第144章  星は大天使に


 

 もうすぐ年始を迎えるという時間に、カガリは僅かばかりの時間で奇妙な会談を行っていた。それはミナを経由してラクスから申し込まれた物で、アメノミハシラで一度断っていたカガリはその時の気負いもあってこれを受けていた。
 だが、レーザー回線によって現れたラクスが伝えてきた事は、カガリの想像を超えるとんでもない内容であった。

「オーブに、お前を支援しろだと?」
「はい、今私たちは少しでも多くの援助を求めています。この戦争を終わらせる為に、そして、ナチュラルとコーディネイターが破滅に向かうのを食い止める為に」
「ちょっと待ってくれ、お前は確かプラントでクーデターを起こしたんだろ。そんな奴が何で破滅を食い止めるとか言うんだ。それなら最初からプラントでそう訴えればいいだろ?」

 ラクスの言う事にカガリは混乱していた。戦争を否定するのは分かる、ナチュラルとコーディネイターが戦火の果てに破滅に向かう可能性も否定は仕切れない。だがそれとクーデターがどうして結びつくのだ。そんな事をすれば戦火はかえって拡大するというのに。
 このカガリの疑問に対して、ラクスは時間が無かったと主張した。

「この戦争は双方の憎悪の連鎖によって止めようが無い所まで来ています。この流れを断ち切るには私も力を行使するしかないと判断しました」
「力って言っても、私の援助を求めるようじゃ大した力じゃないんだろ。その程度でどうやって連合とプラントを同時に相手取るんだよ。いや、それ以前に武力の前に話し合おうとしたのか?」

 カガリの知る限り、プラントの内部から戦争終結への努力が聞こえてきた事は多くは無い。かろうじてシーゲル・クラインが講和を唱えていたくらいだろう。穏健派議員も居た筈だが大した力ではなかったようでその動きは伝わってこなかった。だが、その僅かな動きの中にラクス・クラインの名は聞いたこともない。彼女はプラントのアイドルとしてのみ伝わってきていた。そしてその人気の高さも。
 何か考えでもあるのか、それとも実は自分の想像も付かないような凄い戦力を蓄えているのか、実はプラントと地球連合の宥和派と手を組んで何かをしようとしているのかもしれない、などと幾つかの可能性をカガリは思い浮かべたが、ラクスの返答はカガリの想像の斜め上を行く物であった。

「その手段を私たちは求めています。どうすれば終わらせられるのか、どうすれば止められるのか、その方法を模索しているのです」
「……いや、普通そういうことをまず考えてから行動に移さないか?」

 それじゃ行き当たりばったりにも程があるだろとカガリは頭痛を堪える顔でつっこんだ。とはいえカガリも何もしていない訳ではない。足並みが揃っているとはとても言えないが地球連合諸国の反ブルーコスモス陣営の人間と関係を持っているし、プラント内にも相当数の同調者を抱え、同志の一部は行政府にまで入り込んでいる。連合とプラントを繋ぐパイプ役としてはそれなりの意味がある存在ではある。
 これらのパイプをうまく使えばラクスは地球とプラントの双方に影響力を行使する事が可能であり、実際にそれを使ったこともある。だが、ラクスはこのパイプを使って双方の橋渡しをしようとはしていない。自分を中心として双方を自分の望む方向に動かそうとしているのだ。もし彼女が最初から双方の中継点として自分の立場を決めていれば、あるいは全く違った方向に世界は進んでいたかもしれない。彼女が思っている以上に彼女が有している連合とプラント、双方への要人へのパイプは巨大な力なのだ。特にアズラエルと直接繋がっている点は大きい。
 恐らく、ラクスは自分の持つ力の使い方を理解していない。地球とプラントへの太いパイプ、そしてターミナルとジャンク屋の協力を得ている彼女は、うまく立ち回れば情報を支配して世論を誘導する事も不可能ではないのだが、彼女はそういった手段には思い至ってはいないらしく、自ら直接地下放送を行ったりしていた。

 そしてラクスは、カガリが乗り気ではないのを見て取って焦ってしまったのか、この場で最も言ってはいけない事を口にしてしまった。

「ですが、貴女のお父君は私に協力してくださいましたよ」
「お父様が、どういう事だ?」
「ウズミ様は私の理想に賛同してくださって、私を援助してくれていたのです。オーブに届けたフリーダムもこちらに送っていただける予定でしたが」
「……なんだと?」

 ウズミがラクスに協力して援助していた。あれほど如何なる勢力にも協力を拒んできたウズミがラクスに援助していたというのか。そしてフリーダムを送ったのはこの女で、ウズミはフリーダムをラクスの元に届ける予定だったという。
 この話でカガリは自分の頭の中で幾つかの疑問が繋がって1つの答えを導き出した。何故ウズミはあれほどフリーダムの引渡しを拒んだのか、どうしてフリーダムがオーブに来たのか、全てはこういう事だったのだ。

「お父様は、オーブの理念の為に国を焼いたのに、裏でプラントのクーデター勢力に援助してたっていうのかよ?」
「ウズミ様は理念を違えてはいません。あの方の平和を求める心は誰よりも強固でした」
「……ふざけんなよ。何か、お父様はオーブを犠牲にしてお前との約束を守ろうとしたってのか。お父様はオーブよりお前の理想とやらを選んだのか!?」

 冗談ではない、ラクスとの約束を守る為にフリーダム引渡しを拒み、プラントと戦争をしたというのか。しかも連合の援助の申し出はオーブの理念に反するからとこと断っておきながら。オーブは攻め滅ぼされたのではなく、自滅したというのか。いや、ウズミラクスの陰謀に巻き込まれたというべきか。
 一体あの戦いで何人が死んだと思っているのだ。あの戦いでどれだけオーブ国民が苦しみ、今現在の苦境を招いたと思っているのだ。このことを自分は知らなかった。多分叔父貴も知らなかったのだろう。全てらウズミの一存で決められ、ウズミの頑迷によって多くの国民が苦しめられた。理想とは悪い方向に転べばこうも人を苦しめる道具となるのだ。
 頭の中で何かがぶちきれた音を聞いたカガリは、怒り心頭に達してラクスに罵声を浴びせかけた。

「オーブを滅ぼす原因を作っておいて支援だと、よく言えたな!」
「カガリさん、落ち着いてください。そういう感情がこの世界を……」
「戦争なら終わらせてやるさ、連合がプラントを降伏させてな。お前と組むより、余程確実な選択だ!」
「カガリさん!?」
「私はお父様じゃない。私は理念を否定しないが、それで国を誤らせるつもりは無い!」

 そう怒鳴りつけて、カガリは通信を一方的に切断してしまった。モニターは白濁し、カガリは渦巻く怒りの感情を沈める為に暫しの時間を必要としている。そしてどうにか感情を押さえ込むと、後ろに立っているはずのユウナに振り返らずに問いかけた。

「ユウナ、私は、正しい事をしてると思うか?」
「それは今後次第だね。政治の善し悪しなんて数年後になって見ないと結果は分からないものさ。でもまあ……」

 そこでユウナは言葉を切り、右手で軽く自分の頭を掻いた。

「でもまあ、みんな黙って付いてきてるんだ。少なくとも国民は君を首長と認めてるてことだよ。だから君は自分の信じた道を進めばいい。それを支える為に僕たちがいる。もしカガリが道を踏み外しそうになったら、僕たちが身体を張って止めるよ」
「…………」
「ウズミ様は自分の信念を貫く人だったけど、その余り視野狭窄になったんだ。カガリはそれを間違いだったと思ってるなら、同じ失敗はしないだろうさ」
「……そうだな、私にはお前たちがいるんだよな」

 右の袖で目頭を拭うと、カガリは振り返って歩き出した。

「じゃあ、そろそろ次の仕事に行くか。新年の挨拶を聞かなくちゃいけないんだろ」
「ああ、人数多いから頑張らないとね」

 カガリに促されてユウナも歩き出した。これから2人は次々に訪れる客人の相手をしなくてはいけないのだ。休めるのは一体何時ごろになるのか、それは誰にも分からなかった。





 年も変わり、新年を迎えた日のオーブは一寸した騒ぎになっていた。オーブでは新年が来るとハウメア山の麓にある神社と呼ばれる神殿にお参りに行き、そこで大騒ぎをするという変な伝統がある。そしてさらに恐ろしい事に、そこでは神官がお年玉と呼ばれる玉を集まった人々に投げるのである。これに当たると縁起が良いという事らしいのだが、当たり所が悪いと病院送りになることもある危険な行事である。とりあえず伝統だからで今日まで続けられているらしい。
 なお、このお年玉は神社以外でもいろんな所で行われており、それを目の当たりにしたフレイはカルチャーショックに悩んでソアラに相談したのだが、ソアラは気にすることはないと主にフォローを入れていた。
 これらの伝統は昔にあった日本という国から伝わったそうなのだが、ソアラやアズラエルの話では本家の方とは似ても似つかぬ怪しげな物に成り果ててしまっているらしい。



 この年明けはそのまま連合軍のカーペンタリア攻略作戦の発動を意味していた。オーブにて補給と休養、再編成を受けていた連合軍は年明けと同時に動き出し、最前線であるポートモレスビー基地に移動するのだ。第8任務部隊は旗艦であるアークエンジェルは数日後にパナマに向けて出発する事になっており、地球に残る2隻はパワー艦長のロディガン少佐の指揮の下にカーペンタリア攻略作戦に参加する事になる。
 ただ、ドミニオンからは今回、戦闘隊長であったキーエンス・バゥアー大尉が一時的に任を解かれ、大西洋連邦本土に帰還することになっている。名目上は統合参謀本部からの帰還命令であったが、それはアズラエルの要請にキースが応じ、ブルーコスモスに復帰する事を決めたという事でもあった。ただ、ドミニオンが宇宙に上がるまでの短い復帰であるが。
 私物は残し、身の回りの物だけを持って艦を降りようとするキースを、艦長であるナタルが見送りに来ていた。ナタルが来るまでは他の手空きのクルーが総出で送り出そうとしていたのだが、ナタルが来ると応援の声を残してその場から去っていった。
 タラップの上でナタルと2人きりになったキースは少し困り顔で頭を掻き、そして笑って右手を差し出した。

「まっ、少し留守にするよ。艦の方はよろしく頼むわ」
「ご心配なく、大尉無しでもドミニオンは十分やっていけます」
「そりゃないでしょ」
「ふふふ、すいません。ちょっと言い過ぎました」

 ナタルにさらりと言い返されてキースは少しだけ凹んでしまった。まあナタルが居ればドミニオンは大丈夫だろうとはキースも思っていたのだが。凹んだキースを見たおかしそうに笑うナタルの笑顔に、キースはこの人も随分柔らかくなったよなあと感慨深く昔を思い出してしまった。昔は型に嵌りすぎた感じの若手士官の鏡のような人間だったのに。
 真面目で何時も引き締まった顔をしていた彼女も凛々しくて魅力的ではあったのだが、今の彼女もまた魅力的だと思ってしまうのは惚れた弱みか、それとも女性は笑った方が可愛いというべきか。

「うん、やっぱり笑顔のが良いかな」
「何がです、大尉?」
「ああいや、なんでもないよ、うん」

 どうしたのかと聞くナタルにキースは慌てて首を横に振って誤魔化し、荷物を担ぎ直してタラップの下のほうを見た。

「さてと、それじゃ行くわ。後はよろしく」
「はい、お気をつけて」
「それは俺の台詞だと思うんだけど、戦場に行くのはそっちだよ」
「まあそうなのですが、定番という奴です」

 ナタルにしては珍しい行動にキースは暫し呆気に取られ、そして小さく笑い出した。彼女にもユーモアセンスという物が生まれてきていたようだ。
 そしてキースもまた一寸した悪戯心を起こしてしまった。いや、悪戯心と言って良いものか、それはそれなりの覚悟を必要とする悪戯であった。

「あ、艦長、ちょっと良い?」
「はい、なんですか?」

 キースに手招きされたナタルが近づくと、キースは空いた手でひょいっとナタルの肩を抱き寄せ、右頬に軽くキスをしてしまった。その感触にナタルが固まっている間にキースはとんでもない事を囁き、タラップを降りていてしまった。
 暫く呆然としていたナタルであったが、我に返ると慌てて周囲を見回し、いつの間にかキースが地上に降りているのを見つけて途方に暮れた顔になってしまった。

「ずるいですよ大尉……」

 キースはナタルに付き合ってくれと囁いていったのだ。返事は艦に戻って来てから聞かせてもらうと。答えなど分かりきっていただろうに、それを聞かずに後に持ち越した辺りがあの男の臆病さだとナタルには分かっていたが、その不甲斐なさを怒る気にはならなかった。
 ただ、この後暫くナタルは表情が緩みきり、艦内のクルーたちはもとより、ドミニオンの出撃を前に会いにきたマリューたちまで困惑する事となる。これまでにも様々なナタルの顔を見てきたマリューであるが、ここまで上機嫌、というかハイテンションなナタルは初めてだったのだ。




 ドミニオンを降りたキースは、軍港の駐車場に止めてある高級車の後部座席に荷物を放り込んで腰を降ろした。そして隣に座っている仇敵だった筈の男を横目で見やる。

「しかしまあ、また俺を担ぎ出してどうするつもりだ?」
「言ったでしょう、穏健派の意見を纏めて貰いたいのです。私は中立派と強硬派の私の手駒は纏めていますが、穏健派と強硬派の過激な連中は掌握しきれません。ですがここで穏健派が纏まって味方についてくれれば完全に意見を纏める事が出来ます」
「過激な連中ってのは、ジブリールたちか?」
「ええ、困った人たちです。彼らが暴れてくれるせいで連合諸国の左翼系議員やメディアが煩いんですよ。まあメディアや政治家はスポンサーから手を回して大半は黙らせられますが、時々面倒なのがいましてね」
「強固な信念を持つ人間は、善し悪しに関わらず頑張るからなあ」

 ブルーコスモスのテロや扇動を苦々しく思い、命の危険を顧みず報道するジャーナリストは立派だろうが、ベクトルは違うがそのテロをやっているブルーコスモスの過激派も自分の命を顧みず頑張っているという点では大差は無い。どちらも強固な信念を持つが故の行動なのだから。
 そしてそういった信念は時と場合によって美化され、あるいは侮蔑の対象となる。かつてアズラエルは自分たちの活動を非難した人間をその力で社会的に抹殺し、あるいは地獄に突き落としてきた。だが今は手の平を返し、そういった圧力を消し去り、逆に彼らを利用して強硬派を押さえ込もうとしている。おかげでかつてはコーディネイター擁護は裏切り者と扱われたのに、今では地球のコーディネイターは味方だという認識が広まり、彼らを攻撃する連中は危険な過激派だというレッテルを貼られている。状況が変われば正義の意味も変わるという好例だろう。

「そういうわけで、君の仕事も中々に大変だよ。戦前に穏健派を束ねて僕に対抗して見せた若きリーダーの手腕、また見せてくださいね」
「目的の為ならかつての敵も利用する、か。相変わらず節操が無いな」
「まあそうですが、文句は無いでしょう。私の目的は終戦です。まあコーディネイターの消滅が最終目標であることは変わりませんが、それは貴方も同じ筈です」
「……そうだな、その通りだ」

 穏健派であったとはいえ、キースもコーディネイターの完全なる消滅を望んでいる事には変わりは無い。ブルーコスモスはその方針に関係なく、全てがコーディネイターを否定している事に変わりは無いのだから。ただアズラエルはその方針を強硬派から穏健派に近いものに切り替えたに過ぎない。だが利害が一致したのならば、アズラエルは非常に頼れる仲間と言える。その財力と社会的な影響力はブルーコスモス内でも並ぶ者が無く、ロゴスの中でも中心的な位置にいるのだから。

「まあ良いさ、とりあえず本国に戻ったら一週間くらい時間をくれ。何人かに話をしてみる」
「分かりました。宿舎はこちらで提供しますからそれを使ってください」
「いらん、そう長い事居る訳じゃないからな。何処かのホテルにでも泊まるさ」
「そうですか、それじゃ決まったら教えてください。払いは持ちますから」
「……あとで請求来ないよな?」
「そこまで吝嗇じゃないつもりですよ」

 心外ですねえ、と言ってくるアズラエルに、キースは日頃の行いのせいだなと返して黙らせてしまった。アズラエルが吝嗇なのは有名だったからだ。これ以上墓穴を掘りたくは無いと考えたアズラエルはさっさと車を出させ、民間飛行場に向かった。ここからアズラエルの専用機に乗り、大西洋連邦本土に向かうのだ。





 ドミニオンとパワーがカーペンタリア攻略の為に出撃準備に入っていた頃、新年の挨拶客の相手をさせられていたカガリの元に珍しい客がやってきた。そのことをユウナから告げられたカガリは少し驚いたが、休憩代わりに会ってやると答えてその客を通させた。
 通された客を前にしたカガリは一体何をしに来たんだと彼に問いかけた。

「シン、見ての通りわたしは死ぬほど忙しいんだ。手短に頼むぞ」
「……礼服が似合ってないなあ」
「はっはっは、正直だなお前は。コンクリ詰めで海に沈みたいか?」

 素直に感想を口にしたシンに、カガリは青筋立てて怒りを露にしていた。それに慌てたシンはこれ以上変な事言ったら命に関わると悟り、用件を切り出した。

「俺をヴァンガードに乗せてくれないか?」
「……シン、お前はもう戦う必要は無いんだ。家族と一緒にオーブに居ろ」
「戦争を早く終わらせたいんだよ。アズラエルとかっていう変なおっさんが言ってたんだ、早く戦争が終わればステラの身体を治せるって!」
「お前なあ、女の為に戦争する気かよ。キラじゃあるまいし」

 そんな覚悟で殺し合いに参加しようとするなよとカガリは右手で顔を押さえて呆れたため息を漏らしてしまった。どうして男というのはこんな理由で戦争に首を突っ込もうとするのだろうか。キラも最初は状況に流されて戦ったそうだが、志願したのはフレイに唆されたからだというし、全く馬鹿が多い。
 だが、このシンの馬鹿な動機にユウナが理解を示してしまった。

「まあまあ、良いじゃないかカガリ。女の子の為に命を賭ける、中々出来る事じゃない」
「ユウナ、お前まで何言ってんだ。そんな理由で戦争に出てきたらきっと後悔するぞ。これは殺し合いなんだからな」
「自由軍時代にアレだけ戦わせておいて、今更って気がするけど?」
「うぐっ!」

 それを言われると反論の余地が無いカガリ、自由軍時代に散々シンをこき使ってアメノミハシラを守り、オーブを奪還したのは他ならぬカガリなのだから。だがだからこそもうシンを戦争に巻き込みたくはないと思っているカガリだ、このくらいで引き下がりはしない。

「でもユウナ、こいつはまだ13なんだぞ、戦争をする年じゃないだろ!」
「それはそうなんだけどね、こちらとしてはシンの手腕は是非とも欲しい物なんだよね」
「どういう事だよ?」
「カガリも言ってただろ、オーブ軍はまだ動かせないから、腕利きのパイロットをアークエンジェルに出向させるって。それがキラとフレイさんだけだとちょっと少ないから、後1人つけたかったんだ。アークエンジェルは今動けるパイロットは少ないからね」
「でも、それなら他の奴でも!?」
「あの2人に付いて行けるようなパイロット、他にいる?」

 ユウナに問われたカガリは黙りこくってしまった。あの2人の戦闘能力は凄まじく、オーブのパイロットを見回してもあの2人と連携できそうなパイロットは居ないと言ってもいい。
 そのパイロット事情を考慮すればシンは確かに要求を満たしている。あのヴァンガードを使うことが出来るほどの能力を持ち、フレイ直伝の技を持つシンは現在の世界においても屈指のパイロットに成長することは確実だ。ただ、子供を戦争に駆り出すということにカガリは抵抗を感じている。これはカガリの良識に著しく反する事だったのだ。
 とはいえユウナはせっかく志願してくれたんだからと受け入れることを主張し続けていて、カガリは断固として反対し続けるという対立は暫しの間続き、シンを置き去りにして数分に渡って続けられた。そしてその時間はもう1人の要人を怒らせるのに十分すぎる物だったのだ。奥に続く扉が開き、背後に怒りの暗い炎を背負ってミナが姿を現した。

「お前たち、休憩はとっくに終わっている筈だぞ?」
「ミ、ミナ、いや、ちょっと面倒があってな」
「面倒?」

 何かとユウナに問い、説明を受けたミナは迷う事もなくシンにOKを出してしまい、カガリが怒って噛み付いた。

「待てミナ、勝手に決めるな!」
「即戦力になるエース級パイロットが志願してきたのだ、拒む理由が何処にある?」
「そういう問題じゃないだろ、子供を戦争にだすなんて!」
「子供か。なら、15歳のフレイ・アルスターは良いのか。彼女も子供だろう?」
「それは、あいつはもうずっと戦ってるんだから……」
「ならシン・アスカも問題はあるまい。この3ヶ月ずっと戦い続けてきたのだからな」

 ミナの言葉にカガリは今度こそ追い込まれた。キラやフレイといった子供を前線に送り出しているのに子供だからという理由でシンを拒否するのはおかしいと言われれば、カガリの主張は正当性を無くしてしまう。いや、それ以前にカガリではまだミナを相手に言いあうのは無理だったのかもしれない。
 それでもカガリは暫くミナに反論を続けていたが、遂には何も言えなくなって黙り込まされてしまい、ユウナはシンの志願を受け入れて彼を軍のパイロットとして正式に登録することになる。だが、凹まされたカガリがシンに対して些か同情するような顔で1つだけ教えてくれた。

「ああシン、1つ言い忘れてたんだが」
「ん、何?」
「ステラは今アークエンジェルにはいないぞ。体の調整の為に大西洋連邦に帰ってる。変わりにアルフレットのおっさんが居るから」
「……ちょ、ちょっと、聞いてないよそんなの!?」
「そりゃまあ聞かれなかったからな、まああのおっさんにせいぜい鍛えられてくれ」
「あああああああ〜〜」

 アルフレットの特訓好きはシンも知っている。あのおっさんと一緒に居たりしたら訓練で殺されかねないとシンは恐怖していた。多分キラと一緒にボロボロにされるに違いあるまい。フレイが適当なところで止めてくれるのを期待するしか出来ないだろう。
 こうしてシンはキラやフレイと共にアークエンジェルに着任する事となるが、彼がステラと再開するのは随分先の事となるのだった。




 アルスター邸ではフレイがアークエンジェルに移る為に荷物を整理していた。久々の艦内生活なのだから着替えやら何やらと揃えなくてはいけない物が多いのだ。手提げ鞄にそれらを詰め込んでいたフレイは、気分転換とばかりに窓から外に眼を向けて、そこでソアラがキラをボコボコにしているのを見てしまった。

「……キラ、死ななければいいんだけど。お父さんに鍛えられて更にソアラにもじゃ体が持たないわよ」

 ソアラはクリスマスにイタラを締め上げてキラがフレイと同棲していた事が有るという話を聞き、キラを捕まえてどういうことかを白状させたのである。キラに自白させたソアラは最初キラの抹殺まで考えたらしいが、流石にそれは不味いというフレイの説得を受けて渋々撤回し、変わりにキラにフレイを任せるに足りる男になってもらうと言って鍛えだしたのである。
 ソアラはキラが唯の一般人でしかなく、上流階級としての教養も何も備えていない事でフレイの相手としては相応しくないと断言し、そういった物を身に付けてもらうとキラに言ったのだ。だが、とりあえずはフレイを戦場で守れるようフィジカルを鍛える事にしたらしい。

「MS戦は旦那様がやって下さるようですので、私は格闘技術を叩き込みましょう。お嬢様をお任せするならせめて私に勝てるくらいになって頂かないととても安心できません」
「ソアラ、貴女より強くって、確か貴女その辺のコーディネイターじゃ勝てないくらい強くなかった?」
「はい、その程度の芸当が出来なければ私としても安心できませんので」

 いや、その基準はどうよとフレイがつっこんだがソアラは譲らなかった。ことフレイが絡むとソアラは暴走してしまう癖があるが、今回もその暴走が発動してしまったらしい。そして更に困った事にこれを聞いたアルフレットは止めるどころかソアラの提案を丸呑みしたのである。
 こうしてキラの特訓は更に過激さを増すハメになった。まあ事情を考慮して多少アルフレットが手加減してくれるようにはなったのだが、キラは文字通り地獄の特訓を受けることになったのである。

 


 地上で連合とザフトの最後の戦いが迫る中、宇宙でもまた決戦の時は近づいていた。月基地からは続々と小艦隊が出撃して地球と月の間の制宙権を完全な物にしようとする一方、地球とプラントの間の航路を完全に破壊しようと攻撃を繰り返している。
 これに対してザフトの多数の部隊を投入、航路の確保に躍起になっていた。これまでにザフトは少なくはない犠牲を払って地球から兵力を引き上げていたが、それらが再編成されて宇宙軍に組み込まれ、戦力を回復させていたおかげでこの連合の通商破壊部隊に対抗できるだけの数を投入する事が可能になり、この制宙権争いは激しい消耗戦の様相を呈していた。
 これらのザフト部隊の中でも一際大きな戦果をあげ、連合軍から恐れられていたのがアスランの率いている特務隊であったろう。アスランはかつてタリア・グラディス艦長が使っていたエターナルをグラディス隊ごとそっくり受け取り、その快速を生かして連合軍に多大な損害を与えていたのだ。
 特務隊は再編成に当たってMSを支給されたのだが、これがアスランにとって大きな悩みの種となった。特務隊には補充としてジャスティス2機にフリーダム1機、そして量産試作型のザクウォーリア6機が補充兵と共に送られてきたのだ。この新型を見たアスランはまた試作機かと嘆き、暫く愚痴を立て並べていたりする。

「何でまた変なMSを押し付けて来るんだ上は、今度のは壊れたりしないだろうな?」
「ど、どうでしょうね」

 愚痴を向けられたエルフィが引き攣った笑顔で誤魔化している。かつて渡されたゲイツはよく故障して戦場に出せない事もしばしばであり、ジャスティスに至ってはカタログどおりの性能を出せないという体たらくである。その為に特務隊の面子はプラントの技術を過信しないようになり、試作機は何時壊れるか分からないガラクタだという印象を持つに至っている。
 ただ、補充の2人はアスランを喜ばせた。送られてきたのはハイネとセンカだったのだ。2人のエースを迎えた事はアスランの心労を軽減させる効果があったのだ。もっとも、再会したハイネとセンカはアスランほど喜んではなく、むしろ苦笑いを浮かべていた。
 
「俺たちもお前と同じだよ、上層部に疎まれて前線で死んで来いって訳だ」
「何でまた、ハイネとセンカはザラ派じゃないだろ?」
「まあそうなんだけどね、特務隊って名前をエザリア議長が嫌ってるみたいで、特務隊を潰そうとしてるみたいなの」
「おかげで俺たちもここに送られたのさ。議長は特務隊とは別に議長直属の新しい精鋭部隊を作ろうとしてるようだし」

 ようするにパトリックのやったことを否定しているわけだ。前任者の残した物を否定して国内を纏めるというのは不安定な国の政権にはよく見られる姑息な手であるが、それなりに有効ではある。恐らくは指導者としてパトリックに劣っている事を嫌でも自覚させられているエザリアの苦し紛れの手なのだろう。
 結局、プラントはシーゲルやパトリックといった優れた手腕を持つ政治家でなくては纏まらない、極めて未成熟な国家だったのだ。長い歴史を持つ国は政治家が多少無能であっても国家を運営していける。歴史が作り上げた伝統というシステムが全てをスムーズに動かしてしまうからだ。そして国民もその流れに乗って生活するので政府が無能でも生活レベルでは影響が出ないのだ。ただ、その代わりにこういった国家は変化を嫌うので、改革などはやり難くなる。
 プラントはまだ安定期を迎えていない不安定な組織だ。その動乱期にシーゲルトパトリックという2人の英雄が退場した事は致命傷になりかねない。そのことを誰よりも思い知らされたのは皮肉にもエザリア・ジュールであった。彼女も決して無能ではなく、プラントが爆発寸前の風船のように危険な状態である事を理解はしていた。彼女の不幸は権力を欲する程度には俗人でありながら、義務を果たそうとする責任感も持っていたことだろう。どちらかが欠けていれば彼女もここまで追い込まれることは無かったに違いないのだから。




「ディアッカの隊をハイネの隣に回せ、暫く持ち堪えさせろ。ジャックの隊は側面から突撃して突き抜けるんだ。その後にディアッカとハイネの隊は混乱する敵を突き崩せ!」

 敵艦隊と交戦するアスランの艦隊、アスランは指揮下の部隊を3つに分け、自分とディアッカ、ジャックの3人を隊長にしてそれぞれに6機ずつMSを配している。とは言ってもアスラン自身は指揮官の仕事もあるのでMSに乗ることは少なく、アスランの隊はもっぱらハイネが指揮をしている。各艦には特務隊のパイロットが3人ずつ配置され、これに普通のパイロットがゲイツRと共に配属されている。
 アスランはこの部隊を率いて遊撃戦を行い、地球軍の通商破壊部隊を補足して攻撃していたのだ。
 今もその戦いの1つが起きている。敵は特設空母が1隻に戦艦1隻、駆逐艦4隻という普通の編成の部隊であるが、その戦力はアスランたちを上回っている。ミーティアを装備しないエターナル級はただ足が速いだけの船であり、駆逐艦レベルの戦力でしかないからだ。そして艦載機も常用は18機でしかない。それに対して目の前の艦隊はMSこそMS12機にファントムを36機持っている。並の部隊であったらザフト側は敗北していただろう。
 だがアスランたちは並の部隊ではない。この程度の敵ならば撃破してしまえるだけの力を持っている。ハイネのフリーダムとセンカのジャスティスが敵MSを容易く落とし、ザクウォーリアとゲイツRがファントムを次々に仕留めていく。新型のザクウォーリアの性能はゲイツRを遥かに凌ぐほどで、パワーを除けば試作ザクと同等の性能を持っている。装備している突撃銃は新型のビームライフルであり、ゲイツの取り回しの悪い大型ライフルの欠点が改善されている。
 MS隊とMA隊が11機のMSの守りを崩せないでいるのを見た地球軍の指揮官は焦りを見せたが、それは側面から突入してきた6機の別働隊によって驚愕に変わった。6機のMSは撃墜する事には拘らずにこちらの部隊の間を駆け抜けるに留まったが、その通過した後には陣形を崩された味方の艦載機たちの姿がある。
 そしてそれを見た敵機の動きは速かった。相互支援を無くしたストライクダガーはザクウォーリアやゲイツRの敵ではなく、そもそも連携する事が出来ないファントムなどは数が居なければ多少速く動くメビウスでしかない。
 味方の艦載機が突き崩されたのを見た指揮官は驚愕に顔を引き攣らせ、そして悲鳴のような声で撤退の指示を出した。それを受けて地球軍の艦隊は急速に戦場を離脱して行き、アスランはそれを追撃させずにMS隊を呼び戻した。艦載機を失えばあの艦隊は戦闘力を喪失したも同然であり、今はそんなものに関わっている暇はアスランたちには無い。何しろ動き回っている敵の数はこちらを遥かに超えているのだから。



 自分の艦隊を得たアスランは特務隊の持つ特権を利用して周辺の部隊に命令を出す権利を行使し、地球軍の艦隊に打撃を与え続けていた。勿論自分の艦隊を率いて戦場を駆け回っていたが、必要に応じて近くに居る部隊を呼び寄せ、陽動や囮、奇襲などに活用していたのだ。
 アスランは些か押しが弱い面があったものの、戦術家としては間違いなく優れた物を持っていた。その才能は地上での幾度にも渡る激戦で開花し、幾度もの敗北と撤退戦を経験した事によって名将と呼べるレベルにまで磨かれたのだ。流石に大軍を率いての戦いこそ経験していないが、小部隊を率いて戦術レベルの勝利を得る事は出来る。アスランはその才能を遺憾なく発揮し、敵である月基地の宇宙軍総司令部にすら注目されるほどの活躍をしていた。
 宇宙軍総司令官であるキング大将はこのエターナル級3隻で編成された小癪な艦隊に怒りを覚え、これを撃滅しろという命令を展開している艦隊に出したのだが、それはかえって被害を拡大させ、航路破壊という本来の目的に支障をきたす結果を招く事になる。
 だが、そんな特務隊であっても窮地に陥った事はある。2個部隊を呼び寄せて10隻の艦隊を編成したアスランは1隊を囮として連合の艦隊を呼び寄せ、もう1隊に側面を付かせると共に自分の高速部隊で背後を遮断し、壊滅させようと試みたのだ。これは上手く行くかと思われたのだが、包囲が完成する直前で四方八方から連合の大艦隊が殺到し、逆に包囲殲滅されかけたのである。罠にかけたつもりが逆にその罠を読みきられ、利用されてしまたのだ。
 かろうじて包囲完成の前に一角を破って脱出したアスランたちであったが、その僅かな戦いで足の遅いローラシア級2隻を失うという大きな被害を出してしまっている。このときアスランを弄んだ艦隊は第8艦隊であった。知将ハルバートンが特務隊を叩く為に出てきていたのだ。

 どうにか窮地を脱したアスランはエターナルの艦橋で汗を拭い、自分が些か調子に乗っていたことを反省させられる事となる。敵にも考える力が有るということを彼は忘れていたと思い知らされたのだ。

「罠にはめたつもりが、逆に罠に落とされたな。あれだけの大軍を出してくるとは思わなかった」
「敵旗艦メネラオスを確認しております、敵将はハルバートンでしたな」
「そうか、流石はマーカスト提督が褒める知将、という所だな。俺ではまだ役不足か」

 艦長の報告にアスランは唇を噛んで悔しがったが、それ以上は悔しそうな素振りを見せることは無く、一度基地に引き上げると指示を出した。これまでの戦いでエネルギーも弾薬も少なくなっており、補給を必要としていたのだ。それに先ほどの戦いで損傷を受けた艦も多いのだから。





 この年明けと共に始まった宇宙での激戦の最中で、プラントでは新たに編成されたクルーゼ艦隊が出撃準備を整えていた。作戦目的は厳重に秘匿されており、各艦の艦長たちすら目的地を知らないというほどの徹底振りである。その厳重さがこの任務の重要性を教えていると言える。
 そしてクルーゼは旗艦カリオペから20隻に達する自分の艦隊を眺めて満足そうに頷いていた。

「エザリア議長の子飼いの兵力、これだけあったとは意外ではあるな」
「クルーゼ隊長、今回の作戦目的、全軍に伝えずとも良いのですか?」
「不要だアンテラ、目的を伝えれば迷う者も出てくるからな。ラクス・クラインのカリスマ性は侮って良いものではない」
「ですが、目的を知らぬままでは混乱がおきるのでは?」
「言われた事だけやってくれれば問題は無い。真相を知るザルクの艦隊は既に動いているのだろう?」

 クルーゼはこの任務がラクスの討伐である事を殆どの者に知らせてはいなかった。エザリア・ジュールの子飼いといえど、ラクス討伐だと聞けば動揺する者が必ず出る。その中から裏切り者が出ないと断言できるほど、エザリア政権の求心力は高くは無いのだ。ラクスは反逆者であるが、未だにプラント内に多くの支持者が居るほどのカリスマ性を持っているのだから、下手に誰かを信用など出来ないのだ。
 だからクルーゼはメンデルから迎撃に出てきた敵の始末を自分の艦隊に任せ、メンデル内部の制圧は特殊部隊という名目で参加させるザルクの部隊に任せようとしていたのだ。ザルクのメンバーならばラクスに惑わされる事はありえないから。

「これ以上、予定を狂わされてはたまらん、ラクス・クラインには早々に退場してもらうとせねばな」
「ナチュラルとの決戦の時も近い、ですか?」
「ああ、ジェネシスの完成もあと少しだ、どうにか持ち堪えられるだろう。そうすれば全てを終わらせる事が出来る。我々の目的も達せられる」
「……そう、うまく運べばいいのですが」

 アンテラは不安げであった。これまでの自分たちの活動は概ね順調であったが、ここ最近になってかなり修正を余儀なくされている。予定通りなら今頃ジェネシスは完成していて地球に一撃をくれている筈だったのだ。それで激発した地球軍が核を使って殲滅戦を展開してくれれば理想的な形となるはずだったのだが、その予定は崩壊している。ジェネシスは未だに完成せず、地球軍はNJCを手に入れたのに核兵器を使ってこない。せっかく感情のままに暴走していた筈の世界なのに、どこかで理性が感情に取って代わって世界を動かしだしたように思える。
 この変化に一番戸惑ったのはクルーゼだ。連合諸国の中に絶大な影響力を持っていたはずのブルーコスモスが急激に方針を変え、それまでのコーディネイター殲滅を目指した路線から融和的なものに切り替え、アルビム連合などの味方として動くコーディネイターには寛容を見せたのだ。その変化の中心に居るのはあのアズラエルだという。
 アズラエルの変化は地球連合軍の体質そのものにさえ影響を及ぼしている。ブルーコスモス強硬派が鼻息荒く幅を利かせていたのに、今では穏健派や中立派の力が増して強硬派が押さえ込まれてきている。流石に反ブルーコスモスの将軍や提督は少ないが、それでも大きな変化だ。その変化はアルビム連合だけではなく、それまで注目されてこなかった各国で頑張っているコーディネイターの立場にも変化をもたらした。各国の軍部で頑張ってきたコーディネイターたちもようやく味方だと認められたのだ。
 この変化は戦争の構図をナチュラルとコーディネイターという形から地球とプラントという形へと変えてしまった。


 この変化の出所はクルーゼにも分からなかった。アズラエルに何があったのか、何故いきなり考えを変えたのか、その理由を彼は知ることが出来ないでいた。アズラエルの考えを変えられるような要人の動きはチェックしているが、今のところそのような変化の原因が見つけられないのだ。最も厄介だったウズミ・ナラ・アスハは始末し、跡継ぎは唯の小娘の筈なのに。
 だが、その時ふとクルーゼはあることを思い出した。あれはウズミの後継者、カガリの演説を聞いた時にふと思いついた予想を思い出してしまったのだ。アズラエルと良く分からない親交を結んでいるという小娘の演説を聞いて抱いた悪い想像を。

「まさかな、ありえるわけが無い。あの小娘がSEEDの訳が……」
「SEED?」
「カガリ・ユラ・アスハだ。あの小娘の演説を聞いた時、私は明確な畏怖を感じたのだよ。あの小娘には常人には無い何かが有ると感じたのだ」
「彼女がSEEDを持つ者だというのですか? ですが、あれは唯の伝説の筈です」
「ああ、私もそう思う。だが、ここまで計画を引っ掻き回されると、そう思いたくもなるのだ」

 計画がここまで狂わされたという現実に、クルーゼでさえ適当な理由をつけて自分を誤魔化したいと感じているらしい。そしてクルーゼが艦橋からの呼び出しを受けて艦橋に向かうのを見送ったアンテラは、視線を窓の外に向けて先ほどのクルーゼの言葉を反芻していた。

「SEEDを持つ者。まさか、そんな都合の良い存在が実在する筈が無い」

 そんな都合のいい存在が実在している筈が無い。いや、実在していてはいけないのだとアンテラは被りを振って自分に言い聞かせた。そんな者が居ていいはずが無い、後一歩で復讐が成就するというのに、何でそんな訳の分からない存在に邪魔されなくてはいけないのだ。自分たちが一番辛かった時には何もしてくれなかった癖に。
 アンテラは自分の胸中に渦巻く嫉妬の感情を押さえ込みながら、仕事に戻るべく歩き出した。どうしてあの時自分たちを助けてくれなかったのか、何故今になって出てきたのか、そういう嫉妬が頭から離れなかったのだ。




後書き

ジム改 いよいよ新しい戦いの始まりだ。
カガリ ザフトの戦力、建て直しが進んでたんだな。
ジム改 ザクウォーリアもいよいよ試作型が出てきて、ザフトの新型も数が揃うかもしれないぞ。
カガリ ザクが1機出てくる間にウィンダムが10機くらい出てきそうなんだが?
ジム改 それは否定しない。
カガリ しろよ!
ジム改 しかし、ザクウォーリアにはどうしても拭えない欠点があるな。
カガリ 何だ、欠陥があるのか?
ジム改 時々ザコウォーリアと打ち込んでしまうのだ。
カガリ ……そんなMSに乗りたくないなあ。
ジム改 ザコウォーリアじゃメビウスにも負けそうだよなあ。
カガリ ところでこれ、強いのか?
ジム改 試作型だからまだ弱いよ。ゲイツRよりマシって程度。
カガリ あんまし使えねえな。
ジム改 では次回、出港するアークエンジェル、そこには改修された新たなフリーダムが。カーペンタリアのザフトは脱出準備を進めるが、同時に裏切り者たちへの復讐を目論んでいた。クルーゼの手柄クスへと伸びる。そして南米でも遂に新たな戦火が。次回「新たなる力」でお会いしましょう。

次へ 前へ TOPへ