最終話 選ぶ道




「これは・・・・・・」

「これが、私達オーブの守りよ」

 ユズハがアムロ達と再会したその翌日、キラはエリカに連れられ、モルゲンレーテを訪れていた。そしてそこで、M1アストレイを見せられていた。

「あなたにお願いしたい事っていうのはこのMSに使われているOSの強化とパイロットのコーチ。引き受けてもらえないかしら?」

「でも、僕は・・・・・」

 キラはもうMSに関わる事事態が嫌だった。しかし、ためらう彼の姿を見てエリカは誤解したようである。

「連合の軍人である事を気にしているのかしら? それなら、心配はいらないわ。あなたが、撃墜した後、アークエンジェルがこの国を訪れたのだけど、その時、除隊申請はだしてあるそうよ。だから、あなたがその辺の立場を気にする必要はないわ」

「えっ!?」

 聞かされた事実に驚く。彼らを守る事に意義を見失いかけていたキラにとって、それはうれしい事のはずだったが、急な事に戸惑いを感じた。

「それでもあなたの立場は色々と微妙だから、少しの間不自由な事になると思うけど、それが終われば両親共会えるようになるし、普通の生活を送る事も出来るようになるわ」

「そう・・・ですか・・・」

 両親、その言葉にキラの言葉が揺らめく。会いたい気持ちは無論あった。だが、それと同時にそれを恐れる気持ちがあった。会えば、言ってしまいそうであったから"どうして僕をコーディネーターにしたの?"っと。

「それで、それを踏まえて協力してもらえるかしら?」

 そして、改めて問いかけるエリカにキラは少しの間、押し黙った後キラは答えを言った。

「・・・・すいません。断らせてください」

 そう言って頭を下げる。その答えを聞いてエリカは残念そうな顔をした。

「そう・・・・。無理強いはできないわね。わかったわ。それじゃあ、軍に連絡して誰か手続きを行なってくれる人を呼ぶわ。確か、アムロ一佐とはアークエンジェルで一緒だったのよね? 忙しい人だから無理かも知れないけど、彼にお願いした方がいいかしら?」

「アムロさんですか・・・・・」

 キラは頭の中で思い浮かべる。今は知り合いとは会いたくない気分だった。それでも、まったく見知らぬ相手というのも不安であるし、特に軍人というといいイメージがない。どうするべきに迷った末にキラはアムロに頼る事を選択した。

「お願いします」

「わかったわ。それじゃあ、連絡を入れてくるから。ちょっと、待ってて」

 背中を向けて、エリカは格納庫を出て行く。彼女がいない間、一人残された彼は居心地悪そうにその場で時間を潰した。そして、数分後、戻ってくると彼女はキラに連絡を伝える。

「1時間位で来てくれるそうよ。案内するからそれまで、待合室で待っていて」

「あ、はい、わかりました」

 そして、待合室に連れて行かれたキラはあまり動きまわらないように注意され、一人、部屋に残された。

「・・・・・・・」

 話し相手もおらず、待っているだけというのは退屈である。ソファーに腰掛けたキラは、しばらく呆けて座り続けた後、雑誌でも読もうかと思い、部屋に設置されたそれに手を伸ばす。その時だった。

コンコン

 部屋にノックの音が鳴り響いた。別に悪い事をしていた訳でもないのだが、何故が焦ってしまい動揺しながら答える。

「あっ、はい、どうぞ」

「失礼します」

 そうして、入ってきたのは女の子だった。キラと同じがそれよりも1、2歳年上、金髪の可愛い女の子である。

「あなたがキラ・ヤマト君?」

「あ、はい、そうですけど、あなたは?」

 親しげに話しかけてくる少女に対し、問い返すキラ。それに対し、彼女はしまったっという顔つきになっていた。

「ごめんなさい。自己紹介がまだだったわね。私はミラ、ミラ・ルイーズ。あなたと同じコーディネーターよ」

「えっ?」

 キラは意外な言葉に固まった。それを見てミラはおかしそうに笑う。

「自分以外のコーディネーターが珍しい? まあ、あなたはヘリオポリス出身だもんね。 オーブ本国は人口の1割近くがコーディネーターなのよ。それ以外にも片親がコーディネーターなハーフもいるから、あわせれば1割を超えるのよ」

「そう・・・なの?」

 ミラの話しに驚くキラ。同じオーブでも本国とキラが今まで住んでいたヘリオポリスとでは状況が大きく違っていた。本国は地球上でコーディネーターを受け入れている数少ない国家であり、中でも一切の制約を持たない唯一の国家でもあった為、戦争が始まる前から、地球での生活を望むコーディネーターの多くがオーブ本国に移住してきていた。
 それに対し、ヘリオポリスはかなり状況が違う。宇宙ではコーディネーターを受け入れている施設がそれなりに多い。国家という単位でみれば、それでも少ないが、用兵やジャンク屋ギルドは垣根なくコーディネーターも受け入れている。何より、宇宙空間で安住した環境を求めるのならば、プラントに移住すればいいのだ。
 その為、ヘリオポリスに住むコーディネーターは全人口の0.3%、およそ300人に1人に過ぎず、戦争状態に入り、戦火を逃れる為に移住してきたコーディネーターもいたが、それでも1%には満たなかった。そして、その少数さ故に、理解は深まらず、差別を恐れて身元を隠しているものも多かった為、コーディネーター同士がお互いにそうであると知って、知り合いになるようなケースは極めてまれであった。実際、キラはヘリオポリスでは一度も同世代のコーディネーターと会った事がない。

「私は今、オーブの軍に所属してパイロットをやってるの。それで、あなたに興味が沸いたの」

「僕に・・?」

「ええ、実戦を経験したあなたに是非話しを聞いて見たいわ。オーブにはナチュラルの人も含めて、実戦を経験している人は少ないから」

 モルゲンレーテとオーブ軍の技術は総合的に見てザフトにも地球連合にも劣らない。しかし、実戦経験を持っているものは少なく、それがオーブの弱みであった。故に、訓練パイロットは適切なアドバイスを受けられず、その事に漠然とした不安を覚えるものもいた。彼女もその一人である。

「・・・・その前に、僕も一つきいていいかな・・・?」

 言われたキラは躊躇った後、そう言った。その問いかけにミラは頷く。

「ええ、かまわらないわよ」

「どうして、戦うの、あなたは・・・・?」

 それは戦う理由を見失ったキラに是非とも尋ねたい事だった。
 それに対し、問いかけられた方のミラは意外な問いかけだとでもいうような表情をした後、答えた。

「家族や友達と、後はこの国を守りたかったからかな。なんだかんだ言ってこの国は故郷だし、何より好きだしね」

「それで、それで、裏切られたら?」

 その答えにキラは失望させられた。そして、僅かに怒りをにじませて更に問いかける。

「裏切る?」

 言われたミラは少し考えた後に逆に問い返した。

「あなたは誰かに裏切られた事があるの?」

「・・・友達だと思ってたんだ。だから、守ろうと思った。でも、その娘は僕がナチュラルの友達の代わりに死ねばよかったって・・・・」

 キラは心の内をぶちまける。ミラはそれを黙って聞いた後、答えた。

「そう・・・、それは酷いわね。けど、みんながみんな、そうって訳じゃないんでしょ?」

「けど、他のナチュラルのみんなだって・・・・・。それから、僕の方がコーディネーターの裏切り者だって言われた事もある・・・」

 フレイがその言葉を言った時、心のどこかでそう思っていたとでも言うようなその視線、アスランや他の同胞を裏切ってまで、味方していた自分が馬鹿のように思えてくる。だが、ミラはそんな心の内を見抜いたように言った。

「キラ君、その人達は確かに酷いけど、あなたの方だってコーディネーターとかナチュラルって事を気にしすぎなんじゃない?」

「!?」

 その言葉にキラは衝撃を受ける。コーディネーターだからと差別の目で見る周り、だが、確かに自分はそれと同じくらいナチュラルと自分を区別し、時に見下してすらいたかもしれない。ユズハやアムロと言う特異な存在がいた時は比較的それを感じずにいたが、彼女らがいない時はその能力差を意識し、心のどこかで見下していた、アークエンジェルでも、そしてヘリオポリスに居た時も。

「まあ、私だって、全く意識してないって訳じゃないけどね。それでも、多分、キラ君よりは気にしてないかな」

「・・・・・・・・・」

「後、あなたが裏切り者だってことだけど、確かに私達は同属を裏切っているといえるかもしれない。けど、プラントの側についたら、それは故郷や自分の周りの人達を裏切るって事になるんじゃないかしら?」

「!!・・・それは・・・」

「ようはどっちが大切かだと私は思う。人間、何も裏切らずに生きていく事なんて、なかなかできないわよ」

 キラは何も言わない。いや、言えない。それに見て、ミラは言い過ぎたと思って謝り、フォローの言葉をいれる。

「ごめんね、偉そうな事言っちゃって。それに、私とキラ君じゃあ、今までの環境だって違うものね」

「いえ、気にしないでください」

 キラはそう言うが、その声は暗い。二人の間に重い空気が落ちる。

「ごめんなさい。私、そろそろでてくね」

 そして、沈黙の後、ミラが部屋をでる。最後にもう一度頭を下げて。キラはそれを無言で見送った。






「キラ、生きていたんだな!!」

 ミラが去って30分程たった後、アムロが待合室のドアを開けた。知り合いの顔にキラが安堵からほんの少し表情を和らげる。だが、そこで、同時に気付いた。彼の娘のユズハが行方不明になっていた事に。

「アムロさん、お久しぶりです・・・・。けど、あの、そのユズハが・・・・・」

「ああ、それなら大丈夫だ。娘はオーブに戻っている」

 キラの話そうとしている内容を察知してそれを遮って言った。その言葉にキラが驚き、声をあげる。

「えっ!?」

 そして、いまだ驚いたままのキラに、アムロはこれまでの事を話して聞かせた。






「そうですか、よかった・・・」

 話を聞き終わった後、ユズハが無事だった事と、悲劇を伝えずにすんだ事でほっとするキラ。だが、次のアムロの言葉で彼は慌てた。

「それから、ヘリオポリスでの君の友達も皆、無事にオーブについてる。手続きや何かで丸1日位は拘束させてもらうが電話位ならいいだろう。よかったら、話すかい?」

「えっ、あの、その、ユズハ達は僕の事もう知ってるんですか?」

「んっ、いや、急いできたからまだ伝えてないが・・・・・・」

 キラの慌てぶりにいぶかしげるアムロ。同時に何かを感じ取る。

(何だこの感じは・・・・不快感? それに迷いか? 何故、友人の話でこんなものを感じる・・・?)

「だったら、その、僕の事は言わないでおいでくれませんか?」

「・・ああ、わかった。君がそういうのならそうして置く事にしよう。それから、何か悩んでる事があるのなら、俺でよかったら少し位相談にのるぞ」

「・・・・ありがとうございます。今度・・・・、お願いするかもしれません・・」

 何か事情があるのだろうと、アムロはあえてその事に触れずに、ただそう言葉をかけておく。それに対し、頭を下げるキラは頭。そして、彼等はモルゲンレーテから軍の施設へと移動した。

そして・・・・・・・・・・・









ユズハがオーブに帰還した3日後、キラが帰還した2日後・・・・

「では、この種類にサインを・・・・・」

「これで、我等は運命共同体と言う訳ですな」

 交渉がまとまり、オーブと赤道連合の同盟が締結された。そして、それに続くように、4カ国の中立国との同盟が締結。ここに、中立国同盟が結成される。







 オーブと赤道連合の同盟締結から更に6日後・・・・・・

「ちぃっ!! しぶとい!!」

「ははっ、言ったろ俺は不可能を可能にする男だって・・・・・・」

 オーブをでたザラ隊はアークエンジェルに追いつき、交戦が起こる。フラガ以外のパイロットのいないアークエンジェルは撃墜寸前にまで追い詰められる。

「ローエングリーン撃てええ!!」

「通信!! これは、ハワイ前線基地です!!」

「くそっ!! 援軍か!!」

 しかし、援軍により何とか危機を乗り越え・・・・・ハワイで補給と修理を受ける事ができた。

「やっと、たどり着いたな・・・・」

「ええ。けどっ、キラ君とユズハさんは・・・・・・・」

 そして、その更に10日後、アークエンジェルは、アラスカの基地へとたどり着いた。








 そして、ザフトでもまた・・・・・・

「そうですか。賛同者の方々は順調に集まっているようですね」

「はい、既にかなりの数の人が」

「そうですか。この世界をこのまま破滅させる訳にはまいりません。なんとかしなくてわね。その為にもアスランには是非力を貸していただかなくては」

 そう言って薄く笑うピンク色の髪の少女。プラント評議会議長の娘、ラクス・クライン。彼女の元に、力が集まりつつあった。





 今、さまざまな変革により、世界は、更なる激動の時へと移り変わって行こうとしていた。


感想
キラはモルゲンレーテへの協力を拒みましたか。このまま普通の生活に戻れるのか、それともまた戦場に戻るのか。そしてユズハはどうするのか。
ここでの掲載はこれが最終回だという事です。続きはArcadiaというサイトに投稿されているそうなので、続きを読みたい方はそちらにお願いします。