「よお、来たかい、キラ、ユズハ」

 敵の襲撃が艦内放送で流れ、格納庫のMSに乗り込むキラとユズハ。そこで、既に待機していたフラガからの通信がはいる。

「今回の敵は水中から攻めてきてるらしい。と、言う訳でだ、俺は今回、スカイグラスパーではなく、クライムで出撃する。俺のMSでの初戦闘って事になるな」

「えっ、そんないきなり!? しかも、あれは水中戦向きじゃないんじゃあ」

 フラガの言葉に驚くキラ。それに対しフラガはつかみ所の無い表情で答えた。

「まあ、不安が無い訳じゃないがな。今回の俺の役目は時間稼ぎだけすればいいんでな。まっ、何とかなるだろ」

「時間稼ぎ?」

 その意図する所がわからず、不可解な表情をみせるユズハ。フラガが頷いて説明を始める。

「始めに俺とユズハが出撃して足止めをする。その間にキラがOSの設定を水中戦用に設定しなおす。設定が終わればお前も戦闘に参加、まっ、大筋の流れはこんなもんだ。本当はもっと早くやって置くべきことなんだろうが、相手が水中から攻めてくるのは少しばかり予想外だったからな」

「えっ、僕は最初からでないんですか? それで大丈夫なんですか!?」

 フラガの説明を聞いてキラは驚く。フラガが初のMS、しかも初の水上戦だというのに、最初は自分を抜いた2人だけで戦うと言う事にキラは不安そうな表情をする。
 そんな彼を見て、フラガはそんな彼の頭を軽く小突いて言った。

「おいおい、あんまり俺を舐めんなよ。こう見えても連合じゃあエースだったんだ。いつも、いつも、お前やユズハにおんぶにだっこって訳にゃいくかよ」

「は、はい」

フラガに小突かれた頭をさすりながら答えるキラ。その様子を見て噴出すユズハ。

「とっ、これ以上、話してる暇は無いないな。キラもさっさとOS調整終えて増援頼むぜ。」

 そこで、フラガがそう言って、通信を停止し、出撃体制に入る。そして、最初に、クロスガンダム、ついでクライムがアークエンジェルから射出された。







「水中はやっぱり視界が悪いんだ・・・・・。」

 海中に潜ったクロスガンダム。そのモニターにはやや濁った水中が映っていた。センサーなどは無論あるが、やはり目視が効かないので位置が判別し辛いし、精神的にもプレッシャーである。フラガの方はどうかと、少し離れた位置に立っている彼の方を見ようとした時だった。

「・・・・・くっ!!」

 "何か"を知覚し、飛んできたフォノンメーザー砲を回避させた。その先にはそれを撃った敵MSの姿が発見された。反撃とばかりにジンの残骸から改修した実弾用ライフルを発射する。しかし、その攻撃は水の圧力によって軌道を外れる。

「この距離じゃ駄目!!接近しないと!」

 しかし、近づこうとするクロスガンダムを敵MSはミサイルを射出して牽制してきた。
そこで一旦、ライフルをおさめ、ビームブレードに持ち替え、それをビームを出さない状態で持って構えた。

ドンドンドン

 敵MSから次々と発射されるミサイル、それをユズハはブレードを持って、切断あるいは回避する。破砕したミサイルの破砕が機体に当たりもするが、それは水圧とPS装甲によってダメージを通さない。それを見て、遠距離から攻撃を仕掛けるだけではきりが無いと判断したのか、敵は自ら接近をしかけてきた。

「今だ!!」

 高速軌道で突撃を仕掛けてきた敵MSに対し、こちらも同時に接近をしかける。そのまま0距離にまでなった時、すれ違うようにして敵の攻撃を回避しながらブレードで切りつける。

ザシュ

 だが、水中の抵抗に押され、速度を殺された一撃は敵のMSに浅い裂傷を作るのみ、逆に機体が停止した状態を作ってしまった。

「まずい!!」

 敵のミサイルがもろに被弾する。エネルギーの残量が一気に限界へ近づいた。







「こっちはMS初戦だってのに、厄介な事してくれるぜ、まったく」

 ユズハに敵MSが襲撃を仕掛けてきたのに気付いたフラガは援護しようとし、だが、更にもう一機現れた敵MSに阻まれた。そして、形勢は完全に防戦一方である。

「こいつはマジでキラが来るまで粘るしかないか?」

 機体には既に幾つかの損傷。これ以上損傷したり、深海に潜ったりすれば、そのまま水圧で機体が圧壊してしまうかもしれない。

「けど、偉そうな事言ったからには、俺も少し位維意地を見せないとな。多分もうすぐ・・・・」

 ある予測をし、そこで、敵MSがミサイル攻撃をやめた。それを見てフラガニヤリとする。

「弾切れか。とっ、くれば・・・・・・・」

 そして、敵MSは接近してきた。この展開は先ほどユズハが繰り広げたものと似ている。
しかし、クロスガンダムと違い、クライムの水中での機動力、PS装甲も持たぬ状態では接近戦は遠距離戦以上に不利な展開だった。

ヴゥン

 眼前にまで接近した敵MSに対して振るったブレードが空振りする。敵MSは一歩後退した状態からそのまま攻撃を仕掛けようとする。対処は不可能、そう見えた。
 だが、フラガはニヤリと笑った。

「言っただろ? 俺は不可能を可能にする男だってな」

 そこで、フラガは後付されたインコムをそのまま"ぶちあてた"。インコムを発射台としてではなく、砲弾そのものとして使い、予想外な攻撃を受けた敵MSに、先ほど空振りしたブレードで切りつける。

ガン

 機体に致命的な破砕を受けるザフトのMS。だが、相手はそのまま最後の特攻を仕掛けようとしてきた。

「やばっ」

 フラガの顔に焦りが浮かぶ。しかし、その一撃はクライムには届く事はなかった。

「フラガさん、遅くなってすいません!!」

 その時、増援に駆けつけたストライクの発射したバズーカーが敵MSを破壊したからだ。
それを見てフラガは安堵しつつ、小さく舌打ちをする。

「結局、キラにいいとこ取られちまったな。とっ、それより、ユズハの方は大丈夫か?」








「な、何とか離されないようにしないと」

 エネルギーが残り少ないクロスガンダムは長期戦に持ち込まれたら負ける。何とか、距離を取られないように、必死に喰らい付いていた。
しかし、エネルギーは残り後、僅か。もう少しでPS装甲がダウンしてしまうという状態である。

「どうする、一旦、退く? けど、この状況で背を向けたら・・・・」

 逃げようとすれば機動力に劣るこの機体では狙い撃ちにあうかもしれない。だが、攻めるにせよ、逃げるにせよ、もはや決断しなければならない状況にあった。

「こうなったら!!」

 選んだのは攻め。残り全エネルギーを費やす覚悟でPS装甲を頼りに特攻を仕掛ける。
そして、相手の打ったフォノンメーザー砲を回避する。

「これで!!」

 そのまま振るったブレード。それに対し、相手は腕一本を犠牲にするつもりでガードしてきた。ブレードが腕に接触し、そしてその瞬間、ビームブレードを展開する。敵に接触させた状態ならビームの拡散はたいした問題では無い。
 ビームブレードはそのまま機体を真っ二つに切断した。

「はあ、はあ、はあ・・・・」

 息をつくユズハ。そこでクロスガンダムのPS装甲がダウンする。そして、残り僅かなエネルギーでアークエンジェルへと帰艦した。







 紅海を超えたアークエンジェルは、インド洋、太平洋を越えるルートでアラスカへと向かっていた。 最短距離を進むのなら大西洋を越えて西北のアラスカへ一直線に向かうのが速いが、その場合もうしばらくの間、ザフトの勢力圏に留まらなくてはならなくなる。その為、少しでも安全確率の高い東回りのルートを選んだ。
 だが、しかし、その場合、明けの砂漠に対し交換を行なった為、ぎりぎりの量しかない生活物資と水の不足とかまた、新たなる懸念材料となっていた。
 弾薬の補給は必要な事であったが、これらの物資もまた必要不可欠なものである。
その為、南海の中立国であるオーブに一度立ち寄って、願わくば、そこで補給を受けられるよう、コースが定められ、それが艦員に告げられた。

「カガリわかっているな?」

「ああ、ちゃんとわかっている」

 その話を聞いた後、明けの砂漠から唯一彼女に付き添ったキサカという男が確かめるように何か意味あり気な事をカガリに言い、彼女は複雑な表情で頷いた。そして、その時、警戒警報が鳴り響いた。







「くっ、また出撃なの!?」

「ああ、しかも今回は結構な大部隊だぜ」

 前回の水中戦から数日後、アークエンジェルは再び襲撃にあっていた。ザフトの新型、飛行型MSディン6機と水中戦用MS3機という一部隊の相手としてはかなりの大軍である。

「ユズハお前は水中の敵を何とかひきつけて置いてくれ。その間に俺とキラで空中の敵をどうにかする!!」

 そう言って、スカイグラスパーに搭乗するフラガ、キラのストライクも空戦向きのエールに換装してある。

「わかりました!!」

「はい!!」

 その言葉にユズハとキラが答え、お互いの機体に乗り込もうとした時だった。

「ちょっと、待て!! 私もでるぞ!!」

 格納庫に走ってきたカガリがそう叫んだのだ。そして、そのまま、予備のスカイグラスパーに乗り込もうとする。

「ちょ、ちょっと待って!!」

 その行動に慌てたキラが駆け寄り、彼女の腕を掴む。だが、しかし、彼の手はそのまま撥ね退けられた。

「今回は前回よりも敵の数が多いんだろ!? 前回だってかなり苦戦していたじゃないか!! だったら、少しでも力が必要だろ!!」

 そして、そのまま怒鳴りつけられ怯むキラ。そこにキラに遅れてやってきたユズハが言った。

「確かにそうだけど。下手に参加されても足手まといになるだけよ」

ちょっときついかなと思いつつ、彼女を死なせたくないと思いユズハはそう諌めようとする。だが、それは逆効果だった。

「馬鹿にするな!! シミュレータなら何度もやってる!!」

 彼女は激昂し、そう叫び返す。確かに彼女はここに来るまでにスカイグラスパーのしミュレータに何度も挑戦し、好成績を収めていた。

「けど・・・・」
 
 とはいえ、シミュレータと実戦はまた違う。今度はキラが口を挟もうとするが、だが、それをフラガが遮った。

「わかった、出撃してもらおう。けど、こっちにもフォローする余裕は無いから死んでもしらないぞ」

「馬鹿にするなっていってんだろ!!」

 フラガの軽口にカガリはまたも叫び返すと、そのままスカイグラスパーに乗り込んだ。それを見て、やれやれと言った感じに首を振り、溜息をつくフラガ。だが、キラ達はそれでおさまらなかった。

「フラガさん!! 何を考えてるんです!?」

 キラがフラガの方を見て叫び、ユズハも無言ながら睨みつける。それに対し、今まではどこか軽薄そうな笑みを浮かべていたフラガは真剣な顔つきになって言った。

「何って、まあ、実際の所、機体の数に対して、パイロットが足りてない状況だからな。戦力が増えるのなら、それはありがたい。それに、あのお穣ちゃんはするなって言ってもそれで聞きそうにないからな。下手に反対して妙な事されるよりも、ある程度認めてその行動をあらかじめ予測できるようにしておいた方がこっちとしても色々とやりやすいだろ?」

「けど・・・・」

 フラガの言葉に一部納得の意を示しながらも、それでもなお、すっきりしない部分が残り、二人は複雑な表情を浮かべ、キラは何か反論をしようと声をだす。しかし、フラガの続く言葉に完全に押し黙った。

「それとも、いっそ、彼女をどこかの部屋にずっと閉じ込めておくか」

 この言葉は言わば論理のすり替えだったが、ある一面ではカガリという人物に対する現実的な対処方法であるが、同時にそれは流石にできないと思った二人はそれ以上の反論をすることができなかった。そして、その時、カガリの叫び声が通信を通して響き渡る。

『おい、お前ら何してるんだ!! 早く、出撃しないとまずいんだろ!!』

 周りを混乱させた自分の行動を完全に棚上げした台詞ではあったが、確かに今は悠長にしていられる場合ではない。その事を思い出し、二人は素早く機体に搭乗した。
 そして、出撃の準備を整えている最中、キラからユズハに通信が入った。

「ユズハ、一人で大丈夫?」

 ユズハは今回一機で3機のMSを相手取らなければならず、あるいは初戦闘のカガリ以上につらい状況を担っている。それを心配し、不安気な表情をするキラにユズハは笑って答えた。

「大丈夫。それよりカガリの事フォローしてあげて。」

「・・・・うん。」

 それに対し、キラは一瞬の躊躇いの後、力強く頷く。
 そして、アークエンジェルから4機のMSが続けて発射された。







ストライクが出撃すると、敵MSディンが3機がそれに狙いを定め、銃弾を放ってくる。

「くっ。」

 キラはそれを回避し、急接近を仕掛ける。
 敵を早く倒す事が結果的にユズハとカガリ、その両方を助ける事になると考えた彼は勝負を急いだ。

ザシュゥゥゥン

 そして、すれ違いざまにビームサーベルで一機を切り裂いた。切り裂かれた機体はそのまま爆散する。それを見て更に2機が援護をしようとするが、それをフラガの乗ったスカイグラスパーからの砲撃が遮った。

「おーっと、こっちにもいるんだぜ。」

 そのまま、2機のディンを翻弄し、ひきつける。キラは他の機体も早く沈めようとするが、相手がいきなり味方がやられた事で慎重になった事と、はやる気持ちから行動が空回りな状態に陥っていた。
 ビームライフルを乱射するが、それがことごとくかわされてしまう。

「何、やってんだよ!!」

 その光景を見て、苛立ったカガリが援護しようと接近した。だが、その時、キラの相手もフラガの相手もしていなかった最後の一機のディンが彼女のその正面に現れた。

「なっ・・・」

 驚きの声を発すると同時に回避行動を取ろうとする。だが、それは僅かに遅く、ディンの放った銃弾が翼をかすめ、バランスを崩す。

「う、うわあああ。」

 悲鳴をあげるカガリ。そんな彼女の乗るスカイグラスパーに再び銃弾が向けられる。

「やめろおおおお!!!!」

 キラがストライクで飛び込み、そのディンの腕を切り裂く。その間に体勢を立て直した。

「くそっ!!よくもやったな!!」

 彼女は怒り引き金を弾く。放たれた銃弾が直撃し、片腕を失っていたディンはそのまま爆散した。

「よしっ!!」

 内心でガッツポーズをとるカガリ。だが、そこでフラガから通信が入る。

「その機体じゃあ、それ以上の戦闘は無理だ。帰艦しろ。」

「なっ、私はまだやれる!!」

 初戦果に水を刺されたような気分になり、カガリは不快感を表した。それに対し、フラガは諭すように言った。

「それで、最後は沈むか? 初戦闘で一機撃墜したんだ。これ以上は欲張らず、大人しく引いて置くんだな。っと、これ以上、話している暇はないか!」

 話している最中だからと言って敵が待ってくれる訳もない。会話を打ち切って銃弾を回避するフラガ。
 そして、カガリの方も少し冷静さを取り戻せば、これ以上戦う事が無茶な事ぐらいわかったので、大人しく退避を決めた。

「わかった!! 今日はお前の言う事を聞いておいてやる!!」

「素直で結構。」

 だが、それを素直に認めるのは悔しかったので最後に捨て台詞を残していく。そして、そこで、キラが更に一機のディンを沈めた。

「後、3機、このまま一気に!!」

 だが、その時だった。アークエンジェルからキラとフラガに対し、緊急の通信が入ったのだ。

「大変よ!!ユズハさんがアークエンジェルから引き離されているわ!! 」

「えっ!?」

 驚くキラ。それに対し、フラガが指示を下す。

「キラ!! お前はユズハの援護に向かえ!! ここは何とか俺がひきつける!!」

「わ、わかりました!!」

 頷き、そして、キラはストライクを飛ばす。しかし、その時には既に探査域をでてしまっていたらしく、レーダーにクロスガンダムの位置は映らない。

「どこだ、どこにいるんだ!!」








 その後、キラは捜索を続けたが発見できず、エネルギーが切れ掛かってくる。その時、再度アークエンジェルから通信が入った。

「ユズハさんは見つかった?」

マリューの声で問いかけが入る。キラは沈んだ声で答えた。

「いえ・・・・・・。」

「そう・・・。こちらは片付いたわ。一度戻ってきて。」

 残った3機のディンはフラガとアークエンジェルによって撃墜され、キラに帰艦命令が出される。それにキラは反発しようとしたが、続く言葉に仕方なく頷いた。

「でも・・・・!!」

「どの道、もうエネルギーが無くなりかけている筈よ。一度帰艦して補給しなければどの道どうしようも無いでしょ?」

「・・・・・・わかりました。」

 そして、ストライクはアークエンジェルへと帰艦した。行方不明になったユズハを残して・・・・・・。


感想
むう、海中戦と海上戦の連戦とは。アークエンジェルも色々と付け狙われてますね。しかしフラガ、慣れないMSで出るよりはスカイグラスパーで爆雷攻撃してた方が良かった様な気も。でもクライムってまだあったとは、てっきり壊れたかと思ってましたよ。そしてユズハが行方不明に。どこかの無人島イベント発生ですかな。