二.筆の製法
豊橋筆の歴史を理解した上で、古典時代の筆と、現代の筆を比較する為、 まず現代の筆の種類及び製法について説明したい。
毛筆と毛の種類 (図の毛は毛先が上部、長さは平均値、毛の太さは誇張して表記)
- 細筆
一般に全部筆をおろさないように作ってある筆が多い。
全部おりて捌となった場合、メーカーによっては仕上げ直しをするところもある。 使用後は墨を綺麗に拭き取ること。また、サヤは乾燥の妨げになる為、かけないことを推奨。
狸筆
古来より筆に狸の毛が混じるといわれるように、 狸と※4馬毛(馬の胴の毛)などを混ぜて作る 最も一般的な筆。
麝香筆
動物は麝香猫と思われるが、中国から輸入される時、その包み紙に香狸と書かれているために、 狸を上狸、麝香を並狸と呼ぶことがある。狸と同じように馬毛などと混ぜて作る筆。
明治中頃より、大正、昭和と最も多く生産されていたと推測される筆。
現在は中国製品の急増によってあまり生産されていない。
白玉筆
国産の玉毛(動物は猫)は細筆にとって最高の材質であると思われるが、現在は入手が困難。
中国の玉毛は国産よりかなり材質が落ちるが、現在は大半が中国産の玉毛。
金泥で書く場合は玉毛が最も適している。
イタチ筆
細筆としておそらく現在最も多く生産されている筆、使用用途および種類が多い。
寿命は短いが、滑りがよく、書き易さの点では最高。
捌筆
明治中頃より昭和中頃まで生産された筆で、寿命が長く、墨持ちがよく、 小さい字から比較的大きい字まで書くことが可能。
一般事務・手紙などに用いられた筆で、兼毫。
筆の最高傑作と思われるが、その使用にはかなりのテクニックを必要とする。
一般事務用としての需要がなくなったため、現在ではほとんど生産されていない。
主原毛は※5羊毛(動物は山羊)と 狸と鹿の兼毫で、上質の原毛を使用。
- 極細筆
一般的に小さな文字を書くことに適している。特に工業用(漆を塗る。着物の絵柄を描く等)に使用することが多い。
真書
穂に上毛を着せず真毛のみで微細な文字を書くに適当。
主原毛はイタチ・玉毛。狸。
面相
真書の丈を長くしたもので、主に工芸・専門家用として使用用途および種類が多い。 また、穂を軸に固定せず、抜差し(三段抜き)できるものもある。 主原毛は狸・イタチ・玉毛・馬毛。
- 太筆
現在は液体の墨を使用する割合が高いので、ほとんどの筆は全部おろしても書き易いように作ってある。 使用後はよく水で洗い、筆の毛を充分に乾燥させることで、毛の腐敗を防ぎ長く使用することが可能となる。 また細筆と同様に、使用後サヤは二度とかけないことを推奨。
剛毫
主に天尾(馬の尾で尾脇ともいう)を用いた筆で楷書に適している。 特別毛の硬い山馬(動物は鹿)もあるが、現在入手不可能。
兼毫
羊毛と天尾または狸など二、三種類の毛を混ぜた筆である。
太筆としておそらく現在最も多く生産されている筆、使用用途および種類が多い。
羊毛筆
昭和五〇年代前半頃までの羊毛は、弾力性に富み、墨含みもよく、特に細い毛は自在に動き、 最高の材質と思われる。
現在中国から輸入される羊毛は漂白されていると思われる。 毛は細く、見た目はよいが、弾力性はなく、墨含みも悪く、毛は切れやすい。
特殊な書き方をするには適している。
- 特太筆
毛丈が必要なため、天尾か馬の鬣を使用する場合が多い。 また、毛丈が長く、使用中に毛に癖が付き易いため、扱いに注意が必要。
毛が腐り易いため、使用後はよく水で洗い、筆の毛を充分に乾燥させることで、 毛の腐敗を防ぎ長く使用することが可能となる。
鬣
昔から日本にいる馬の鬣が最高品質であるが、現在大半が、カナダ産かモンゴル産の鬣。
羊毛は毛丈がないため、代用品として馬の鬣を使用。
※その他、筆の種類は多く、使用用途も多種多様。
- 現在の筆(水筆)の製法 〜天尾の場合〜
選別・・・毛先の良否を選別し、先に行く毛と腰に行く毛に分ける。
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抜きわけ・・・毛を長さ別に分ける。
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火のしかけ・・・毛を灰(もみを燃したもの)でまぶし、火のし(アイロン)をのせる。
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毛もみ・・・毛を皮または布で丸め込み、灰でもみ、油を取り除き毛を真直ぐにする。
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毛揃え・・・毛を先のほうに揃え、先の悪い毛を取り除き(さらい)、紙に巻く。
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寸切り・・・紙に巻いた毛を水で湿らし、金櫛でときだし、一定の長さに切る。
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先出し造り・・・一定の長さに切った毛の悪い毛を取り除き、先に持っていく毛を整える。
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型造り・・・先より段々に悪い毛を下のほうに入れて筆の形になるようにする。
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練りまぜ・・・型造りした毛が均一になるまで混ぜ、悪い毛を取り除く。
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芯立て・・・一本分の太さにするためコマに入れ、太さを一定にし、悪い毛を取り除く。
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上毛かけ・・・この場合は主に馬毛であるが、芯の周りに薄く巻く。衣毛ともいう。
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尾締め・・・焼ゴテで焼き、穂のお尻を麻糸で締める。
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接着・・・穂を軸にすげ、取れないように接着剤にて固定する。
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仕上げ・・・ふのりでかため、筆の形にする。
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刻名・・・軸に三角刀で、筆の名前やメーカーの名を入れる。個人名を入れることもある。
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製品
※ これは筆の製法を簡単に説明したもので、実際はもっと複雑。
※4 日本産の代表である馬毛は、天尾、鬣、胴毛、があり、国産の毛が、 一番良品なのであるが、量が少ないため、カナダ産、モンゴル産を 主に使用しているのが現状である。
※5 筆の原料で「羊毛」と呼ばれるものがある、羊毛とは中国語で動物の「山羊」を 表している。中国では山羊の毛のことを羊毛と呼び、羊の毛は綿羊と呼ぶのである。 筆の発祥の地中国での呼び名が、そのまま現代でも使用されているのである。 羊毛にはオスとメス、年齢、体の部位により、中国では年代によって呼び名が 異なるが、昭和五十年頃には、十五、六種類に選別され、主に筆に使用される毛で 毛丈の長いものは、細光峰、粗光峰、細長峰、毛丈はあまり長くないが、 先の良い毛には、細直峰、蓋内峰、白黄尖、黄尖、がある。