「最後の一片」

第一章「風は海から」

(1)

 風は海から吹いていた。

日が昇り、大地の温度が上がると、暖かさを求めて風が吹く。

 進は、風に吹かれていた。

そして、あの一ヶ月あまりの日々を思い出していた。

その間、波は、寄せては帰っていく……数えきれない程、単純な自然の動作を、ただ繰り返していた。

 結んだ手をぎゅっと握り締める。

温かく柔らかい感触。

 愛する人と歩んでいるという確かな証。

それは、大切な人との大切な約束。

 風は海から吹いていた。しかし、時が経てば、海へと帰っていく……

それを永遠に繰り返す。これからも、ずっと。

 

(2)へつづく

 

 

   
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