交わすメッセージ通う心



みづえさんの胸が高鳴る。
毎年巡ってくる、弟子たちが寝静まったクリスマスイブの深夜。
一人ひとりに選んだプレゼントを、一つ、また一つ、相撲部屋の階段に置いていく。
それぞれに一年間の正直な思いをしたためたメッセージカードを添えながら。

「翌朝、力士がけいこ場に下りてきて、プレゼントを手にする姿を想像するだけで楽
しくて、楽しくて。 また、おかみさんか、ってね」。
まだ実際には一度も見たことがないシーン。
でも、思い描くだけで心が躍る。

数年前、実弟が一人の弟子に声を掛けた。
「その服いいね」。
返ってきた言葉は「おかみさんタクロースです!」。
そんな話しを伝え聞くと、飛び跳ねたくなる。

歌手の夢を追い、親元を離れ上京したのは15歳の5月だった。
翌月、所属プロダクションの社長夫人から誕生日プレゼントをもらった。
東京で迎えた初めてのクリスマスに贈られた真っ赤なジャンパーは、今も忘れられない。

鹿児島では、プレゼントとは無縁の生活を送っていた。
「自分がしてもらってうれしかったことを、弟子たちにもしてやりたい」。
そんな思いからだった。

弟子たちは、プレゼントを見せ合いっこする。
だが、メッセージカードだけは別。
おかみさんと自分だけをつなぐ心の糸電話だから。
だれかがニコニコしながらカードを読んでいても、何が書いてあるのか、だれも聞こうとはしない。

現在、力士16人と呼び出し、床山1人ずつを預かる。プレゼントは一方通行では終わらない。
母の日。
毎年、バラの大きな花束が届けられていたが、4年前からは、弟子の人数分の小さな束に変わった。
3年前からは、一人ひとりからメッセージカードまで付いてくるようになった。
クリスマスカードへのお返しだった。

「松ケ根部屋の小さな巨人でいてください」。
みづえさんの宝物となるカードが毎年増えていく。

今年の母の日の夜、帰宅すると、玄関先に弟子たちの心の束が置かれていた。
今年は赤いバラ一色ではなく、色とりどりの花だった。

部屋の表玄関に並ぶ鉢には、みづえさんが「力士の花道に」と育てた花が咲き乱れる。
それを見た幕下力士が思った。
「いろいろな花を贈れば、おかみさんはもっと喜んでくれるはずだ」と。
いつしか心のキャッチボールが交わされるようになっていた。

今年はさらに思い出深い日となった。
母の日は夏場所初日と重なった。
新入幕初日を白星で飾った若孜が初めて懸賞金を手にした記念日。
獲得した2本のうち1本が花束に添えられていた。
「一生、封を開けられるわけないでしょ」。
みづえさんのとっておきの笑顔が咲いた。


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