S家リビング用オーディオシステム (プリアンプ1号)

正面

背面

依頼を受けて制作

 S家より、「昔から家にあるLPレコードを真空管アンプの音で聴きたい」と いう要望を受け、アンプを製作することになりました。レコードプレイヤーとスピーカも併せて提案しました。

 設置予定場所は、リビングルームのキャビネットの一部で、以前大型ブラウン管テレビが納まっていた場所です。幅90cm、奥行き65cmほ どの空間で、検討の結果下図のようなレイアウトとする方針を立てました。

 プリアンプは、薄型として、レコードプレイヤーを置く台の下に収まるように計画します。また、プリアンプには、オートシャットオフ回路を搭 載し、無音状態が3分ほど続くとシステム全体の電源をOFFにするよう計画しました。レコードプレイヤーにはフルオートプレイヤーを選択し て、レコードをかけたままにしても、最終的には自動で電源を落とすシステムとしました。
正面図

平面図

プリアンプ回路

 自分の家で使用するアンプと異なり、電気にまった く興味のない方のリビングに設置することになるため、信頼性と安全性を第一に考えて設計しました。使用する真空管については、今後とも入 手に困ることのないと思われる一般的なものを選ぶ必要があると考えました。したがって、フォノイコライザ部は、現在私の家で使用している プリアンプと同じく、12AX7を用いたぺるけさんの回路を用いました。ラインアンプ部は12AU7を用いた2段増幅回路です。こちら は、回路シミュレータTINAを使用して、歪率が低くなるよう、カソード抵抗とプレート抵抗の組み合わせを検討し、回路定数を決めまし た。古いレコードもかけるとのことですので、反りの大きいレコードもあることを想定して、サブソニックフィルタ回路を設けました。入力は PHONOのほか3回路を設けてあります。
 薄型にする必要があるため、電源トランスは、Rコアトランスを特注しました。Rコアトランスは、突入電流が大きいため、遅延型ヒューズ にするか、突入電流を制限する回路を設ける必要があります。本機では、突入電流を制限する回路を用いています。

 プリアンプですので、ヒータからのハムを低減するために直流点火としています。また、フォノイコライザのヒータは、入力セレクタが PHONOを選択している場合以外は電源が切れるようにしてあります。この場合、ラインアンプの12AU7のヒータ電圧が変動してはまず いので、LM317Tによる定電圧回路を設けていあります。反省点は、トランスの巻き線電圧を14Vとした点です。LM317が必要とす る電圧降下分を確保するために、電圧降下の小さいショットキーバリアダイオードを整流に用いる必要がありました。巻き線電圧を15Vとし ておけば、通常のダイオードでも大丈夫だったと思います。


   増幅部回路図     電源部回路図

オートシャットオフ回路

 同様の回路は過去に2回制作してきました、今回も同じアイデアの回路 です。前回までは、パ ワーアンプ出力から信号をとっていましたが、今回はプリアンプ出力から信号を取る点が異なっています。左右の信号をミックスする際に クロストークを悪化させないことと、大きな出力信号がある際にもパワーアンプに送る信号に悪影響を与えないために、オートシャットオ フ回路の前段にFETによるソースフォロワ回路を設けました。(ソー スフォロワ回路は上記の増幅部回路図に含まれます)

   オートシャットオフ回路図

 信号を検知すると、緑色のLEDが点灯するようになっています。電源と連動する赤色のLEDと並べて正 面パンチングメタルの裏面に配置しました。LEDを直接は見せず、光のみを見せるデザインです。下の写真で、白いボタンが電源ON、黒い ボタンが電源OFFです。それぞれ、押している間だけON状態になるモーメンタリスイッチを用いています。

信号を検知していない状態

信号を検知した状態

測定結果

RIAA偏差

 フォノイコライザ部のRIAA偏差は、ぺるけさんの回路図を採用したおかげで、プラスマイナス0.5dB以内に収 まっています。


ラインアンプ部周波数特性

 ラインアンプの周波数特性は、下図のとおりです。47kΩを負荷に接続して測定しています。図中フィ ルタとは、サブソニックフィルタのことを指します。低域はサブソニックフィルタなしの状態で、20Hzで-0.89dBです。低域特性を 良くしようと欲張って出力コンデンサや段間のコンデンサの容量を増やすと、真空管のフリッカノイズにより、低周波のノイズが大きくなって しまったため、ある程度低域はカットしました。負帰還ループの浮遊容量が原因と考えられる高域のピークが発生したため、補正のため、コン デンサとして1.5cmほどの長さのシールド線を負帰還抵抗に接続したところ、ピークのない特性となりました。配線の取り回しの違いによ り周波数特性が変化してしまうことが改めてよくわかりました。図は補正コンデンサをつけ た状態で測定したものです。200kHzで-2.42dBと高域は十分に伸びています。

帰還抵抗に並列に設けた補正コンデンサ



20kHz矩形波 補正コンデンサなし

20kHz矩形波 補正コンデンサあり
ラインアンプ部出力対歪率特性

 出力対歪率特性は下図のとおりです。負帰還を15dB近くかけたおかげで、最低歪率が0.1%を下回るこ とができました。


納品

 パワーアンプはまだ製作してないので、自宅の6BM8pp(三極管接続)アンプを当分お貸しすることにして、S家リビングに納品しまし た。レコードプレイヤーは、DENONのDP-300FSPです。フルオート式なので、レコードをかけっぱなしにしてしまう心配がありま せん。スピーカはDALI ZENSOR3を使用しています。設置スペースの幅にちょうど収まる大きさです。
 設置ができたので、早速思い出のレコードを一緒に聴かせていただきました。満足いただけたようで安心して います。引き続き、パワーアンプの制作にとりかかります。

故障とその対策(2016.2.28)

 しばらく使用していただいていたところ、先日「電源が切れない」という重大なトラブ ルが発生しました。引き取って調べたところ、オートシャットオフ回路を収めた穴あき基板の中の配線がはんだ不良となっていました。早速修 理をしましたが、同様のトラブルが今後発生しても電源を切ることが簡単にできるよう、背面にあった主電源スイッチを正面パネルに配置する 改造を行いました。正面パネルのデザインが少しうるさくなりましたが、安全をおろそかにはできません。通常はこれまで同様に丸ボタンを押 して電源のON/OFFを行い、非常時のみ左側のロッカースイッチで電源を落とす仕様です。

改造後の正面

改造後の電源スイッチまわり

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