第195章  平和への道




 曳船に曳かれていくアークエンジェルの艦橋から総員退艦し、遺棄されたドミニオンが見えてくる。アークエンジェルを守る為に盾となり、敵の攻撃をその一身で防ぎ続けたドミニオンの勇姿であり、収容されているドミニオンのクルー達は窓によって残骸と化した乗艦に敬礼を送っている。艦橋に居たナタル以下ドミニオンの幹部クルーもマリューたちと共に敬礼を送り、自分たちの船の最期の姿を見送った。
 連合最精鋭といわれた第8任務部隊すら戦力が半減させられるほどの大損害を受けたというのは、宇宙軍全体に大きな衝撃を与えてもいた。この戦争で最大の規模となったボアズ攻略戦でさえこんな事はなかったのだから、ザルクとの戦いがどれほど無茶な物であったかが伺える。
 ダイダロス基地で戦闘の顛末を聞かされたサザーランドなどは余りの被害に眩暈を起こし、作戦に部隊を参加させていた各国の軍部も被害の大きさに頭を抱えているという。ボアズ攻略からプラント侵攻に至る作戦に参加した部隊の損害は中・大破を含めれば9割近くに達したのだから当然だろう。ボアズ戦を生き残った中で健在な戦力の大半がプラントに向かい、そしてその大半が中破以上の損害を蒙ったのだ。

 だが、それでも戦争は一区切りがついた。後は外交の領分であり、軍人の仕事は治安維持と停戦命令に従わない連中の掃討、そして大量に発生した戦争デブリの処理作業だ。ある意味戦争よりもはるかに困難な闘いが待っているのだが、それでも世界各地では戦火が収まった事に歓声が上がり、生き残れた幸運な兵士達は故郷に帰れると喜びあっている。この日、後にプラント独立戦争と呼ばれる事になる戦いは事実上終ったのだ。




 プラントへの侵攻作戦からザルクの蜂起という一連の騒動が過ぎ去った後、プラント宙域には奇妙な静寂が訪れていた。ザルクの撤退と前後して連合軍の第1、第2艦隊が到着し、圧倒的な大軍でプラントに圧力をかけていたのだ。これに対してザフトは一応抵抗する素振りを見せてはいたのだが、それはか弱い抵抗に過ぎず、暴風をテントで凌ごうとしているにも等しかった。
 戦いが終った今、彼らは互いに威嚇しあいながら生存者の救助活動を行っていた。戦艦の残骸に飛び込んでいって生存者を回収し、漂流者の捜索が行われている。何時もならばこれは勝者の仕事なのだが、今回は双方の部隊が共同で作業に当たっている。
 だが戦っていた艦の大半は大きな被害を受けていて、輝かしい戦歴を持つアークエンジェルも被弾の後が目立っていて自力航行も難しくなったのか、今は曳船に引かれてプラントの宇宙港に向かっている有様だ。だが喜ぶべき事にアークエンジェルの死傷者は少なく、艦載機も全機生還したとあってその強運を改めて証明していた。

 フレイよりも一足早く帰還してきたキラは着艦デッキに機体を下ろすと、整備兵たちに預けて艦内へと入っていた。エアロックを抜けてガンルームで休むかと思っていたのだが、エアロックを抜けた先で余り会いたくない相手と対面する事になってしまった。

「やあ、生還おめでとう、キラ・ヤマト君」
「皮肉は止めてくださいよアズラエルさん、クルーゼを取り逃しました」
「なあに、まだ次の機会がありますよ。彼があれで諦めたとも思えませんしね。今は連合宇宙軍の総力を挙げて捜索をさせていますから、発見したら全力を挙げて包囲殲滅します」
「……あの人にも言われましたよ、僕は世界にとって危険な存在だって」

 空虚な笑みを浮かべるキラ。そんなキラにアズラエルは苛立たしげに右手で頭を掻き毟り、そして呆れたものだと言って天井を仰ぎ見た。




 キラに遅れてフレイのウィンダムも帰ってきた。危なげな様子で着艦してきて、着艦デッキに張られていたネットに受け止められて回収される。そしてすぐに整備兵たちが取り付き、マードックがコクピットハッチを開けて中へ潜り込み、フレイを引きずり出した。

「大丈夫かお嬢ちゃん、しっかりしろ!」
「うう、頭痛い……気持ち悪い……」
「フライヤーのフィードバックノイズにやられたんだな。もう戦闘は無い筈だから、誰かに部屋に送らせるよ」
「すいません〜」

 フライヤーを続けて体当たりさせた事で極端に消耗してしまったフレイは、マードックに抱えられて格納庫の床に降ろされていた。そこで部下の誰かに連れて行かせようとしたのだが、丁度エアロックの向こうにアズラエルと話をしているキラの姿を見つけたので、ヘルメットの回線を開いてそっちに声をかけた。

「おう坊主、悪いが嬢ちゃん連れてってくれ。もうガタガタみてえでな」
「あ、はい、分かりました。今行きます」

 マードックに呼ばれたキラはヘルメットを被り直してエアロックの扉へと手を描ける。その背中に、アズラエルは厳しい顔で問いかけた。

「キラ・ヤマト、君はどういう顔をして彼女を迎えに行くつもりですか?」
「……それは、何時もどおりの顔でですよ」
「僕が言うのもなんですが、君も相当に独り善がりな男ですね」
「ははは、まあ、愛想尽かされる覚悟は出来ていますよ」
「馬鹿につける薬は無いと言いますが本当のようですね」

 アズラエルの皮肉にキラは自嘲気味な笑顔を返し、エアロックを明けて減圧ブロックに移って行った。それを見送ったアズラエルは何か酷く不味いものでも食べたような顔になり、そして腹立たしげに壁を蹴りつけて艦内の通路へと向かっていった。




 戦場の後片付けが進む中で、ザフトもまた一部の部隊が再編成を終えようとしていた。マーカスト提督の指揮下で残存戦力をどうにか立て直そうとしていたのだが、その下で作業を手伝っていた指揮官の中にナイトジャスティスに乗って帰ってきたアスラン・ザラの姿あった。
 意外にザフトの若手パイロット達からは広く人望があるようで、彼が帰ってきたことは多くのパイロット達に喜ばれたのであるが、それを知った熱血馬鹿が襲ってきたり元同僚が歓迎の砲撃を叩き込んでくれたりと、その帰還は実に騒動に満ちたものであった。
 彼の指揮の元で被弾機の回収と生存者の救助作業が行われ、多くの兵が回収されていたのだが、その作業中に彼はインパルスに引っ張られているほぼ無傷のフリーダムを見てしまった。

「ん、どうしたんだそのフリーダム?」
「あ、ザラ隊長、帰ってきたって本当だったんですね!?」
「ル、ルナマリアだったのか……」

 何でお前がまだインパルス使ってんだ、という疑問はさておいて、外観では被弾した様子は無いフリーダムがどうして自力で動かないのかと疑問に思ったアスランに、ルナは困ったもんですよと前置きして教えてくれた。

「それがですねえ、レイが推進剤使い切っちゃったんですよ。それで心優しい私がミネルバまで連れて帰ってあげる事に」
「だから俺の事は放っておいてくれと……」
「放っておいたら酸素切れになるでしょうが。全く、素直じゃないんだから」
「いやルナ、頼むから人の話を聞いてくれ……」

 何がどうなっているのか良く分からないが、とにかく関わらない方が良いという事だけは分かったので、アスランはそうかとだけ答えてさっさと2人の傍から離れていこうとした。なんというか、ルナマリアと関わると碌な事が無いのだ。
 だが、目の前に転がっているバナナの皮を避けたら犬の糞を踏むのがアスラン・ザラという男である。上手く目の前の危機を回避したつもりでも、その先には更なる巨大な災厄が待ち構えている男なのだ。逃げて行くアスランのナイトジャスティスの後姿を見ながら、ルナマリアはニヤリと危ない笑みを浮かべてミネルバに通信を繋いでいた。

「メイリン、ザラ隊長がどの船に降りるか見といてね」
「お姉ちゃん、仕事中だよ」
「それくらい機械任せで出来るでしょ、私の頼みが聞けないわけ?」
「うっ……わ、分かったよ、もう」

 姉にドス効かされると逆らえない妹であった。仕方なくナイトジャスティスのシンボルを登録して自動追跡をかける。既にNJも使われていないので反応を追うのに問題は無かった。そしてメイリンはその反応を確認しながら、ふとコンソールを操作する手を止めて頭の中に浮かんだプランを実行できるかどうか考え出してしまった。だが手を休めているのを副長のアーサーに見つかってしまい、どうかしたのかと声をかけられた。

「どうしたホーク、MSになにかあったか?」
「い、いえ、お姉ちゃんがレイを引っ張って着艦すると言ってきました」
「おお、そうか。じゃあ着艦デッキの用意をさせとかないとな」

 アーサーは頷くと別のオペレーターの元へと行ってしまい、メイリンは危なかったと小さく呟いてホッと胸を撫で下ろし、そして仕事に戻りながら心の中で計画書に決定のサインを入れていた。

「ふふふ、お姉ちゃんに抜け駆けなんてさせないんだから。私もザラ隊長に会いに行こうっと」

 中身が姉と瓜二つな妹であった。

 


 少しずつ数を増していく地球艦隊。艦隊の周囲をMSやMAが飛び回り、その圧倒的な戦力を誇示している。戦艦の砲は戦闘態勢にあることを示すように僅かに仰角がかけられ、プラントの方を少しだけ外すようにして向けられている。その物量はもはや今のザフトでは手も足も出せないほどの圧倒的なものであった。
 何故連合軍がここまで示威的な行動を見せているかといえば、今プラントの首都とも言えるアプリリウス1において連合軍の代表団とプラントの交渉団が停戦条件の折衝をしていたのだ。連合側からはオーブ首長国代表のカガリ・ユラ・アスハと補佐官のユウナ・ロマ・セイラン、それに連合各国から交渉役を任されているムルタ・アズラエル軍需産業連合理事らが出席しており、プラントからは評議会メンバー数人に加えてパトリック・ザラが加わっている。パトリックの出席は連合側に驚きを与え、アズラエルに面倒な相手が来たなと舌打ちをさせていた。てっきり監禁生活で消耗し切り、すぐに病院送りだと思っていたのだから。

 長机に向かい合うように腰掛けた双方の代表者から評議会議員のアイリーン・カナーバとアズラエルが握手を交わしたのだが、その表情は対照的であった。カナーバの表情には屈辱と悲壮感が見て取れ、アズラエルの表情には余裕の笑みが浮かんでいる。それはどちらが勝者でどちらが敗者であるのかを明確に語っていただろう。
 握手を終えて席に戻ったアズラエルは机の上で両手を組むと、参列者達に余裕の笑みを浮かべながら、だがはっきりと言い切った。

「先ず申し上げておきますが、我々は全権代理ではありません。この席で話し合われる内容はあくまで交渉の叩き台であり、如何なる拘束力も持たないという事を申し上げておきます。よろしいですね?」
「構いません、講和に向けての本交渉はまた後日という事ですね」
「結構です。それでは早速こちらの条件を提示しましょうか。これが連合総会で可決された講和の条件です」

 そう言ってアズラエルは地球連合のエンブレムが描かれ、厳重に封印が施されている封筒を開けて中から数枚の書類を取り出してカナーバへと差し出す。それを受け取ったカナーバはコピーを他の参列者達にも回してから目を通したが、その表情はたちまち凍りつき、どす黒い色へと変わっていった。
 そしてカナーバの隣に座っていたカシムが激昂して机に両手を叩きつけて立ち上がり、アズラエルに大声で怒鳴った。

「これがそちらの要求なのか、これではプラントに滅びろと言ってるも同じではないか!?」
「座れカシム。ここは外交の場だ、評議会の会場ではないぞ!」

 激発した若い議員をパトリックが鋭い声で叩き伏せるように窘め、カシムはパトリックを一瞬睨みつけた後怯んだように顔を逸らし、渋々腰を降ろした。

「申し訳なかったアズラエル理事」
「いえいえ、気にしてはいませんよ。まあその条件を見れば平静ではいられないでしょうね」

 パトリックの謝罪を余裕の態度で受け入れたアズラエル。彼の言う通り、その内容は凄まじいものであった。主だった物だけでも独立自治権の放棄、評議会の解散、ザフトの解体、全土の保障占領と軍政統治の受け入れ、連合の要求する人物を裁判の被告として無条件に引き渡すなど、どう見ても無条件降伏に等しい内容である。
 これはかつてパトリックが大西洋連邦と交渉していた講和条件の合意とはかけ離れた物だ。あの時はプラントは多くを失う事になったろうが、独立国としての体裁を得る事は可能だった。だがこれは独立国としての体裁どころではない、自治権を得る前の隷属状態に戻れと言っているのだ。
 パトリックは参列者達の表情を伺い、全員が怒りに顔を高潮させているか、あるいは絶望と落胆に表情を無くしているかのどちらかなのを不甲斐なく思っていた。かつて幾度も修羅場をくぐり、理事国から自治権をもぎとるまでに至った交渉を考えればこの程度の事で動揺するなと言いたいくらいだ。
 パトリックはもう一度書類の内容を読み返すと、笑顔を浮かべているアズラエルに努めて冷静な声で問いかけた。

「確認したいのだが、これは連合各国の合意による条件なのですかな?」
「まあ、そういう事になっています。勿論各国によって求める条件に差はありましたがね。東アジア共和国などはプラントの完全破壊を求めていましたから」
「……なるほど、まだ譲歩された内容であると言いたいのですな?」
「当然でしょう、そちらはユニウス7で20万人殺されたかもしれませんが、こちらはエイプリルフール・クライシスで10億人死んだんです。こちらの方が恨みは大きい」

 エイプリルフール・クライシス、その名を出されるとプラント側の交渉団も押し黙らざるをえない。あれは核による報復を求めた国内の声に対してシーゲルが行った妥協案の様な物であったが、結果を見れば核による報復をはるかに超える巨大な被害を与えてしまった。これなら核ミサイル数発を撃ち込まれた方が余程マシであったろう。実際その効果を知らされたプラント指導部の方が蒼褪めたほどだ。
 あの攻撃が戦争の長期化を招いた一因となった事は誰も否定出来ない事実だ。極端なことを言えばユニウス7の報復として月基地を攻略し、制宙権を完全な物にした上で講和を結ぶという選択肢もあったのだが、世論がそれを許さなかった。緒戦の大勝が誰も彼も有頂天にさせていたのだ。
 地球連合を降伏させる事も不可能ではない、誰もがそう信じ始めてしまった事がプラントの今を招いたのだ。増長が国を滅ぼした好例と言えるだろう。
 だが、パトリックとしては流石にこれを呑む事は出来なかった。若い議員たちと違って表に出してはいないが、彼もこれには流石に激怒していたのだから。

「アズラエル理事、申し上げさせていただくが、プラントとしてはこのような条件を丸呑みするなどという事は出来ませんな」
「まあ、それはそちらの意見としてきちんと伝えさせて貰いましょう。私の言葉では信用できないかもしれませんが、こちらにおられるアスハ代表は信用出来る方ですからご安心を」
「貴殿よりも信用出来る、と言われても安心材料になるのですかな?」
「ははは、これは手厳しい」

 パトリックの皮肉にアズラエルは笑って返し、そして話の主役をカガリに譲った。アズラエルとしてはプラントに連合の条件を突きつけ、彼らの反応を見るまでが仕事なので、ここから先は連合総会に議席を有するオーブの代表に譲った方がいいと考えたのだ。
 アズラエルに促されたカガリは評議員達の憎悪の篭った視線を真っ向から受け止められずに身動ぎしていたが、すぐにそんな物がどうでも良くなるような鋭い視線を受けてビクッと身を引いてしまう。パトリックの視線がアズラエルからカガリへと向けられたのだ。

「アスハ代表、この会談の内容は正確に連合総会に伝達していただけるのでしょうな?」
「あ、ああ、それは私が約束する」
「……信じるとしましょう、オーブには戦中の講和交渉でも世話になりましたからな」

 戦争に巻き込まれる前のオーブは大西洋連邦とプラントの交渉の窓口の1つと機能していた。交渉の場を度度用意してくれたという恩義がプラント側にはあり、更に中立を維持していたオーブに如何にフリーダム強奪犯が逃げ込んだとはいえ、問答無用で宣戦布告して侵略したという負い目があるのでパトリックも強くは出難かった。
 そしてオーブは連合の中では今でも穏健派の国であり、プラントに対する条件の緩和に努めた文字通りのプラントの恩人であった。いや、実際に連合総会で各国の代表者相手にオーブとしての立場で語ったのはミナなのだが。

 そしてパトリックはもう一度視線を書類へと落とすと、重苦しい溜息を漏らして視線をカナーバへと向けた。パトリックに促されたカナーバは小さく頷くと、地球側代表団全員に一時休会を申し入れた。

「とりあえず、この内容を評議会で話し合いたいので、今回の会談はここまでという事にして頂きたいのですが、よろしいでしょうかアズラエル理事?」
「ええ、こちらは構いませんよ。良いですよねカガリさん?」
「あ、ああ、私は別に言う事は無いけど……」
「ではそういう事で。ああ、ザルク追撃用の部隊編成は進めておいて下さいね。所在が確認され次第全力を挙げて殲滅する事にしていますから」
「ご心配なく、そちらはザフトに命じて稼動戦力の再編成を進めさせております」

 アズラエルの念押しを受けてカナーバはそう答えたが、ザフトの実情はかなり悪く、戦力を出したくないというのが本音であった。
 連合の代表団が出て行った後、プラント側代表団は騒然となった。誰もが連合側の要求をふざけるにも程があると詰り、こんな要求を呑んではならないと怒鳴っている。だが、呑まなければ今プラントに展開している地球軍から総攻撃が開始され、プラントを殲滅してしまうかもしれない。逆らう事が許されない状況に自分たちは追い込まれているのだということを彼らは激昂する度に思い知らされて行くのであった。
 そして、1人何も言わず両腕を胸の前で組んだまま目を閉じて考え込んでいたパトリックが騒いでいるほかの議員達に問いかけた。

「それで、どこまで受け入れて何処まで拒否するのかね?」

 そう問われた議員や外務委員会メンバー達はたちまち静まり返り、そして項垂れて自分の席に腰を降ろした。どれを呑んでもプラントは鎖に繋がれた飼い犬になってしまう。だが全てを拒否する事は許されないどころか、連合がここから譲歩する事も想像できない。これでは交渉どころではないと言いたい所だが、とりあえず今からやらねばならない仕事は何処までなら呑めるかを決める事であった。それは酷く憂鬱で、だがこれまでに例えられる物が無いほどに重要な懸案であった。




 アプリリウス1での話し合いを終えてシャトルで第1艦隊旗艦のワシントンに向かうアズラエルたち。そのシャトルの中でカガリは本当にあれを渡して良かったのかと聞いていた。

「なあアズラエル、本当にあれで良かったのかよ。あれって連合で本決まりした奴じゃなくてその前に作った試案だろ?」
「各国の了解は貰っています、構いませんよ」
「でもよお、あれじゃ怒るなって方が無理だろ?」
「あれを丸呑みするとは思っていませんが、向こうが持ってくる条件がこちらの考えた案を下回らなければOKですからね。昔から言うでしょう、ハッタリには大きく賭けろと」

 ニヤリと笑うアズラエルにカガリは頭を抱えたくなってしまっていたが、後ろで聞いていたユウナは声に出さないように苦労しながら大笑いをしていた。
 実のところ、本当は連合側の決定案はアズラエルが提示した物ほど過酷な物ではなかった。連合としてはどう考えても厄介者でしかないプラントそのものの直轄統治などは御免であり、実際に何処の国も引き受けなかったのだ。東アジア共和国が唱えた根絶やしにするという計画は流石に誰も相手にはしなかったのだが、積極的に爆弾を抱え込むような国もなかったのだ。
 結局採用されたのはプラントの現在の統治システムは存続させ、経済面のみを支配するという間接統治方式である。これだけならば過去のそれに近かったが、今回はヤキン・ドゥーエ要塞を接収して大西洋連邦軍が駐留する事になっている。プラントの暴走を許したのは統治そのものへの介入と、不十分な軍事力の展開が原因だと考えられたからだ。だから現在の地球上で最大最強の軍事力を持つ大西洋連邦が艦隊規模の部隊を常時駐留させ、プラントに目に見える圧力をかける事にしたのだ。
 この方針を考えれば現在の統治システムを崩壊させてしまうような強硬的な要求は出来ず、戦争犯罪人の追及もしないことが既に決まっている。ただしシーゲル・クラインやパトリック・ザラなどのかつての黄道同盟の上がりの政府関係者は全員公職を辞する事や評議会への傍聴権などは要求する。過剰に優秀な人材はスポイルしてそこそこに使える人材を残す、それが安定した戦後への道だと考えられている。
 連合はエザリアを今後の統治には都合が良い、適度に優秀な人材であると評価していたので、彼女を引き摺り下ろすという考えは持っていなかった。むしろ彼女の立場を助けた方が戦後の混乱が少なくて楽だと考えていたのだ。戦後の国土の再建を考えればプラントにはすぐに頑張って貰わなくてはいけないのだから。だからザフトも解体はせず、規模を縮小した上で一定の戦力保持を認める事にしている。自分で治安維持をする程度の力はやはり必要なのだ。

「オーブもどうです、今からでも遅くはありませんから戦後のプラント統治に参加しませんか?」
「私らは遠慮しておくよ。本国の再建だけでも頭が痛いのに、これ以上余計な仕事を抱え込みたくは無いんでね」
「それに、プラントに参加しなくてもうちはアメノミハシラで稼げそうですから」
「確かに、今では唯一残っている低軌道ステーションですからね」

 それはアズラエルも認めないわけにはいかなかった。地球の低軌道に置かれているアメノミハシラはこの時代で唯一現存している軌道ステーションであり、戦後の地球と宇宙を繋ぐ中継地として大いに重要な存在となる事は確実だ。そしてオーブはこのステーションを戦後復興の為に国際宇宙ステーションとして幾つかの宇宙港を開放する事を公表しており、各国の船がここを利用すると予想されている。そうなればオーブは莫大な収益をここから得られるようになるので、プラント統治に参加しなくても儲ける事は可能なのだ。
 あえて火中の栗を拾う事は無い、それがオーブの方針であり、カガリの意見でもある。その事を改めて伝えられ、アズラエルは残念そうに引き下がった。

「しかし、プラントはどう出てきますかねえ?」
「私にはプラントよりも逃げたザルクの方が気になる。あれで諦めたとも思えないしな」
「まあそうでしょうねえ、その辺りの捜索はダイダロス基地に居るサザーランド君がやってくれて居る筈ですから、任せておけば大丈夫ですよ」

 アズラエルは余程サザーランドを信頼しているようで、彼に任せておけば大丈夫ですよと言い切っている。カガリは良い部下が居るんだなあと声に出して羨ましがっていたが、ふと背後から感じる黒い物にハッとして背後を振り返ると、ユウナが指でシャトルの窓ガラスにいじけながらのの字を書いていた。

「どうせ僕は良い部下じゃないからね、良いんだ別に……」
「あ、いや、そういう意味じゃなくてだなあ。機嫌直せよユウナ、なっ」

 すっかり拗ねてしまった腹心にカガリは慌てふためきながら宥める言葉をあれこれとぶつけていたが、ユウナは中々機嫌を直さなかったそうな。




 プラント侵攻作戦を生き残った連合の将兵には僅かばかりの休暇が出されていた。勿論プラントには立ち入りを許されなかったのだが、連合側が接収した宇宙港周辺の施設には入る事を許されている。その代わりここには許可なくプラント側の人間は立ち入れないようにされている。まあ休暇が出されているのも乗艦が全て修理中で動けないからという理由があったりするのだが。
 アークエンジェルのクルー達も今は暫しの休暇を楽しんでおり、アスランもミーアを連れてプラントに戻る事にしていた。手ぶらで転がり込んできたので私物などは無いのでミーアを拾いに寄ったというところか。
 アスランはナイトジャスティスをオーブ軍に返しておいてくれとマリューらに頼んで今までありがとうと礼を言い、迎えが来ているというプラント市街地へ向かうゲートへと歩いていた。ミーアは流石に目立ちすぎるので髪を染めて纏め上げ、遠めにはラクスとは別人に見えるようにしてある。
 その道中でアスランは送ってくれるというキラに向かって珍しく普通の話題を振っていた。

「キラ、そういえばフレイとあの元気の良い、シンだったか。彼はどうしたんだ?」
「僕たちの仲間にステラって娘が居てね。プラントに誘拐されて変な風に身体を弄られたらしいんだ。それでその治療をする為に変な事した研究所に連れて行ったんだよ」
「……まあ、ここには怪しい研究所は腐るほどあるからな。でも誘拐なんてしてたのか?」
「いや、誘拐じゃなくて人身売買だったかな? まあどっちも碌な物じゃないけどね」
「いや、なんていうか本当にすまなかったな」

 誘拐も相当にヤバイが、人身売買の方がもっと聞こえが悪いような気がしてアスランは素直に謝っていた。そんな事をする奴はクルーゼくらいだと思いたいが、やりそうな奴にも事欠かないので否定する事が出来なかったりする。
 そしてキラはふと足を止めると、じとっとした目でアスランを睨んだ。

「ところでさアスラン、そのまま向こうに戻って大丈夫なのかい。こっちに置いて行った方が安全だと思うけど?」

 キラの視線の先にはアスランの右腕に抱きついて離さないミーアが居た。今の彼女にとって味方と言えるのはアスランだけなので離れないのも分かるのだが、見ている方としてはやってられない気持ちになってくる。その視線を受けたアスランは暫し視線を泳がせたあと、小さく咳払いを入れてミーアを見た。

「流石に1人にしてもおけないだろ、どうするかは父上とでも相談して決めるさ。心配しなくても危険な目にはあわせない」
「カガリの勧めを受け入れてオーブに亡命して第2の人生を進むのが一番良いと思うけどなあ」
「あ、あたしは出来ればここに残りたいし。オーブはナチュラルの国だから不安だし……」

 ミーアとしてはナチュラルばかりの国というのは不安で仕方が無いらしい。だが本物のラクスが生きてプラントに帰還している以上、影武者である彼女の存在は不安要素でしかない。もしかしたら暗殺されるかもしれない、その危険を考えればプラントのほうが危ないのだが、彼女はここに残りたいと言っているのだ。
 キラは困った顔でアスランを見たが、アスランも処置無しという風に頭を左右に振っている。それを見てキラも仕方が無いかと頷いて歩き出し、ゲートにたどり着いた。

「それじゃあなキラ、次は平和な時に会おう」
「……うん、そうだね」

 アスランが差し出した手をキラが握り返し、そしてアスランはゲートの扉を開けたのだが、その向こうからはいきなり何とも言えない剣呑な空気が押し出されてきて彼は思わず半歩身を引いてしまった。一体何がと向こう側に視線を向けたアスランは、そこで物凄い緊張感の中で互いを牽制しあっているラクスとルナマリアとメイリン、そして彼女らの後ろでオロオロしているエルフィの姿を見るのであった。実は少し離れた所にディアッカやジャックたちも居るのだが、何だか肩を寄せ合って隅のほうで小さくなっていたりする。

「ラ、ラクス、それにルナにメイリン、エルフィまでどうして?」
「どうしては無いですわアスラン、こうして迎えに来ましたのに」

 彼女らを代表してラクスがにっこりと笑顔で返してきたが、その声には5割くらいでどす黒い物が混じっているように感じられる。見ればルナマリアとメイリンも凄い目で自分を睨んでおり、後ろのエルフィも半泣きで自分の方を見ている。その理由は考えるまでも無かっただろう。自分の右隣には左腕を抱きこんでいるミーアが居るのだから。特にラクスとエルフィの視線はアスランに押し付けられているミーアの膨らみに向けられているような気がする。
 4人の視線が自分に向けられているのを感じ取ったミーアが怯えたようにアスランの背後に隠れたのが余計に気に食わなかったのだろう、ルナマリアとメイリンが頬を膨らませて怒りを露にし、ラクスからのプレッシャーが更に増す。そして相変わらず押しが弱いエルフィは3人のテンションに付いていけずに気圧されていたりする。
 しかし、より悲惨だったのは両者の間に立たされているアスランだったろう。とっくに安全圏にまで逃げているキラは既に高みの見物モードであるが、4人からじっと見詰められている、というか視線で詰問されているアスランは生きた心地がせず、何でこんな状況になったんだと頭の中でひたすら自問自答し続けていた。
 そして4人を代表するかのようにラクスが一歩進み出てきて「どういう事ですの、アスラン?」と満面の笑顔で問いかけてきた時、アスランの中で何かが音を立てて外れた。言うなれば過負荷に耐えられずにブレーカーが落ちた感じか。

「え、ちょっと、どうしたのよアスラン、ねえ!?」

 突然目の前で力なく崩れ落ちたアスランを吃驚して抱き起こしたミーアであったが、アスランは白目を剥いて失神してしまっていた。それを見て流石にラクスやルナマリア、メイリンも大変な事になったと騒ぎ出し、遅ればせながら出番をかぎつけたディアッカたちが前に出てきてアスランを担ぎ上げる。

「よしお前ら、このまま医務室に直行だ!」
「ちょっとディアッカさん、私達はザラ隊長と大事な話がですね!」
「ええい、今は救急行動だからそっちの都合は後回しだ。というわけで足持てジャック!」
「うっす!」

 ディアッカが腕を掴み、ジャックが足を掴んで2人がかりでアスランを引き摺って通路を駆けて行く。どうせなら抱えて行けよと突込みが入りそうであったが、多分ディアッカはわざとやっている。
 だが、アスランが窮地から救い出されたのは確かだったので結果だけ見れば問題はないかもしれない。そしてこの面子の中では最も一般人なミーアは状況の急変に付いていけなくて呆然としていて取り残されてしまい、仕方なくそれまで安全圏に居たキラがポンと肩を叩いてこっちに振り返らせた。

「何だかトラブルが起きたみたいだし、一度アークエンジェルに戻らない。こっちに居れば安全だからさ」
「あ、でもアスランが……」
「ああ、アスランなら大丈夫だよ、あのくらいで死ぬようなら僕も苦労してないから」

 アスランのことをゾンビか何かのように言うキラであったが、自分も十分ゾンビ扱いを受けているということは知らない幸せな男であった。




 アスランたちが騒動を起こしていた頃、プラントの遺伝子研究者であるギルバート・デュランダルの元には武装した地球軍海兵隊を10人ほど伴ってフレイとシン、トールとミリアリアがやって来ていた。
 いきなり武装した地球軍の兵士に踏み込まれた遺伝子研究所の職員は驚いた様子であったが、踏み込んできた兵士達は慌てふためいて右往左往している連中には目もくれず、目的の人物の場所を聞き出して突入していく。そう、ここの所長であるギルバート・デュランダルの元に。
 彼は踏み込まれる事を承知していたのか、自分のオフィスで椅子の腰掛け、のんびりとコーヒーを飲んで彼らを待っていた。

「いきなり踏み込んでくるとは、失礼だとは思わないかね?」
「ギルバート・デュランダルだな、我々と一緒に来てもらおう」
「まだそちらに司法権が移ったという話は聞いていないが、礼状か何かは持っているのだろうね?」
「こいつ、ふざけやがって!」

 兵士の1人が怒って銃を向け、同僚に慌てて止められる。それを冷笑していたデュランダルであったが、彼らを押しのけるようにして現れた少年には流石に面食らった様子であった。

「子供?」
「あんたがステラに変な事した変態だな。さあ、さっさとステラを治せ!」
「落ち着きなさいシン、話を飛ばしすぎよ」

 詰め寄ってくる少年を赤毛の少女が窘め、同行してきた士官服の少年に引き摺られて後ろに下がって行く。そして赤毛の少女が自分の前に一枚の書類を突き出してきた。

「ザフト統合作戦本部からの正式な書類です、私達に協力してもらいますよデュランダル博士」
「……そういうことでは仕方が無いな。それで、私に何をさせたいのかね?」
「決まってるでしょ、ステラちゃんを治しなさいよ!」
「だからミリィも落ち着いて、喧嘩しに来たんじゃないのよ」

 先ほどの少年と同様に下士官の少女が詰め寄ってきて、赤毛の少女に止められている。一体こいつ等は何なのだろうとデュランダルは思ったが、とりあえず何を言いに来たのかは分かった。

「ようするに、ここで強化手術を施したエクステンデッドたちを治療しろと言いに来たのかな?」
「事情は分かっているんでしょう、クルーゼが連合から連れ去ったエクステンデッドたちを貴方が処置した事はもう分かってるのよ」
「ふむ、彼が連れ去ったかどうかは知らないが、確かにザフトの命令でエクステンデッドのサンプルに強化手術は施した。だが、治せと言われてすぐに治せるものでもなくてね」

 デュランダルはこれだから素人は、と人をからかう様な態度を崩さず、わざとらしく肩を竦めて見せる。その態度にとうとう押さえ役に回っていた筈のフレイも我慢の限界に達し、手が腰の拳銃に伸びてしまった。

「この、人が大人しくしてれば!」
「あああ、駄目です中尉、落ち着いてください!」

 慌てて海兵たちに止められるフレイ、目の前でギャアギャアと騒ぐ連合将兵達たちの漫才に、デュランダルはやれやれともう一度肩を竦めていた。




 あの戦闘の後では戦力はほとんど残っていないが、それでもまだ稼動艦艇や稼動MSは残っている。地球軍はその僅かな戦力をザルク追撃の為に出せと言って来て、それを断る事はもうプラントには出来なかった。だがまともに長距離航海に耐えられるような船は極僅かであり、分かっているだけでは最近建造されたエターナル改級1隻とナスカ級3隻、それに最新鋭のミネルバの5隻だけがかろうじて使えるという判断を下され、ドックに入って整備と補給を受けている。更にベテランパイロットと状態の良い機体を掻き集めて配備するという方法でどうにか艦隊を編成するという有様だった。
 これに対して地球軍はボアズから進出してきた支援艦隊が加わった事で工作艦による修理と整備を行う事が可能となり、大半の艦艇を自前で修理していた。ただどうにもならない船はドッグ入りさせるしかなく、ヤキン・ドゥーエの宇宙港の幾つかは大破した連合艦艇が入港していたりする。この中にはアークエンジェルの僚艦としてアークエンジェルを守り続けたヴァーチャーも含まれており、機関部への重大な損傷により航行不能となって港まで曳航されている。残念ながらドミニオンは修理不可能と判断され、戦没艦として扱われる事になった。
 アークエンジェルも外観では判定大破に近い状態であったが、幸いにして深刻な損傷は無く、工作艦の修理を受ける事で追撃戦には参加出来そうであった。アークエンジェルの修理を担当してくれた工作艦のメデューサからの報告を受けたマリューはホッと胸を撫で下ろし、傍らに立っているナタルに安堵の笑顔を向けている。

「よかったあ、アークエンジェルの修理はすぐに終るってさ」
「そうですか、それでは追撃戦には参加できそうですね」
「そうね。ああ、ナタルには悪いけどドミニオンのクルーは乗員の欠員を埋める為に他の艦に再配置する事になるから」
「仕方がありませんね、補充クルーの到着を待っている暇はありませんし」
「そういう事。勿論貴女にも仕事して貰うわよ、アークエンジェルCIC指揮官席が丁度30分前に空席になったし」
「……は?」

 チャンドラはどうしたんだ、という問いにマリューはナタルが来ると言ったら嬉々として昔座ってた椅子に戻ってしまったそうな。まあ元々階級が役職と釣り合っていなかったので、逃げ出すのも分からないではないのだが。それにCIC指揮官としてのチャンドラは今2つほど頼りなかったので、ナタルが戻ってきてくれればアークエンジェルは昔のような強さを取り戻せるのではないか、と期待していたのだ。ナタルが副長をやっていた頃のアークエンジェルは本当に浮沈艦と呼ぶに足る強さを持っていたのだから。
 アークエンジェルに戻って来い、と言われたナタルは一瞬嬉しそうな顔になり、そしてすぐにそれで良いのかと懐疑的な顔になってしまった。

「あの、良いんですか勝手にそんな事して。今は作戦が終了していますから現場指揮官の権限ではきかないでしょうし」
「ああ大丈夫大丈夫、ボアズのハルバートン提督の許可は貰ってるから。ただ暫くは指揮する艦も無いらしいから、次の配属先が決まるまではこのまま副長もやって貰うからね」
「……手際が良いですね」

 そこまで手が回されているなら自分にも嫌は無い、ナタルはマリューの求めを快く受け入れていた。

「ああ、でもバゥアー大尉は空母勤務に移るとか言ってたかしら」
「嘘ならもう少し上手くついてくれないと駄目ですね。リンクス少佐もフラガ少佐も居ないのに、艦長がキースを手放す訳無いじゃないですか」
「あちゃ、やっぱ分かる?」

 ここでキースが抜けたらアークエンジェルはパイロット達を束ねる存在が欠けてしまい、マリュー自身の苦労が増える事になるのだ。それを考えればそう簡単に彼女がキースを手放す訳が無い。
 だが、受け取っている編成表を見たナタルは表情を少し曇らせた。

「しかし、随分減りましたね。ドミニオン撃沈、パワーは未だに動けず、12隻あった駆逐艦も動けるのは5隻とは」
「まあ仕方が無いわよ。とりあえず駆逐隊の方はレイモンド少佐に任せておくとして」
「……あれでもう少し人間として出来ていれば私も安心出来るんですが」

 この戦いの中で部隊を維持してのけた兄の実力は確かに凄いのだが、あの性格は我慢がならないナタルであった。だが恋は盲目というか、どちらかといえば緩い部類に入る筈のキースは気にならないらしい。




 だが、すぐに出撃する事になると誰もが思っていたプラント侵攻部隊であったが、彼らは思いの他長くそこに留まる事となった。すぐに発見されると思ったザルクは、連合の件名の捜索にも拘らず、その尻尾さえ掴ませなかったのだ。そう、その名の通り棺桶に入って墓場にでも行ってしまったかのように。




後書き

ジム改 プラント独立戦争は事実上停戦を成立させました。
カガリ させましたって言うか、させたんだけどな。
ジム改 何か問題があるか、イラクより安定した戦後にはなるぞ。
カガリ でもなんで評議会とか残すんだ?
ジム改 統治システムを完全破壊すると混乱しまくって後始末が大変だから。
カガリ そういうもんなのか?
ジム改 全部健在だったWW2後の日本と、叩き壊されたイラクやアフガンを較べれば分かるだろ。
カガリ ていうか、金が全てかよ。
ジム改 何が楽しくて総力戦やった後に敵国の再建に更に金と人を使わんといかんのだ、というのが連合各国の主張です。
カガリ だから統治システムはそのままにして戦後の再建を自分でやらせると。
ジム改 思いっきり足枷はめて経済面は支配されるっていうオマケつきでね。
カガリ 戦前より酷い事になってるような。
ジム改 まあ負けたんだから当然だ。形だけは独立国になれそうだけどな。
カガリ なんか決定段階じゃもっと酷い事になってそうだなあ。
ジム改 オーブは何も要らないって言うならそれでも良いんだが?
カガリ そ、それじゃあ次回、プラント内で行われた調査でクルーゼが横領していた資材や装備が明らかとなる。持ち出された資材の中にフレアモーターがあると知った連合とザフトはクルーゼの狙いを看破するが、何を移動させるつもりなのかが分からない。そしてそんなヒビの中でもプラントには騒動が絶えなかった。次回「朽ちし者たち」で会おうな。
ジム改 とりあえず戦後賠償請求の放棄とか?
カガリ それは絶対に駄目だぁ、賠償金無かったらオーブは破産なんだぞお!

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