方法書についての意見書(案)   平成16年12月19日

1、方法書の名称  豊川水系設楽ダム建設事業の環境影響評価方法書

2、環境影響評価方法書について環境の保全の見地からの意見
(意見1)、該方法書の生態系なる環境要素の項目に上位性と典型性のほか、少なくとも
   特珠性の注目種として「オシドリの里」を加えるべきである。   
(理由)当該項目には上位性と典型性が記述されているが、特殊性、移動性は記述されて
   いない。これは特殊性や移動性に当たる「種又は生息・生育環境及び生物群衆」が
   想定されていないからと思われるが、対象事業実施区域下流・竹桑田地内には「オ
   シドリの里」があり、これは特殊性の注目種に該当するものである。すなわち、「河
   川形態、河川植生・・・等を勘案したとき、周囲と比べて特殊な環境」であり、「自
   然または人為により長期間維持されてきた環境」であることが明らかだからである。
    また、「人と自然との触れ合いの活動の場」の視点から、「豊川の水辺」があげ
   られているが、中でも「オシドリめ里」はその典型であり、ダム建設工事によって、
   あるいはその供用開始によって水質・水温・植物・生態系などに変化が生じる恐れ
   がある。よって、これらの点を事前に調査・予測・評価しておくべきである。          
       
(意見2)、すべての環境要素について、調査から予測に至るプロセスとして「環境保全
   措置の検討」を明文化しておくべきである。
(理由)主務省令によれば、「予測結果から環境影響がない又は極めて小さいと判断され
   る場合以外においては環境保全措置を検討」しなければならない。しかも、この検
   討の際には、環境保全措置についての「複数案の比較検討、実行可能な良い技術が
   取り入れられているかどうかの検討」が不可欠であり、この措置の検討そのものを
   明文化すべきである。この部分を除いた「環境影響ができる限り回避され、又は低
   減されているか、必要に応じその他の方法により環境の保全についての配慮が適正
   にされているかどうかを検討する」というだけの文言だけでは法や省令の趣旨を軽
   視又は無視していることにならないかと思われる。
(意見3)、土砂による水の濁り・富栄養化・植物・景観・人と自然との触れ合いの活動
   の場などの各環境要素で、「予測対象時期等」の項目に「ダムの供用が定常状態で
   あり」、「適切に予潮できる時期」とある部分は削除して、より明確な用語を使っ
   て「状態」を限定すべきである。
(理由)「ダムの供用が定常状態であ」るというのは、過去10年間の調査に基づいてシミ
   ュレートできるすべての場合を指す、と説明されている(設楽ダム工事事務所談)
   が、仮に10年の調査結果では当てはまらない状態がダム供用後に生じた場合、予
   測対象から外れてしまい、予期せざる環境影響を与えるという重大な事態が発生す
   る可能性があり、予測の手法としては不適切である。もっと限定した「状態」「時
   期」に改めるべきである。
(意見4)、「動物」なる環境要素の中で「動物の重要な種の分布、生息の状況及び生息
   環境の状況」の鳥類として27種記載されているが、オシドリやコノハズクを加え
   るべきである。
(理由)前者については、「オシドリの里」として数百羽が越冬していることは広く人口
   に膾炙しているのであり、ここの調査を全くしていないのは奇異に感じる。後者に
   ついては、過去の記録はあるのだから、渡りの時期などの濃密な調査が望まれる。
(意見5)、植物についての調査は絶滅危惧種ばかりが調査対象とされており、現実に存
   在する植物を、少なくとも環境省と愛知県のレッド・リスト記載種の保全策を検討
   すべきである。
(理由)現状を調査・記載しないのは方法書の体をなさないからである。
(意見6)、該方法書では、調査地域を対象事業実施区域及びその周辺から下流の布里点
   までの豊川に限定しているが、これは豊川流域全体及び近接する三河湾一帯までを
   含むとするべきである。
(理由)主務省令第3条によれば、方法書に係る調査範囲は「一以上の環境要素に係る環
   境影響を受けるおそれがあると認められる地域」だとされている。
    しかるに、設楽ダム建設事業の目的の1つに「流水の正常な機能の維持」が掲げ
   られているが、これは具体的には大野頭首工及び牟呂松原頭首工から下流の維持流
   量を設楽ダムによって確保するものだとされている。とすれば、これまで全く流れ
   ていなかった、あるいは毎秒2m3しか流れていなかった下流の流量が増如するわ
   けであるから、河況が大幅に変化することにより、流域全体の環境に少なからぬ変
   動をもたらすことになろう。よって、水質・動物・植物・生態系・景観・人と自然
   との触れ合いの活動の場などの環境要素について、その与える影響を調査すべきで
   ある。
    また、設楽ダムの完成・供用開始により豊川から三河湾に流入する淡水流量がか
   なり減ることになる。三河湾、とくに内奥の渥美湾の水質汚濁(富栄養化が年々進
   んでいることは周知の事実であるが、その理由の1つに豊川の流量減による外海と
   の海水交換の低下があげられているから、これは水質・動物・植物・生態系・景観
   ・人と自魚との触れ合いの活動の場などの環境要素についてその与える影響を調査
   すべきである。
    さらに、設楽ダムの完成・供用開始後、ダムへの土砂の堆積により下流域への土
   砂供給が途絶え、これはひいては三河湾の干潟や浅場の形成に悪影響を与えかねな
   い。この点も無視すべからざる問題点であり、方法書で検討すべき事項としてあげ
   ておくべきである。

3、環境影響評価のあり方に関する意見
 国土交通省自体、公共事業の実施時に行っていた環境影響評価を、事業の計画段階から
実施する等、従来の事業実施最優先の方針から転換する「計画プロセスにおける環境の内
在化」などを強調している(04.6『国土交通省環境行動計画』)。この考え方を取り入れるな
らば、当該環境影響評価もいわゆる戦略的環境影響評価の方向付けを行うべきであり、実
際、環境省における研究の進展もその方向で進んできており、政府としても「必要に応じ[て
その]制度化の検討を進めることが定められ」たとされているのである。
 かくして、設楽ダムに戦略的環境影響評価の方向付けが認められるならば、(意見6)でも
述べたように調査範囲は豊川流域全体と、少なくとも豊川が注ぐ三河湾東部(渥美湾)まで
含めるべきだし、そうだとすれば、その地域特性もより詳細に把握することが必要である。
例えば、第1に豊川は古くからの治水対策として霞堤が残されており、しかも1965年に豊川
放水路ができたことにより、ダムに頼る必要はないこと、第2に東三河地域の水需要が今後
増える見込みはないこと、などである。
 さらに、豊川水系フルプランが現在、愛知県において見直しをされている最中に、設楽ダム
建設の手続きに入るのは前提そのものを欠いていると言わざるを得ない。ダム事業そのもの
の再検討をすることが必要である。
 さらに、ダム事業ありきのやり方ではなく、事業をやらない場合との比較は最低限必要である。

4、住所・氏名