方法書についての意見書    平成17年1 月 6日 

1、方法書の名称  豊川水系設楽ダム建設事業の環境影響評価方法書

2、環境影響評価方法書について環境の保全の見地からの意見

(意見1)方法書作成にいたる詳細な経過を明らかにされたい。

(理由)該方法書には方法書作成にいたる経過の記述が全く欠落している。それゆえ、設楽ダムを建設するという事業の必然性が明らかにされていない。流域委員会では複数の治水対策が検討されたはずだが、どのような根拠を以てダムによる治水策に絞り込まれたのか。また、実調の「中間報告」で、なぜダム容量の規模拡大が行われたのか。さらに、今回の方法書で、どのような理由からダム建設位置が選定されたのか。方法書作成にいたる経過が示されないと、以上の諸点が明確にされないのである。

(意見2)該方法書の生態系なる環境要素の項目に上位性と典型性のほか、少なくとも特殊性の注目種として“オシドリの里”を加えるべきである。

(理由)当該項目には上位性と典型性が記述されているが、特殊性、移動性は記述されていない。これは特種性や移動性に当たる「種又は生息・生育環境及び生物群衆」が想定されていないからと思われるが、対象事業実施区域下流・竹桑田地内には“オシドリの里”があり、これは特種性の注目種に該当するものである。すなわち、河川域の場合、「河川形態、河川植生…等を勘案したとき、周囲と比べて特殊な環境」であり、「自然または人為により長期間維持されてきた環境」であることが明らかだからである。

   なお、「人と自然との触れ合いの活動の場」の視点から、「豊川の水辺」があげられているが、中でも“オシドリの里”はその典型であり、ダム建設工事によって、あるいはその供用開始によって水質・水温・植物・生態系などに変化が生じる恐れがある。よって、これらの点を事前に調査・予測・評価しておくべきである。

(意見3)すべての環境要素について、評価の手法として「環境保全措置の検討」を明文化しておくべきである。

(理由)主務省令によれば、「予測結果から環境影響がない又は極めて小さいと判断される場合以外においては環境保全措置を検討」しなければならない。しかも、この検討の際には、環境保全措置についての「複数案の比較検討、実行可能な良い技術が取り入れられているかどうかの検討」が不可欠であり、この措置の検討そのものを明文化すべきである。この部分を除いた「環境影響ができる限り回避され、又は低減されているか、必要に応じその他の方法により環境の保全についての配慮が適正にされているかどうかを検討する」という文言だけでは「省令に示されている事項を満足する手法を選定」したことにはならない。

(意見4)土砂による水の濁り・富栄養化・植物・景観・人と自然との触れ合いの活動の場などの各環境要素で、「予測対象時期等」の項目に「ダムの供用が定常状態であり」、「適切に予測できる時期」とある部分は削除すべきである。

(理由)「ダムの供用が定常状態であ」るというのは、過去10年間の調査に基づいてシミュレートできるすべての場合を指す、と説明されている(設楽ダム工事事務所談)が、仮に10年の調査結果からはみだしてしまう状態がダム供用後に生じた場合、予測対象から外れてしまい、予期せざる環境影響を与えるという重大な事態が発生する可能性があり、予測の手法としては不適切である。

  「ダムの供用が定常状態であ」るというのは「適切に予測できる時期」とは言い難い。

(意見5)「動物」なる環境要素の中で「動物の重要な種の分布、生息の状況及び生息環境の状況」の鳥類として27種記載されているが、オシドリやコノハズク、オオコノハズク、アオバズクを加えるべきである。

(理由)前者については、“オシドリの里”として数百羽が越冬していることは広く人口に膾炙しているのであり、ここの調査を全くしていないのは奇異に感じる。後者については、過去の記録はあるのだから、渡りの時期などの濃密な、とくに夜間の調査を実施すべきである。

(意見6)該方法書では、調査地域を対象事業実施区域及びその周辺から下流の布里点までの豊川に限定しているが、これは豊川流域全体及び近接する三河湾一帯までを含むとするべきである。

(理由)主務省令第3条によれば、方法書に係る調査範囲は「一以上の環境要素に係る環境影響を受けるおそれがあると認められる地域」だとされている。     しかるに、設楽ダム建設事業の目的の1つに「流水の正常な機能の維持」が掲げられているが、これは具体的には大野頭首工及び牟呂松原頭首工から下流の維持流量を設楽ダムによって確保するものだとされている。とすれば、これまで全く流れていなかった、あるいは毎秒2?しか流れていなかった下流の流量が増加するわけであるから、河況が大幅に変化することにより、流域全体の環境に少なからぬ変動をもたらすことになろう。よって、水環境・動物・植物・生態系・景観・人と自然との触れ合いの活動の場などの環境要素について、その与える影響を調査すべきである。

   また、設楽ダムの完成・供用開始により豊川から三河湾に流入する淡水流量がかなり減ることになる。三河湾、とくに内奥の渥美湾の水質汚濁(富栄養化)が年々進んでいることは周知の事実であるが、その理由の1つに豊川の流量減による外海との海水交換の低下があげられているから、これは水質・動物・植物・生態系・景観・人と自然との触れ合いの活動の場などの環境要素についてその与える影響を調査すべきである。

   さらに、設楽ダムの完成・供用開始後、ダムへの土砂の堆積により下流域への土砂供給が途絶え、これはひいては三河湾の干潟や浅場の形成に悪影響を与えかねない。この点も無視すべからざる問題点であり、方法書で検討すべき事項としてあげておくべきである。

(意見7)地域特性をより詳細に把握することが必要である。

(理由)例えば、第1に豊川では古くからの治水対策として「霞堤」が残され、機能しており、しかも1965年に豊川放水路ができたことにより、ダムに頼る必要はないこと、第2に東三河地域の水需要が今後増える見込みはないばかりか、豊川総合用水事業の完成によって利水安全度が飛躍的に高まっていること、第3に豊川が流入する三河湾は苦潮が頻発する日本一汚濁が進んだ閉鎖性の強い内湾であり、豊川用水などの河川事業が三河湾の汚濁を促進したと指摘されていること、第4に周伊勢湾固有種として国の天然記念物に指定されている種(ネコギギ)の生息地は厳重に保護されるべきこと、などの記述を行うべきである。

(意見8)全国の他のダム事業と比較して、該ダムの事業特性を充実するよう求める。

(理由)該計画は62.2q2 の流域面積に実に1億?ものダムを造るもので、貯水規模の似通った全国の多目的ダムと比較するとき、単位面積当たりの貯水容量が著しく大きい。ということは、水の入れ替わりが悪く、ダム湖の富栄養化、冷濁水化など避けがたく、それだけ環境への影響が巨大になると予想される。

   また、費用対効果についても疑問が出されている。なにゆえ、このような巨大なダムが計画されたのか、その事業特性を明確にすべきである。

(意見9)豊川水系フルプランの見直し終了後に、方法書の公告・縦覧手続きを改めて行うことを求める。

(理由)豊川水系フルプランが現在、愛知県において見直しをされている最中に、設楽ダム建設の手続きに入るのは前提そのものを欠いていると言わざるを得ない。徳山ダムの事例が示すごとく、過大な水需要予測の上に立った巨大ダム事業は水利権を返上する自治体が続出しているとおり、公金の無駄遣いに他ならない。

(意見10)環境影響評価法が最初に適用される該ダム事業に戦略的アセス的方向付けを明確に行うべきである。           

(理由)国土交通省自体、公共事業の実施時に行っていた環境影響評価を、事業の計画段階から実施する等、従来の事業実施最優先の方針から転換する「計画プロセスにおける環境の内在化」などを強調している(04.6『国土交通省環境行動計画』)。この考え方を取り入れるならば、当該環境影響評価もいわゆる戦略的アセスの方向付けを行うべきであり、実際、国会の付帯決議もあり、その後、環境省における研究の進展もその方向で進んできており、政府としても「必要に応じ[てその−戦略的環境影響評価の]制度化の検討を進めることが定められ」たとされているのである。よって、設楽ダム建設事業環境影響評価は実に環境影響評価法下でのダムにおける初めての実施例であり、以上の経過、そしてまた先進国の事例を踏まえれば、この方向での環境影響評価の運用が望まれる。

3、住所・氏名

住所(略)

       豊川を守る住民連絡会議  会長    渡辺  正

住所(略)

       豊川を勉強する会     代表    松倉 源造