36章  死に絶えた街で

 


 アティラウ、そこはユーラシア連邦に属する都市でも最も南に位置する、人口400万を誇っていた大都市であった。そう、一年ほど前までは。
 この都市の近くまでやってきたアークエンジェルは、進路を変えるべきか、このまま直進するべきかで悩んでいた。ユーラシア連邦に属するクリスピー大尉も交えてマリュ−、ナタル、フラガ、キースが会議室で顔を向け合っている。

「・・・・・・この街の上空を通過するのは、良い気がしませんね」
「ですが、ここを迂回しますと、ザフトの勢力圏を過る事になります」
「分かってるわ、ナタル」

 マリュ−の顔には疲労の色が濃い。無理も無い、ここ最近はほとんど寝ていないのだ。何しろこの辺りは敵味方が複雑に入り混じっており、全く油断する事が出来ない。戦闘行動中の艦長というのはかなりの激務なのだ。当然ナタルもかなり疲労が溜まっているのだが、こちらは心理的な負担が少ないせいか、まだ余裕がありそうに見える。
 マリュ−が疲れた顔でこの都市の上空を通過したくないと漏らすのも無理は無い。この都市、アティラウはまさに死霊都市なのだから。この都市の近くに最初に降下したザフト部隊は、バイコヌール宇宙基地を攻略する為の足掛かりとしてこの都市の制圧を目論んだのだが、守備隊の頑強な抵抗にあって苦戦を強いられたのだ。時のザフト司令官はこの都市守備隊の奮戦に怒りを覚え、なんと科学兵器を使用したのである。
 400万の市民と3万の守備隊は、散布されたガスによって文字通り全滅してしまった。ガスそのものは持続性が短いタイプであった為、すぐに毒性は消えたのだが、街は僅か30分足らずで完全に廃墟となったのである。
 この攻撃を行ったザフト司令官は流石にプラント本土に召還されて査問会にかけられ、処罰されたというが、この攻撃がザフトと連合に与えた衝撃は大きかった。科学兵器が実戦に投入された事が数世紀ぶりの事であり、その威力を再確認した連合とプラントでは、以後2度と科学兵器を戦場に投入してはいない。
 そして、この地は両軍から忌避される場所となった。「アティラウの惨劇」の名と共に。

 つまり、ここは軍事的な空白地帯なのだ。400万の遺体が回収される事も無く放置され、朽ちた白骨や、まだ状態が良く、完全に朽ち果てていない腐乱死体がゴロゴロしている、この世の地獄なのである。悲惨さにかけてはあの「血のバレンタイン」の舞台となったユニウス7でさえ遠く及ばない。
 出来ればこんな場所に足を踏み入れたくは無い。クリスピー大尉は露骨に顔を顰めているし、フラガもキースも良い顔はしていない。だが、ここしかないのだ。この近くで未だに無事な友軍基地があるのは。
 皮肉な事に、ここが両軍から忌避される場所であるという事が、アークエンジェルにとって幸運となった。この基地は今だ手付かずで多くの施設が残っており、保存食や武器、弾薬の補給が行えるからである。500を越す難民を抱えるアークエンジェルにしてみれば、なんとか食料を入手したいところだったのだ。
 キースが何やら思案顔で、それでも渋々マリュ−に話し掛けた。

「行くしかないでしょうね。このままですと艦の食料が持ちません」
「イーゲルシュテルンや、各種ミサイルもです。また、消耗部品の在庫も底を尽きかけています。出来れば補修資材も欲しい所です」
「八方塞ですな」

 クリスピーが忌々しそうに自分の髪を右手で掻き回したが、文句をいう事は出来ない。今のアークエンジェルの苦境は、まさに自分たちのせいなのだから。自分たちが転がりこまなければ、アークエンジェルの食糧事情がここまで悪化する事は無かったのだ。
 そして、キースがクリスピーに問いかけた。

「クリスピー大尉、この街に敵の姿は無いんですね?」
「それは間違いありません。幾度か偵察隊が訪れた時も、敵が潜んでいる様子は無かったと報告がきておりました」
「じゃあ、まあ精神的にはアレだけど、行くとしますか。すでに墓場漁りは1度やってる訳だし、2度も3度も同じだろう」

 キースのやば過ぎる台詞に、マリュ−とナタルの顔が引き攣りまくった。事情を知らないクリスピーは不思議そうな顔をしている。

「アークエンジェルは、前にも墓荒らしをした経験があるのですか?」
「まあ、宇宙でね。やっぱり物資が欠乏した時、デプリベルトで色々探し回ったんだよ。その時に目玉だったのがなんとあのユニウス7ときたもんだ」
「あの、血のバレンタインの舞台となったプラントコロニーですか!?」
「そう、あそこで俺達水泥棒をね」

余計な事を言いまくるキース。マリュ−達はもうやめてくれと言いたげに顔を顰めているが、口に出しては何も言わない。フラガだけは気にした風も無いのだが。
 クリスピーはキースの話を聞いてなるほどと頷いた。

「それは運が良かったですな。砂漠で偶然オアシスにぶつかるようなものです」

 その答えにマリュ−とナタルが驚いた。まさか、こういう答えが返ってくるとは思わなかったから。

「クリスピー大尉は、何とも思わないのですか。ユニウス7では20万人以上が死んでるんですよ?」
「それは分かりますが、まずは自分が生き残る事でしょう。食料も水も、武器弾薬も生きてる者にこそ役立つ物です。私とて死者を悼む気持ちは無論ありますが、だからといって彼らの為に自分が死ぬ必要は無いでしょう」
「・・・・・・まあ、そういう事だな」

 それまで黙っていたフラガも口を開いた。

「俺達は生きなくちゃいけないのさ。その為なら多少汚い事だってやるしかないだろ」
「・・・・・・実戦経験が豊富だと、こういう事も仕方ない、で済むようになるんですか?」

 マリュ−の視線が険しさを増す。温厚で人情家という評価を受けるマリュ−からしてみれば、こんな場所を物色する事になんの忌避感も見せないクリスピーやフラガ、キースが戦争に染まった狂人に見えるのかもしれない。
 そして、視線を叩きつけられているフラガは、こちらはマリュ−の視線を受けても平然としている。マリュ−とフラガでは根本的に胆力が違いすぎ、マリュ−ではフラガを怯ませる事は出来ないのだ。逆に怯みを見せないフラガにマリュ−が気圧されているように見える。

「慣れちまうのさ、何時の間にかな。敵を殺すのにも、仲間が居なくなるのにも」

 フラガの言葉に、マリュ−の瞳には明らかな怒りの色が浮かび、ナタルは戸惑いを浮かべた。フラガがこういうことを言うのは珍しい。彼は余り説教めいた事は言わないからだ。むしろそういう役はキースの領分だった。そのキースはといえば、こちらは腕組したままフラガを見ている。その表情から考えを読み取る事はできそうも無かった。
 暫し睨みあうマリュ−とフラガ。艦内では最高位に位置するこの2人の戦いには誰も口を挟めない。いや、キースならば割って入る事が出来るのだが、何故か今日は仲裁に入ろうとしない。何時もなら2人が険悪になる前に大抵笑って間に入るのだが。
 ナタルがいささかキツイ目でキースを見た。その目がこう言っている。

『大尉、早く止めてください』

 だが、キースはそれを無視した。その為に2人の対立がただ深刻化していく。そして、遂にマリュ−が折れた。フラガから視線を外し、俯いてしまう。

「分かりました、アティラウに行きましょう」

 これで方針は決定したのだが、マリュ−が立ち去った後でナタルがフラガとキースに詰め寄った。

「フラガ少佐、キース大尉、どうして艦長を追い詰めるような事をしたんです!?」
「い、いや、あれはだねえ」
「ただでさえ最近は心労がかさんでいるのですから、その辺りの事を少しは考えてください」
「いや、分かっちゃいるんだけどね」

 フラガはナタルの剣幕にタジタジになっていた。視線でキースに助けを求めるが、キースは遠くに見える街並みに目をやっていて気付いた様子も無い。仕方なく声をかけようとした時、唐突にキースが喋り出した。

「アティラウ、か。キラ達には見せた方が良いかもな」
「大尉、どういう事です?」

 ナタルの問い掛けに、キースはあの感情を感じさせない目でナタルを見返した。その視線に僅かに気圧され、身を引くナタル。

「バジルール中尉も見ておくといいかもな。俺達はどうして戦うのか、戦争ってのはどういうものなのか、肌で感じられる」
「大尉?」

 何時もと違うキースに、ナタルが違和感を感じて声をかけるが、キースはそれには答えなかった。ただ、じっとアティラウの街を見ている。あそこには、何かあるのだろうか。

 

 

 アティラウの基地に着陸したアークエンジェルは、さっそく基地内の物資を物色しようとしたが、基地に降り立った兵士達はその惨状に誰もが愕然としてしまった。基地内に無造作に転がっている白骨死体たちと、いまだ肉片を残し、腐臭を放つ死体たち。それらが何処に行っても目に付くのだ。
 基地内の探索に出たキラ達も当然それらを目の当りにしてしまい、流石に足を止めてしまっている。

「おい、なんだよこれは?」
「私達、こんな所を探しまわらなくちゃいけないの!?」

 サイの戸惑いの声に、ミリアリアが悲鳴のような声を上げた。カズィはすでに逃げ腰だし、トールも顔を顰めている。そして、キラとフレイはそんな中から一歩を踏み出した。

「どうする、探すとしたら、とりあえず食料庫だろうけど?」
「・・・・・・・そうね、行きましょう」

 キラとフレイが前に出たのを見て、サイが2人に問いかけた。

「お、おい、キラ、フレイ。2人とも、平気なのかよ?」

 サイの問い掛けに、キラとフレイは露骨に顔を顰めた。馬鹿なことを聞くなと表情が言っている。

「平気な訳無いだろ」
「こんな所、すぐに出たいわよ。でも、探さないといけないんでしょう」

 2人はブカレストの街で一度市街戦を経験している。この時の経験が、2人に死に対する慣れを与えていた。あちこちに転がる死体。焼け崩れる街並み。死体が焼ける匂いが漂い、爆音と爆風、閃光が神経を掻き毟る。ヘリオポリスの仲間達の中で、キラとフレイだけが戦争の恐怖を肌で感じたことがあるのだ。衝撃波に身体を引きちぎられ、内臓をぶちまけている死体を、それでも死に切れずにもがいている人を幾度も目にすれば、正気を保つ神経などすぐに擦り切れてしまう。実際、キラもフレイも幾度も平静を失いかけ、その都度もう一方に正気に戻されていたのだ。
 だから、2人にはこういう状況への耐性が僅かとはいえ備わっていたのだ。少なくともここにある死体は苦痛のうめきも絶叫も上げはしない。だから見た目の怖ささえ我慢すれば耐えられないものではないのだ。

「怖かったら、トール達は来なくても良いよ」

 キラが仲間たちを振り返って言った。フレイも頷いている。自分たちと違い、トール達が死というものに慣れていない事は分かっているから、無理に付き合わせようとは思わない。
 自分達を置いて奥に踏み入って行く2人の姿に戸惑い、顔を見合わせる4人。そして、トールとサイが歩みだし、かなり躊躇った後にカズィとミリィも続く。こんな所においていかれるよりはという考えが働いたからだが、4人はすぐにその事を後悔する事になる。

 

 

 カガリは基地の中をぶらぶらとしていたのだが、ふとキースがジープに乗っているのを見て、そっちに行ってみた。

「おいキース、何処行くんだよ?」
「・・・・・・カガリか、大した用事じゃない」
「大した用事じゃないんなら、付いて行っても良いか?」

 カガリの頼みにキースはどうしたものかと考え、気が進まなそうに問いかけた。

「お前、仕事は?」
「私は無職だよ。キサカのが頼られてる」

 いささか憮然として答えるカガリに、キースはやれやれと溜息を吐き、左手で助手席を示した。嬉しそうに助手席に飛び乗るカガリを確認した後、キースはジープを出発させた。

「なあ、何処に行くんだよ?」
「この近くの、民家だよ」
「はあ、なんでそんな所に?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 キースはそれには答えなかった。ただ、その顔には何時になく真剣な色があり、少なくとも遊びに行く訳ではない事だけは分かった。だが、民家などに一体何があるというのだろう。ジープの後部を見れば、何故かお菓子に、何処で手に入れたのか、花束が3つある。
 そして、キースがやってきたのは、本当にただの民家であった。カガリは戸惑ったが、郵便受けに書かれている名前を読んで驚きを隠せなかった。

「サラン・バゥアー、ギネビア・バゥアー、キーエンス・バゥアー、アネット・バゥアー。なあ、これってひょっとして・・・・・・・?」

 カガリの問い掛けに、キースは小さく頷いた。

「ああ、俺の実家だよ。一年前まで、俺はここに住んでいた」

 キースは花束とお菓子の包みを持つと、庭の方へと歩いて行く。カガリはそんなキースの背中に言い知れぬ悲しみを見てしまい、追う事ができなかった。アティラウの住人は1人残らず全滅したのだ。家族も、友人も、近所の知り合いも、何もかもをキースは一瞬にして奪われ、そしてキースは軍に入ったのだ。
 キースが事あるごとに死んだら終わり、後悔してからじゃ遅い、手遅れになる前に気付けと言う理由を、カガリは何となく分かったような気がした。
 カガリは家の戸を開け、中へと入って行った。生活臭が全く感じられない、放棄された家特有の冷たさが感じられる。そのまま幾つかの部屋を見ていくと、やがて夫婦の寝室と思われる部屋に辿りついた。ベッド脇のサイドテーブルに置かれている写真立てには、少し若いキースと、やや痩せ型の中年男性に、美人の女性、そしてキースにもたれるようにして甘えている赤い髪の少女。カガリはその少女を見て目を疑った。

「こいつ、フレイにそっくりじゃないか。アネットとか言う娘かな」

 年の頃は13前後という辺りだろう。自分やフレイより少し年下に見える。赤い髪をポニーテールに纏めた、活発そうな女の子だ。キースがフレイに妹を重ねるのも無理は無いかもしれない。
 そして、写真立てを戻そうとした時、カガリは家族の写真の裏にもう1枚写真が入れられている事に気付いた。

「なんだ、これ?」

 隠されていたもう1枚の写真を取り出したカガリは、そこに写っているベッドに半身を起した女性と、抱いている2人の赤ん坊に首を捻った。

「誰だ、キースの母親じゃ無さそうだし、この2人の赤ん坊は?」

 カガリは写真の裏を見て、一瞬我が目を疑ってしまった。そこに書かれていた名前は、全く予想外のものであったから。

「ヴィア・ヒビキ、カガリ・ヒビキ、キラ・ヒビキ・・・・・・・カガリ、キラ?」

 どういう事なのだろうか。冗談にしては出来すぎている。第一、自分はアスハ家の娘で、キラとは何の繋がりも無い筈だ。だが、じゃあこの写真に写る赤ん坊は誰なのだ?
 カガリは焦る心のままに写真立ての置かれていたサイドテーブルの周辺を探しまわった。化粧棚を開け、本棚を漁っていく。なにか、なにか他にもあるのではないかという思いに突き動かされて。
 そして、カガリは幾つかの物を見つける事が出来た。まだ若いキースの両親と、先の写真では赤ん坊を抱いていた女性が白衣を着て共に写っている写真。他にも何人かいる。全員が何かの研究員のようだ。
 自分にはさっぱり理解できない内容のプリントが収められたファイル。ただ、これがメンデル研究所という場所で行なわれていた研究のファイルで、調整体と呼ばれるものを研究していた事だけは分かった。
 そして、断片的な資料の山から得る事の出来た意味不明の情報。だが、無視できない情報の数々。研究所の出資者達、アル・ダ・フラガ、ウズミ・ナラ・アスハ、ヘンリ−・ステュアート、パトリック・ザラ・・・・・・。最高のコーディネイターを生み出す計画と、成功例キラ・ヒビキ。これに対する対策として生み出された調整体達。人間のクローンの研究・・・・・・・。

 カガリは身体の震えを押さえられなかった。何なのだこれは、どういう事なのだ、最高のコーディネイター? クローン? 調整体? こんな訳の分からないものと、どうしてお父様が関係してくる? そしてアル・ダ・フラガ。この名は、フラガという名はまさか。

 だが、何時までもここにいる訳にもいかない。カガリはどうしても気になる幾つかの資料と、写真を持って部屋を後にした。だが、その足取りは何処か覚束なく、上の空な感じがする。カガリは自分が何時ジープに戻ったのかさえ、分かってはいなかった。

 

 

 キースは庭に作られた粗末な墓の前に跪いていた。胸の前で手を組み、祈りを捧げている。そして、静かに墓に語り掛けた。

「父さん、母さん、アネット、一年ぶりくらいになるか。今日まで来れなくて、悪かったね。色々忙しくてさ」

 キースの顔にはただ懐かしさだけがある。墓に語る事で昔を思い出し、過去と語り合えるとでも言うかのように。

「今の仲間たちは、面白い奴ばかりだよ。そうそう、アネットに良く似た娘が部下になったんだ。アネットより少し勝気だがね。あと、キラにも会ったよ。カガリにも。2人とも、心配していたような悪餓鬼にはなってなかった。安心してくれ」

 そして、懐から1つの鍵を取り出す。古ぼけた、もう何年も使っていないであろう鍵だ。恐らくは実用品ではなくアクセサリーなのだろう。キースはそれを握ると、静かに目を閉じた。

「父さん、母さん、2人が危惧した通り、世界は少しづつ悪い方向へと向っている。だが、まだ絶望するには早そうだ。パンドラの箱には、確かに希望も入っていたらしい。それが世界を救えるかどうかは分からないが、俺は与えられた役目を、俺が正しいと思うやり方で果たすよ。俺の全力を使って、希望を助けていく。世界にはまだ、沢山の守る価値がある馬鹿がいるみたいだからね」

 それは、誓いだった。死者の想いを受け継ぎ、未来へと繋いでいこうとする者の誓いだった。キースが何者なのかは未だに分からないが、彼は間違い無く未来へと続く事を、明日を望んでいる。そして、破滅を拒否している。
 キースは何かを知っている。それは答えなのだろうか。それとも、更なる問いなのだろうか。だが、それを彼が語る時、それは何かが変わる時なのだろうか。

 

 キースはジープに戻ってきた。カガリがぼんやりとしながら助手席に座っている。てっきり何処かをうろつきまわってると思ってたキースは意外そうな顔でカガリに声をかけた。

「どうした、ぼんやりして?」
「・・・・・・あ、ああ、何でも無いさ」
「そうか、なんだか疲れてるみたいだが?」
「そ、それは・・・・・・こんな所にいるんだから・・・・・・」

 カガリの答えにキースは辺りを見渡し、「そうだな」と答えた。周りには白骨化した死体が転がり、言い知れぬ不気味さをたたえている。少なくとも居て気持ちの良い場所ではない。カガリの様子がおかしいのも頷ける。
ここで納得してしまった事が、キースの失敗であった。さすがのキースも今日ばかりは何時もの勘の良さを無くしていたらしい。キースは、カガリが真実の果実に手をかけたことに、気付かなかったのだ。

 

 

 基地の中を調べていたキラとフレイは、倉庫の中身を大体調べ終えた。ボードに纏めた物資はそれなりの量である。

「凄いね、76mm弾からカップヌードルまで、何でもあるよ」
「戦車まであったわね。何台かもってっても良いかしら?」
「誰も使わないと思うから、良いと思うけどな。でも、誰が乗るの?」
「・・・・・・クリスピー大尉とか」
「止めた方が良いと思うよ。ジープとかにしたら」
「そうね」

 ボードに書かれた内容を見比べながら2人は仲間たちの所に戻ってきた。仲間たちはトールを除いて全員真っ青な顔をしている。まあ、無理も無いのだが。

「トール、みんなの様子はどう?」
「まだ動かせそうも無いな。みんなすっかり参ってる」

 トールがミリアリアの肩を抱きながらキラに答えた。キラとフレイはそれも無理の無いことと思いながら、基地の外を見やる。別に変わらない普通の空と街並みが広がっているが、この街は死神の鎌に刈り取られた街なのだ。
 そして、この基地にもそれは振るわれた。サイ達は基地の中の待機室のような所で、20人以上のまだ白骨化しきっていない死体を目の当りにしたのだ。その猛烈な腐敗臭と悲惨な姿に4人は卒倒してしまい、キラが頑張って死体の無い部屋まで運んで来たというわけだ。フレイもこれには流石に気分を悪くしてしまい、胃の中の物を全部戻してしまっている。
 そして、なんとか目を覚ましたトールに3人を任せて、キラとフレイは倉庫の中を調べていたのである。


 キラとフレイから連絡を受けたマードック達はさっそくトラックを乗り入れて物資を運び出して行った。量は多いが、あって困る物ではない。だが、思っていたよりも作業者の数が少ないのが気にかかった。作業の監督をしているマードックを捕まえてそれを問い質すと、マードックは困った顔でそれに答えてくれた。

「いや、それがよう。若い奴らはどうも死体ってのに慣れてなくてな、どいつもこいつも青い顔してトイレに駆け込んじまったんだ。今動いてるのはなんとか立ち直った奴だけさ。錯乱しちまって気絶させた奴も1人2人じゃねえ」
「軍人さんでもそうなんですか?」

 意外そうなフレイの言葉に、マードックは苦笑を隠し切れなかった。

「何言ってやがる。お嬢ちゃんだって軍人だろうが」
「あ・・・・・・・」
「腕を上げてもそういう所は変わらねえな。まあ、良いことだが。軍人って言っても、ほとんどは促成だからな。覚悟なんてもんはほとんどありゃしないのさ。特に軍艦乗りってのは仲間の死体を見る時は大抵あの世が近いからな。経験が浅いのさ」

 そう、もはや連合に歴戦の兵士などというものは余り残っていない。フラガとキースという2人のベテランの超エースを抱えているアークエンジェルは最も恵まれた優良部隊なのだ。そこにキラとフレイという2人の天才としか言い表わせないパイロットが生まれ、アークエンジェルはたった戦艦1隻の部隊とは思えない強さを見せている。
 マードックは今自分が居る環境が奇跡に近いものだという事を良く理解している。だからこそ、この2人に気を使っているのだ。

「でもまあ、クリスピー大尉達は役に立ってくれてるよ。流石に歩兵さんは胆が据わってるぜ」
「そうですか」

 そういえばフォークリフトを動かしてる兵士は野戦服を着ている者が多い。これまで艦内で難民の世話以外にする事の無かったクリスピー達だが、ようやく仕事を得たようだ。何故か大きな袋を担いで歩くキサカの姿もある。カガリはどうしたのだろう?

「そういえば、お嬢ちゃんはクリスピー大尉達に銃の使い方を教えてもらってるんだって?」
「はい、射撃の勘を良くする為に、少しは役に立つんじゃないかと思って」
「まあ、頑張れよ。なんでも経験するに越した事はねえからな。特にこんな時代じゃな」
「はい」

 ニッコリと笑うフレイに、マードックは苦笑を閃かせた。本当にこの娘は明るくなった。志願した頃は付き合いにくい娘だったが、今じゃ艦内の人気者になろうとしている。難民の世話を買って出たりと、積極性も出てきているし、良く笑うようになった。部下の整備兵達からはキラを羨む声も上がっており、キラとフレイは未だに別れたままだという話が伝わってくると、幾人かが声をかけたようだ。もっとも、この様子を見るとどうなったのかは想像するまでも無いのだが。
 だが、マードックには気にかかることがあった。それは、フレイとは対照的にキラが何処か暗い事だ。フレイと仲直りしたことで前みたいな鬱陶しさは無くなったのだが、どこか影を感じさせる。まるで、引け目を感じているような印象だ。今も何やらまぶしそうにフレイを見ている。

「ヤマト、どうかしたのか?」
「・・・・・・いえ、なんでも」

 キラは視線をフレイから外してちから無く答えた。その態度にマードックは内心で舌打ちしてしまう。アークエンジェルの中ではフレイに次いでキラと接してきたマードックは、キラにとって第2の理解者であると言える。マードックはキラがフレイにおかしな負い目を感じている事に気付いていたのだ。それは、キラの回りでマードックだけが子供を育てた経験を持っているから、子供の変化に他者より敏感であったからに他ならない。
 マードックはキラが離れた所を見計らってフレイを手招きし、耳打ちした。

「お嬢ちゃん、坊主と、何かあったのか?」
「どういう事です?」
「あいつ、なんでか知らんが、お嬢ちゃんを時々眩しそうに見てる時がある。まるで、遠くにいるみたいにな」

 マードックの言葉は、フレイには驚きを誘う物ではなかったが、やはりという思いを起こさせる。自分も気付いていたのだ。何故かは分からないが、キラは時々私を見て辛そうになる時がある。これまでとは違って自分を避けたりするような事は無い。みんなから逃げる事も無い。つまり、それはこれまでのような自分の孤独感から来るものではないということだ。
 だが、では何が理由なのだろう。自分はキラがコーディネイターでも構わないという本心は伝えている。今更それが原因だとは思いたくは無い。だが、他に理由が思い当たらないのだ。まさか、キラが自分を格上と見ているとは夢にも思いはしない。
 キースはキラと話すことでこれを知ってはいるが、それをフレイに伝える意思は無かった。これは自力で乗り越えないといけない壁だと、キースは思ったから。そして、2人はそれを乗り越えられると信じているから。

 

 

 物資の収集をしているアークエンジェルに帰って来たキースとカガリは、積み上げられた物資の山に驚いていた。

「おお、こりゃあ思ってたより沢山あったなあ」
「・・・・・・ああ、そうだな」

 カガリの声には力が無い。キースはカガリの心労を流石に心配していた。

「おい、本当に大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だよ」
「本当か。疲れてるなら休んでもいいんだぞ。なんなら添い寝してやろうか?」

 言ってから慌てて頭を庇うが、予想していた打撃は来ない。あれっと思ってカガリを見ると、カガリは顔を赤くして俯いていた。

「お、おい、カガリ?」
「そ、添い寝って・・・・・・そんな・・・・・・」

 何やらもじもじと呟いている。自分の声は届いていない様だ。なんだか余りにも想像と違う反応をするカガリにキースは首を傾げてしまった。

「おい、どうしたんだカガリ?」

 肩を揺すって正気に戻してやる。カガリは我に帰ると動揺しまくった声でキースに言い返してきた。

「ば、馬鹿かお前は。この年で添い寝も無いだろ!?」
「あ、ああ、そうなんだが・・・・・・」

 さっきの反応は何だったんだよと言いたくなるキースだったが、顔を赤くして文句を言いまくっているカガリには何を聞いても無駄だと悟り、言われるに任せる事にした。疲れればそのうち止むだろう。

 だが、艦に戻った2人は、そこで信じられないものを見ることになった。医務室に収まりきらず、通路に横たえられる兵士達。誰もが顔を青くし、何やら震えている奴までいる。そして、医務室では軍医を手伝う様にフラガが頑張っていた。

「少佐、これは何事ですか?」
「少々薬が効きすぎた。こいつ等、無数の死体を見て倒れちまったんだ」
「まあ仕方ないでしょうねえ。兵隊なんだから、死体にくらい慣れてもらわないと困りますし。これが戦争なんだって、少しは分かってくれりゃいいんですが」

 そう、これが戦争だ。戦争で1番酷い目にあうのは軍人ではない。民間人なのだ。自分たちは何故戦っているのか、何を守ろうとしているのか、それを少しでも理解してくれれば良いのだが。
 だが、その言葉に、フラガが看病しているらしいベッドから声がかけられた。

「これが、戦争なんですか?」
「その声は、艦長?」

 なんと、寝台には艦長が横になっていたのだ。フラガが額に冷たいタオルを乗せている。結構まめな男だ。

「バゥアー大尉、これが、こんなものが戦争なんですか。無力な民間人を400万人も殺して、こんな事になんの意味があるんです?」
「・・・・・・技術部上がりの艦長には、分からないかもしれませんね」
「分かりません、どうしてこんな事が出来るのか」

 マリュ−の声には力が無い。病室の他の兵士達も口は挟まないが、皆キースの答えを待っているのがわかる。キースは小さく溜息を吐くと、フラガを見た。フラガも頷いたのを見て、仕方なさそうに口を開く。

「ザフトは、この攻撃をユニウス7のお返しだと言っていたそうですね。まあ、流石に作戦を実行した指揮官は処分されたそうですが。これが戦争のなかで起きる憎しみの連鎖ですよ。報復原理とでも言いますか、やられたらやり返すという心理が働くんです。まあ、流石にこの「アティラウの惨劇」程のものとなると、前線部隊の暴走ですが」
「・・・・・・コーディネイターは理性的だと聞いていたんですが?」
「そりゃ迷信ですね。知能が高いと、理性的は繋がりません。聡明と知識が多いは違います。コーディネイターにだって血の気の多い奴は居ますし、愚かな奴、馬鹿な奴は沢山居ます。遺伝子をどれだけ弄ろうと、ぼんくらはぼんくらなんですよ」
「・・・・・・大尉は、コーディネイターに詳しいんですか?」
「まあ、昔は色々とありましてね。コーディネイターとはしょっちゅう関わったんですよ。掴み合いの喧嘩をした事もしばしば・・・・・・」

 思えばあの頃は若かったなどと呟いてしまう。何となくフラガの視線に殺気が篭った気がしたがとりあえず気にしない。

「ナチュラルとコーディネイターの間には、本質的な差が確かにあります。ですが、人間的な愚かさは変わっていませんね。ただ、ナチュラルとコーディネイターを決定的に隔てているものが確かにあります」
「それは?」
「理解力の差です」

 キースの言葉に、マリュ−は首を捻った。言っている意味が分からないのだろう。

「彼らは1を聞いて2、3を理解します。そして、それが彼らの欠点でもあります。彼らはナチュラルの様に長々と話をしてお互いを理解するという事をしません。少ない言葉で多くを察する事が出来るので、余り言葉を必要としないのです。要点を纏めるのも優れていますしね。ただ、それはナチュラルとの間に軋轢を生みます。ナチュラルはコーディネイターを話の出来ない奴らと罵倒し、コーディネイターはナチュラルを低脳なサルと嘲ります。これが両者の対立を呼んだ最大の理由です」

 そうなのだ。キースはブルーコスモスにいた頃、幾度と無くコーディネイターのグループと会談を持ってきた。その経験で分かったことだが、コーディネイターは理解力が高すぎる。そして、彼らは共生能力に決定的に欠けている。
 世の中にはいろんな人間がいる。自分の話を理解できないからと言って切り捨てるのは愚か者の言葉でしかない。根気強く相手が理解するのを待ち、互いの共通認識を作り上げる必要があるのだ。だが、彼らはそういった社会的アプローチをまったく理解していなかった。
 このままでは彼らは孤立するか、世界の支配を望むしか無くなる。彼らの望む理想のユートピアという机上の空論を世界に押し付け、やがては戦争という最悪の手段に訴え掛けるだろうと確信してしまった。そして、その予想は2年後に実現してしまった。

「ナチュラルとコーディネイターが理解しあうのは、簡単なことではありません。最大の問題はコーディネイターの側にナチュラルを理解しようとする意識が欠けていることです。恐らく彼らは、コーディネイターが支配する、より優れた社会の建設を目指しているのでしょう」
「まさか、そんな事・・・・・・」
「それがコーディネイターの考え方です。勿論全てがそう考えているとは言いませんが、少なくとも私の経験ではそうでした」

 キースの言葉にマリュ−は衝撃を隠せなかった。いや、マリュ−だけではない。フラガも、他の兵士達も驚きを隠せないでいる。そんな無茶苦茶な理由で彼らはこの戦争をしているのか。
 無論、それが戦争の発端となった根本理由ではない。それはあくまで戦争を続ける理由でしかないのだ。差別や偏見程度の理由でこんな大規模な戦争は起きない。地域紛争や一国の内戦とは訳が違うのだから。だが、それを語れば彼らはより衝撃を受けるだろう。知らずに済めばその方が良い。

「じゃあ、この街に科学兵器を使った時も、彼らは・・・・・・?」
「恐らく、人を殺しているという罪悪感は余り無かったでしょうね。程度の差はありますが、第1世代はともかく、戦争の主力となっている第2世代はナチュラルを同じ人とは見なしていない傾向があります。彼らの感覚では、ナチュラルを殺すのも害虫駆除と同じなのかもしれません」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「そして、我々も彼らに対して、同じ考えを持っています」
「どういう事です?」
「連合にはブルーコスモスが居ます。ですが、一般には彼らが危ないと思われていますが、別にブルーコスモスでなくとも、ナチュラルはコーディネイターをやはり同じ人間とは見なしていない部分があります。前線の兵士はコーディネイターを宇宙から降りてきた化け物や、エイリアンと呼んでいますよ」

 これが現実なのだ。ナチュラルはコーディネイターを化け物と呼んで恐れ、コーディネイターはナチュラルを下等な生物と蔑む。だからお互いに徹底的に殺し合ってしまう。理性という歯止めがかからず、殺戮に全てを任せてしまう。それがこの戦争の実体だ。

 普通、戦争ではここまではしない。確かに報復原理は存在するが、軍人としての教育が軍規から外れた行為を自制させるからだ。故意による民間人の虐殺や捕虜の虐待を行えば軍規や条約によって処断されてしまうという恐れもある。何より、兵士は上官命令に逆らえない。教育過程でその様に洗脳されてしまうからだ。そして、士官は兵士を統率する為にそういった軍事上の常識を叩き込まれる。
 理性ある最強の暴力組織、それが軍隊なのだ。理性を失った軍隊はただの暴力集団に過ぎず、だからこそ軍人教育というのは他に類を見ない程に厳しい。
 つまり、虐殺や虐待といった事件が頻発するという事は、軍隊の規律の低下、つまり軍人の質が下がってきているということなのだ。
 このモラルの良し悪しは軍隊を図る基準であり、十分な教育を受けた正規兵が多い部隊は一般的に高く、基礎訓練だけで戦場に放り込まれる志願兵が多い部隊は低くなる傾向がある。戦争が長引くと捕虜や民間人の虐殺事件といった戦争犯罪が頻発するようになるのはこの辺りに原因がある。

 だが、このキースの意見に反論する者がいた。

「違う、ナチュラルは、そんな奴ばかりじゃない!」
「カガリ?」

 キースはカガリを振り返った。カガリの目には怒りと苦しみが見て取れる。マリュ−とフラガは少し驚いてカガリを見ていた。

「コーディネイターもだ。話の分からない奴ばかりじゃないってのは、キラを見れば分かるだろ!?」
「キラは、ナチュラルの中にいたから、そういう事への理解があるだけだ。コーディネイターとしてはあいつは明らかに異端だよ」
「そんな事は無い。コーディネイターもナチュラルも、同じ筈だ!」
「・・・・・・カガリ」

 キースはカガリの目に浮かぶ涙を見て、それ以上の言葉を紡ぐ気力を失ってしまった。それは悔し涙なのだろうか。

「同じ筈なんだ。そうで無かったら、お父様の考えは、努力は、なんだったんだよ?」

 カガリは、すでに自分が何を口走っているのか分かってはいないようだ。キースはこれ以上カガリに喋らせてはならないと考え、カガリに歩み寄るとその頭にポンと手を置いた。カガリは涙目のままでキースを見上げ、自分に向けられている視線がそれ以上言うなと語っている事に気付き、小さく頷いた。
 キースに伴われて医務室を後にしたカガリを見送って、マリュ−はフラガの顔を見た。

「少佐、バゥアー大尉の話、どう思われますか?」
「俺はあいつほどコーディネイターに詳しくはないからなあ。だけど、ザフトが俺達を殺すのに忌避感を持ってないのは多分本当だろうな」
「でも、どうして大尉はあそこまでコーディネイターに詳しいのでしょう?」
 
 そう、どうしてキースはコーディネイターにあそこまで詳しいのだろう。マリュ−にはそれが疑問だった。そして、その質問に別の人物が答える。

「キース大尉は、昔はブルーコスモスに居たのは確かでした」
「ナタル?」

 マリュ−の横たわっているベッドに隠れる様にして座っていたのは、ナタルだったのだ。どうやら彼女もここに担ぎこまれていたらしい。

「キース大尉は、ブルーコスモスの穏健派に属し、第1世代コーディネイターが生まれないよう呼び掛けていたようです。また、プラントにも幾度も足を運び、コーディネイターにナチュラルへの回帰を唱えていたようです」
「バゥアー大尉に、そんな過去が」
「あいつ、コーディネイターを嫌ってる様には見えなかったがな」
「私も驚きましたが、もっと驚いた事は、キース大尉はブルーコスモスの中でもかなりの発言力を持っていたという事です。現在のブルーコスモスの総帥はムルタ・アズラエルですが、そのアズラエルが誰よりも苦手としていたのがキース大尉らしいです」

 ナタルの話にマリュ−とフラガが驚いた顔を向け合う。一体、キースは何者なのだろうか。

「残念ながら、大尉がバゥアー家に引き取られる前の事は全くの闇の中でした。ただ、メンデルコロニーという遺伝子研究所が過去に絡んでいるようです」
「メンデル、あのバイオハザードで放棄されたっていうコーディネイターの研究所か?」
「そうです」

 フラガはふむ、と呟いて何か考え込んでしまった。ナタルはフラガに構わず話を続けていく。

「大尉が穏健派から抜けたことは、穏健派にとって大きな打撃となったようです。現在のブルーコスモスが極端な強硬路線に走ったのもキース大尉が抜けてからのようですし」
「つまり、バゥアー大尉はブルーコスモスにとって重石のような存在だったと言うこと?」
「そうなりますか」

 マリュ−の問い掛けにナタルは簡潔に答えた。マリュ−はそれを聞いて渋い顔になってしまう。キースがもう少し頑張っていてくれたら、この戦争は起きなかったのではないのかと思ってしまったのだ。勿論、キース1人で戦争へと向う流れが止められた筈も無いのだが、そう思いたくなってしまうものなのだ。
 だが、マリュ−と同じ考えをキースが抱いているとは、流石に誰も察する事はできなかった。



後書き
ジム改 遂に明かされたキースの過去
カガリ なんなんだキースは。コーディネイターなのか?
ジム改 コーディじゃあないけどね
カガリ しかし、何でこの段階で私とキラの関係まで出てくる?
ジム改 それはね、キースがカガリの正体を知ってるのに関係してるの
カガリ つまり、あいつは私の出生の秘密から全てを知ってるのか
ジム改 そういう事。当然キラの正体も知ってる
カガリ 厄介な奴だな。全部承知で動いてるのかよ
ジム改 そういう事
カガリ で、アティラウか。この街が全滅したから、キースは軍に入ったわけだ
ジム改 そうだよ。キースは全てを無くしたからね
カガリ それで、妹そっくりで自分と同じ境遇になったフレイを何かと気にかけてたと
ジム改 大正解。これでキースがフレイの世話を焼いた理由が分かっただろう
カガリ キースにしてみたら、自分と同じ道を歩ませたくなかった訳か
ジム改 そうなの。キースにしてみれば妹が暴走してるように見えたんだな
カガリ そりゃあ、悪夢だよなあ。死んだ妹が狂ってるなんてのは
ジム改 だからキースは放っておけなかったのだよ
カガリ そういえば、前にキースを立ち直らせた奴がいるって言ってたよな?
ジム改 うむ、言ってた
カガリ そいつって、どんな奴なんだ?
ジム改 フラガを超えるナイスガイだ
カガリ はぁ?
ジム改 カッコいいとはこういう事さ、と言って似合うような漢だ
カガリ 何だそいつは?
ジム改 いずれ出てくるだろう。フラガやキース以上に存在感のある男だぞ
カガリ 無茶苦茶濃そうだな
ジム改 ちなみに2人に「勝てねえ!」と言わせるくらいに強い
カガリ 人間じゃないだろ、そいつ!?


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