折々の紀行
 2019年06月05日   中宮寺にて(1)
   5月18日に奈良教育大学で137回目のISC・21月例会が開催されました。 

 発表者の井上・中房両先生の報告はどちらも大変興味深い内容で,いつもながらこちらの得るものも多く、充実した会でした。

 このようすはこのHPの「近況報告」にあげておきましたので、そちらも是非ご覧ください。 
 
 さて、翌 5月9日は綺麗に晴れ上がった素晴らしい好天でした。これによって、亀井勝一郎の『大和古寺風物誌』を読んで以来、ずっと気になっていた「中宮寺」を訪れる絶好の機会が得られました。

 もし、雨天だったらすぐに奈良を発つつもりでしたから。

 JR関西本線奈良駅から3駅南下して法隆寺で下車、駅前の案内板に導かれて20分ほどで南大門をくぐることができました。

 中門に行くまでの道すがら、地蔵院の門の軒端の置かれた面白い飾り瓦に出会いました。

 波乗りウサギです。桃の飾り瓦は犬山城でも何度も見ていましたが、波乗りウサギは初めてでした。唐獅子とはまた趣が異なり、なにやら因幡の白ウサギを彷彿させます。
 

 
   中門で賽銭を投じ、手を合わせて礼拝した途端、「ゴ~ン」と鐘の音が響きました。

 聖霊院前の鎮池の端を通るとまた「ゴ~ン」。そこに子規の句碑があるのを見て、あまりのおあつらえ向き加減に思わず口元が緩みました。 
 子規の句碑を後にして東大門を抜けると、すぐ左手に宗源寺の門がありますが、ここの軒端には桃の飾り瓦が載っていました。   
   まっすぐ進んで夢殿に至り、参拝しようとしましたが、なんと! 閉じられた扉の奥の「夢殿秘仏開扉期間」と墨書された木板には「春期 四月十一日~五月十八日」と書かれているではありませんか!残念。 
夢殿からは鐘楼の横を抜けて、地続きで中宮寺に入ることができました。 
 
 2019年06月05日   中宮寺にて(2)
 『大和古寺風物誌』の中宮寺の章では、本尊の如意輪観音(菩薩半跏像)を、亀井勝一郎は次のように描写しています。

 「・・・右腕の方はゆるやかにまげて、指先は軽く頬にふれている。指の一つ一つが花弁のごとく繊細であるが、手全体はふっくらして豊かな感じにあふれていた。そして頬に浮かぶ微笑は指先がふれた刹那おのずから湧き出たように自然そのものであった・・・」
   


 亀井勝一郎の如意輪観音賛歌とも言うべき上の一節を頭の片隅に浮かべながら、礼拝するのも忘れてその「微笑」に見とれていました。

 しばらくして背後からの、御堂を管理する尼さんの声で現実に引き戻されたのですが、それは「如意輪観音を解説している録音テープを聴きますか」という親切な申し出でした。

 ようやく念願の如意輪観音に出会えた感動の余韻を大事にしたかったので、その申し出は丁寧にご辞退申し上げて、幸いにも他には参拝者がいない御堂にあと少し居させていただきました。



←拝観券に掲載されていた中宮寺思惟半跏像
 
 ↑ 拝観券に掲載されていた中宮寺本堂

 それほど長くない滞在の後、「飛鳥時代の生んだ最も美しい思惟の姿」といわれる仏像を拝観した満足感を胸に、午後の奈良を後にしました。



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