準備書についての意見書

       平成18年8月1日

1.準備書の名称   豊川水系設楽ダム建設事業の環境影響評価準備書

2.環境影響評価準備書についての環境保全の見地からの意見

《意見1》 設楽ダム建設事業の目的について、洪水調節、流水の正常な機能の維持、新規水源開発の三つをあげていますが、それぞれの必要性、有効性と問題点を明確にし、他の代替案との比較検討も行うべきである。

 《理由》

@洪水調節については、設楽ダム建設以外の方法による治水対策もふくめて比較検討するべきである。

A流水の正常な機能の維持については、このための容量6000万立方メートルの設定根拠すなわち流水の「正常な機能の維持」分と既得用水の利水安全度の向上分との配分などを具体的な内容と関連させてわかりやすく説明すべきである。

B新規水源の開発については、平成17年に「豊川水系における水資源開発基本計画」の変更が決定され、設楽ダム利用の容量が下方修正された。しかも方法書では豊川総合用水事業によって調達された新規利水によって利水安全度が高まったことにはふれておらず、これらを考慮すれば必要な水は確保されていると考えられる。この実態をふまえるとともに他の代替方法も含めてその必要性、効果などについて検討すべきである。

《意見2》 設楽ダム建設事業の環境影響評価の手続きのやり直しをすべきである。

 《理由》

 平成16年11月から12月にかけて「豊川水系設楽ダム建設事業環境影響評価方法書」を縦覧し、住民等の意見を聴取した。これにもとづいて今回の「準備書」の縦覧と意見聴取が行われている。しかし、先の「方法書」の縦覧のあと、平成18年2月に「豊川水系水資源開発基本計画(フルプラン)」の全部変更に関する閣議決定が行われ、これにともなって4月に豊川水系河川整備計画も一部変更された。この経過は、「方法書」の前提が変更されたものであり、これにもとづく環境影響評価の実施による「準備書」は手続きとして不当である。「フルプラン」及び「河川整備計画」の変更がどのように環境影響評価の方法や内容に関連するのか検討結果が明らかにされていない。あらためて基本計画変更にもとづく「方法書」公告・縦覧による意見聴取のやり直しを行うべきである。方法書についての愛知県知事の意見にある「環境影響評価中に環境への影響に関し新たな事実が生じた場合などにおいては、必要に応じて選定された項目及び手法を見直し、又は追加的に調査、予測及び評価をおこなうこと」という趣旨にも反するものである。

《意見3》環境影響評価の範囲について見直しを行い、豊川中・下流域および三河湾までを含んで行うべきである。

《理由》

 設楽ダム建設事業の目的に、豊川流域の洪水調節、流水の正常な機能の維持、水資源開発を行う多目的ダムとしている。したがって設楽ダムの建設によって、ダム上流域および直下流地域だけでなく、三河湾に及ぶ豊川の下流域全体に直接的な影響をもたらすことは明らかである。たとえば設楽ダムで確保した不特定利水、牟呂松原頭首工下流毎秒5トンの流量が下流域の環境にどのような影響を与えるのか全く検討されていないことは本質的に問題である。したがって環境影響評価の範囲を「布里地点まで」と限定することはダム事業計画の内容と河川流域の実態を踏まえていないものであり、評価方法の妥当性を認めることが出来ず全く説得的でない。

 環境省の環境影響評価技術検討委員会による「環境影響評価の基本的事項に関する技術検討委員会報告」(平成17年2月)で設楽ダム建設事業にも関連すると考えられる重要な指摘をしている。
 「○調査地域の設定に当たっては、生物や物質が広範囲に移動しやすい場合、広範囲に様々な事象が結びついている可能性が高いことから、このことを踏まえた調査地域の検討が必要である。
  ○    調査地域の選定に当たっては、対象事業による直接的な影響のみならず、連鎖的な影響も踏まえた設定が行われる必要がある。」

このような広範囲な影響、連鎖的な影響は、宇連ダム等の建設が行われている豊川をはじめ、全国のダム建設先例河川でも実態として実証されていることでる。この報告書の指摘を踏まえて本環境影響評価においても範囲の設定の仕方を見直すべきである。

《意見4》「気象の概況」(表3.1.1−1)の降水量のデーターについて、年平均値だけでなく経年データーを示すべきである。

《理由》

 先のフルプランの変更に伴う設楽ダム計画の変更の説明において、最近の気象変化による少雨化が水資源開発の必要性の根拠とされている。したがって各観測所における経年的な降雨量のデーターを明示じし、設楽ダム建設の必要性、妥当性の根拠について説明すべきである。

《意見5》各評価項目の予測結果について、ほとんどの項目で「影響は小さいと考えられる」という判断であるが、この予測結果の実際と異なる場合について対応のしたかについても説明するべきである。

《理由》

これまでのダム建設の先例河川では、事業計画における予測説明と違った結果が見られ場合が多い。建設段階での予測とその後の実態について多様な比較検討をおこない、予測判断と異なった場合の対応の仕方や責任のあり方を明確にしておくべきである。

《意見6》環境省は今後の環境影響評価のあり方として、「地域配慮型アセスメント」方式を提唱しているが、今回の設楽ダム建設事業にかかる環境影響評価の手続きはそのような取り組みとしては不十分でありやり直すべきである。

《理由》

設楽ダム計画は環境影響評価法に該当する国土交通省直轄の多目的ダムとしては初めての事例である。したがってその実施に当たっては慎重かつまた環境保全・再生という観点から先進的な取り組みが行われなければならない。

 環境省の昨年度の委託調査による『地域配慮型環境アセスメント促進事業』報告書(平成18年3月)がとりまとめられ、住民参加によるアセスメントのあり方について提案している。すなわち、従来の「もっぱら数値データーを中心とした科学的データの解釈にとどまっていた」評価方法ではなく、生活経験・文化・歴史・景観などで構成される地域固有の価値など非科学的とされてきた地域の文脈や定量化になじまない価値観や判断を考慮するために、住民や市民が評価の手順の設定や評価の過程に参画させることが必要であるということである。

また方法書に対する知事意見にも「準備書は専門的な内容が多く、かつ膨大な図書になる可能性があることから、作成に当たっては、住民などにわかりやすい内容となるような方策を検討し、実施すること」と指摘している。これについて事業者は要約書を作成するなど努力するとしている。

 しかし、今回の準備書縦覧はその内容の大きさに比して縦覧期間が不十分であり一般の住民は意見を提出することが難しい、また現地説明会は2カ所だけで、地域的にも限定されている。縦覧、意見聴取の方法についても住民の意見を反映したり、参画の方法を検討すべきである。                                         
以上

3.氏名・住所

         豊川を勉強する会  代表 松倉源造

         豊川を守る住民連絡会議 代表 渡邉 正