118章  軌道上の光輝


 

 まだ早朝と呼べる時間、朝日が真横からやってくるような時間に、海岸に面した崖沿いの道を走る少女達の姿があった。そう、フレイとフィリス、エルフィにシホとルナマリアだ。彼女達はトレーニングウェア、というかようするにジャージに身を包んで走っているのだが、フレイはともかく、他の4人にはなんだか尋常ならざる気迫のようなものが感じられれた。
 彼女等がどうしてこんな事をしているかと言うと、その原因は昨晩に遡る。たまにはまともな食事が欲しいと本館に頼み込みに来たイザークとディアッカは、そこでフレイの手料理を振舞われているアスランを見て嫉妬の炎を瞬間発火、そのまま燃え上がらせてしまたのだ。もっとも、今回は色恋ではなく食い物の恨みだったが。

「どう、少しは上達したと思ってるんだけど?」
「……まあ、前に食べた時より少しは上手くなってるが、美味しいわけじゃないな」
「そっか、まだまだね」
「いやまあ、そんなに落ち込まなくても良いと思う。世の中には下には下がいるからな」
「何それ?」
「あ……い、いや、気にしないでくれ」

 ラクスの料理に較べたら普通に食えるだけまだマシだと言い掛けたアスランは、少し慌てながらそれを飲み込んでいた。フレイの料理はラクスと違って見た目はアレだが、まあ味は不味いと言う程ではないのでアスランとしては文句は無かったのだ。
 今食べているのはグラタンらしき物体で、パイ生地がやたら固くて破るのに苦労したり、中の色がちょっとアレで本当に食えるのかと不安に駆られたりはしたが、まあ見た目さえ気にしなければ大丈夫だった。
 だが、そんな食堂にいきなり扉を大きな音を立てて開けて飛び込んできた2人の男が居た。イザークとディアッカだ。

「きっさまあああ、1人だけ幸せ一杯な顔しおってええええ!」
「何でお前ばっかり美人に縁があるんだよお!」

 なにやら人知を超えた速度でアスランに飛び蹴りをかまし、吹き飛ばす2人。そして事態の変化に付いていけずに目をパチクリさせているフレイの前で、2人はアスランが食べていたグラタンに手をつけだした。

「1人だけ良い食生活してるんじゃない!」
「俺たちにも幸せを分けやがれコンチクショウ!」

 置かれていたフォークとナイフを掴んだ2人は、同時にグラタンを口の中に放り込んでいた。

ドンッ!! ズズ、ズゥゥゥンン……


 それは破局の音か。それを口にして嚥下した直後、2人の腹から生じたメガトン級の衝撃が全身を駆け抜け、そして下腹部の辺りが前代未聞の大荒れと化す。そして2人は現れた時と同様に、目にも止まらぬ速さで部屋から駆け出していったのである。そして2人は、そのまま暫く帰ってはこなかった。



 この後ぞろぞろと別邸からやってきた欠食児童たちは、日頃食べさせられていた軍支給の不味いレーションから解放され、久々に人の手になる暖かい料理を食べていた。なんだかガツガツと食べている彼等を不思議そうに見ていたフレイは、別邸にも厨房はあるのに料理は作らないのかと聞くと、全員が手を止めてガックリと落ち込んでしまった。
 それを見てどうしたのかと不思議そうにしているフレイに、全員を代表してフィリスが答えてくれた。

「いえ、料理は出来るのですが、材料が手に入らないのです」
「何で、街に出れば買えるでしょ?」
「今の街はザフト将兵にとって危険地帯です。何時何処でレジスタンスに襲われるか分かりませんし、買った商品に細工がされてる危険もあるのです。そういた事件も起きていますから、軍から食事は支給品のみにしろという命令が出ている有様でして」
「な、なるほどね」

 そりゃまあ占領軍なんか好感を持ってはもらえないだろうが、状況は思っていたよりもかなり深刻らしいと知り、フレイは笑顔を引き攣らせている。
 そして食事が終わった後にシャワーを借りたのだが、そこでエルフィの悲鳴が上がったのだ。まさかレジスタンスでも出たのかと思い銃を手にジャックとミゲルが駆け込んできたのだが、そこに居たのはバスタオル一枚という際どい姿で体重計の上で石化しているエルフィであった。

 あの悲鳴はエルフィが体重計のメモリが増えた事に対してあげた絶望の悲鳴であった。この後でフィリスやシホ、ルナマリアも同様の道を辿り、4人してどんよりと落ち込む事になる。それを見たジャックが呆れた様子で余計な事を言った。

「全く女ってのは、3キロや5キロ増えたくらいで見た目が変わるわけじゃあるまいし、何でそこまで気にするんだか」

 この直後、彼は4人の集中攻撃を受けてボロ雑巾のようにされて無様に転がる事になる。そして再び落ち込んでしまう4人。原因は分かっている、カーペンタリアからオーブに至るまでの期間の大半を書類仕事で過ごしてきた彼女達は、深刻な運動不足に陥っていたのだ。そのくせパリポリとお菓子を摘んでいて、しかも徹夜仕事もしょっちゅうという不規則な日々のせいで、彼女達は肥満傾向にあったのである。
 どんよりと落ち込んでいる彼女達に声をかけられなかったフレイであったが、いきなりエルフィが顔を上げてフレイに質問をしてきた。

「フレイさん、フレイさんはどうしてそのスタイルを維持できるんですか?」
「え、いきなりね?」
「だって、フレイさんはもう軍人でもパイロットでも無いのに、何で太らないんです?」

 そう、フレイはもうパイロットではない。そしてその後に運動をしている様子も無い。なのにどうして彼女は太らないのだ。4人の視線が一箇所に集り、フレイがたじろいで身を仰け反らせる。

「ト、トレーニングは続けてるわよ。それに、私はそんなに毎日レーションばっかりなんて栄養を考えない生活じゃないし」
「それです!」

 フレイの返事を聞いたエルフィがいきなり立ち上がった。

「やっぱり運動をしなくちゃ駄目です。食事もこちらで食べさせてもらって、栄養バランスを考えましょう。特に野菜が足りません!」
「そ、そうですね、このままだと色々不味いですし」

 シホも少し引き攣った顔で頷いていし、フィリスとルナマリアも反対はしない。どうやら状況はよほど深刻らしかった。こうして彼女等はフレイの早朝トレーニングに自主的に参加してダイエットの日々を過ごす事になったのである。


 だが、今日は少し変化があった。屋敷に戻ってきた5人の前に、なんとも奇妙な光景が現れたからだ。ソアラが異様に大きくてボールのような鳥に餌をやっているのである。
 ソアラは穀物の入った皿をブロックに置き、それを鳥達が啄んでいるようで、ソアラはのんびりとそれを見ている。そしてフレイたちの足音に気付いたのか、こっちを見てきた。

「あ、お嬢様、お帰りなさいませ」
「ただいま。ねえソアラ、それは何?」
「昨日に街から帰ってくる途中で拾いまして。人に妙に慣れている様で、餌をあげたら私に付いて来てしまったんです」
「ついて来たのは良いけど、これ何?」
「さあ、私も初めて見る鳥ですので。オーブ特有の鳥か何かでしょうか?」

 フレイもソアラも心当たりが無い謎の鳥。それの正体はフレイの後ろにいたフィルスの声で判明した。

「まあ、デボたち。どうしてこんな所に!?」
「デ、デボ?」
「はい、デボスズメです。カーペンタリアにいたはずなんですが、何故オーブにいるんです?」
「いや、私たちに聞かれても……」

 フレイとソアラは困った顔を向け合わせていたが、それで答えが出るわけでも無い。そしてフィリスは嬉しそうにミグカリバーたちのところに行き、抱き抱えたりしていた。実はこのデボたち、なんと海を渡ってオーブにまでやってきたのである。
 そして、デボたちの中でも一際大きいボス格のスズメ、フィリスがミグカリバーと呼んでいた奴がフレイとソアラに向けてビシッと羽を上げ、何かわさわさと動かしていた。

「な、何?」
「ブロックサインのようですね……これから暫く世話になるぜ、と言っているようです」
「どうしてスズメがそんな事出来るのよ?」

 プラントの遺伝子技術は、とんでもないモンスターを現代に生み出してしまったのではないだろうか。こうして、アルスター邸に新しい仲間が加わり、侵入者撃退用に新しい戦力が加わったのである。それは同時に、嫉妬団の更なる苦闘の日々を意味してもいた。





 アメノミハシラ防衛ラインに迫るザフト艦隊。司令室に集ったカガリとミナは厳しい顔でアメノミハシラに迫る艦隊を見据えていた。

「大軍だな、20隻以上とは。ザフトにしてはかなりの大盤振る舞いだ」
「ミナ、こちらの戦力は?」
「今ユウナの指揮でアメノミハシラ正面、上方に展開している。イズモ級2隻、フブキ級13隻、駆逐艦6隻だ」
「損傷した2隻は無理か」

 先の戦いで被弾した2隻はまだ動けないと知り、カガリは悔しそうに臍を噛んでいた。こんな状態なら1隻でも多くの艦が欲しかったのに。
 その間にも敵艦隊が接近し、オペレーターたちの報告数が数を増していく。そして遂にザフト艦隊はMSを出してきて、第1次防衛ラインに接触した。
 アメノミハシラを守る最初の壁は偏執的なまでに重厚に作られた機雷原だ。ユウナの指揮の下、これでもかと設置された機雷原を啓開しなければザフトはアメノミハシラに近づけない。だが支援艦艇の数が絶望的に不足しているザフトは、機雷処理に有効な掃宙艦など持ってきておらず、この仕事はMSに任せていた。方法は極めて簡単で、目視で発見した機雷を火器で砲撃、破壊していくのだ。ただ、MS1機に1人しか乗っていないので、発見率に些か難がある。発見できなかった機雷に被雷し、木っ端微塵になる機も出ている有様だ。
 だが、少ない犠牲を払いながらも彼等は機雷原を啓開し、それを拡大して艦隊を中に入れる事に成功した。啓開部から中へと入ってくるザフト艦隊。しかし、その穴めがけてオーブ艦隊の集中砲火が放たれた。

「全艦、開いた穴に砲撃を集中させろ!」

 ユウナの命令を受けて全艦艇の砲火が一点に集約され、先頭を行くローラシア級の船体があっという間に蜂の巣のようになり、ズタボロになって爆発四散してしまう。だが放たれた幾つかのアンチビーム爆雷が後続艦を守り、後続艦もアンチビーム爆雷を使ってビームを防ぎながら機雷原を抜けてきた。
 そして艦隊を守るようにMS隊が前進してきた。これを見たユウナもMS対の迎撃を指示し、艦隊の砲撃が応酬されている宙域の上方でMS同士の乱戦が始まっていた。M1とジン、ゲイツが乱戦となり、殴り合いの消耗戦を始めている。
 そんな乱戦中で、アサギは2機の仲間と共にローラシア級に取り付こうとしていた。船を沈めれば、MSはいずれ止まるからだ。だがローラシア級の対空火力も中々のもので、上手く近付かせてはくれない。

「参ったわね、こういう時キース大尉がいてくれたらいいのに」

 視界を埋め尽くすような火線に腰が引けているアサギはそんな愚痴をこぼしていた。アサギにすればこの火力は反則に思えるもので、こんな中に平然と突っ込んでいくキースがどれだけ出鱈目な男なのかが実感できていた。




 その頃、アメノミハシラに向けて物凄い速さで移動している大型シャトルがあった。これはマスドライバーとブースターを併用してひたすら速度を上げてきたキースたちのシャトルで、彼等はもうすぐアメノミハシラの宙域に届こうとしていたのだ。かなり無茶をしている事が分かる。
 その中ではシートベルトでシートに固定されたままダウンしているシンと、計器を操作しているキースの姿があった。

「この速度で、距離がこれだから……間に合うかな?」

 到達までの予想時間を計算していたらしい。そんな事をしているとシンが呻き声を上げ、ゆっくりと頭を振り出した。

「あ……ここは?」
「起きたか、シン」
「え? あ、気絶してましたか、僕?」

 ようやく我に返ったらしいシンがきょろきょろと周囲を見回す。

「アメノミハシラは、戦闘は?」
「落ち着けシン、前を見ろ」

 言われてシンが前を見ると、そこには戦闘のものと思われる光が幾つも生まれていた。既に敵はアメノミハシラに来ているのだ。自分達は間に合わなかったらしい。

「届きますか?」
「届く事は届くが、間に合うかどうかは微妙だな。まあ、間に合わせるつもりだが」

 間に合わせるつもりはあるが、間に合うかどうかは微妙だ。こればっかりはシャトルの頑張りとアメノミハシラの守備隊の奮闘にかかっているので、キースに出来る事は何も無い。
 自分達に出来る事は何も無い。そう悟ったシンは悔しそうに俯いて拳を握り締めていたが、じっとしているのに我慢できなくなったのか、シートベルとを外して後ろの貨物区画に行こうとした。

「どうした?」
「いつでも出れるよう、準備をしておきます」

 血気盛んな若者らしい焦りを見せるシンに。キースは苦笑を交えて頷いていた。忙しそうに格納庫の方に向うシンを見送ったキースは視線を正面に戻すと、どうしたものかと考え込んでいた。

「まあ、キラも居るし、何とか間に合うだろ。でも、オーブ軍はどれだけ残ってるか。俺たちが着いても一緒に討ち死にって可能性の方が高い」

 キースはオーブ軍の戦力に全く期待していない。あれは実戦を知らない軍隊どころではなく、戦う準備が出来ていない軍隊だ。訓練度も低く、装備は多少の改良に留まっていた。これでは相手が2流どころならともかく、連合を一度は追い詰めたザフトの精鋭と戦えるわけが無い。キラのフリーダムを除けば、後はたいした抵抗も出来ないだろう。
 アメノミハシラは落ちるかもしれないと考えてしまい、暗い未来を思い浮かべてしまうキース。だがその時、レーダーパネルがアメノミハシラに向う複数の移動物体を捉えた。





 艦隊戦はオーブ艦隊の不利で進んでいた。船の数は負けていなかったが、やはり経験が違う。加えて指揮官の能力差もあり、オーブ艦隊はジリジリと押されてアメノミハシラの方へと後退を重ねていた。
 これを見たカガリはアメノミハシラに残していた第2波に出撃を命じ、あわせてこれまで温存していた要塞砲の使用を命じる。だが、それはミナに止められてしまった。

「待てカガリ、まだ早い!」
「このまま温存していて、あいつ等が全滅したら意味が無いだろ!」
「しかし、敵も予備を残している筈だ。それを見極めるまでは待て!」

 ミナはまだ第2波を投入する時期ではないと言ったが、カガリはそれに頷く事は無かった。彼女には戦場で苦戦している味方を座して見ているという事は出来ない性質なのだ。まあそれがカガリの長所であるのだが、それは軍人としての短所になる。将は兵の屍を見てはいけないのだ。そんな感情を見せていては、指揮が取れなくなるから。
 カガリの命令でキラのフリーダムを含む第2波が出撃し、MS同士の戦いに加わろうとする。これを見たハーヴィックは直ちに残りのMSを出してきた。特にグラディス隊の核動力機6機を出撃させる。

「オーブは全力を出してきたぞ。こちらも残りを出せ。もう奴らに後は無い!」

 ハーヴィックの命令を受けてザフト艦隊から次々にジンやゲイツが出撃していく。それはオーブの増援を相手にするには十分すぎる戦力、だと思われた。数だけを見ればザフトはオーブ軍を超えている。だが、彼等にとって悪夢はこれから始まる。そう、キラのフリーダムによって悪夢は作られるのだ。

 キラは自分達に向ってきたザフトの第2波を見て、フリーダムのロックオンシステムを起動させた。これの威力はアラスカを巡る一連の戦いで幾度と無く実証されている。

「まず数を減らさせてもらうよ!」

 フリーダムのプラズマ砲とレールガンが咆哮し、ビームと砲弾を叩き出す。だが、次々に放たれる砲火は、その多くが空しく虚空を貫くのみであった。一度斉射をするたびに1機、また1機と落ちてはいるのだが、その戦果はこれまでの戦いとは比較にならないほどに少ない。
 敵が自分の砲撃を回避している事を悟ったキラは驚いていた。まさか、これまであれほど有効だった砲撃がもう意味を失くしたのだろうか。

「くそっ、何でいきなり!?」

 これ以上多数を狙っても仕方が無いと割り切ったキラは、効率が落ちるのを覚悟で全砲門を1機のMSに向け、確実に落としていく方針に切り替えた。
 ザフトMSがフリーダムの砲撃を躱せるのも当然であった。彼等はフリーダムが多数の敵を一度にロックオンし、制圧砲撃が出来る事を知っていたのだ。知らなければ対処できないだろうが、予め知っていれば対処する事も簡単だ。ロックオン警報を聞いたら即座に機体に回避運動を取らせれば、そうそう当たる事も無い。それに全般的に宇宙軍の方が腕が良い。
 だが、それでもキラのフリーダムは強力だった。確実に1機ずつ減らす手に出たキラは、戦場の中で踊るように動き回り、1機に砲撃を集中させる事で数を減らしていたからだ。狙われたジンやゲイツも必死に回避するのだが、逃げる方向を4門の砲とビームライフルで塞がれながら追い込まれて落とされてしまうのだ。
 これに対してはジンやゲイツでは有効な対策を立てられるはずも無く、彼等はただ逃げ回るしかなかった。このフリーダムの相手は、彼らでは無いのだから。

 それは唐突にやってきた。フリーダムのコクピットに警報が鳴り響き、キラが咄嗟に回避運動を取る。するとフリーダムが進もうとしていた方向にビームブーメランが突っ込んできて、何処かへと戻っていくのが見えた。

「ビームブーメラン、ザフトがそんな武器を?」

 あれは自分でもすぐに役立たず認定して使わなくなった武器だ。そんなものが今頃自分の前に出てくるとは。それが帰っていく方向を見たキラは、そこにいた敵機に目を疑う事になる。

「そんな、フリーダムに、ジャスティス。それも6機も……」

 ありえないほどの戦力だ。オーブではジャスティス1機にあれほどの苦戦を強いられたのに、今度はそれが6機もいる。ザフトはこれを量産していたのだ。
 そして、2個小隊の片方、フリーダム1機とジャスティス2機がこちらに向ってきて、一斉にキラのフリーダムに襲い掛かってきた。フリーダムが連続した砲撃を浴びせかけ、その砲撃支援の下でジャスティス2+-機が接近戦を仕掛ける。核動力MSの理想的な攻撃パターンだが、これを受けたキラは悲鳴を上げていた。

「じょ、冗談じゃない、幾らなんでも3機なんて!」

 キラはこの場から距離を取りたかったが、それは相手がジャスティスでは出来ない相談だった。接近戦を考えて作られているジャスティスは砲戦型のフリーダムより機動性に優れているので、フリーダムでは振り切れない。キラの腕が幾ら良かろうが、機体性能の上限は超えられないのだ。
 ビームサーベルを抜いたジャスティスが一斉にフリーダムに切りかかり、フリーダムがそれを機体を捻って躱し、あるいはシールドで受け止める。殆どゼロ距離ではなったビームとレールガンで相手を牽制し、包囲されないよう懸命に逃げ回っている。だが退路には敵のフリーダムが砲撃を加えてきて、思うように逃げられないでいた。

「これじゃ袋叩きだ、何とかして切り崩さないと!」

 急加速とランダム回避を織り交ぜてジャスティスを振り切ろうとする。その動きはフラガの動きにも似た、優雅な弧を描くものだった。その動きに惑わされたジャスティス1機が離されてしまう。だが、残る1機は食らい付いてきた。

「逃がすかよ!」
「くっ、しつこい!」

 それでもジャスティスの攻撃を捌ききるキラ。だが、戦っている最中にカズィからの悲鳴のような通信が飛び込んできた。

「キラ、すぐにアメノミハシラ正面に回って。M1が突破されかけてる!」
「何だって、敵の数は!?」
「ジンとゲイツ、10機以上だよ!」

 M1隊では勝てないのだろうか。もしアメノミハシラに取り付かれたら、アメノミハシラは破壊されてしまう。そうなったら、あそこにいるカガリとカズィは、ユウナさんは……。
 仲間が殺される。それが頭の中を過ぎった時、キラの中のSEEDが発現した。目の色が失われ、怒りをもって迫るジャスティスを睨みつける。

「邪魔、するなあああああっ!」

 その途端、フリーダムの動きが断然に良くなった。攻撃を仕掛けたジャスティスは目の前から一瞬で消えたフリーダムに目を丸くし、何処に行ったのかと探している。

「ど、何処だ、何処に行った!?」
「カイト、下だ!」
「え?」

 そう、フリーダムはいつの間にか下に回りこみ、全ての砲をジャスティスに向けていた。その距離は殆どゼロ距離、回避可能な距離では無い。そしてカイトと呼ばれたパイロットの顔が恐怖に引きつるよりも早く、キラはトリガーを引き、そのジャスティスを5条のビームとレールガンで木っ端微塵にしてしまった。

「カイト、くっそおおおおおっ!」
「止せ、1人で突っ込むな!」

 同僚を殺されたもう一方のジャスティスが仲間の制止を振り切ってフリーダムに挑む。しかし、それは完全な自殺行為だった。今のキラは、手加減などしてくれるような余裕はどこにも無かったのだから。
 フリーダムの砲火が放たれるが、ジャスティスはそれをシールドで止め、あるいは回避してフリーダムとの距離を詰める。時折両肩のビーム放って牽制もするが、こんな物は今のキラには何の意味も無い。それどころかビームサーベルで飛来したビームを切払い、直撃を逸らしてしまうなどという出鱈目な事までやって見せた。

「そんな、ビームを斬った?」

 常識外れも良い所だ。どうやったら亜光速で飛ぶビームに反応できるというのだ。そんな事は、人間では出来ない筈なのに。

「偶然だ、偶然に決まってる!」

 こんな事ができる人間がいてたまるか、という怒りを込めてジャスティスは切りかかってきた。勿論キラとて見えているわけではない。目で見てからでは体が追いつけないし、そもそも機体の反応が間に合うわけが無い。そんな事は絶対に有り得ない事だ。それが出来るとすれば、ビームが発射される前に動いていた場合のみである。つまりキラは、勘で切払っているに過ぎない。だから偶然だというのも間違ってはいなかった。
 格闘距離に踏み込んだジャスティスがビームサーベルを振るって切りかかる。それをフリーダムがシールドで受け止め、左右に機体を振って回避していく。後方から援護しようとするフリーダムたちは味方のジャスティスが邪魔で撃てない様だ。
 その時、いきなりフリーダムに隙が出来た。動くタイミングを間違えたのか、一瞬とはいえ初動が遅れたのだ。この僅かな隙を突く様にしてジャスティスが懐に飛び込み、ビームサーベルを振り被った。

「もらったぞ、フリーダム!」
「どっちが!」

 振り下ろそうとした右腕は、次の瞬間にはプラズマ砲によって肘から上を消滅させられていた。隙と思われた一瞬の遅れは、キラの誘いだったのだ。ジャスティスはむざむざフリーダムの砲口の真正面に機体を晒す位置に誘導されていたのである。
 騙された、それを悟ったジャスティスのパイロットは激昂しながらシールドを投げつけてくる。それをフリーダムがシールドで受け止め、退こうとするジャスティスにプラズマ砲とレールガンを浴びせかける。シールドをなくしたジャスティスはそれを懸命に回避していたが、次々に手足をもぎ取られてしまい、遂には胴体を撃ち抜かれて爆発してしまった。





「各戦隊ごとに円陣を敷かせろ。孤立したら袋叩きにされるぞ。MS隊を呼び戻して直衛に当たらせるんだ。艦長、クサナギをアメノミハシラの正面に回せ、ローエングリンを使う!」
「ですかユウナ様、既に指揮系統が混乱しています。艦隊の統制が取れません!」
「じゃあ連絡の付く艦だけでも良い。とにかく今は少しでも長く持ち堪えて、近くの連合軍が来てくれるのに期待するしかないんだ!」

 他力本願と言ってしまえばそれまでだが、もうそれ以外に策は無かった。ユウナは前回の遭遇戦の時と較べればかなりマシな指揮をするようになっていたが、それは程度の問題であってザフトでも一線級の指揮官であるハーヴィックと比較しうる物ではない。その実力差を考慮すれば、ここまで艦隊を維持してきたユウナは健闘していると言えるだろう。


 キラが押さえ込まれている間に戦況は傾斜面を転がり落ちるような速さでオーブの不利に傾いていた。残る3機のフリーダムとジャスティスが暴れ回り、ジンやゲイツが我が物顔で飛び回っているからだ。オーブ側はユウナの指揮の下に艦隊をアメノミハシラ周辺の浮遊防塁とする位置にまで後退させて最後の抵抗を試み、MS隊は多数のザフトMSを前に必死の抵抗を続けていたが、それは蝋燭の最後の輝きにも似た抵抗であった。
 アメノミハシラ自身は多数のイーゲルシュテルンとアンチビーム爆雷で身を守り、あるだけの浮遊砲台で迎撃戦闘を行っているのだが、ザフト艦艇がミサイルとレールガンの攻撃を行うようになって被害が急増していた。ミナが被害箇所への対処指示を矢継ぎ早に出しているが、それも無駄な努力になろうとしている。

「馬場一尉に敵艦隊を叩かせろ。このままじゃ嬲り殺しにされる!」
「無理です、一尉の隊はゲイツ部隊と交戦中です!」
「MS隊で動ける奴は居ないのか!?」
「敵の数が多すぎます!」

 既にM1の数は開戦時の半数も残ってはいない。沢山居た新米パイロットはあっという間に消耗し、今戦っているのは少数のベテランパイロットを中心とした連中だけだ。しかも指揮官を欠いて連携が取れず、個々の奮闘に期待するという状況にまで追い詰められている。
 こんな最悪の状況下で、カガリは降伏するしかないかとまで考えだしていた。もう勝ち目など何処にも無く、このまま戦い続ければアメノミハシラも破壊される事は確実という状況なのだから、それも間違った考えでは無いだろう。
 カガリがカズィに敵旗艦を呼び出すように伝えようかと考えた時、いきなりカズィが立ち上がって自分の方を見てきた。

「カガリ、援軍だよ!」
「……援軍?」

 カガリはキョトンとした顔で、それが理解できないという顔をしていた。余りにも予想外の言葉に頭がついていけなかったのだ。そしてカズィはカガリの問い掛けなど気にもせず、司令室を見回すようにして大きな声を上げた。

「連合の艦隊だ、第17独立艦隊が到着したんだ!」

 その意味が理解できるまでに、一呼吸ほどの時間を必要とした。そしてそれが理解できると、司令室に爆発するような歓声が響き渡った。オペレーターたちは喜びに沸き立ちながらそれを周辺の部隊に伝えていき、カガリはまだ呆然としている。そしてミナがオペレーターに機雷の信管解除をするように命じた。起動したままだと味方も吹き飛ばしてしまうからだ。
 そして、カズィの報告から数分も待たないうちにザフト艦隊の上方からビームが叩きつけられた。天頂方向から連合の戦艦1、駆逐艦4、改装空母1がやってきたのだ。彼等は戦い慣れしているようで、密集隊形を保ったまま突っ込んできてザフト艦隊の上方に展開を完了している。そして、彼等からストライクダガーやファントムが次々に発進してきた。



 この連合艦隊の出現に驚いたのはハーヴィックも同じだった。先のヨーロッパからの脱出部隊の救出作戦で連合の艦隊と激突し、かなりの損害を強いたという自信があったのだが、敵はまだ平然と小艦隊を動かしていたらしい。

「奴等の戦力は底無しか。一体何隻持ってるんだ!?」
「提督、今は上方の守りを」
「分かっている。ガリル隊を送って迎撃させろ。MS対も一部呼び戻せ。油断はするな、敵はオーブとは違うぞ!」

 月を拠点とする連合軍はオーブ軍とは比較にならないほど実戦慣れし、訓練度も高い。何より改良を重ねられた装備は侮れない性能を持っている。
 ハーヴィックの命令でローラシア級3隻が隊列から離れて連合の艦隊に向かい、前線からもジンやゲイツが戻ってくる。彼等はたちまちダガーやファントムと熾烈な戦いを演じる事になり、ドッグファイトの光跡が上方に幾つも描かれていく。このおかげでアメノミハシラへの圧力が低下し、オーブ軍が息を吹き返しだした。
 そしてさらにザフトの不運は続いた。第17独立艦隊に続いて第11、第18独立艦隊が相次いで到着し、攻撃を加えてきたのだ。その数は戦艦2、駆逐艦10、改装空母2とかなりの大軍で、ハーヴィックはそれまでの優勢が嘘だったかのようにジリ貧となりだした。

「くそっ、ここまで来て攻め切れんのか!」

 アメノミハシラは大分叩いたが、まだ崩壊する様子は無い。あれでは修理されてしまうだろう。だが今や連合軍の砲火がザフト艦隊に降り注ぐようになっており、MS戦も連合のダガーやファントムの加入で押し返されている。オーブのM1隊も援軍を受けて勢いを取り戻したのか、ゲイツ部隊を押し返し出していた。

「全機続け、奴等を叩き出す!」

 馬場一尉のM1Hに率いられたM1隊がゲイツ部隊を押し戻していく。おかげでアメノミハシラ周辺からは敵の姿は居なくなり、ミナの対処指示もあってどうにか被害を食い止められそうであった。
 ザフトが頼みとしていた核動力機は既に2機が撃墜され、残る4機もキラのフリーダムに3機が回ってしまい、わずかにフリーダム1機が残って戦っているに過ぎない。このグラディス隊のフリーダムとジャスティスはキラやアスランよりも明らかに弱く、M1やダガーを押さえ切れないでいた。
 この自軍側のフリーダムの弱さに一番憤っていたのはタリアだったろう。艦橋のパネルにはキラのフリーダムが映し出されており、その圧倒的な強さを見せつけている。敵のフリーダムはこちらの同クラスのMSを複数相手取って互角以上に戦えているというこの現実は、タリアからすればふざけているとしか思えない現実である。

「どういう事だ。同じ機体で、いやむしろ劣る試作機で、何故あそこまで強い!?」
「わ、分かりません。オーブが改良したのかも?」

 タリアの詰問のような問い掛けを受けたアーサーが狼狽している。それも無理はあるまい。プラントの技術の粋を集めて完成されたはずのフリーダムとジャスティスが、奪われた試作機如きに次々に落とされているのだから。そんな事を行っている間にも今度はフリーダムが落とされている。これで持って来た核動力機を半数失ってしまった。




 この戦いをじっと見つめている第3者の視線があった。それはザフトの改エターナル級戦艦カリオペだ。この艦は不具合箇所を補修して急ぎやってきたのだが、何故か戦闘には加わらず、じっと様子を伺っていた。
 この艦の艦長、ロナルドは隣に立つ赤い服を着た男にどうするかと問い掛けた。

「ガザート、どうする?」
「苦戦しているようですね。それにあのフリーダムの強さは異常なレベルです。あれでは核動力機が歯が立たないのも無理は無い」
「本艦に搭載されていたフリーダムとジャスティスはグラディス隊に渡ってしまって、格納庫にはゲイツしかないが?」
「まあ何とかしますよ。それにあの機体を使っているのは、クルーゼ隊長の話じゃ最高のコーディネイターらしいですからね。一度戦ってみたかった」
「そうか、ならそろそろ加わるとするか。あれならアメノミハシラは落ちないだろう」
「ええ、味方の撤退を援護しないと。余りザフトがダメージを受けると後で困ります」

 ガザートは小さく笑って艦橋から出て行った。そしてロナルドはカリオペに戦闘配置を命じ、交戦宙域への突撃を命じた。

「1番、2番砲塔を起動、砲撃目標は右舷方向の連合艦隊、その駆逐艦だ!」

 ロナルドの命令に従って艦首方向に背負い式に装備されている連装砲塔2基が右舷を向き、荷電粒子を充填していく。その充填率が100パーセントになったのを確認したロナルドは、鋭い声で撃てと命じた。その命令にあわせて砲から4条のビームが叩き出され、狙われた駆逐艦に向っていく。狙われた駆逐艦は自分の周囲を予期しない方向からのビームが貫いていったのに驚いたのか、明らかに動揺した動きを見せてこちらに回頭しようとしている。しかしカリオペの照準は先程の砲撃で誤差が修正されており、第2射では直撃弾が出た。さらに続けての砲撃で直撃を出し、この駆逐艦を轟沈している。
 カリオペの加入で戦いの流れが少し変わった。応援に駆けつけた第17独立艦隊が崩され、そこからザフトが後退する事が出来たのだ。改エターナル級はエターナル級の弱点だった火力の増強を施した艦で、単装砲1門しかなかった火砲が連装砲2基4門に強化されている。他にも艦首方向の全長を利用したレールキャノンも装備されており、正面火力はかなりの充実を見せている。この火力はローラシア級に劣らない物で、エターナル級を艦隊戦力として数える事が出来るようにしていた。




 キラのフリーダムは残り2機のジャスティスを仕留めた後、味方を苦しめているフリーダムを叩こうと考えていた。連合の応援部隊の到着でアメノミハシラ周辺は安全になったようなので、このままさらに前に出ようと思ったのだ。もう目の前のジャスティス2機はボロボロであり、このまま押し切れると確信が出来ている。
 しかし、止めを刺そうと前に出ようとしたとき、フリーダムに挑んでくる1機のゲイツが現れた。

「ゲイツ!?」

 まさかこんなところでゲイツが挑んでくるとは思わなかったキラだが、すぐにビームライフルで始末しようと思って照準を向ける。しかし、このゲイツは予想以上に素早く、いや上手く動いて照準を躱してくれた。その動きの上手さにキラは目の前のジャスティスを無視してゲイツに意識を向ける。
これまでの経験から、本当に手強い敵とは機体ではなく、パイロットで決まるという事をキラは学んでいたから。たとえ機体が性能に劣るゲイツでも、パイロットが優れていればそれは目の前のジャスティス以上の脅威となる。そんなパイロットを、キラは何人も知っていた。あのユーレクなどはシグーでフリーダムと対等に戦えたのだ。

 フリーダムの前にやってきたガザートはボロボロのジャスティスに通信を入れて、この場から早く退くように伝えた。

「こいつの相手は俺がする。お前達は退け」
「ば、馬鹿言うな、このまま引き下がれるか!」
「その機体で何が出来る。いいから退け、ジャスティスを無駄に失う気か?」

 ガザートの殺気さえ込めた声に気圧されたのか、通信機からは唸るような声が聞こえてくる。だが、遂には諦めたようで、ジャスティスは母艦へと戻っていった。それを確かめたガザートは改めてフリーダムを見て、光通信で通話をしてきた。

「さてと、これで一対一だな、キラ・ヒビキ」
「……誰だ、貴方は?」

 ヒビキ、その名はキラとカガリの生みの親の姓だ。だが、それがキラに付くという事を知っている人間は本当に限られている。そしてそれを知る人間は、いずれも普通の素性では無いのだ。
 メンデルの関係者か、それともブルーコスモスなのか。それとも、自分の知らない別の勢力なのか。キラの頭に警戒警報が鳴り響き、じっと相手の動きを待っている。そして、ガザートはキラにビームライフルを向けてきた。

「俺と勝負してもらうぞ、最高のコーディネイター」
「何で、僕のことを知っている!?」
「知っているさ、お前は有名人だからな。親が犯した罪、今ここで償ってもらおうか」
「罪?」

 何が罪だというのだ。僕という存在そのものが罪なのか、それともメンデルの研究が罪だったというのか。どちらなのかはキラには分からなかったが、1つだけ言えることがある。それは、このゲイツのパイロットも自分の過去と因縁があるという事だ。

「行くぞ、キラ・ヒビキ!」
「違う、僕はキラ・ヤマトだ!」

 フリーダムの砲が咆哮し、ゲイツにビームと砲弾を叩きつける。だが既にゲイツは射線上から姿を消しており、フリーダムに向けて腰のエクステンション・アレスターを放ってきた。これは簡易ガンバレルのような武器で、設定した目標に向って飛んでいってビームを放つ奇襲兵器だ。しかしキラはこれを見た事があったので、ビームガンが発射される前にビームライフルでこれを撃ち落とした。
 そしてゲイツがビームライフルで牽制射を放ちながら距離を詰めてくる。その反応の良さは今の自分さえ上回るのではと思わせるもので、一瞬たりとも射線を維持させてくれない。これではフリーダムは威力を発揮できない。

「速い、コーディネイターじゃなく、強化人間なのか?」

 コーディネイターでもこんな出鱈目な反応速度は持たないはずだ。これは下手をすればユーレク並である。この事から、相手はコーディネイターではなくキースやユーレクのような強化人間ではないかとキラは思ったが、ガザートはそれを否定してきた。

「違う、俺は戦闘用コーディネイターだ」
「戦闘用、コーディネイター?」
「そう、俺はメンデルで研究されていた、戦闘用に特化したコーディネイターの発展型だ。戦う事にかけては、俺はお前を上回る能力を与えられている!」
「そんな、そんな研究まで!?」

 遺伝子を改良して生み出されるコーディネイター。その方向性を最初から特化させれば確かにその方面に優れた才能を見せるコーディネイターが出来るだろう。だが、まさか本当にそんなふざけた研究が行われていたとは。
 だが、そこでキラは思い出した。戦闘用コーディネイターという名を、前にも聞いた事があったのだ。

「そういえば、ユーレクさんも戦闘用コーディネイターだと言っていたな。じゃあ、貴方もメンデルの!?」
「少し違うな。俺はメンデルではなく、プラントで作られた。メンデルの技術を利用してな!」

 ガザートの糾弾のような声にキラは顔を顰めていた。メンデル、これは全ての悪が詰ったパンドラの箱なのか。どうして人はここまで狂う事が出来るのだ。そして、その呪縛は何時まで自分を縛り続けるのだろうか。





 アメノミハシラから少し離れた場所で態勢を立て直そうとするザフト艦隊。しかし、その時最後尾のローラシア級のレーダーが後方から物凄い速さで接近してくる機影を捉えた。

「後方から何か来ます。信じられない速さです!」
「何だ、ミサイルか?」
「いえ、サイズからすると小型艦艇かシャトルでは無いかと。ですが、こんな速度では制動も出来ませんよ」

 異常としか言えない速さでアメノミハシラに突っ込んでくるシャトル。それは確かに不審な相手だ。艦長は少し考えた後、砲手に命じてそれを落とさせる事にした。

「砲を向けられるか?」
「可能ですが、撃つんですか?」
「戦闘宙域に突っ込んで来るんだ。関係なかったとしても、自業自得だ」

 疑わしきは罰せよ、それが戦場の鉄則だ。砲手も納得して砲を操作しようとしたが、その時レーダー手が叫び声を上げた。

「反応物体から2つの反応が分離、こちらに向ってきます。MSかMAクラス!」
「何だと!?」

 驚いた艦長は対空砲火の砲門を開かせると共に警戒機に迎撃を指示した。この艦長の対応は十分に迅速だったと言えるだろう。だが、今回は接近してくる相手が余りにも悪すぎた。警戒に付いていたジンHM2機が艦の誘導に従って迎撃位置に来たのだが、迫るMAとMSは出鱈目な速さで接近してきた。それはキースのコスモグラスパーと、シンのM1Sであった。

「シン、このまま突っ込む。回避運動なんか取らずにひたすら前進しろ!!」
「で、でも、あんな弾幕に突っ込むの?!」
「俺を信じろ。ビビって回避運動を取ったらかえって当たるぞ。この速さならまぐれ当たりしか有り得ん!」

 シャトルから離脱した速さで突っ込んでくる2機にジンHMが重突撃機銃を放ったが、それは全て全く関係の無い所を貫いていく。余りにも速過ぎて銃弾が届くころにはもうその場に居ないのだ。
 そしてエメラルドのコスモグラスパーがジンHMの脇をすり抜け、M1Sは対艦刀を背中から外して装備すると、勢いのままに脇を通過したジンを叩ききった。ようするにすり抜けざまに対艦刀をぶつけたのだ。この加速度と対艦刀のビームの威力で狙われたジンは一瞬で真っ二つにされてしまい、上下に分かれて爆発することもなく漂っている。
 そしてローラシア級に迫ったエメラルドのコスモグラスパーは対空砲火を物ともせずに突っ込み、船体にガトリング砲とリニアガンを艦尾から艦首にかけて掃射して通過していた。この掃射で船体上面をズタズタにされ、艦橋の首脳部を抹殺されたローラシア級は誘爆の光に包まれていった。対処指示をする者も無いその炎は艦を包み込んでいき、遂には動力炉にまで及んで艦を破壊してしまった。

 新たに駆けつけた2機の援軍、これがこの戦いに決着を付けることになる。

 


機体解説

改エターナル級戦艦
兵装 連装高エネルギー収束砲×2
   長砲身レールキャノン×4
   対空連装機銃×8
   多目的ミサイルランチャー×16

<解説>
 ザフトが3隻建造したエターナル級の試験データを元に改修した戦闘艦。エターナル級の基本性能を継承しつつ、火力を大幅に向上させている。この改修でエターナル級の弱点であった単艦行動能力は大幅に強化され、自分で自分の身を守れるようになった。
 改エターナル級はその高性能を評価されており、量産が決定されている艦でもある。これは同時に、核動力MSの量産が進む事も意味していた。



後書き

ジム改 オーブ軍の明日はどっちだ!?
カガリ 思いっきりぶっ壊されてるじゃないかあ!
ジム改 崩壊して無いだけマシだと思いなさい。
カガリ 穴だらけにして何言ってやがる。これどうやって直すんだよ!?
ジム改 連合軍の手を借りれば資材と人手など幾らでも手に入るぞ。
カガリ またアズラエルに借りを作れってか?
ジム改 まあそうなるな。
カガリ これ以上借金増やすなあああ!
ジム改 今のオーブは借りっぱなしだからねえ。
カガリ ところで、このガザートって何?
ジム改 クルーゼの部下の戦闘用コーディ。
カガリ いや、種割れしたキラと戦えるって無茶苦茶強くねえ?
ジム改 大丈夫だ、強化されて無い分ユーレクよりはずっと弱い。
カガリ 比較対象が間違ってると気付け!
ジム改 それでは次回、極東連合との交渉が決裂し、遂に宣戦布告が行われる。激突したガザートとキラ。駆けつけたキースとシン、そして極東連合の増援を見たハーヴィックは撤退を決断する。どうにか守りきったアメノミハシラに連合からの要請が届けられる。そして地球ではいよいよカオシュン攻略作戦が発動する。次回「新たなる参加者」でお会いしましょう。

 

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