アークエンジェルの艦内に警報が鳴り響く。ザラ隊とモラシム隊の合同部隊の襲撃だった。
「何で、戦わなきゃいけないんだろ・・・・・。」
出撃に備えストライクに搭乗したキラが呟く。半ば惰性のようなものでストライクに乗ったものの、全くと言っていいほど覇気は感じられなかった。フレイの件以来、まわりの態度はどこかよそよそしく、それがまた更に彼の孤独感を強める。
それでも、カガリだけは積極的に語りかけたり、そんな状況を怒鳴りつけたりしていてくれたのだが、その時、既に自らの殻に篭りかけていたキラにとってはそんな彼女しか煩わしいものにしか感じられなかったのだ。
食堂で他のクルー達がまとまって食事を取っている中で、キラが一人離れて食事を取っていた。そこにやってきたカガリがキラの隣に座る。
「キラ、元気出せ。ユズハって女はきっと生きてる。何てたって私に怒鳴りつけたような女だからな。簡単に死ぬ訳がない。」
「・・・うん。」
そして、カガリがキラに励ましの言葉をかける。だが、帰ってきた言葉は弱弱しいというより、むしろ最初から聞く気が無いと言ったようなものだった。その態度にカガリは少しむっとしながらも自制し、今度は他のクルー達の方を見ていう。
「それから、お前達、最近おかしいぞ。もっと、その・・・・仲良くしたらどうだ?」
流石に台詞が恥ずかしいと思ったのか顔を赤くしながら言う。それに対し、彼等は「別に中が悪い訳じゃないよ」などという台詞を明らかに動揺したように答えた。それから、あれや、これやと何とか間を取り持とうとしたカガリだが、ついに切れた。
「おい、お前らいい加減にしろ!! なんだ、お前らの態度は!! 私は嫌いだぞ、こういうの!!」
周りの態度に怒りが爆発し、叫ぶカガリ。その言葉に皆、顔を逸らす。そして、今度はキラに詰め寄る。
「キラもキラだ!! なんで黙ってるんだよ!! 怒れよな!!」
そう言って彼の服を掴む。だが、キラはそんな彼女の手を振り払いつぶやいた。
「うるさいな・・・・」
「えっ・・・なんだ?」
「うるさいって言ってるんだよ!! 僕の事はもうほっといてくれ!!」
言葉が聞こえず、聞き返したカガリに対し、キラは逆切れし、怒鳴りつける。その予想していなかった反応に、呆然とするカガリだったが、直ぐに烈火のように怒りだす
「なんだと!! せっかく助けてやろうと思ったのに!! もういい、お前なんか勝手にしろ!!」
そう言って、彼に背を向けると食堂を出て行ってしまった。
キラとカガリとの諍いから数日、その件があってからキラとそれ以外のクルーとの間の溝はますます深くなっていた。
「そうか、戦わなきゃいけない理由なんかないんだ。僕にはもう戦うしかないんだ・・・・。」
キラは今、正常な思考すら出来なくなるほどに追い詰められていたのである。
空中からはグゥルに乗った3機のMS、イージス、ブリッツ、バスターの3機が砲撃を仕掛けてくる。更に、水中からは2機のゾノと1機のグーンが。そして強力な新型があった。
「くそっ、何て機動性だ。あの機体!!」
ランチャーパックで出撃したフラガが叫ぶ。アークエンジェルのクルーが見た事の無い新型へヴンは今までに見た如何なるMS、MA、戦闘機よりも素早い機動性を見せて彼を翻弄する。そして更に。
「吹っ飛べ!!」
へヴンが2丁のレールガンとビームライフルを同時に発射する。その3撃が正確にアークエンジェルに直撃する。
「くっ、三番、七番、"イーゲルシュテルン"被弾」
「損傷率・・・・20%を超えました!!」
その攻撃はアークエンジェルに大きな損害を与える。圧倒的な不利な状況にそれでも、フラガはガンランチャーとバルカンを乱射し、空へ、海へと必死に牽制し、そして一緒に出撃したカガリも2戦目にも関わらず、実力以上の活躍をして抑えていた。そして、キラはエールパックで飛行しながら、イージスとブリッツの2機を相手取って戦っていた。
「くっ、強い!?」
アスランにあせりが浮かぶ。彼は今、キラの予想以上の強さに驚いていた。イージスとブリッツ、2体のMSで挟撃して戦っているにも関わらず、ストライクは互角に戦っていた。
キラは今、壊れ掛け、その結果、戦いに関して、これまでに無い程に集中する事になっていた。ほぼ全ての雑念が失われ、それはもはや、無我の境地に近い。ただ、時々ふっと"いっそ、このままアスランのいるザフトに行ったどうだろう?"っと言った考えが彼の頭を過ぎるのだが、それは、直ぐに"たくさんのコーディネーターを殺した自分がいまさら受け入れられる筈が無い"と言った否定的な意見に打ち消され何も残らなかった。
今のキラは誰よりも強く、そして孤独だった。
「僕にはもう・・・・どこにも居場所が無いんだ」
その呟きと共に、キラの頭の中で何かがはじけるイメージ。そして、その次の瞬間、キラはストライクを操り、ビームサーベルでブリッツの頭部を切り飛ばす。そのまま反転し、サーベルをイージスの乗るグゥルに突き刺す。エンジンがショートし、高度が下がった。
「くっ」
イージスはロックを解除し、飛び上がると、そのまま、ブリッツの乗るグルゥに飛び移った。そして、ストライクはそんなイージスを無視し、へヴンへと次の狙いを定めた。
「落ちろ!!」
ヘブンのレールガンが放たれる。それは、フラガ機とカガリ機、2機のスカイグラスパーの翼を同時に喰らえた。
「くっ」
「うわっ」
そして、2機はバランスを崩す。そのまま、とどめを刺そうとしたイザークだったが、フラガも只ではすまなかった。体勢を一瞬建て直し、反撃のアグニを撃つ。慌てて回避行動をとるイザーク。その一撃は機体をかすめ、一瞬肝を冷やすが、直ぐにそれは怒りの感情に変わり、狙いを定めフラガ機に狙いを定めた。だが、その時、通信が入る。
「イザーク、そっちにストライクが!!」
その次の瞬間、へヴンの目の前にストライクが迫っていた。
「このっ!!」
自分の行動を邪魔された事に怒り、イザークはストライク向けたへヴンのビームサーベルをキラはストライクのシールドで防ぐ。
イザークはそのまま2度3度振るうが、ストライクはその攻撃を防ぎ、あるいは回避ししのぐ。機体の性能ではへヴンの方がストライクよりも上だったが、パイロットの腕はキラの方がイザークよりも上だった為、総合的な反応速度は互角になり、決定打は生まれなかった。
「キラっ!!」
それを援護しようとするカガリ。だが、フラガがそれを押し留めた。
「待て、一度帰艦しろ。そうしないと機体が沈む」
「そんな事言ってる場合じゃ「その状態で撃てば銃身がぶれて狙いなんか定まりゃしねえ。下手したらキラに当たるぞ」
その言葉に反論しようとするが、フラガの正論に大人しく引き下がる。そして、その間も当然、キラとイザークの戦いは続いた。
「このっ!! しつこいやつめ!!」
切り合いでは拉致が開かないと一旦ひき離し、そして、全砲門をストライクにロックした。
「うわああああ!!!」
だが、それに対してキラはあまりに予想外な行動に出た。相手に向かって真っ直ぐ突っ込んだのだ。
「何だと!?」
驚きながらもイザークは引き金を弾く。しかし、急加速で接近するストライクに対し、照準はずれ、その一撃は全て直撃を外れた。外装を引き剥がされながら接近をやめないストライクはそのままへヴンに手が届く範囲まで近接し、ビームサーベルを突き刺した。
「なんなんだよ、アイツは!?」
離れた場所から一連の動作を見ていたディアッカの言葉。そして、それはアスランも全くの同意見だった。今のキラは異常すぎる。彼をこのままにしておけばそれはザフトにとってとてつもない脅威になる。それをアスランは理解した。
「ニコル、降りてもらうぞ」
「えっ?」
そしてアスランはブリッツのグゥルを奪いそのまま機体を突き落とした。
「えーー!!!」
ニコルの悲鳴が聞こえるが、今のアスランには耳に入っていない。
「キラ、刺し違えてもお前は倒す」
そして、彼はそのままストライクに向けて突撃した。
「うわああああ!!!」
「くそったれがあああ!!!」
ビームサーベルの一撃はイザークのとっさの回避行動によってコックピットを避けた。しかし、更にとどめの一撃が行なわれようとし、それに抵抗しようとへヴンも動く。だが、その2機は乱入者によって引き離された。
「キラああああああああああああああ!!!!!!!」
グゥルに乗ったままイージスで体当たりを仕掛け、そのままストライクを胴体にかぶせたまま加速する。
「キラ、悪いがお前は確実に倒させてもらう!!」
アスランはコックピットを空け、イージスの自爆スイッチのコードを入れた。
「キラ、・・・・・・・すまない!!」
そして、アスランが海に向かって飛び降りる。数秒後、大きな爆発が起きて、辺りにイージスとストライクの残骸がふりそそいだ。
「くそっ!! くそっ!! くそっ!! なんで、戻ってきてしまったんだ!! 私は!!」
あの場では一度、帰艦するのが当然だった。だが、イージスの自爆に飲み込まれたストライクの姿を見て、カガリは彼を見捨ててしまったような気分になり自分を激しく自責していた。そして、別の場所では彼女とは全く別の反応をしているものもいた。
不安から、知り合いのサイのいる艦橋へと立ち入っていたフレイは、入った瞬間に、ストライクの爆発の姿を見た。そして、笑った。
「あはは、いい気味よ。そうよ、ユズハが死んだんだから、あいつも死ねばいいのよ。あんなコーディネーターなんか」
「フレイ!!」
そんなフレイに対し、流石にキレたサイが思わず、平手で打つ。その行動に一瞬、呆然とした後、激しく怒り始めた。
「何するの!!お父様にもぶたれた事ないのに!!」
「お前があんな事を言うからだろう!!」
「あなたなんかに言われる筋合いは無いわ。もし、このままお父様が目を覚まさなかったら、あなたなんか関係ないんだから!!」
「!!」
フレイのその言葉にキラの事と合わせ、2重のショックを受けたサイが立ち竦む。そして、フレイはそのまま走って立ち去っていた。サイは他に艦橋に居たもの達と共に、そんな彼女の姿を見送った。
「くそっ!! どっかに消えやがれ!!」
ジンに乗り換えたフラガが再び出撃し、銃を乱射する。水中にも撃てるよう実弾系の銃を使い、空中の敵にはグゥルを狙う。ザフト側の方もこれまでに、へヴンを小破された以外に、グーン一機を破壊されており、更に頭部を破壊されたブリッツと海に飛び込んだアスランを回収しなければならない為に、攻撃する余裕が無い。そして、アークエンジェルとザラ隊の距離は序々に開き、そしてアークエンジェルは逃げおおす事ができた。それはあまりに多くの被害と引き換えにだったが・・・・・・。
アークエンジェルとザフト軍が立ち去った後、入れ替わりにそこに近づく者達のものがあった。
「ひぃー、凄い戦いだったな」
「ええっ、もう少しタイミングが悪ければ巻き込まれていた所でした」
それはジャンク屋ギルドの艦だった。彼等はオーブを訪れる為に宇宙から地球に降下し、たまたまそこを通りすがったのである。
「あの、MS壊れちゃったのかなあ?」
「あの爆発じゃあ、そうだろうな。けど、もしかしたら、パーツの一つや二つ残ってるかもしれねえ。ちょっとよってみるか。」
そのメンバーの一人、童顔の少女、キサトの言葉にウキウキした感じで、男が答える。男の名はロウ・ギュール。ナチュラルにも関わらずMSを扱える数少ない才能の持ち主で、また、この艦の中心的存在でもあった。艦長やそういった存在では無いのだが、気がつけば中心にいるいわゆるムードメーカーという奴である。そんな彼の言葉なので、鶴の一声とばかりに彼等はイージスとストライクが落ちたあたりの海域へと向かった。
ロウ達がストライク捜索へ向かった頃、何とか逃げ延びたアークエンジェルは当初の予定通り、オーブに向かっていた。艦橋にはマリュー、ナタル、フラガ等アークエンジェル首脳陣が集まって話し合っていた。
「こっぴどくやられちまったな・・・・」
「そうね・・・・・」
フラガの言葉には何時もの軽い調子が無かった。状況を考えれば負けなかっただけ幸運ともいえるが、キラとストライク、そしてアークエンジェルの損害と失ったものは大きい。これで、オーブで補給と修理が受けられなければ、アークエンジェルはますます辛くなる。
そして、彼等はオーブ領海へと近づいていった。
「連合の艦だと!?」
「ヘリオポリスで密造されていたアークエンジェルという艦だそうです。」
「くそっ、よりにもよって、こんな時期に!!」
アークエンジェルの接近にオーブ政府は騒ぎになっていた。今は連合に対して、協力も敵対も出来ない、最も微妙な時期だからである。今、協力をしてしまえば、オーブは連合と結びついていると思われ、他、中立国からの信頼を失う。かといって、本格的に連合と対立するにはまだ時期が早すぎる。
「それに、あの艦にはお孫さんも乗っているのでしょう?」
ホムラがダイキに語りかける。その言葉にダイキは苦汁の表情を浮かべる。ダイキはいまだユズハがアークエンジェルに乗艦していると思っており、ホムラはダイキより事情を聞いていた。
「だが、孫一人の為にオーブを見捨てる訳にはいかない。何より、これはそれを選んだあの子の責任なのだ。」
心を引き裂かれるような痛みを感じながら声を絞りだすように言う。それに対し、ホムラは頷いた後、答えた。
「それは勿論です。しかし、どの道、今、連合との争いを引き起こすのはまずい。ここは穏便に済ませる事を優先して考えましょう。兄上にもそう進言しておきます。」
「・・・・・頼む」
ホムラの言葉にダイキは心から頭を下げた。
アークエンジェルをオーブの艦隊が取り囲む。そして、通信が入れられた。
『接近中の地球軍艦艇に通告する。貴鑑らはオーブ連合首長国の領海、領域に接近中である。中立国である我が国は、武装した艦船および航空機、モビルスーツなどの領海、領空への侵犯を、一切認めない。ただちに変更されよ!』
「現在、こちらの艦には損傷状態にあります。艦の修理と補給をお願いしたい。貴国への停船の許可を求めます。」
警告に対し、要求を発するマリュー。それに対し、しばらくの沈黙の後、答えが返ってくる。
『貴艦は武装している。先程述べたように、我が国は武装した兵力に対し、一切の進入を認めない』
「そこを何とかお願いします!! 対価は勿論・・・・・」
諦めず、交渉しようとするマリュー、だが、そこでカガリが割って入った。
「お前達、この状態をみて、よくそんな事が言えるな!! こんな状態の艦をそのまま見捨てるというのか!!」
その、勝手な言い分に相手をしていた将校モニターの中のカガリをむっと睨みつけた。
『なんだ、お前は!!』
だが、カガリは負けてはいない。
「お前こそ、なんだ!? お前では判断できんというのなら、行政府へつなげ! 父を・・・・」
彼女はそこで一瞬、躊躇ったあと、叫ぶ。
「――――ウズミ・ナラ・アスハを呼べ!! 私は・・・・・私は、カガリ・ユラ・アスハだ!!」
その言葉に応対をしていた将校は呆然とする。自国の元国家元首の娘、そんな相手が自国以外の戦艦に乗っていると聞いて驚かないものはいないだろう。特に彼はユズハの事に関しては知らされていなかったのだから。いや、知っていればより、一層驚いたかもしれない。とにかく、しばし呆然とした後、やがて自失から冷めた将校は答えた。
『例え、・・・・例えそれが真実だったとしても、その戦艦を我が国に入れさす訳には行きません』
「なんだと!!」
その言葉に怒ろうとするカガリに対し、将校は冷静にしかし、圧力のある声で答えた。
『先程、あなたは言いましたね。"こんな状態で"と。しかし、あなたこそわかっておられない。今の我が国の状態を』
その言葉の意味はわからなかったが言葉に込められた重みは感じ取れ、今度はカガリが気圧される。
『とりあえず、貴艦は一旦待機してください。こちらがもう一度だけ検討してみます。しかし、もし、これ以上進行されるのなら、その時は攻撃を仕掛けさせていただきます』
「オーブの状態・・・・?」
その意味を考えるカガリ。そして、カガリの正体に驚くアークエンジェルのクルー達。そして、数分の後、再度通信が入った。
『貴艦の進入は許さない。しかし、そちらに乗艦しているカガリ前代表令嬢と自国民であるクロスガンダムパイロットユズハ・クサナギと引き換えに物資を送り届ける事は許可する。なお、これが、最後結論であり、これ以上の譲歩は無い。これを飲まず、貴艦がなお、進軍をするのなら、その時は我が国は自衛権を行使し、攻撃を開始する』
それが、通信の内容だった。この条件なら自国のVIPの身内の引き取りに身代金を払ったとでもいえば他の中立国に対してもいい訳が聞くし、連合との揉め事も避けられる。そして、アークエンジェル側に対してもユズハの身分が明らかになっているか否かに関わらず不自然に思われない取引でもあった。
しかし、その要求にたいし困ったのはマリュー達である。
「この条件を飲むしかなさそうね。けど、ユズハさんは・・・・・。」
「格納庫を調べてもらって、クロスガンダムごと無いって事で信用してもらうしかないだろうな」
ユズハはもういない。その上でどうするかを彼等は検討し、そして、取引に応じる事にしたのだった。
感想
アスラン、いきなり蹴り落とすとは酷い奴だw でも、海に落ちて何で機体が圧壊しないのか。そしてキラはなんだか壊れ気味。アークエンジェルは修理してもらえずに北上ですかな。でも、アークエンジェルってその場に留まる事は出来るんですかね?