトの勢力圏下であった。そしてアークエンジェルとストライク、クロスガンダムはアフリカ北部へ降下した。











「熱・・・下がんないね・・・」

 高熱でうなされているキラを見ながら、ユズハは不安げに呟いた。ユズハ自身も熱こそでていないもののかなり辛そうである。フレイが傍らにキラの座り、額にかいた汗を拭いてあげている。大気圏突入した後、何とかファントムとデュエルから逃れたクロスガンダムとストライクはそのまま地球へ降下した。クロスガンダムやストライクは大気圏突入にも耐えられるように造られている。だが、それはあくまで理論上であり、実際に行なえば機体にもそしてパイロットにも大幅な負担がかかる。現在機体の方はオーバーホールされていた。

「それで、キラはどうなんですか?」

 ユズハが医師に尋ねる。

「―――私もコーディネーターを診た事無いから断言できないが、おそらくは単なる疲れだ。大丈夫だろう。」

「おそらくはって・・・。」

 その医師の言葉にユズハは不安そうに聞き返す。それに対し医師は少し不快感を感じる態度で答えた。

「心配要らないさ。コーディネーターは身体の抵抗力から何から違う。コックピットの温度も致命的な温度までは上がっていない。大丈夫さ。」

「・・・・。」

「それより、君は大丈夫なのかい?君も大気圏をMSで突入したと聞いたが。君はコーディネーターじゃないんだろ?」

「はい・・。なんとか・・・・」

 コーディネーターであるキラと比べてナチュラルであるユズハが元気なのはそれぞれの機体に搭載されたシステムの違いだった。
クロスガンダムは機体の温度が一定以上に高くなると冷却材を噴出するようなシステムが供えてあったのではある。これは、もしもの時の備えとして作られたもので自らの意思で大気圏突入を考えるようなシステムではなかったが、これのおかげで大気圏内突入の際、コックピットの温度はそれほど高くならなかった。
また、それ以外にもクロスガンダムのコックピットは全体的に頑丈に作ってあったのが影響している。

「けど、辛そうよ。少し休んだ方がいいわ。・・・・キラは・・・・私が見ておくから。」


「そうね・・。少し休ませてもらうわ。」

ユズハを心配してフレイがそう言う。ただし、キラのところで僅かに言いよどんで。それを気にする余裕もなく、答えるとユズハはそのままベットに横になった。







「くそっ!!」

 地上に降下したイザークが叫ぶ。破損したデュエルでの大気圏突入という極めて危険な状態だったが、防護シャッターが閉じたおかげでイザークは何とか危険を免れていた。だがその代わりデュエルは修理が困難なほどに損壊してしまったのである。

「クルーゼ隊長から通信があったわ。私達はこのままアンドリュー・バルトフェルド、砂漠の虎の部隊に合流して"足つき"を落とすよう行動せよだそうよ。」

 イザークと一緒に地球に降下したシャナがそう報告する。だが、イザークはいらただしげだった。

「ちっ。俺の機体はこんなだってのにどうしろっていうんだ!!」

「機体を一機回してもらえるようクルーゼ隊長の方から手回しがすんでいるそうよ。」

 それを特にとりなそうともせず、ただ事実のみを報告するというように語る。そして付け加えた。

「それでしばらくは我慢しなさい。今度、あなたには新型の試作機を回してくれるそうだから。」


感想
むう、クロスガンダムには1stと同じ装備が。ファントムも同様の装備で落ちたんでしょうが、よく傷物のデュエルでイザーク生きてましたね。てっきり途中で爆発するとおもってました。
とりあえずアムロたちのシャトルは無事に降下したようで何よりです。